手探りの中で
童話の世界観をもっと広げるために書き始めました。
皆さまに楽しんでもらえるように綴っていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
「もう、お前はうちの子じゃない」
家の庭先で父さんがこちらに向かって言い放った。
陽は沈み、夕焼けのオレンジは空の端に追いやられ次第に夜の群青に向かってあやふやな境界をにじませていた。
「出ていきなさい」
父さんが怒っている。約束を破ってしまった。開けてはいけない、入ってはいけないと言われていた倉庫。
****との思い出が詰まっている倉庫。
僕は高校卒業の記念として、タイムカプセルを埋めるというイベントに参加する事になった。幼稚園の頃に隠した宝物を取り出すために父さんが居ないタイミングを見計らってそれを取り出そうとしていた。
けれども父さんに見つかってしまった。
父さんは****が居なくなってから変ってしまった。この倉庫は開けてはいけない。そう誓い、必ず守ると約束したのに……
約束を守れなかったから父さんは怒っている。なぜか胸が締め付けられるような苦しみとともに涙が溢れてきた。しゃくりあげるように嗚咽が漏れる。
「イ……イヤ、だよ」
嗚咽まじりになってしまいうまくしゃべれない。喉が焼かれるような苦しみが僕の心臓をさらに締め付ける。こんなに怒っているお父さんは初めて見る。やはり****がいなくなってから父さんは変わった。
「出ていきなさい」
涙と鼻水が止まらない、いつも優しかった父さんが変わってしまった。それ以上父さんは何も言わずに僕に背を向けて家に入ってしまった。家のドアからは施錠されたカチャリという音が聞こえた。お父さんは家に入ったまま外には出てこない。
僕は財布も携帯も無いままにこの家を出ていく。厳格な父親である父さんはきっとこの約束を守って僕を迎え入れたりはしないだろう。
だいぶ時間が過ぎたが何も変わらない。時間が経てば財布と携帯くらいは外に出してくれると思っていたが甘かった様だ。
出てこない父親を待っている間も不安ばかりが募る。涙は出るし、しゃっくりは止まらない。鼻水だって地面を汚している。どうしたらいいのかも分からずに、家に背を向けて歩き出した。
夕日が夜に溶けて更に薄暗くなっていく、蝉の声もうるさくてイヤになる。
歩みだした勢いは徐々に早くなりいつの間にか全力疾走していた。そんな中頭に浮かぶのは顔も覚えていない****の腕の中にいたような記憶。手に持った宝物は大事なはずなのにもうくしゃくしゃだ。父さんじゃなくて****がよかった。
バンっという音ともに急に暗くなった。
「ハルカ……」
僕を呼ぶ声がする。この声は……
「母さん?」
何年も使っていなかったような感覚に陥る僕。僕が気付いた、この僅かな違和感はわずかであるがゆえに不自然さをより強調し現れた。僕の中から母さんの記憶がごっそりと抜け落ちてしまっている。この不気味さはなんなんだ、誰か説明してくれ。何故僕は母さんを忘れているんだ。
あれ、どうしたんだろう。暗くなったままの視界が戻らない。
はっ! はじめて呼吸したかのように新鮮な空気を肺に感じた。
体を起き上がらせると何も見えない真っ暗闇の中にいた。
驚きと共についさっきまで感じていた焦燥感は不安と驚きに塗りつぶされ今の状況が把握できない。
今こうしていても目を開けているのか閉じているのか分からない程だった。
何もない、真っ暗闇。手のひらを目の前に近づけるが何も見えない、そのまま顔に触れてみると目や口、鼻の顔の凹凸を感じた。
本物の真っ暗な空間。
今度は辺りを触って確かめる。
地面はある。サラサラした手触りは砂? 公園の砂場にでもいるのだろうか、それにしては、何も見えなさすぎる。動き回るのも怖くて声を出すのも怖い。ただただ周りの地面を触って確かめる。
すると唐突に暗闇の中から声が聞こえてきた。
「お前は何者だ」
暗闇に響く低い声ですごく怖い。
「我は問う、お前は何者だ」
この声は僕に問いかけているんだろうか。
「だ、だれなの?」
覚悟を決めて声をかけた。
若干の間をおいて声が帰ってくる。
「ダ・ダレナノよ」
え、名前勘違いされた?!
