依頼その3 逆戻の白魔術師
外から小鳥の楽しそうな鳴き声が聞こえてきた。
窓から気持ちのいい光が差し込み、私は柔らかなベッドの上で目を覚ました。
季節は春。
この時間は暑くもなく寒くもなく、実に快適だ。
そういえば、今日はナントカさんの依頼があったはず。
確か昨日の夜はこの家に泊めて……占い師に紹介して欲しいんだった。
…………あと5分。
外から小鳥の楽しそうな鳴き声が聞こえてきた。
窓から気持ちのいい光が差し込み、私は柔らかなベッドの上で目を覚ました。
あれ、2度寝しちゃってた?
私はゆっくりと体を起こし、重たいまぶたを上げようとして……。
…………もう5分。
外から小鳥の楽しそうな鳴き声が聞こえてきた。
窓から気持ちのいい光が差し込み、私は柔らかなベッドの上で目を覚ました。
はっ、私とした事が、ついつい寝過ごしてしまいました!
流石にこれ以上ナントカさんを待たしては怒られるかもしれない。
私は急いで部屋を飛び出し、顔も洗わずリビングの扉を勢いよくバンと開けた。
「おはようございます!」
「おう、おはよう。もう昼だけどな」
リビングでは、ナントカさんがソファに腰掛け新聞を読んでいた。
「お前、一体何時間寝てんだよ。どれだけ俺を待たすつもりだったんだ? もうこの新聞を5周も読んたんだが」
「まあまあ落ち着いて。そんなに怒らないで下さいよ、ナントカさん。今日は仕事が無いんですから少しくらいいいじゃないですか」
キレ気味のナントカさんに私が優しく言うと。
「ナントカじゃねえ、ノヴァだ! 昨日言ったろ、覚えとけ! それと、俺も客だ! お前は今日仕事があるんだよ!」
何故かキレだしたノヴァさんから逃げるように、私は朝食を作るべくキッチンへ逃げ込んだ。
そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。
新聞を5周も読む暇人なんですから。
私は寝巻きのままエプロンを着て、朝食を作り始めた。
「──それでは、朝食を食べるので少し待っててください!」
「おう、もう昼飯だけどな」
目玉焼きとトーストを皿に乗せてリビングの机に置いた私は、新聞の6周目に突入していたノヴァさんに言った。
「お前さ、今日が仕事って事覚えなかったのか? やっぱり昨日、酒をガバガバ飲み過ぎだったんじゃねぇの?」
頬杖をついて退屈そうに新聞を読むノヴァさんが、目玉焼きを頬張る私に言ってきた。
「ほんなほおひひましても」
「まずは飲み込め! 食いながら喋るな!」
「もぐもぐ……ゴクリ。 人が喋ってるのを遮って話すのは良くないと思いますよ?」
「まさか食いながら喋る奴に言われるとは思わなかった」
ノヴァさんは変な人だなぁ、と思いながら私がトーストを齧っていると、思い出したようにノヴァさんが口を開いた。
「お前、昨日どんだけ酒飲んだか覚えてるか? ベロッベロになるまで酔って俺がどれだけ絡まれた事か……!」
新聞を握りしめながら苦しそうな顔をして言うノヴァさん。
「でも、私達18歳ですからお酒をいくら飲んでもいい筈ですよ? ノヴァさんが頑なに飲まなかったんじゃないですか……」
「酒は……好きじゃねえんだよ……」
あのー、ノヴァさん?
私まだ今日の四コマ漫画を読んでないので、新聞をクシャクシャにするのは止めて貰いたいのですが……。
私は朝食を摂り終わると、仕事服の白のワンピースに着替えて家を出た。
これはこの街随一の占い師に紹介するという仕事だ。
アカデミー主席卒の私なら、という事で私の店にやって来たノヴァさん。
その彼から教えて貰った店に2人で行くと、怪しげな店の前に一人の男が立っていた。
「木造とレンガ造りの街並みに、こんな布切れの店なんて似合わないな」
「あ、また貴様か! 昨日だけじゃなく今日まで来やがって!」
到着してそうそうに占い屋の風貌を馬鹿にするノヴァさん。
占って貰えなかったのはこの態度が原因じゃ無いでしょうか?
