レヴェラミラの習慣
綺麗な店員さんは流れるような所作で包装を終え、続けて明日の予定を教えてくれた。
「それでは明日もよろしくお願いいたします。明日はギルドの部屋をお借りしておりますのでそちらにお越しください。それでは本日お買い上げ頂きましたお品物でございます」
金額は僕の分とローゼリスの分を合わせて金貨2枚だった。やはりこのお店は高級店のようだ。
「そのゆったりした服もなかなか良いわね。私はさっきのシャツの方が好きだけど」
今着ている服は、長袖のTシャツを重ねたような服とよりふわふわな履き心地のズボンだ。パーカーとジーンズを店員さんに預けるために購入した服をローゼリスは褒めてくれた。
「ハルカ様、こちらが先ほど承った商品でございます」
先に貰った自分の服が入っている紙製の袋には店のロゴが入っているシンプルなものだった。そして今受け取ったのは煌びやかなデザインの入ったプレゼント用の袋だった。なるほど、分かりやすく包装してくれていてとても気配りが出来ている店員さんだ。
「ありがとうございます。それではまた明日もよろしくお願いします」
「ありがとうございました。明日もお願いいたします」
とても素敵な微笑みでお店を送り出してくれた店員さん。
ローゼリスはご機嫌で竜鱗亭までの道を歩いていく。
「そんなにはしゃぐと、転ぶよ?」
僕は冗談交じりに声を掛けた。
「今日はなんだか楽しいのよ。少しははしゃいでも良いでしょ?」
とても楽しそうに笑うローゼリス
「私って、あんまり同級生のお友達とか居ないのよ。家柄のせいなのかもしれないけど、それでも一緒に買い物とか行ったことがなくって、今日はとっても楽しかったわ」
「そっか、僕も今日はローゼリスに会えて良かったよ。僕もこっちの世界に同じくらいの年齢の知り合いってあんまり居ないから、ダンジョンの話も急で悪いんだけどこれからもよろしくね」
「任せなさい! これでも私、剣には自信があるのよ。講習は今日初めて受けたけど、小さい時にエドガー様に稽古を付けても立っていたもの」
「そっか、それでエドガーさんの事知っていたんだね」
「エドガー様は本当に強いのよ! 冒険者としても一流よ。今はケガをされて引退されてしまったけど……」
エドガーさんは元は冒険者だったのか。それで今はギルド職員となって後輩たちを鍛えているってところなのかな。ローゼリスはケガの事はあまり言いたくないようだし、本人にそれとなく聞いてみよう。
「それじゃ、僕は竜鱗亭に戻るけどローゼリスはどうする?」
「そうね、あの二人にも色々言いたいことがあるし私も戻るわ!」
そうして僕らは明日のダンジョン攻略準備について話すのだった。
「あら、おかえりなさい。ちゃんと帰ってきたのね。お姉さんは嬉しいわ! 今晩お邪魔しますね」
「また一人抜け駆けしようなんてダメですよマリナローゼさん!!」
サラさんはさっきより声が大きくなっている。というか服が乱れていて下着が見えてますけど?!
クロエもサラさんもマリナローゼさんもテーブルの空瓶を見る限りかなりの酒量を飲んでいるようだ。
「おかえりハルカ! あんたも飲みなさい!! そして今日はこっちにずっと居なさい!!」
「いや、それは無理だから。明日も装備の調整とかで朝早いんだし、今日はお開きにしよう」
僕はこの状況を制御できるわけがないのでなんとか強制終了させたい。
「私はせっかく戻ってきたのにおしまいなの?」
ローゼリスの発言でクロエたちが勢いづく。
「ハルカはね? こんな風に真面目を装っているけどね。実はすごくエッチなんだよ」
キャーといいながらマリナローゼさんとサラさんが嬉しそうに悲鳴を上げている。なんなんだろうこのテンションは……とても帰りたい。
「私の事を上から下まで舐めるように見つめられた時はぞくぞくしちゃったもん」
「いや、クロエは視線を動かさなくても全身目に入るでしょ?!」
「ふふふ、私がお酒で失敗しちゃった時に私の下着を見ていたのも知ってるんだからね」
クロエが僕の耳元で先日の事を囁いてきた。泣いていたから気付いてないのかと思ったら、気付いていたのか。声を出せず驚くと、クロエはニヤニヤと僕を見つめる。
「あら、そんなに女性の身体が気になるなら私が教えてあげるわよ」
マリナローゼさんがストレートに誘ってくる。
「そんな?! それじゃ私も!!」
サラさんが手を挙げながら立ち上がる。いや、そんな風になる人なのサラさんて。
「私はサラさんとご一緒でも構いませんよ?」
「よろしくお願いします!!」
「イヤ、勝手に話を進めないでください。僕は何もしてませんし……」
「まさか?!私が見せたドレス姿もそんな風に見ていたなんて……」
もう、ややこしい。僕を揶揄うクロエとマリナローゼさん。恐らく本当に好意を寄せてくれているサラさん。少し仲良くなったと思っていたローゼリスの勘違い。
