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聖棍エクル・カルヴァリン

 ここはレヴェラミラ、世界と世界をつなぐ世界"らしい"。


 ”らしい”というのは僕がいまだにこの状況を信じられなくて、半分以上は夢なんじゃないかと思っている。


 ”自称”妖精ガイドのクロエの説明は雑すぎる。顔立ちは整っているし、ちっちゃくて可愛いけど残念な感じだ。


 そんな事を思っているとその残念ガイドは僕の目の前をふわふわと周囲を照らしてくれながら飛んでいる。


「さっきの門がこの塔の入口だよ。いまだに謎な構造しているんだよね。この塔」


「そうなんだ、塔っていうからもっと天まで届け! みたいなヤツを想像してたけど、そうでもないんだね」


「まあ三層の塔だからね。他の塔、特に大きいほうから7つの塔はそれこそ天高くどこまでも続くような塔もあるわよ。ハルカは見る機会は無いかもしれないけどね」


「この塔をクリアすれば元の世界に帰れるんだよね?」


「そうね、大体あっているわ」


「だいたい? クロエが言うとなんかすっごく不安になるフレーズだね」


「どういう事よ! この素敵妖精ガイドのクロエ様に向かって失礼よ」


「はいはい。それでどの辺が大体なのか教えてください、素敵なクロエさん」


「まったく、仕方ないわね」


 クロエはもったいぶった言い方で。少し、いや、かなり自慢げに説明を始めた。


「クリアというのがどういう状況を示すのか私には理解出来なかったのよ、三層の構造で出来ているこの塔のそれぞれの階層主、つまり3体のモンスターを倒せばこの塔から出ることができるわ」


「そっか、クリアって単語が分からなかったんだね。ごめんでもクロエは日本語が喋れるのにクリアって分からなかったの?」


「なに? ニホンゴ? あぁ、ハルカが喋っている言葉は日本語っていうの? 私それ喋れないわよ」


「え? いや、だって喋ってるし」


「この世界にはね、いろんな世界のいろんな種族がそれこそ数えきれないほど居るのよ。文化も言語も宗教も。そのままだと会話すらままならないから、この世界自体に魔法が掛けてあるの」


「なんかすごく壮大な話になってるね」


「まあ実際に会話出来てしまっているし、分かりづらいかもしれないけど、そういう事だから覚えておいてね」


「それじゃ、大体の説明も終わったし今日のモンスターの説明をしましょうか」


「えっ? いきなり戦うの?」


「そうなるわね、でも安心して、最初の敵はスライムだよ」


「スライム?」


「そ、やわらかい、ふわふわ~とっしててつるっとしたまんまる!」


「そ、そうなんだ、スライムって本当に居たんだ」


 僕のつぶやきは素敵ガイドには無視された。


「普通はアーティファクトの武器で叩いておしまいなんだけど..….」


 僕はきらきら光る腕輪を眺めた。


「これじゃ戦えないかな」


「仕方ないわね、これを使いなさい」


「木の棒?」


「そうよ! これは由緒あるあ有名な勇者が使ったと言われるこんぼうよ!」


「どこの勇者がこんぼうで戦うのさ!」


「知らないわよ、どんな勇者も最初はこんぼうで戦うのがクラシックでしょ?」


 本当にこの残念ガイドは日本の文化を知らないのか怪しくなってきた。


 僕はただのちょっと太い木の枝からつくられた棒切れを持って薄暗い狭い通路を進む。


 整備された鉱山のような半分洞窟、半分補強された人口的な通路がまっすぐに伸びている。ところどころ壁が崩れ落ちて居て照明のランタンもほとんどが消えている。ガイド妖精のクロエが発している柔らかい謎の光がなければ真っ暗闇だろう。


