依頼その4 馬旅の白魔術師
レンガ造りと木造の家に囲まれ、街道を通っていく馬車に乗る私達。
占い師のイヴさんが、私の故郷であるマセントシアにノヴァさんの尋ね人が居ると仰ったので、1度家に戻り準備を終えた私達はその日の内に即出発する事になった。
「まだ来たばかりなのに……まだ3日なのに……」
馬車が街を抜け、ブレキアを名残惜しそうに見つめながら私は呟いた。
「まぁいいじゃねぇか。店の表には当分休むって貼り紙したんだろ?」
彼のマセントシアへの入国を手伝うという新しい依頼を請け、私に更なる大金を渡してくれたノヴァさんが言った。
「……やっと2人きりになれたね」
「気持ち悪い事言ってると捨てて行きますよ」
何がやっと2人きりになれたね、ですか。
この変態とマセントシアまで1週間も2人きりなんて嫌ですよ。
ブレキアの街で借りた馬車に乗り、私達は街が見えない所まで来ていた。
ノヴァさんが大金を払い、最高級の馬車を借りた。
馬車と言っても、馬の形をした魔道具が本来馬が居る場所にあり、あたかも馬のように颯爽と走る。
更には馬車の周りには結界が張られており、外部からの魔法を一定の威力を受けるまで防ぎつつ、襲撃を受けるとサイレンが鳴り知らせてくれる。
ただ、ノヴァさんが私を襲ってきた時にサイレンが鳴らないのは厳しいですね……。
それにしても、ノヴァさんはこんな高級な馬車を簡単に借りれるほどお金を持っているんですよね。
「ノヴァさん、ノヴァさん。ノヴァさんはどうしてそんなに大金を持っているんですか?」
「お金の匂いに釣られてやって来たクソビッチめ。……高いモンを売ったんだよ……」
私がジト目で魔法を放つ準備を始めると、ノヴァさんが急に大人しくなり答えてくれた。
高いものを売った。
まさか……!
「体を売ったんですか!?」
「なわけあるか! 持ってたモン売っただけだ!」
ノヴァさんが激昂するも、私は再び魔法を放つ準備をして大人しくさせる。
ノヴァさんは意外と扱い安いですね。
私達が街を出た以上、喧嘩になったとしても私に分があります。
なぜなら、この世界の全ての街には結界が張られており、この馬車同様外部からの魔法を防ぎつつ、街中で何者かがランク2以上の魔法を唱えると、魔力反応を感知し居場所がバレます。
そうして犯罪を防いでいるのです。
ランク1は浄化魔法や照明魔法など、生活に便利な魔法が該当し、ランクが上がるほど威力が高いものになります。
ランク5にもなると、ボス級モンスターに使うレベルの魔法で、溢れ出る魔力が辺りに大きな影響を与えるほどです。
ただ、私のような白髪は全属性の魔法を使える代わりに、ランク5の魔法だけ使えません。
と言っても、魔王やボス級モンスターは、数百年前に勇者達が討伐し、今では雑魚モンスターしか残っていない平和な世界なのです。
「なあ、1週間振りとは言え故郷へ戻るんだろ? 何かお土産とか持ってきてんのか?」
馬車に揺られながら、私とするためにボードゲームを用意するノヴァさんが言った。
「もちろん沢山持って来てますよ! 1週間振りじゃなくて、3週間振りなんですけどね」
私の一言でノヴァさんの手が止まる。
「ん? 3週間? マセントシアからブレキアまでは1週間だろう?……おま、まさか寄り道したのか?」
ノヴァさんに詰め寄られ私はプイと顔を逸らす。
「はぁ……お前ってすごい変人だよなぁ」
「おっと、ノヴァさんだけには言われたくないですね! それに、ノヴァさんだって変人じゃないですか。まだノヴァさんの事あまり知りませんし、私に教えてくださいよ」
ボードゲームを始めながら話す私達。
「前言った通り、俺は軍事大国ガルムニアから来た。あそこは本当に治安が悪かったな」
まずはチェスを、という事でチェス盤の前に座りながら言うノヴァさん。
私はポーンを動かしながら。
「ガルムニアは最近怪しい動きをしているらしいですよね。ガルムニア以外の三国に戦争を仕掛けてくるかもって言われてますし」
私と同じくポーンを動かしながらノヴァさん。
「魔術大国マセントシア、商業大国ブレキア、技術大国リトベリア。この三国に戦争を仕掛けるって聞くと、ガルムニアには勝ち目が無さそうなんだけどな……」
故郷が無謀な戦争を仕掛け、敗北する事が悲しいからか寂しそうな顔をするノヴァさん。
あ、ヤバい、負けそう。
「ちょっ、ノヴァさん! チェス強すぎません!? 完敗じゃないですか!!」
「お前が弱いんだよ。よし、チェッ」
「うおりゃああああ!!」
「あっ何しやがる!!」
私はチェス盤をひっくり返した。
その時、ビーーーとサイレンのなる音がした。
「モンスターか! おいクソビッチ、出番だ! アカデミー主席の実力を見せてやれ!」
「ええ……面倒臭いので明日倒します」
ダルそうに私がそう告げると。
「今行け! 倒したら礼として金をやるから!」
「全く……仕方ないですね、ソフィーたん、と呼んでくれたらやりますよ」
「…………ソ、ソフィーた……ん……」
何気に名前を呼ばれたのは初めてな気がします。
顔を真っ赤にして俯きながら言うノヴァさんを見て満足した私は、勢いよく馬車から飛び降りた。
「さあ、どんなモンスターでもこの私がお相手しますよ!」