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銀貨の価値は

 レヴェラミラ4日目、今日からは塔では無くイニティの街で母さんの捜索とその為の準備をしていく事になっている。


 なっているというのに……


「クロエー! どこだー!」


 クロエの居たもう一つの部屋にもトイレにもいない。


「クロエー! 戻ってきたぞー!」


 ダメだ。見当たらない。探すのを諦めて自分の部屋を出る。部屋の鍵は特殊な鍵になっていて本人登録した者しか使用出来ないという素晴らしいセキュリティだ。


 受付カウンターまで行くと眼鏡をかけたマリナローゼさんはカウンターの中で帳簿を付けながら従業員にテキパキと指示を振っていた。毛先を切り揃えたショートカットの髪型を揺らしながら指揮を取る姿はデキル上司そのもので凄い威圧感だ。そんなマリナローゼさんは僕に気が付くと眼鏡を外し、険しい顔から一変して気のいい女店主の顔に戻った。


「あら、ハルカ君おはよう! よく眠れたかしら?」


「はい! すっかり身体も軽くなりましたよ。」


「うふふ、それはよかったわ。それと妖精のお嬢さんは?」


 あれ? マリナローゼさんも知らないとなると宿から出て行ってないのか?


「そうなんですクロエ……妖精が見当たらなくて探しに来たんですけど、マリナローゼさんも見かけてないみたいですね」


 あのポンコツ妖精はどこに行ったんだ。


「まぁ妖精だからね、そのうち現れるわよ。朝食は食べていくでしょ? 食堂は部屋と反対のあっちの通路の突き当りよ。あの部屋は朝と晩は料理が付いてるの。食べてきてくださいな」


「ありがとうございます! それじゃ行ってきますね」


「妖精さんを見かけたら食堂に行くよう伝えておきますね」


 一礼をして食堂に向かおうとするとマリナローゼさんは眼鏡を掛けなおして帳簿に向かって仕事を再開した。


 食堂に向かうとそこはかなり賑わっていた。宿側の入口と屋外に通じている入口があり宿の客も外からの食事だけの客もいるみたいだ。


 朝食はビュッフェ形式のようで取り皿とトレーを買うような仕組み担っている。ホテルの客は部屋の鍵を見せると取り皿3枚とそれを乗せるトレーを貰えるみたいだ。

 屋外に続く入口では銀貨1枚で同じ内容を販売していた。


 銀貨一枚だから1000レクスルか。好きな料理を3品で1000レクスルって高いのだろうか、安いのか? とりあえず1食1000レクスルを基準に色々なものの値段を見て回らないとな。


 ビュッフェの列に並びながらそんなことを考えていると自分の番になった。とりあえず前の人に倣って取っていたクロワッサンのようなパンを取り皿に乗せる。そして色鮮やかなサラダと白身魚のムニエルのようなものを貰った。そしてスープがサービスとして付いているようで列の最後で給仕のお姉さんがトレーに乗せてくれた。


 マリアローゼさんと言い給仕のスタッフと言い、この宿で働く方は皆さん綺麗な人が多い。きっとそんな事もあってとても賑やかな店なのだろう。


 うん、綺麗なお姉さんはみんな好きだからね。


 空いているテーブルに座ると、同じテーブルの向かいに人間の冒険者のような男が座った。


「すまねぇな、混んできたからよ相席頼むわ!」


 声をかけてきた男は、全身に皮で出来た使い込んでいて動きやすそうな装備を身に着け腰には短めの剣を佩いている。肌は日に焼けて装備の繋ぎ目から覗く筋肉質な身体が装備を押しのけようと主張している。


「大丈夫ですよ。後から連れが来るかも知れないので五月蠅くなったらすみません」


「そうなのか? こっちも待ち合わせなんだけどな。連れは一人か?」


「はい、そうです。」


「良かった。こっちももう一人来るから、そいつにも椅子貸してやってくれ。」


「分かりました、僕はハルカって言います。何かの縁です。およろしくお願いしますね。」


「ハルカか、俺はルガンだよろしくな!」


 知らない人とテーブルを一緒にするなんて向こうの世界ではあまりない機会だ、慣れておかないと。


「ハルカはずいぶん若いみたいだが、よく竜鱗亭でメシなんて食えるな」


 ルガンはバターがたっぷりと塗られたバケットを齧りながらそんなことを言う。やっぱりこの店は高級店のようだ。


「ちょっとしたツテで宿に泊まらせてもらってるんですよ」


 おまけしてもらったスープを一口飲むと魚介類から取ったダシが起き抜けの身体に染み渡る。なんだこのスープ、透明なのになんでこんな味がするんだ。思わずスープ皿を覗き込んでしまった。