「なんだか入り口から結構歩いてるけど、まだつかないの?」


「はじまりの塔は迷子(ロスト)、つまりハルカみたいな別の世界から迷い込んでいる人のことね、その迷子(ロスト)によって進む道が決められるのよ」


「つまり、暗く長い通路を歩く人もいれば、反対に、明るくてすぐ着く通路を歩く迷子(ロスト)もいるってことね」


「はぁ、それじゃあ僕は運が悪かったって事なのか」


「うーんとね、運が悪かったわけじゃないのよ、ハルカがこの塔の中の通路を作ったのよ」


「どういうこと?」


「だから、ハルカがこの暗くて長くい通路を選んだのよ」


「意味が分かんないから」


 クロエの説明はざっくりしすぎてよく分からなかったが、塔の内部構造はその迷子(ロスト)の精神状態や記憶から作られているという事らしい。


 延々とざっくりした答えを重ねて推理していった結果たどり着いた答えだ。


「あー疲れてきたんだけど」


「あなたが選んだ道なんだから、文句言わずに進みなさい!」


 クロエは疲れた様子も見せずにただ僕の歩く道を照らしてくれていた。


「僕ならきっと楽な道を選んだよ、ホント疲れたんだけど」


「あなたが楽だと思った道も、歩いてみると実際は険しかったりするのよ。文句を言っても何も変わりはしないわ。しっかり歩きなさい」


「父さんにも言われたな、そんなこと」


 父さんは元気だろうか、僕はこの世界で起きているってことは、元の世界では僕は寝てるってことだよね。


 家を飛び出して、それで...... あれ? 僕はいつの間に寝ちゃったんだろう。


「さあそろそろ見えてきたわよ! いよいよモンスターとの戦いね!」


 鉄製だろうか、3メートルを超えるような大きな扉をくぐると、丸く囲われた広々としたサッカーのコートくらいの広さのある部屋があった。


 その中心にふるふると振るえる半透明のボールのようなモンスターが待ち構えていた。



「よく来たね! さぁ、戦おうか!」


 驚く事ばかりの一日だったが、今日一番驚きが待っていた。


「スライムが喋った!?」


「君だってしゃべってるじゃないか? 何が不思議なんだい?」


「だって、モンスターはしゃべらないでしょ?」


「失礼な! ボクはこれでも由緒あるスライムの家系に生まれたんだ! ことばだけじゃなくて読み書き計算だってちゃんとできるぞ!」


「そ、そうなんだ、なんか、戦いにくいな」


「む、そんな事言わないでくれよ、ボクだって戦いたくて戦うわけじゃない。でもこれが運命なのさ。」


 よく喋るスライムは唐突にそんな事を語り始めた。黙っていても話は進むだろうが、念のため返事をした。


「君の運命?」


「そう、ボクはかの有名な、といっても君は知らないだろうけど、アルデバラン=フェン=グラムール=フォーエンハイム家に生まれたスラリ・ンンだ!」


 いろいろとトラブルが発生しそうな名前を叫んだスライムは勇ましく続ける。


「君と戦って歴史に名を刻む勇者となるためにここに来たんだ。さぁ、戦おう。」


 どうやらふるふると揺れる半透明のボールはやる気満々のようだ。


「そっか、それじゃいくよ」


 僕はアーティファクトの腕輪を確認し、頼りないこん棒を握りしめ、スライムとの距離を詰めていく。


「ちょっとまってくれ、まっ、まさかその芳しい香りとそのなめらかなフォルムのその棍棒は、聖棍エクル・カルヴァリン?!」


 距離を詰めていた僕だけど、何も無抵抗なモンスターを殴るような事はしたくなかったので、とりあえず足を止めて会話に付き合うことにした。


「え、ただの木の枝だけど」


 なにを思ったのかふるふるしている球体はぺちゃんと水たまりのように広がった。


「ふ、ボクにふさわしい装備を持った勇者……えっとお名前は?」


「ぼく? 僕はハルカだけど」


「そうか、勇者ボク・ボクハ=ハルカ!! いざ勝負だ」


 既視感に激しく襲われながらも一応突っ込む。


「お前もか!! ボクはそんな名前じゃない!」


 僕は溜息をつきながらこん棒、”エクル・カルヴァリン””を構え直した。


「なかなかやるな、ボク・ボクハよ」


 まだ何もしていない僕にスライムが適当な事をいう。


「それもう名前残ってないから、どうなっても知らないよ、えいっ!」


 距離を一気に詰めて、振りかぶったこん棒”エクル・カルヴァリン”を振り下ろした。


 スライムは回避したり抵抗することもなく、ふるふるとしたカラダに棍棒が命中した


「ぐは、まさに勇者の一撃、見事だ、勇者よ……」


 割と余裕がありそうな声でスラリ・ンンはふるふると体をふるわせながら地面に溶けていった……一枚のメダルを残して。


「よくやったわ! ハルカ!  はじまりのメダルを手に入れたわね」


 クロエが自分のことのように喜んでいる。


「あんな感じで良かったのか? てか弱くね? スライムさんは死んじゃったの?」


「そうよ、あれで良かったのよ、あのスライムはそういう運命だったのよ」


 手のひらのメダルがきらきらと輝く


「こっちの世界、レヴェラ・ミラではモンスターを倒すとこんな風にドロップと呼ばれるアイテムを残してモンスターは消えてしまうの」


「消えたモンスターはどこに行くの?」


「モンスターはレヴェラ・ミラの大地に還るのよ。もう一度新たな運命を得るために」


「そっか、死んじゃったらそこで終わりじゃないんだね」


「そうよ、ハルカの世界では死んだらどうなるの?」


「死んだらおしまいでしょ?」


「あら、そうなの? さみしい世界ね」


「それが普通だよ」


「あなたの世界の普通を私たちに押し付けないでよ」


「そうだね。モンスターも喋るしね」


「今日はこれでおしまいよ、早くしないと!」


「そっか、もうそんな時間になったの?」


「違うわよ、レヴェラ・ミラでも起きていて向こうでも起きていたら、あなたはいつ眠りにつくのよ。もう良い子は寝る時間よ」


「また明日、冒険の続きをしましょう」


「アーティファクトに向かって”セーブ”って呪文を唱えてそうしたら元の世界に戻れるわ、一時的にだけどね」


「こっちに来るにはどうしたらいいの?」


「何もしなくていいわ、ただ眠ればここから冒険の続きよ」


「そっか、それじゃまた明日ね」


「ええ、待っているわ。村人の迷子ロストさん」


「もう、それじゃまたね。”セーブ”」


 暖かい光に包まれながら、僕の体の輪郭は光に溶けて行く。



「ハルカ……」


まただ、誰かが僕を呼んでいる。そして僕この声の主を知っている。


溶けていく輪郭とは逆に忘れかけていた疑念が次第に輪郭を帯びていく、なぜ母さんの事を忘れていたのだろう


体験した異世界よりも不思議な感覚だ。


そしてこれからこの謎を解くために異世界と現実を何度も行き来する本当の迷子になるのだった。


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