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不幸中の不幸

*注意*


現実世界パートです。かなりの確率で鬱展開です。


体調の思わしく無い方は体調を戻してから読んでください。


ファンタジーのみ楽しみたい方は必ず読み飛ばしてください。


問題無い方はお楽しみくださいませ!それではどうぞ


 トントントン、優しく肩のあたりを叩かれている。


「……さで……よ。おはようございます。朝ですよ」


 聞きなれな声に相槌を返す。


「クロエ……もう飲み過ぎるなよ……」


 自分でも気付いた元の世界に戻ってきている事に。そして目を開けて声を掛けた人を確認した。顔を真っ赤にしている黒江さんが口元を抑えて僕のベッドから後ずさりをしていた。


「佐倉さん?! なんでそんな事をいうんですか?! 私、お酒臭かったんですか?」


 あわあわしている黒江さんは今日も看護服が似合う素敵な女性だ。


「あ、おはようございます。すみません僕寝ぼけてたみたいで、クロエっていう知り合いが居るんですよ。ちょっとそいつの事を考えてたんですかね。寝ぼけてたみたいでごめんなさい」


「あっ、そうなんですね。私はてっきり昨日飲み過ぎてたのを注意されたのかと思って。なんだかごめんなさいね。」


「いえ、大丈夫です! 朝から黒江さんに起こしてもらえるなんて嬉しいです。今日から毎日寝坊しますね」


「もう、ちゃんと起きてください! それに、私も毎日病院にいるわけではないので! はぃ、それじゃ血圧と体温図りますよ!」


 体温計を渡され脇の下に挟む、なぜこうも脇の下のタイプの体温計が多いのだろうか。そんなどうでも良いことを考えながら、うでに血圧計のバンドを回される。


「昨日は飲み過ぎたんですか? お酒飲まれるんですね」


「ちょ、ちょっとだけね。イヤなことがあったら飲みたくなるというか。大人になったら分かるかな?」


 イヤな事があったとしてそれがお酒を飲むことで解決はしないだろうな。まさか、意識を失うほど飲むとか?!


「そんなに飲まないのよ?!」


 僕は何も言わなかったが、黒江さんはなぜか言い訳しているみたいで可愛く続けた。


「言い訳しているのも可愛いですね。やっぱり毎日寝坊します」


 呆れるように溜息をした黒江さんは血圧を測る

 心から思った。この人は可愛い人だなと。そしてなぜか意地悪したくなる。きっと僕が構ってちゃんなんだろう。


 父さんに出て行けと言われた日までの記憶がかなり曖昧で不鮮明な状態がずっと続いていた学校のこともあやふやだし、友達も微妙だ。そういえばアイツらも見舞いくらいには来てもいいような気がするが、やはり受験勉強で忙しいのだろうか。


 そういえばもう受験生だった。というか、僕の進路はどんな風になっているのだろうか。


 まったくと言っていいほど思い出せない。


 この部分の記憶にも母さんが関わっているのだろうか。


 病院で受験勉強なんて出来ることが限られているし僕の友人もこれと言ってプライベートでがっつり遊ぶほど仲のいい友達も居ない。


 来てくれるのであれば、アイツくらいだろう。記憶が曖昧な中でもしっかりと思い出せる友人 ”向日 アオイ”


 アイツは元気だろうか。


「何ボーっとしてるんですか? 体温計返してください」


「すみません、ちょっと考え事してて」


「そうですか? 今日はMRIもあるのでちゃんと病室に居てくださいね」


 黒江さんは呆れたままの顔で体温計と血圧計を片づけて出て行ってしまった。病室に静寂が訪れた。


 黒江さんが居たことが分かる香りが病室を抜ける風に乗って僕の鼻をくすぐった。なんの柔軟剤の匂いだろうか。そんな少しだけ甘いような爽やかな匂いも病室を抜けていった。



 頭部のMRIだったので朝ごはんも、昼ごはんも食べても大丈夫だったのに黒江さんは来なかった。嫌われたのだろうか。そんな疑問が浮かんでは消えた。頭部の検査も特に問題は無かった。うん。MRI必要だったんだろうか。お金で安心を買うような物だろうか。


