サラとルガン
二人は木剣を正面に構え、互いに間合いを測り始めた。
同じ木剣でも身長の高いルガンさんのほうが間合いが長い。少しずつ足を滑らせ間合いを真っすぐに詰めるルガンさん、対してサラさんは足を横に横に滑らせながら少しづつ間合いを詰めていく。ほんの少し、サラさんが少しだけ大きく踏み込み、ルガンさんの間合いに入ったように見えた。
すかさずルガンさんが左足を踏み込み袈裟掛けに木剣を振り抜いた。間合いに入ったと思われたサラさんは瞬時に間合いから離脱し距離を取った。そしてルガンさんの剣に自分の剣を沿わせながら抑え込み斬撃をいなす。相手の斬撃の勢いを殺さずにサラさんは回し蹴りをルガンさんの脇腹に叩きこんだ。
ルガンさんは大きく吹き飛び壁に突き刺さったところでエドガーさんが動いた。
「そこまで」
一瞬の攻防でその内容をエドガーさんに説明してもらうまでちゃんと理解出来ていなかった。
同じ武器を利用しても身長や体格で戦術が変わること、これはどの武器、どんな魔法でも同じことだと。
ほとんどの場合は一撃で決着してしまうので如何に一撃を入れるのかを型として学ぶ必要があるという事。
対人戦と対モンスター戦はまったく別のものとして考えなければならない事。
対モンスターにどのような武器が有効でそれを扱うためにはどんな技術が必要なのか。
ナイフの間合い、短剣・ショートソードの間合い、長剣・ロングソードの間合い、それぞれの長所と短所をサラさんとルガンさんが実演しながら講習は進んだ。
講習の時間ギリギリまで実演を交えた内容が続き、ダンジョンに潜るための心構えや基礎的な行動、そして自分自身に合う戦闘スタイルの確立を考えて次回の講習に臨むようにとして講義は終わった。
開始の鐘と同じ音が鳴り響き、講習を受けていた見習い冒険者が講習の内容を話しながらホールを後にしていった。
僕は他の受講者の邪魔にならないように時間をずらしてルガンさんとサラさんに話しかけた。
「いや、ルガンさんもサラさんも講習に参加されるなんてびっくりしました」
「ハルカ君も受けていたのね。どう? 少しは為になったかな?」
「はい! もちろんです。サラさんの戦いかたは無駄がないというか、とても綺麗でした」
「おいおい、お前ら知り合いだったのかよ。エドワードの爺から仕事貰った時にオカシイとは思ったけど。あのクソジジイ、嵌めやがって!」
やはりルガンさんとサラさんは偶然を装って講師の助手をさせられたようだった。エドガーさんもエドワードさんも怒らせたら怖いだろうな。
そんな会話をしているとクロエが割って入ってきた。
「もう、ハルカは簡単に女の子を褒めないの! 勘違いさせちゃうでしょ!」
クロエの言葉にはっとしてサラさんを見ると頬を赤く染めて俯いている。えっ、なんか悪いことしたかも。
「ハルカは鈍感系なのか?」
ルガンさんがにやにやと笑いながら僕を肘でつつく。つつくというか殴られている。いや、ルガンさん力加減間違えてるから。
「こっちの可愛い妖精のお嬢ちゃんがハルカが探していた相手か」
ルガンさんがクロエを褒めながら尋ねてきた。
「そうです。僕の残念ガイドです」
「な、何よ! 残念ガイドで何が悪いのよ!」
いや、クロエ。まずは残念ガイドを否定しようよ。
「ははは、おもしれぇお嬢ちゃんだな。俺はルガンだ、よろしくな妖精の嬢ちゃん」
「ふんっ。褒めても何も出来ないわよ。でももっと褒めても良いわよ」
「クロエさんがうらやましいです……」
サラさん? なんか、大丈夫ですか? 僕は知りませんよ?
