幸福の守人 エディ
「おいコラ、クロエ!」
「なんなのよ! あたしの事探しに来ないなんて! いったいどうなってんのよ!」
「そうだぞ! クロエちゃんは寂しがってたぞ!」
ダメだこいつら酒飲んでやがる。クロエとその隣に座るイケメンな優男は僕に向かって文句を吐いてきた。
「妖精ガイドの癖に、迷子を放置して朝から今まで酒盛りしてんのはどこの精霊だよ?!」
「五月蠅いわね! あたしあ、あんだの為に仲間を探すために身体を張ってるのよ!」
呂律の回っていない言葉は聞き取りづらいだけでなく僕の神経も逆なでしてくる。
「ちょっと用事があるから行ってくるぞ、ポンコツガイド!」
もうこんなヤツに構っている時間はない。急がないと!
「クロエちゃん仕方ないよ、とりあえず飲みなおしましょ! それから考えればいいのよ」
クロエを挟んで優男の反対側に座るのはこれまた美人の冒険者だ。この二人はクロエの事が見えるのだろう。3人仲良く飲んでいた。
酔っ払いは放って置いてレツスを納品した倉庫に向かう。今度はルガンと一緒ではなくエドガーさんと一緒にだ。
エドガーさんは階段の所で僕が戻ってくるのを待っていた。遠くで酒を飲み交わすクロエたち三人を見て驚きながらも溜息をついて階段まで戻ってきた僕と一緒に降りていく。
エイミーに後は頼んだとエドガーさんは一言告げて、涙目のエイミーを残して冒険者ギルドを後にした。
市場の区画を抜け、昼間は通らなかった工房地区を抜けて裏口から倉庫を目指す。怪しまれないように走らず徒歩で移動した。
倉庫に入る前にエドガーさんから金貨が入った財布を渡された。
「これは?」
「納品の時にこれを落としたから取りに行きたいと言ってください。入り口の見張りだけ気を引いて頂ければ内部はこちらで処理しておきますので……そして出るときにこれを入口の見張りに見せて堂々と出ていくだけです。ではこれをどうぞ」
「分かりました。インベントリ!」
黒い空間に裂け目が生れる。そしてエドガーさんから借りた財布をしまう。
「それでは私はハルカ様の後からついていきますので、気にせず忘れものを取りに来たと言って入ってください」
僕はエドガーさんから細かい指示を受け再確認した。
「それでは後ほど……」
エドガーさんはそう言葉を残すと煙のように消えてしまった。
エドガーさんって本当に何者なんだろう。身のこなしや態度で普通の冒険者ギルドの職員じゃないのは確かなんだけど。
僕はエドガーさんの指示を反芻しながら緊張を隠しながら倉庫の入口に向かった。
入口には警備担当らしい柄の悪い大男が二人、プレハブ小屋のような建物に入っていた。
「お、なんだ? 昼間のギルドのヤツじゃねぇか? どうしたんだ? 値段交渉ならもう受け付けないって言われてるぞ。帰ったほうがいいぞ」
小屋から出てきた大男は2メートル以上身長があるだろう。凄く怖い。
「すみません。納品の時に財布落としてしまったみたいで、ちょっとさがしてきてくれないですか?」
大男たちは顔を合わせて笑い始めた。
「お前だな、盗賊ギルドで仕事は出来るが抜けているってヤツは!」
「お前人気もんだぞ、次はどんな失敗でわらわしてくれるのか楽しみにしてるぞ!」
あーなんか、都合よく勘違いしてくれている。他人のそら似だろうか。まあいいや都合がいいし。
「ホントすみません、財布も金もどうでもいいんですがね。写真が入っててそれがどうしても失くせない写真何ですよ」
「がはははは。やっぱりお前は凄い馬鹿なヤツだな。いいぞ、お前も有名人だ。何かあっても商人ギルドの連中が必ずお前を捕まえてくれる! 勝手に探して見つかったら戻ってこい! オレ達が探す義理はねぇからよ」
がははと大男たちは笑いあい小屋に戻っていった。
「すぐ戻れるように頑張って探します。」
「せいぜい頑張れよ!」
僕に興味を失った大男たちは詰所で娯楽を再開したようだ。なんのゲームだろうか? 気になったが目的を早く達成しないと。時間は限られている。
目的に倉庫はこの倉庫街の奥から二番目、警備用の監視モニターのようなものも付いている。その辺の細工はエドガーさんが対処するらしい。
僕は急いでレツスをインベントリにしまうだけだ。
意外と簡単な仕事だった。馬鹿でかい籠に入っているレツスを籠ごと一度インベントリで仕舞う。そして、籠だけをもとに戻す。
だいたい20個単位で入っている籠をしまっては出す。仕舞っては出す。
あと少しで全て仕舞うという位になってエドガーさんが現れた。
「そろそろ詰所の人員交代になります。もう終わりますか?」
「うわっ?! エドガーさん?! どこから? ってはい、これで終わりです」
「分かりました。それでは早く戻りましょう」
倉庫の中も空になり、インベントリで表示されている数値も恐らくは納品した数量だろう。
またも消えたエドガーさんに声を掛けられなかったが、急いで入口に戻る。
「すみません、財布ありました」
「おっ! だいぶ早かったじゃねぇか、どうだ写真も無事か?」