「なんだ、お前どこか別の都市の貴族か何かのボンボンか? どうりで見たことない服を来てるもんな」


 そうか、ここにきてから不思議空間過ぎて自分の服装とか気にしなかったけど、やっぱりこっちの世界の人にしたら浮いた恰好なのだろう。


 シンプルなグレーのパーカーにジーンズだ。僕と同じで何も特徴がない。


「服、変ですか? シンプルで動きやすいですよ?」


「そうかあまり見たことのない素材だからな、その腕輪は綺麗だな? おい、継ぎ目がないぞ? 生れた時からしているのか?」


「これは、アーティファクトなんですよ。」


「え? お前迷子(ロスト)なのか?」


 ガタンと椅子が倒れルガンが勢いよく立ち上がっていた。


「あっ、はい。ルガンさん座りましょ? みんな見てますよ?」


「あ、あぁ、すまねぇ。迷子(ロスト)っていやあ珍しくてよ。なるほど、それでそんな恰好なのかい。ハルカは最近ここに着いたのか?」


「昨日ここについたばかりで、今日から色々始める感じですね。」


「身分証とか、ギルド登録とかは済ませたかい? まだだったら手伝ってやるよ。」


 厳ついのに意外と優しい人なんだな。ここに来て朝ごはん食べてるのもちゃんと稼いでいるからだろうし。


「ありがとうございます、でもお陰様で昨日その辺は済ませたので今日からは依頼とかをちょっとずつやっていこうと思ってるんですよ。」


「そうか、それじゃあ俺と仕事しねぇか? 今日が空いてればの話だが。どうだい?」


「明日から剣の講習で、今日は空いてるんですけど連れが見当たらなくて、有難いお話ですけど難しそうですね。すみません。」


「いや、いいんだ。今待ってる相手がその仕事の相棒なんだが……それにしてもすいぶん遅いな」


 話をしている間にもルガンさんは料理を次々と空にしていった。そして食べ終わっても相棒さんは現れなかった。


 僕もルガンさんと今受けられる依頼の話をしながらもゆっくりと味わいながら食事をした。

 どの料理も今まで食べたことのない味で驚いた。野菜を刻んだだけのサラダでさえドレッシング一つで味と食感まで変ってしまう不思議なサラダだった。


 食後に飲み物を別で注文したルガンさんと僕はお互いの連れが現れない事にだんだん苛ついてきた。


「ったくどうしたんだよ。もう仕事に行かなきゃなんねぇ時間じゃねーか。」


「僕の連れもどこをほっつき歩いているんだか」


「すまねぇ、やっぱり手伝ってくれねぇか。そんなにランクの高い仕事じゃねぇんだがよ、人手が足りてないんだわ。」


「分かりました。いろんなお話を聞かせてもらいましたし。結局僕も相棒を探さないといけないですしね」


 ルガンさんに言われてイニティから馬車で2時間くらいだろうか、割と近くにあるの野菜の栽培を行っている畑に来た。


 この近くには小さなダンジョンがあり、そこのマナを含んだ美味しい野菜が収穫出来るそうだ。


 畑に着くとレタスのような葉物野菜が数種栽培されているのが分かった。


 丸まったレタスの葉を傷つけないように下の部分を丁寧に鎌で切り落とす。葉は驚くほど柔らかいが芯の部分はとても固いので収穫するコツを覚えるまでに時間がかかった。


 籠の中に収穫した物を集め、空で持ってきた馬車に乗せる。畑一面を2人で収穫するとなるとかなり時間が掛かってしまう。


 インベントリ使っても大丈夫かな? ルガンさんしかいないし、いいや。


「インベントリ!」


 軽い気持ちでやってしまったが仕方ない。どれくらい容量があるのかも確かめる為にも使っていこう。


 遠くで作業していたルガンさんがこちらに走ってきた。


「おぃ、籠を運んで無いからサボってるのかとおもったらなんだよそれは?」


 ルガンさんは空中に浮かぶ黒い亀裂にまず驚き、野菜がそこに収納されていくのを唖然として見ている。


「いや、こっちの方が効率がいいと思いまして……」


「そりゃあ……そうだが……そんな魔法見たことねぇぞ」


 収穫作業は止めずにルガンさんに答える。


「これはスキルだそうですよ。そうだ、ルガンさんも隣で並んで収穫したら作業スピード早くなるんじゃないですか?」


「お、おお、じゃあそうするわ!」


 そしてインベントリを使った収穫はほとんどの野菜を収納してしまった。インベントリの中身を確認しようとすると……視界に見慣れないウィンドウが表示され中身が表示されるようになっていた。そこにはレツス(S)×239 レッドレツス(A)×58……収納されているものと品質と個数が表示されていた。便利すぎるだろインベントリ。


 そんな時にダンジョンの反対側で煙が上がったり爆発が起きた。


「ダンジョンから溢れたモンスターと冒険者が戦っているのだろう。閃光弾が上がった場合はモンスターが周囲に溢れてくるからすぐに逃げるぞ」


 会話をして間を置かずに閃光弾が上がった。


「ヤバイ! いったん逃げるぞ!」


 採集するための鎌や籠をそのままに馬車に乗り込み、いそいで街へ戻った。


 帰りの馬車でもインベントリの事をルガンさんと一緒に検証しながら帰ることになった。


 結局インベントリからは手に触れていないと取り出せない事と容量に関しては野菜同士がぶつかって傷んでいない事からかなり広い容量が入る事が分かった。


 街につくと馬車はギルドの前を通り過ぎ、野菜の販売店が立ち並ぶ区画の奥の市場に届けられた。


 籠で運んだものは周囲に傷がつき痛んでいたが、インベントリで運んだものは傷一つなかった。状態が良かったため買取金額がいつもより高いとルガンさんは喜んだ。


「ほらよ! 坊主これが今日の分け前だ。大事に取っとけよ」


 渡された袋にはレクスル金貨50枚と銀貨8枚と白金貨1枚が入っていた。インベントリに入れたら数量が表示された。


「ありがとうな、今日は助かったぜ。また良かったら助けてくれよな」


 背中をバンバンと叩かれた僕は、この世界では背中を叩くのが流行っているものだと勘違いしてしまっていた。


 市場を抜けて販売店の前を通った。どの販売店も買い付けに来ていた客の対応に忙しそうだ。本当に活気があっていい場所だ。


 ふと見ると先ほど収穫していたレツスが一つだけ店先に並んでいた。


 値段は書いておらず仰々しく木箱に入っている。


 その下に品質の悪そうなレツスの葉が一枚一枚個装されている物が置いてあり、銀貨5と書いてある。


 僕はその値段を見て唖然とした。


 銀貨5枚といえば竜鱗亭の食事が5回も食べれる。


 たった葉っぱ一枚で……


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