「あの、私、アカデミー主席卒のソフィー・テレジアと言います! この怪しげな男を占い師さんに紹介しに来ました!」
私がノヴァさんを抑えて前に出て挨拶すると、その男は急に態度を変えた。
「アカデミー主席卒!? し、少々お待ちを! イヴ様にお伝えして参ります!」
男は慌てたように店の中に入り、少しすると落ち着いた表情で再び私達の前に現れた。
「どうぞ中へ」
男に促されるがままに店の中に入ると、紫の怪しげな光の中に、1人の綺麗な女性が居た。
見た目は20歳くらいで黒いベールを被っている。
「いらっしゃい、お客さん。何を占って欲しいのですか?」
私達が狭い部屋の中に供えられた椅子に座ると同時、その紫髪の女性が口を開いた。
その部屋には私達とイヴさんが座る椅子、その間にテーブルとそこに置かれた水晶があるだけの、単純でいかにもな部屋だった。
「実は、俺は人探しをしていてね。そいつの居場所を視て欲しいんだ」
ノヴァさんの言葉を聞いたイヴさんは、黒いベールを放り投げ、鼻息を荒くして身を乗り出して。
「そ、その人とはどういう関係ですか!? お隣の美女と三角関係だったり!?」
あ、私と同じ反応だ。
この人、絶対いい人だ。
「近いっての! ……そいつは俺の親友で相棒なんだ。そいつは今、恐らく偽名を使っている。だが、俺と同じ黒髪黒目だ。どうだ、占えそうか?」
「そうねぇ……私なら出来ないことは無いわ」
イヴさんがベールを拾いながら返事をすると、ノヴァさんの顔が明るくなった。
「それじゃ、占いますね。『イルミネーション』!」
イヴさんが照明魔法を唱えると、部屋がさらに紫色の光に包まれた。
あ、これ魔法で雰囲気だしてただけなんですね。
「占い成功です! 視えましたよ! 私凄い!」
水晶に手を翳し目を瞑って念じていたイヴさんが目を開き、やり遂げた顔で言った。
「そ、それで、そいつはどこに居るんだ?」
ノヴァさんがゆっくりと尋ねると。
「ここから東。魔術大国マセントシアよ!」
魔術大国マセントシア。
私の故郷じゃないですか。
「でも、最近マセントシアは入国者を厳しく取り締まっているみたいだし、気をつけてね」
私が居ない間にそんな事が。
入国審査が厳しくなったのでしょうか。
「分かりました、ありがとうございます。お釣りは要らないんでとっておいてください」
カッコつけて金貨入りの袋を机に置くノヴァさんに。
「お客様、大変言い難いのですが、料金が足りません」
「──プッ」
「おいコラてめぇ、まだ笑いやがるか!」
イヴさんの店を出たあと、顔を赤くしたノヴァさんを私はずっとからかっていた。
いやぁ、この人は面白い人ですね。
今だ笑いが止まらない私を呆れた顔で見つめ、暫くして決心したかのように口を開いた。
「俺はこれからマセントシアに行く。占い師に紹介してくれてありがとうな。これは追加でアンタに」
「ありがとうございます!」
ノヴァさんが言い終わる前に、彼が手にしていた金貨入りの袋を私はひったくった。
「お前……それでいいのか? それより、マセントシアの入国が制限されてるってどういう事だよ? そんなの、俺が簡単に入れるもんなのか?」
尋ね人の居場所が判明するも、新たな問題が浮上したノヴァさん。
「そこでだ、アンタはマセントシア生まれなんだろ? だったら入国の手伝いをしてくれねぇか? なぁに、国に入れればそれで十分だ。一緒について来てくれるか?」
マジですか。
私、この街に来たばかりなのに、すぐ故郷に戻るんですか?
「金なら追加で更に出す。もちろん、お前が断れないくらいのな」
悪い顔で笑いながらノヴァさんがそう言った。
お父さん、お母さん。
まさかブレキアに着いてすぐにマセントシアに帰るとは思っていませんでした。