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ローゼリスと黒のドレス

「私はもう子供じゃないの。立派な大人だよね?」


 真っ白な髪の毛を夜風に流しながらお酒で少し火照っている表情が堪らなく綺麗だった。ローゼリスは涙ぐんだまま僕に問いかける。


「ねぇ、あなたはどう思う?」


「綺麗だと思う」


 急激な展開に思考停止に陥っていた僕はその時見たローゼリスの表情の事をつい口にしてしまった。まったくどこの漫画の世界だよ。今までこういう機会がなかった自分の人生を呪いたくなった。


「いや、綺麗だとは思ったんだけど。ローゼリスが子供か大人かって話だよね? そりゃあ子供なんじゃないかな」


 なんとか誤魔化す僕。


「どうしてそう思うの?」


 この質問はどっちに対しての質問なんだ。よし、スルースキル先生に頑張ってもらおう。


「僕の世界では20歳で成人とされてるんだけど、年齢で今日から大人ですってなってもそれは形だけであって中身は子供の人も居るんだよね。」


 とりあえず抱きとめていた手をローゼリスの肩と腰から離しつつローゼリスの着ていたワンピースと短いカーディガンのような衣服を整えてあげた。


「逆に、20歳になってなくても大人な人もいる。それは全部自分の事は自分で出来て自己管理が出来ている人に多いかな。ローゼリスはまだ自分が大人なのか子供なのか分かっていないんでしょ? それはきっと大人とは言わないよ」


 僕の中にも明確な線引きがあるわけじゃない。年齢がかなり高い人でも思考が幼い人はたくさんいる。それが良いように働けばいいけれど、僕が知る限りそういう人は数多くない。


「ありがとう、そんな風に考えている人は私の周りに居なかったから……」


「まー、僕の考えも絶対正しいってわけじゃないからさ。いろんな人に聞いてみるのがいいかもね。それじゃエドガーさんにも聞いてみる?」


「そうね、そうしましょう」


 言葉少なく二人で冒険者ギルドへ向かう。


「さっきはごめん。急にぶつかってしまって、ケガはない?」


 やっぱり僕のスルースキルはレベルが低いらしい。どうしても謝りたくなってしまった。


「気にしないで、私があんなところで立ち止まっていたんだから」


 考え事をしているのかローゼリスは淡々と答えるだけだった。そのまま夜風に吹かれながら冒険者ギルドに辿り着いた。


 二階の飲食店は今日も絶好調に五月蠅かった。そして買取カウンターではエミリーが悲鳴を上げていた。頑張れ! エミリー! 心の中でいつもの応援をしてガラガラのエドガーさんの窓口に向かう。


 僕らに気付いたエドガーさんはエミリーに何か伝えてカウンターの外へ出てきてくれた。エミリーが涙目になってこちらに会釈してきたのでこちらは深く頭を下げた。


「ハルカ殿、ローゼリスお嬢様、足を運んでいただきありがとうございます」


 エドガーさんは流れるような所作で会釈し、個室へ案内してくれた。


 サラさんたちと話をした個室にはすでに契約書らしき書類がなぜか2部用意されていた。


「それでは改めまして、お二人にクワリファダンジョンの31層へ向かう転移魔法陣の解放を依頼したいと思います」


「「えっ?」」


 僕とローゼリスは声を上げて、顔を見合わせてしまった。


「エドガーさんすみません! 僕とクロエにではなく、僕とローゼリスさんで解放の依頼を受けるのですか?」


「そうです」


 さも当然のようにエドガーさんは説明を再開した。


「今回お二人にお願いするのは31層に向かうための転移魔法陣を起動するための条件の調査と実際に解放をお願いいたします。もし、人手が必要な条件だった場合はこちらで人数を用意いたしますのでお申し付けください。必要経費等は、前払い金から使っていただきまして、それでも不足するようでしたらお申し付けください。前払い金は白金貨1枚で成功報酬は白金貨3枚とさせていただきます。その他の細かい規約についてはこちらの書類に記載しておりますのでご確認ください。この契約については解除も可能ですので一度契約していただいてから規約等を確認頂けますと助かります。何かご質問がございましたら、何なりと……」


「エドガーさん! ローゼリスさんには今日たまたま会ったんですが、一緒に契約をする理由を教えて貰ってもいいですか?」


「ハルカ殿、ダンジョンでのクエストは単独での受注が出来ないのです。そして、残念ながら私もサラもギルド職員ですので、サポートは出来ますが、パーティを組む事は出来ないのです。そこで、クリストフ家の当主様に協力をお願いしたところローゼリスお嬢様が冒険者登録をしたので、使ってくれとのお話を頂きましたのでご案内差し上げた次第でございます」


「そうだったの? お父様からは何も言われてなかったの。ただ今日エドガー様の講習を受けてこいとだけ言われたから」


 驚いたローゼリスの表情を見ると、本当にこの事を知らなかったようだ。


「突然のお願いのようになってしまって申し訳ございません。お二人ともちろんクロエ様とも協力頂き、クワリファダンジョンの解放に取り組んでいただければと思います」


 僕たちは言われるがままに契約書にサインし、前払い金をそれぞれが貰った。そしてエドガーさんに言われるがまま隣の個室に移り、そこにいた綺麗なお姉さんに身体のサイズを採寸された。なんでだろう僕の知り合う人はみんな美人な気がする。


 採寸を終えると明日もココに来るように言われた。どうやら攻略用の装備を幾つか用意してくれるみたいだ。そして採寸してくれた綺麗なお姉さんに案内されて衣料品のお店に連れていかれた。



