依頼その22 脱獄の白魔術師
窓から差し込む明るい光により、冷たい石畳の上で私は目を覚ました。
「ん……ノヴァさん、おはようございます……」
まだ眠たいながらも、隣にいたノヴァさんに挨拶をした。
「おう、おはよう」
あれ、ここはどこでしょうか?
というか記憶が…………。
確か、昨日はアカデミーに侵入して、城の兵士達に見つかり……捕まって……。
「ノヴァさん!? ここってどこですか!?」
私は昨日の夜の事を思い出し、叫んで尋ねた。
「ここは城の地下牢だ。これで俺達は前科持ちだぜ。笑えるな」
「ちっとも笑えませんよ!」
昨日の夜は、兵士達に戦いを挑んだノヴァさんが、昼のように悪鬼羅刹の如く動き回る事は無く、難なく二人とも捕えられてしまった。
「自称異世界人のノヴァさん、どうして昨日はあんなに弱かったんですか!? そのせいで私まで捕まっちゃったじゃないですか!」
「自称じゃなくて本物だ。捕まっても大丈夫だ、問題ない。ここまで計算通りだ」
そう言って、また不敵に笑うノヴァさん。
ここまで計画通りと言っても、捕まる事でなんのメリットも……。
「ま、近くに誰も居ないみたいだし、今のうちに色々教えてやるよ」
ノヴァさんはそう言うと、あぐらをかいて質問しろ、と手をクイクイとした。
──石造りの地下牢に、廊下に面した壁だけ格子となっている小さな部屋。
その中で、近くに誰もいないため、私はノヴァさんにあれこれと尋ねていた。
「こんな形で地下牢に入ったとして、なんのメリットがあるんですか?」
私はまず、一番気になることを尋ねた。
「メリットは2つだ。1つは簡単に城に侵入出来た事だ。捕まって、この街唯一の牢屋であるここに入る事が、最も確実に城に潜入する方法だ」
あ、確かにこれが一番楽に潜入できますね!
城門から突っ込んでいく必要も無いですし、やはりウチの国の為政者は雑なため、見張りの兵士もいませんし。
「さすがノヴァさんです! ここまで初めから計画済みなんですか!?」
私の問いにノヴァさんが鼻で笑いながら。
「当然だ。この俺を誰だと思っている」
さすがです!!
「あ、それで、どうやってここから脱出するんですか?」
私はふと気になった事をノヴァさんに尋ねた。
「あ……………………」
「え……………………?」
……………………。
「なんでノヴァさんはいつもそうなんですか!? バカなんですか!? バカですよね!?」
「うるせぇよ! 近くで叫ぶな!! 大丈夫だって何とかなる!」
「なりませんよ!」
はあ……どうしてこうなってしまったのでしょう……。
こんなことならノヴァさんの依頼を請けるんじゃなかったですね……。
ぬう……お金に目が眩んだ昔の自分が憎いです……。
「まあ冗談だから大丈夫だ。抜け出す方法は確立している」
ノヴァさんが真面目な顔に戻り、そう言った。
「本当ですか……?」
私はジト目でノヴァさんを睨み、尋ねた。
「ああ。ここから最後まで、ハッピーエンドになるようにシナリオを書き終えている。後はシナリオ通りに行動するだけだ」
ノヴァさんはそう言うと、床に寝そべり目を閉じた。
「そういえばノヴァさん、ノヴァさんの本名ってなんですか? ノヴァっていうのはこの世界での名前ですよね?」
「まあな。そんなに俺の本名を聞きたいか?」
「もちろんですとも!」
私は、ノヴァさんの本名を聞こうと身を乗り出した。
すると、ノヴァさんはゆっくりと体を起こし、口を開いた。
「新倉……新倉星哉だ」
ニイクラ……セイヤ…………聞いた事ない名前ですね。
やはり異世界人なのですね。
「新倉の新と、星哉の星を合わせて新星、それを英語にしてノヴァって名付けたんだ」
エイゴってなんですか?
ノヴァさん達の世界には、複数の言語があるのでしょうか。
「つまり、ノヴァさんは、自分の名前からこの世界での名前を付けたと……」
「そうだ」
「……ブッ!」
そんな適当に名前をつけていたノヴァさんに、私は吹き出した。
「お前、何笑いやがる! なんも可笑しくねぇだろ!」
「いやっ、だって、そんな適当な」
私に掴みかかってくるノヴァさんに、笑いながらそう言った。
「まあ良いじゃないですか。カッコイイですよ、セイヤって」
私はノヴァさんにそう言って笑いかけた。
……………………。
「何か言ってください! なんだか恥ずかしくなるじゃないですか!!」
「恋愛フラグかなって思ってな」
「なんですかそれ! チキュウのネタですか!? 私に通じないのでやめてください!」
私は顔を赤くしながら、ノヴァさんに叫んだ。
「さて、久しぶりに叫んだ事だし、そろそろ脱獄しますか」
ノヴァさんはそう言って立ち上がった。
そろそろ脱獄と言いましても……。
私がそう思った時、街の方から悲鳴が聞こえた。
すぐさま、上の階つまり、城の一階を、ドタバタと兵士達が駆け回る音が聞こえてきた。
尚も悲鳴が止まらない中、私はノヴァさんに尋ねた。
「いったい何が起こってるんですか!? ノヴァさんが何かしたんですか!?」
「俺じゃなくてイサベルだ。街に上空から近づくように指示した」
な、なんて事してくれるんですか!
「でも大丈夫だ。この街には可愛い子しか居ない、と言ったから攻撃はしてこない」
「イサベルってチョロいですね」
「お前は言えないけどな」
あ。
ここで、私はノヴァさんの作戦の意図に気づいた。
「『クリムゾン・インフェルノ』!!」
私は最大級の魔力を込め、鉄製の格子に爆炎魔法を放った。
格子を業火が襲い、その鉄を全て溶かした。
これで脱獄できます!
「イサベルが現れて混乱した隙に、魔法を放っても向こうにかかりっきりで気づかれないって気づいたか?」
ノヴァさんがそう笑いながら言ってきた。
「ええ。私だって頭は回りますからね。今すぐなら城の兵士も来ないでしょうし、行きましょう、セイヤ!」
「……なんか恥ずかしいからノヴァって呼んでくれ」
ノヴァさんは以前、イサベルと契約を結んだと言っていました。
脱獄するにあたり、イサベルとテレパシーで会話をして、街に近づかせたのでしょう。
悪魔の契約には、テレパシーが出来るようになる、というものがあるそうで、羨ましいですね……。
城の地下牢でランク2以上の魔法を使ったなら、すぐさま警察に気づかれるでしょうが、街は混乱しています。
今のうちに逃げましょう!
私とノヴァさんは、急いで牢屋から出て、城の上階へと続く階段を探した。
すると、向こうから手と足に重りを付けられた、白髪の若い男性がゆっくりと歩いてきた。
酷くやつれているその男は、私達と向かいあうと口を開いた。
「お前達は誰だ? 脱獄してるのか?」
私がこの人を信用して話すかどうかを迷っていると、ノヴァさんが一歩前に出て言った。
「ああ、お前と同じく脱獄中だ。……探していたぞ、あんたをな」
ノヴァさんはそう言うと、その男に右手を差し出した。