 母さんがかけたであろう医療保険のおかげで、入院費用や一時金でなんとかなっているが、これがそのまま自己負担になっていたらとんでもない事になっていただろうと思う。


 そんな大切な家族を僕らは忘れてしまっている。


 その日の夕方に父さんとナツミが見舞に来た。着替えや暇つぶしの漫画を持ってきてくれた。ただ、今度はナツミが選んでくれたもので少女漫画だった。


 僕の家族の振れ幅は凄い。それでもやはり有難かった。


 そこへどこから噂を聞きつけたのか、アオイが見舞に来てくれた。


「よう。元気にしてるか? そんな軽口を叩きながら病室に入ってきた」


「なんでお前居んの?」


「なんだよ、そこでナツミちゃんに会ったからどうしたのか聞いたらさ。お前が事故に遭って入院しているなんて聞いたから」


「ナツミもアオイに会ったんだったら一言ぐらい言えよ! でお前は誰かの付き添いか?」


「良いじゃん別に……」


 ナツミは一言だけ言うと手元の少女漫画の世界に戻っていった。


「まぁ、そんな感じだな。ここ座っていいか?」


 アオイはパイプ椅子を引き寄せて、ナツミの横へ座り、おもむろに少女漫画の第一巻を手に取り読み始めた。


「読むんかい?!」


「相変わらずツッコミはしっかりしてるな」


 僕のほうには目もくれず苦笑いしながら少女漫画を読むアオイ。


「兄ちゃんて、ホンッとに口うるさいよね」


  相変わらずこちらを向かない二人。


「もういいや、で? アオイはどうしたんだ?」


 少女漫画をパタンと閉じてもアオイはこちらを見なかった。


「かあちゃんが、病気なんだ……それで入院することになった」


「シハルさんが? 入院?」


 ナツミが俺の代わりに質問する。


「癌だって……」


 部屋の空気は一気に重く、その雰囲気を一番感じているアオイはその先を続ける事も出来ずにただただ、現実から逃れるように漫画を眺めている。


 僕もナツミも何にも言えずに、ただ、アオイの漫画を捲る紙のこすれる音だけがこの場に満ちていた。


「昨日血を吐いて倒れたんだ。膵臓癌らしい」


 黙って次の言葉を待つ僕等兄妹。


 アオイの放ったその言葉の意味を考え、心情を正しく読み取れずに黙るしか無い僕等はなすすべも無く只々言葉を噛み締めるしかなかった。


 沈黙がひたすらに病室の中を占拠する。


 かなりの時間が過ぎた。アオイは少女漫画に目を落としているが恐らくは読んでは居ないだろう。


 アオイが少女漫画を捲り終わり、テーブルに戻したところでナツミが席を立った。


「アオイ君、ごめん、言葉が見つからないや」


 ナツミはそれだけ言い残して病室を出ていった。


「すまない、アオイ、俺もなんて言ったらいいのか」


「いいんだ。逆にごめんな、お前もケガとかで大変だろうけどまだ入院するのか?」


「とりあえず俺の検査は終わったみたいだから足が落ち着いたら退院してリハビリで通院になるんじゃないかな」


「そうか、大変だと思うけど頑張ってな」


「いや、どう考えてもお前だろ? お前は一人で大丈夫なのかよ」


 アオイのところは母子家庭だ。アオイが小さいころに父親は病気で亡くなったって聞いている。黙ったまま考え込むアオイ、いやもしかしたら、何も考えられない状態なのかもしれない。


「母ちゃんの妹さん、叔母さんがこっちに来てくれるらしい。家のことは俺がなんとかするしかないな」


 アオイの声が震え始めた。


「アオイ……よかったらさ、俺のうちに来てくれないか? お前ひとりじゃ色々キツイだろ? とりあえず考えといてな」


「あぁ……ありがとうな」


 涙を拭うアオイは着ているシャツの袖を濡らしながらもその涙が止まることは無かった。


「今日は偶然とは言え、お前に会えてよかったよ。会えてなかったらどうなってたか俺も分かんねぇや」


 シャツの袖がずぶ濡れのアオイが、もう一度感謝の言葉を口にした。そんなアオイに僕は何も言えなかった。


「悪かったな、邪魔して……明日も来ると思うけど……迷惑だよな……やっぱいいわ! また今度な!」


 悲しみに満ちた友人の背中に僕は一言だけ声を掛けた。


「また、明日な!」


 不謹慎だが、ドラマみたいな展開だと思った。実際ドラマだったら病室を出る前に立ち止まったり、振り返ったりするだろうけど、これはドラマじゃない。


 アオイに僕の声が聞こえたか聞こえなかったのか僕には判断出来ないまま、出て行ってしまった。


 僕一人になった病室は広く感じた。


 ふと部屋を見回すと窓一面のカーテンが燃えるように緋色に染めていた。




 父さんとナツミに向こうでの活動報告を済まして二人は家に帰っていった。


 夜ごはんはあまり喉を通らなかった。ほとんど残してしまったことを看護師長さん謝って食器を下げてもらった。


 どうしても食べたく無いと言った時の看護師長さんの困った顔は若かかりし時は優しい素敵な看護師だったのだろうと思わせるほど重厚な表情だった。


 消灯時間を過ぎた後も中々眠気も来ない。


 昼間の事もあり、どうにも寝れそうにない。


 自分の境遇とアオイの境遇。


 比較するべくも無くアオイの人生は波乱に満ちている。


 そして僕は母親が消えてしまった事にも気付かずに暢気に暮らし、母親が見つかるかもしれないという、希望を持っている。


 心の中では可哀想なアオイ。そう思っている。しかしどうだ、同時に自分自身がそんな境遇ではない事に少なからず安堵してしまっているのではないか。


 比べようも無いが比べる事も出来ないがそんな事を考えてしまう。



 気持ちを切り替えて向こうで母さんを探さないと。無理やり考え事を止めた気持ち悪さが頭の中に残る中、僕は今日も魔法の訓練を行っていく。


 昨日よりは魔法陣が強く発光している気がする。そしてマナが陣の上を這うのも素早い気がする。


 時間も少し伸びただろうか、10分くらい維持したところで意識が消えた。


 意識を失うその時まで、胸の内のドロドロした気持ちは消えなかった。

読んでいただきありがとうございます。 


面白いかもしれない、とか続きが気になるよ?と感じたら画面下部から感想、評価して頂けるとありがたいです!


今後の展開にもご期待ください!よろしくお願いします!

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