「「うわぁ!」」


 店に入ると思わず二人で声を上げてしまった。そこは現代の百貨店の中のセレクトショップのようだった。大きなシャンデリアが天井を飾り、キリっとした光の間接照明が店内の雰囲気を引き立てている。黒い内装の店内はラグジュアリーな空間だった。


「普段使いのお洋服をお選び頂けるようにご用意させていただきました。シンプルな装いしかご用意出来ておりませんが、お好きなものをお選びください」


 綺麗なお姉さんはおそらくこの店の経営者なのだろう。まったくエドガーさんの人脈の広さには毎回驚かされる。


「すみません。僕はこういうお店で買い物をしたことが無いので、どんなものを選べばいいのか分からないんですが」


 僕は正直にお姉さんに伝えた。そりゃそうだ、学校に行くときは制服があるし、週末も何処かに出かけるなんて事はあまりなかった。今着ているパーカーもズボンも均一の値段で売っているような店で買ったものだ。


「かしこまりました。私達はハルカ様のような何を選べば良いのか分からない方やTPOに合わせた服が必要といった場合にご相談頂く為にいますので、ご安心ください。今着ていらっしゃる服装と同じような形でご用意してもよろしいでしょうか?」


 すこし緊張しながら受け答えしているのが伝わってしまったのだろうか。僕を安心させるように微笑み、お姉さんは店の奥のほうに消えていった。


「ハルカはあまり服に興味がないの?」


 店の中を眺めているとローゼリスが尋ねてきた。


「今まで気を使ったこともなかったかな」


 ふーんと相槌をうちながら僕と同じように店の服を眺めている。


「どう、こんな感じはハルカは好き?」


 黒いシンプルなワンピースだが胸元がレースを重ねたようになっており、胸元が強調されるようなデザインだった。


 ローゼリスは身体の正面に当てて僕に見せているが、気を使ってほしい。ローゼリスの割と起伏に富んだシルエットにワンピースの布が沿っている。


「お、おう、似合ってると思う」


 これは、その、デートと呼ばれる状況ではなかろうか。成り行きとは言え、若い男女で互いの服を選んでいる。エドガーさん、ありがとう!少しだけレベルアップできた気がする。


「ありがとっ!」


 照れながらも喜ぶローゼリスは綺麗で可愛かった。当てていた服を抱えて女性服のコーナーへ戻っていくローゼリスを見送っていると店員さんが戻ってきた。


「お待たせしました。ハルカ様のサイズでお持ちしました。そちらに着替えるスペースがありますので袖を通していただいてもよろしいでしょうか?」


「えっと、着ないとダメですよね?」


「明日のダンジョン攻略装備を選ぶためにも出来ればサイズ感を見たいのですが……」


 そう言われると着るしかない。


 何の素材なのかよくわからないがズボンは履いている事を忘れそうなぐらい着心地が良い。上の服も袖を通す時に触れる肌ざわりが気持ち良い。インナーのサラサラとした質感と重ねたシャツそしてシルエットを纏めるベストを羽織り、鏡の前に立つ。


 着替える前のパーカーにジーンズという少し野暮ったい、良く言うとくつろげる服装から、かっちりした服装になった。


「とても素敵です。落ち着かないのであれば着ていた服を元に似た服装も私どもで作成し、ご用意いたしますのでお申し付けください」


「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて、このパーカーとジーンズは作ってもらってもいいですか?」


「かしこまりました。制作には1週間程度お時間を頂きますがよろしいでしょうか?」


「わかりました。それじゃあ、着替えも含めて今着ている服は二つずつ頂いてもいいですか?」


「ご利用ありがとうございます。採寸させていただきました情報と今の服装から明日には探索用の装備もご用意いたしますので明日もよろしくお願いいたします」


 それでは準備いたしますと店員さんは下がっていった。一人になりもう一度鏡に映る自分を見る。凄く高そうな服だけど大丈夫かな。そんな心配をしていると後ろから声を掛けられた。


「ねぇ、私も着てみたんだけど……どう? 変じゃない?」


 先ほど見せてくれた服に着替えたローゼリスが僕入っている試着室の鏡に自分を写しながら聞いてきた。


 ローゼリスの真っ白な肌を光沢のある黒い布地が包み込んでいる。白く滑らかな肩口晒しながらも黒いレースの肩紐が彩りを与え、そのまま大きく開いた胸元を縁取るようにレースが広がり覆っていく。覆ってはいるが、レース細工のためローゼリスの柔らかな膨らみはレース越しにはっきりと見えている。胸元を過ぎると細い腰に向けて流れるような綺麗なラインが浮き出ており、それがひざ下まで続く。


 美しかった。


 ただそれだけだった。


「うん、凄く綺麗だ。とても似合っているよ」


「本当でございますね。ローゼリス様とてもお似合いですよ」


「ありがとう、なんだか照れるわね。それじゃあ着替えるわ」


 僕と店員さんの言葉で恥ずかしくなってしまったのか、逃げるようにローゼリスは自分の試着室に戻っていった。


「ローゼリスにも服を買ってあげたいんですが、さっきの服って買えますか?」


「プレゼントされるんですね。とても素敵なご関係ですね。それでは私の方で気持ちを込めて包ませていただきます!」


 あ、買えるんだ。女性ものの服って値段分からないんだけど、まあ普段着だし白金貨持っていれば買えるよね。いざとなったら銀行の支払いができるか聞いてみよう。


 この時僕は気付かなかった。この世界で男性が女性に服を贈るという意味を……


読んでいただきありがとうございます。 


面白いかもしれない、とか続きが気になるよ?と感じたら画面下部から感想、評価して頂けるとありがたいです!


今後の展開にもご期待ください!よろしくお願いします!

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