「ち違う、僕の名前はハルカだ!」
慌てて返事をし返したが声は帰ってこない。
さっきよりも少し長く間があいてからようやく返事が帰ってきた。
「ダ・ダレナノ=ハルカダ」
「違う! ダ・ダレナノは名前じゃないよ」
今度はすぐに返事を返した。
「もう、わがままだなぁ」
「え?」
荘厳な低い声が急に子供っぽくなった。
まっくら闇から白い光がすーっと降りてきた。
「やぁ、私はクロエ・オリビア。あなたの名前はハルカでいいのね」
白い光の中に蝶の羽をもつ小さな女の子が目の前でふわりふわりと浮かんでいる。
「さっきの声は君の声なの?」
よく見ると小さな女の子は薔薇の花びらで作ったような薄紫色のドレスを来ている。
近づいてきたクロエという妖精は艶やかな金髪を編み込み、前髪に流していた。その独創的な髪型に縁取られた顔は滑らかで芸術的な美しさを感じた。
「そうよ、驚かせたみたいでごめんなさいね」
なんだろう、まだ心臓がドキドキしている。
「さぁ、ハルカ! さっさと始まりの塔を登りきるわよっ!」
「えっ? なに? どういうこと?!」
小さな妖精はとても説明がヘタクソだった。
ここはレヴェラ・ミラ、僕が居た地球とつながるもう一つの世界。
そしてここははじまりの塔の入り口”ぺルヴィス”
もう一つの世界から迷い込んだ子供たちが必ず通る場所。らしい。
世界の迷子僕はその一人になった。
迷子は塔を登り切り、元の世界に戻る。
早く戻らなければ戻れなくなるかもしれない。
このレヴェラ・ミラにはいくつも塔があるけど元の世界につながる塔はこの"始まりの塔"ととなりにある"おしまいの塔"
おそらく聞くだけなら5分もかからないだろう。説明をあーでもない、こーでもないとちぐはぐな説明できっと一時間くらいかけて話を聞き出した。
おかげでこの世界の事をしっかりと聞くことができたし、それにこのちいさな可愛らしい妖精の内面がぐだぐだなところは非常によくわかった。
「そうなのよ! そしてそのガイド役のフェアリー! クロエ様なのよ!」
ガイドは3日で居なくなるらしい。その間にこの”はじまりの塔”をクリアしなければならない。
「それじゃあ、ハルカの適正を見るわね!」
「適正?」
「まぁ、どんな仕事に向いているか教えて上げるってことよ」
「いきなりゲームみたいになってきたけど大丈夫? 設定とか僕の脳内で作り出したとしたら、それはそれですごいけどやっぱりこれ夢だよね」
クロエのいいかげんな説明を聞くために一生懸命になっていたから気にする暇がなかったけど、これは夢かなにかだろう。
「ちがうし、夢じゃないしリアルだし」
あー、面倒な感じになるだろうなー。
「うん、分かった、それじゃ教えてください」
不機嫌な表情からぱぁーっと明るいに表情になった。
「うふふ、そうね貴方の適正は……すごくバランスがいいわね」
まさか勇者とか賢者とかレアな職業とか? 期待が膨らむ。
「そうね、あなたの適正は村人ね!」
村人? でもさっきはバランスがいいって褒めてたような。
「村人? それ職業なの?」
不思議な、それでいて言葉にしづらい違和感を感じながらもクロエに聞いた。
「もっと剣士とか、魔法使いとかあるでしょ?」
「あー、ハルカには向いてないわね」
「えぇー」
僕はがっかりした。せっかくゲームみたいな冒険ができると思ったのに村人ってなんだよ。
「冒険には向いてないわ! 案内人としてははじまりの塔で元の世界に戻る事をお勧めするわ!」
職業適正を聞いてがっかりする僕にクロエは気にした様子もなくレヴェラ・ミラの世界のことを教えてくれた。
「こっちで起きてるときは元の世界では寝ていて、こっちで眠ると元の世界で起きる。分かったわね?」
相変わらず説明が雑だ。
「ようするに二つの世界に魂を置きつづけるとどちらかの世界には居れなくなるってことよ」
もう質問する気にもなれない、さっさと倒してこの妖精から逃げよう。
「それじゃぁサクッとはじまりの塔を登り切りましょう!」
クロエはそういうと呪文を唱え始めた。
僕には何を言っているか分からなかったけど、だいぶ大がかりな魔法だった。
色とりどりの光が線を描き、きらめいては消える。とても綺麗な光だった。
見とれていると嫌なことも何もかも忘れてしまいそうな程だった。
「はじまりのはじまりははじまる」
さすがはクロエ、最後の最後で雰囲気が一気にポップな感じになった。
ポンっという音とともにきれいな腕輪が現れた。
「これはハルカ専用の装備だよ」
ところどころに何かをはめこめるような小さなくぼみが出来ている。
「綺麗だね」
ツタのような植物と鳥や栗鼠などの小動物の装飾が施された手首につけるブレスレットだ。
「アーティファクトっていうのよ。普段は剣や杖や槍とか武器が多いの。腕輪なんて初めて見たわ」
「そ、そうなんだ」
ある意味で希少価値の高いアーティファクトを腕に通すと僕の腕にフィットするようにサイズが変化した。
「それじゃ、歩きながらこの塔の説明をするわね」
暗くて長い通路をクロエと一緒に歩いていく。
「このはじまりの塔は全部で3階建て、3体の敵を倒して、最後の門でこの世界を冒険するか、元の世界に戻るか選んで!」
「というかそこで元の世界に戻ってハルカの冒険はおしまい! さっさと元の世界に戻ろうね!」
そこで僕の脳裏に悲しそうな、そして怒りに満ちた父さんの顔が思い浮かんだ。
「嫌だよ、元の世界には戻れないよ」
「え? どうして?」
「僕はもう帰る家がないから戻れない」
「えぇー、それじゃ私はずっと貴方の面倒を見るの?」
「そんな嫌そうな顔するなよ、それにずっとじゃないだろ? 3日間だけだしよろしくね、クロエ」
思い浮かんだ元の世界のいろんなことを頭の端のほうに追いやった。
「もうっ、仕方ないなー。それじゃ行こう!」
それじゃ僕の冒険のはじまりだ!
僕は新しい世界の門をくぐった。
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