ギルドの役割
「ていうかなんのお金ですか? それ」
「いや、ハルカ様はまだ白金貨を見た事が無かったのですか?」
エドガーさんは少し大きめの綺麗な刻印が施された、白く輝く硬貨を手にしながら説明をはじめようとする。てかどんな価値の高いものを持ち歩いているんだ、この紳士は……
「いやっ?! 硬貨の種類の話では無くてですね」
「そうですか、それならば仕方ありませんな。レツスの現物での支給と致しましょう。と言いましても全てをお使いになるのは難しいでしょうからやはり半数は冒険者ギルドで買取をさせて頂きたく思うのですが……」
僕は唖然として話を聞く他なかった。
「ダメです! レツスを一定以上の世の中に出回らせてはいけません! ハルカさん! 今お持ちのレツスは全てダンジョンギルドが買い取ります!」
いやいやいや、もともと不正に入手しているレツスをどうして買い取ってもらわなければならないのか。
「ですが、そんな余裕が今のダンジョンギルドにおありですかな?」
「そ、それは……」
どちらのギルドで買取を行うかで話がどんどん進んでしまう。止めなければ。
「なんでそんな事になってるんですか、そもそもこのレツスは不正に盗んだ物でしょう? 出来ればサラさんに、ダンジョンギルドに返したいのですが」
「ハルカさん、お気持ちは有難いのですが、そうなるとダンジョンギルドの評価が下がってしまうのです。ただでさえ盗まれたというだけでかなりの痛手です。それをギルドの人間が流通前に取り返した。という形にするにはハルカさんから買い取る他ありません」
「そんなの……」
言いたい事は分かった。この件に関わっている盗賊ギルドは依頼を正しくこなした事で、評価が上がっている。そして依頼は倉庫までレツスを届ける所まで、そこからはテュルカ神聖教国の管理。そして僕が取り返した訳だけど、僕が動いた事が、冒険者ギルドの依頼としてなのか、ダンジョンギルドの依頼としてなのか。この二つのどちらかを事実にしたい。そういう事だろう。
レツスの価格とあまりにも乖離がある場合はそれは依頼足り得ない。100万円を100円玉で買うようなものだ。そこで僕はふとひらめいた。
100円玉に100万の付加価値をつければいいんだ。
「こうするのはどうでしょう。僕は冒険者ギルドに紹介された冒険者として、ダンジョンギルドに協力するように指示を受けた。そしてダンジョンギルドに加入する為にこの問題を解決するように依頼をされた。これでどちらにも評価が上がってなおかつお金は必要ないんじゃないでしょうか?」
「なるほど、低ランクの冒険者がダンジョンギルドに所属するのは確かに困難です。ですが、いいのですか? ダンジョンギルドに所属すると実際にギルドの業務に関わらなければなりませんよ?」
「そこは、サラさんとエドガーさんがなんとかしていただければ……」
エドガーさんもサラさんも思案顔で黙り込んでしまった。
やはり少し詰めが甘かったようだ。
「大丈夫よ! たしかクワリファダンジョンは未踏破だったわね?」
未だに鼻水を啜っているクロエが声を高らかに割り込んできた。あ、鼻水が盛大に垂れてる。
「……はい、30層で次の層に向かう為の条件が解放されていません」
思案していたのとは別の沈黙が返事の前についていた気がするがクロエの為にもスルーしておこう。
「それをあたしとハルカが解放しましょう!」
薔薇のドレスから零れそうな胸を張り、ビシッと指を指して決めポーズを取るクロエ。もちろん鼻水はそのままだ。
まったく締まらない宣言と共に僕のレヴェラミラでの当面の目標は決まったみたいだ。
剣術の講習がある日はそれを受けながら情報収集をする日として行動する。そして何もない日に関しては、クワリファダンジョンの解放に向けての探索をしていく日を作り活動する事になった。それぞれのギルドから給与のような手当が支払われるらしい。
エドガーさんとサラさんで僕の身分証の所属についての細かい設定を行ったみたいだが、
所属はそのまま冒険者ギルドとして、ダンジョンギルドへの派遣という形で落ち着いた。
そして問題の野菜の処分と僕の報酬の話に舞い戻る。
「サラさん、どうでしょうテュルカでレツスを流通させては?」