小馬鹿にするように話しかける大男にエドガーさんから借りた財布を見せた。
「写真は見せれないですよ?!」
またもがははと大男たちは笑いあいこちらに視線を向けてくる。
「そんな恥ずかしいモンを持ち歩くなよ! まあ見つかってよかったな」
「そろそろ交代の時間だ! さっさと飲みに行こうぜ。おいお前も一緒にどうだ?!」
エドガーさんもこうなるだろうと予言していた。そして僕はこいつ等に一杯奢るようにと言われている。
「そうですね、写真は見せれないですが、通してくれなかったら見つけれなかったので、一杯御馳走させてください。」
「なんだよ! お前良いやつだな! オレ達巨人族は凄い飲むぜ?! 大丈夫か?」
「この薄い財布に入ってる分で勘弁してくださいよ?」
「がはははは、分かった! 行こう! いい店を知ってるんだわ」
そうして僕はエドガーさんの作った台本通りにセリフを読み上げ巨人族の警備員に連れられてエドガーさんが待っている店へと行ったのでした。
ところで、本当にエドガーさんは何者? 予言者? エスパー? エドガーさんについての謎は深まるばかりだった。
エドガーさんに言われていた店に到着した巨人族の二人はかなり度数が高い酒を次々に飲み干し、巨人族にしか分からないだろうあるある話をして盛り上がっていた。適当に相槌を打ちながら世間話をしているとエドガーさんがこちらのテーブルにやってきた。
「探しましたぞハルカ殿! 昼の輸送の件で倉庫の中が空になっていたそうですぞ! ギルド長から出頭するように言われております」
「そんなさっき倉庫に行ったけどその時はちゃんと納品した商品があったはず!!」
「おい爺さん、こいつはさっき倉庫に行ってたがすぐに戻ってきていた、俺らも見回りの時にちゃんと商品を確認している。オレ達の後のやつらがやらかしたんだろうよ?」
「お前たちには関係あるまい、これはギルドの問題だ! とにかくこいつは預かるぞ!」
「がははは、お前はやっぱり抜けているんだな。可哀想に、でもちゃんとココは払って帰れよ?!」
「なんだか二人ともすみません。僕はこれで失礼しますが、これで飲めるだけ飲んでください。」
僕は銀貨5枚をテーブルに残し、立ち去ろうとした。
「おぃお前!」
後ろからすさまじい大声て声を掛けられてびくっとしてしまった。
「こんなに飲めるわけないだろ? 1枚でもおつりがくるぜ!」
「楽しい時間を頂いたお礼です。今度会ったときはそのお金でまた一緒に飲みましょう!」
「お前! いいやつだな。なんか知らんが頑張れよ!」
「またな! オレ達はだいたいこの店にいるからよ。時間があれば来てくれや。」
最後の一言は完全にアドリブだ。やっぱりお金の価値についてクロエかエドガーさんに聞かないとマズそうだ。
エドガーさんに引き連れられ店の外に出てきた。店の裏手に回り込むとそこにはなんと、エドガーさんがもう一人立っていた。
「えっ? ええええ? エドガーさんが二人?」
とりあえず後ずさりして二人のエドガーさんから距離を取る。
「ハルカ殿失礼しました。私がエドガーです」
店の裏手で待っていたエドガーさんがエドガーさんらしい。
「えっと、じゃあこちらの方は……」
「初めましてハルカさん。私はエドワードと申します」
「エドワードさん? 双子さんですか?」
「いえ、六つ子です」
「おそまっ?!」
急に元の世界のアニメの六つ子が思い浮かんでしまった。
長男がエドガー・次男がエドワード・三男がエドモンド・四男がエディー・五男エドウィン・六女エデュワルダ
だそうだ。兄弟全てこの大陸の各ギルド員として派遣されているらしい。
ちなみに似ているのはこの二人だけで他の兄弟はまるで別人だという事だ。
「驚かせてしまい申し訳ございません」
「まさか迷子の方を巻き込むとは思っていませんでしたので、ちなみにルガンの行動に関してはまったくの個人の判断ですので彼は責めないでやってください」
「は、はぁ」
エドガーさんの衝撃の事実に驚きすぎて気のない返事になってしまっている。
「やはりハルカ殿のスキルの力は絶大ですな。流石としか言いようがありません」
「私も盗賊ギルドで長く勤めていますがあのようなスキルは初めてで、いやはや、どうですか? 盗賊ギルドに入りませんか?」
「エドワード、勧誘はしない約束ではないか! 他の兄妹からのアプローチも含めて選定者たるハルカ殿の足枷にはなってはいけない」
「すまない兄者、つい癖で有能な人材を見つけると勧誘してしまう」
「そうだな、それは分からんでもない気持ちだ。ということで私の他の兄妹からも勧誘があるかと思いますが、特に何処かに所属する必要もございませんので、遠慮なく断ってください。そしてその勧誘は我ら兄妹の悪癖と思ってどうかご容赦ください」
同じ顔で同じ声で、同じような仕草で、まるで鏡写しで二人の人間を演じているようなそんな状況に混乱してきた。
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