「これはこれは、賑やかですな」
他の受講者に質問攻めにあっていたエドガーさんがそこから抜け出しこちらに来てくれた。
「エドガーさん、今日は本当に勉強になりました。今朝もキヅナさんを紹介していただいてありがとうございます」
「いやいや、こんな老人を煽てても何もありませんぞ。それにハルカ殿にはクワリファダンジョンの解放を依頼しておりますのでその支援には尽力いたしませんと。これもギルドの為になっているのです」
エドガーさんははっきりとギルドのために協力していると言い切った。少しやり過ぎな気もしなくはないが……
「それでは、私はエミリーの補助がありますのでギルドに戻ります。ハルカ殿のその恰好からですとまだ装備などは整えられていない様子ですな。その買い物が終わりましたらまたギルドに寄ってください。正式な依頼書をお渡しいたします。それではまた後でお待ちしております」
エドガーさんはこちらに一礼をして威風堂々とギルドに戻っていった。
「おい、ハルカ! エドガーの爺にやけに気に入られてんだな、凄いぞお前! 流石選定者だな。まぁ、あの爺さんとエドワードのクソジジイには気を付けた方がいいけどな。それじゃ俺はこの後も仕事があるからまたな」
ルガンさんも気の良い笑顔を浮かべて足早に去っていった。そして残ったサラさんだが……
「ハルカ君! このあとご飯でもどうかな! 私が御馳走するし、いい……かな?」
僕より少し小さいサラさんが瞳を潤ませながらこちらを見上げながら誘ってきた。
頬は赤く染まり、手を胸の前で組みながらそわそわしている。人生18年これまでちっとも女っ気が無かった人生で急に恵まれた展開にどうしていいか分からない。うーん。
「そうね、私もおなか減ったし、一緒に行きましょう! そうね。今の時間だと竜鱗亭のディナーがいいわね」
「そうだね。マリナさんにも今日はちゃんと挨拶出来てなかったし木刀も置いておきたいしね」
クロエのフォローで何とかなったけど、見た目お淑やかで、戦闘技術の高い強い女性のサラさんに好意を寄せられるとか未だに信じられないけど、どうしよう。
「そこのあなた!!」
3人で食事に行こうとする僕らの背中から急に声を掛けられた。
振り向くと、さっき隣に座っていた真っ白な髪の女の子が立っていた。
「講師の方達ととても親密そうですけど、あなたは一体何者なの?」
何かを疑うような視線を浴びて驚く僕にクロエが代わりに応えてくれた。
「ちょっと貴女! 急に失礼じゃないの?!」
「妖精までいるなんて、どうなっているのよ?!」
驚く彼女の対応を残念ガイドに任せたままだと話がややこしくなりそうだ。
「僕はハルカって言います。ついこの間このレヴェラミラに来ました。迷子です。それでエドガーさんには良くしてもらってます。その関係で本日の講師の方とも知り合うことができました。貴女のお名前は確かローゼリスさん、で良かったですか」
僕が名前を呼んだ瞬間、ローゼリスは顔を真っ赤にして俯いてしまった。なんだろうついさっき見かけた光景な気がする。既視感?
「ハルカ! 貴族の方を呼ぶときは家名で呼ぶものよ! また勘違いさせちゃってるじゃない! ハルカは馬鹿なの?!」
クロエが本日二回目のツッコミを入れてくれた。うん、残念ガイドの癖にこういうところは有能だな。
「ごめん、知らなかったんだ。えぇっと、クリストフ様? でいいのかな」
慌てて訂正を入れる僕、そしてそのよこでなぜかローゼリスを警戒するサラさん。ナニコレ? ちょっとコレどうすればいいの?
「もう、仕方ないわね! ここだと他の人の目が気になるわ! ハルカ! もうこの二人をつれてご飯に行きましょう!」
「「「えぇー!!」」」
僕らの驚きはホール中に響き、まだ残っていた受講者が一斉にこちらを向いた。
「ほら! 三人とも付いてきなさい! クロエ姉さんがハルカの事を教えてあげるわ!!」
なぜか場を回しているクロエに従って僕等は竜鱗亭まで無言のまま歩いて行ったのだった。
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