やめた。還ろう。今ここに居ても良いことは無い。そう思って部屋に戻ろうとして、ローゼリスに買ってあげたドレスを渡しそびれていたのを思い出した。
「ローゼリス、ちょっとこっちに来れる?」
何か勘違いしている様子のローゼリスは頬を赤らめながら、私? と自分のことを指差している。
僕らのテーブルだけ居酒屋みたいなノリになっているが、周りを見ると他のお客さんは食事を終えてすでに帰っている。
もうここでいいやと思い。ローゼリスにドレスの入った紙袋を渡す。
「え? 何これ?!」
「今日は色々迷惑かけたし、これからもきっとたくさん迷惑をかけると思うから」
紙袋の中身を見たローゼリスが凄く驚いている。
「これってプロポーズ?!」
「なんでやねん!」
関西人でもないのに、関西風にツッコミを入れてしまった。
「だってコレ、さっき着ていたドレスだし……その……」
もじもじしているローゼリスに違和感を感じたクロエがふらつきながらこちらに飛んできた。
「あー!! ハルカ!! 何してるの?! 女の子に服をプレゼントするって、こっちの世界じゃプロポーズしてるのと一緒の意味なんだよ!!」
まさか?! そんな、そんな意味があるなんて知らなかった。
「そうなの? でもローゼリスも困るでしょ? 普通に友人としての贈り物として受け取っておいてよ」
「私は……その、別に……」
ローゼリスからは要領を得ない返答しか返って来ない。
「ハルカ君!! 私も服買いに行きたい!!」
サラさんは目を閉じたまま僕に抱きついてきた。サラさんの細くて柔らかい身体が密着している。これはもう意識があるのかさえ分からない。
「サラさん、落ち着いてください! って寝てるし!」
「私も服が欲しいな。ハルカ、今度一緒に買いに行こうよ」
クロエが僕の肩に腰掛けて首に寄り添ってきた。こんな神の御使いが居ていいのだろうか。
「もう! ややこしいから還る!! マリナローゼさん、すみません。サラさん動けないので何処か部屋は空いていませんか?」
「ごめんなさい今は満室なの。でもハルカ君の部屋にハルカ君が居ないのならそこを使ってもいいんじゃない?」
そうか、僕は元の世界に行くから荷物は置いているけど部屋は空いているのか。
「すみません、そういう事で少しお借りします。ローゼリス少し手を貸してくれるかな」
「分かった……ハルカ、私も……」
「あらあら、大胆ね。お姉さんもお手伝いするわね」
という事で、寝てしまったサラさんをベッドに運び、クロエとマリナローゼさんは僕の部屋で飲みなおすといってついてきた。そしてローゼリスもそのまま僕の部屋に来てしまった。
「それじゃ、明日は装備の確認とクワリファダンジョンの下見をするわね。そういうことだからもう還っていいわよ。お疲れ様!」
このクソガイドは!! お酒も入りすっかり意気投合したクロエとマリナローゼさんは僕の部屋のソファで果実酒を飲みながら喋り続けている。
ローゼリスとサラさんは僕のベッドで眠っている。意外とお酒に強いと思っていたローゼリスもやはり限界だったようで寝てしまった。
なんかもう、ずっと一緒にいた仲間のように仲良く楽しそうにしている彼女たちを見ると忘れそうになるが、僕は母さんを見つけて一緒に元の世界に戻らなければいけない。その使命感の前に色恋にのぼせている時間はないんだと、自分を戒めるように決意するのだった。
そしてアオイのお母さん”シハル”さんの病気を回復させるんだ。
僕は今日一日中、回復魔法陣にマナを注ぎ込む練習をしていた。そして自分でも分かるくらいに魔力器官を感じる事が出来るようになった。今日の成果を確認するべく窓際の椅子に深く腰掛けて回復魔法を発動させた。
魔法陣はいびつながらも回復魔法を発動させることが出来た。あとは向こうの世界でも使えるようにするだけだ。
レヴェラミラではマナが大気中にも溢れているが向こうの世界にはマナは無い。自分一人だけの力で発動させなければならない。それにこの回復魔法が利くとも限らない。もっと高度な回復魔法が必要ならば、それを習得しなければ……
やることは山積みだ。のんびりしている時間はない。目の前にあるものをちゃんとこなしていかなければチャンスすら掴めない。
自分自身のマナの枯渇によって回復魔法が途切れた。
「それじゃ、クロエ後はよろしくな」
「はぃはぃ!それじゃまた明日ね」
クロエはマリナローゼさんとの会話に夢中でこちらには目もくれずに返事をした。
本当にガイドかよ。僕はそんなことを考えながらも元の世界に戻る準備をした。
「”セーブ”」
いつものアーティファクトの機能を使って僕は元の世界に戻っていった。
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