僕は息をのんだ。今エドガーさんが提案したのはテュルカという国を内側から崩しませんか?というような話だろう。国を相手取って行う反乱のような計画を一ギルド職員が決めれるような話なのだろうか。それともエドガーさんが特殊なギルド職員なのだろうか。明らかにサラさんは慌てている。
「これはハルカ殿の母君の捜索にも関わる内容なのですが。テュルカ神聖教国では、エターナルとは別に迷子を集めているという噂を聞いたことがあります。それも枢機卿が個人で」
「今回の盗賊ギルドへの依頼を行ったと考えられる人物ですね」
「そうです。今回はレツスを使ってこのイニティを中心にこの大陸をパニックに陥れ、それを枢機卿が抑え込むというシナリオを書いたのでしょう。先ほど盗賊ギルドのエドワードから神聖教国内の暗部より裏がとれたと報告があったので間違いはないかと思います」
サラさんとエドガーさんは話を進めるが僕は聞いているだけになってしまっている。
「枢機卿の持っている力を確認したいがイニティをその舞台にしてはいけない。取れる手段は相手の懐で行うという事だけです。ですのでどうか少数でも構わないので冒険者ギルドの方にもレツスを譲っていただけないだろうか?」
サラさんは迷っている。それはそうだ、自分の決断一つでなんら関係もない、単に神聖教国に住んでいるというだけの住民が危険に晒される、それもとびきり危険度が高いものに巻き込んでしまう事になるのだ。
「分かりました。ただし数量は絞って住人たちの間でも対処できる範囲にしてください。ダンジョンギルドの上には私からも伝えさせていただきます。エドガーさんからも書類での報告をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「交渉成立ですな、それではその形で依頼書などの書類を作成し関係各所に送付いたします。既成事実を先に作っておきましょう。サラ殿、レツスの保管に関しての提案なのですが、これはそのままハルカ殿に頼まれるのはどうだろうか。保管料として先ほどの白金貨をこちらから支払いたいと思うのですが」
「えっ、いいのですか? クワリファにも一応保管庫はありますが……すでに過剰在庫がありますので、とても助かるお話なのですが」
本当に良いんですか? と上目遣いでこちらの様子を伺うサラさんと、それを見て他に類を見ない程の優しい老紳士の笑顔を乗せてこちらを見るエドガーさん。
終わった。すでに詰んでいたのだ。このいかにも優し気なギルド職員の老紳士に断れない状況を作り出されていた。
「分かりました。保管して必ずお二人以外にはお渡ししないようにします」
僕の言葉を聞いてもう一人こちらを伺っていたヤツが声を上げて喜んだ。
「キャホー、白金貨! はくきんかよっ! ハルカ!」
エドガーさんから他の硬貨より2まわり程大きな真っ白な硬貨をクロエが受け取っていた。
「ぐへへへ、これで働かずに生きていける。ぐへへ」
クロエの心の声が漏れ出ていた。
クロエ以外の僕らが黙り、さらにプレッシャーを掛けるように見つめても、クロエのニタニタは止まらなかった。
「それでは、これはこちらでお預かりさせていただきます。順次テュルカでの工作を行いますのでそちらの報告と迷子の報告をさせていただきます」
「エドガーさん、本当に何から何まで……感謝しきれませんが、本当にありがとうございます」
僕はこの老紳士にいつまでも頭が上がらないだろうな、そんなことを思いながらお礼をした。白金貨は銀行で預けられた。その時のクロエの悲痛な叫びは一生忘れられないだろう。
「私の愛しきひと。私の愛しきひとが……」
マイプレジャーとでもいいだしそうな邪悪な顔から、耐えられない痛みに耐えようとする顔に変わり、そして真っ白く燃え尽きていた。
相変わらず表情豊かな妖精さんだ。
僕はそんな妖精とレヴェラミラの人たちに一度お暇を貰うと告げて元の世界に戻るため、アーティファクトを起動した。
”セーブ”
読んでいただきありがとうございます。
面白いかもしれない、とか続きが気になるよ?と感じたら画面下部から感想、評価して頂けるとありがたいです!
今後の展開にもご期待ください!よろしくお願いします!