依頼その20 異界の白魔術師
時刻は既に夕暮れ。
日が落ちたらアカデミーに襲撃するため、私達は兵士達に見つからぬよう物陰に隠れて話をしていた。
「ここだ。予め隠れる場所は用意しておいた」
「用意周到ですね……」
私はなぜか感心しながらも、ノヴァさんが用意しておいた、秘密基地のような場所に身を隠した。
狭い路地裏にある、入り組んだ道から空き家に入り、そこの天井裏に木片などで身を隠している。
ランプや非常食まで置いてあり、かなり充実している。
「ノヴァさんはいつこんなのを用意したんですか?」
入念に掃除され、ホコリひとつない床に腰を下ろしながら尋ねた。
掃除までしてくれてたんですね……。
「昨日の夜だ。皆が寝静まった頃に家を飛び出して数箇所用意しておいた」
サラッととんでもない事言いますね……。
「おかげで昨日は寝てなくてな……悪いけど膝枕でもしてくれ」
「木片枕で我慢してください」
私の膝に頭を乗せようとするノヴァさんを躱して言った。
「それで、ノヴァさんが異世界人だっていう事についてですが、ノヴァさんは」
「膝枕してくれたら話してやる」
…………。
私の言葉を遮りそう提案してきたノヴァさんに、私は無言で膝を指さした。
「やってくれんのか? なあ、膝枕してくれんのか?」
「うるさいですよ! 言わせないでください!!」
「そっ、それで……ノ、ノヴァさんは…………膝を撫で回すのは止めてください!!」
私に膝枕をされ、調子に乗ったノヴァさんが膝を撫で回すので、思い切り突き飛ばした。
「ったく……痛ってえなぁ……。それで、俺が異世界人だっつー理由か?」
「そういうのを自業自得って言うんだと思います。でもその前に、私はどうしたらいいんですか!? もし私に王様が洗脳された原因が無かったとしたら、どうしたらいいんですか!?」
ノヴァさん曰く、私がアカデミーで魔法抵抗についての研究をしていたせいで、王様の抵抗力が下げられ洗脳されたらしいのですが……。
「問題ない。脅されて仕方なく従っていたとでも言っておけ」
それで通用しますかね……?
「それにしても、ノヴァさんは本当に口が悪いですね。もっと柔らかく喋りましょうよ? チンピラみたいですよ?」
私がふと思った事をノヴァさんに言うと。
「誰がチンピラだ。それに、多少口が悪い方が人間らしくていいってもんだ」
「多少とかそういう次元じゃ無いと思います……」
「少し脱線しましたが、ノヴァさんが異世界人だとか言う下らない冗談は何なんですか?」
「だから冗談じゃねぇっつーの!」
そう叫んだ後、見つかるかもしれないと慌てて口を抑えたノヴァさん。
今更遅いですよ。
「まあとにかく、俺が異世界人だってのは本当だ。地球っていう星の、日本っていう国から来たんだ」
チキュウ? ニホン?
どちらも聞いた事ないですね。
「その国はどんな国なんですか? 私たちの世界とは魔法や言語は同じですか?」
私はとりあえず気になった2つを尋ねてみた。
「地球に魔法は存在しない。言語は全く違うが、俺は学者だって言ったろ? 独学で話せるくらいには上達した」
独学で他の言語を話せるようになるなんて……。
ノヴァさんがアダム様と別れて1年と言いますし、1年もせずにこの世界の言葉を覚えてここまで流暢に……?
「ノヴァさんってもしかして頭がいいんですか?」
「そうだぞ」
そんな……ノヴァさんが……!
「俺が酒を飲めないのも、日本では20歳まで飲酒が法律で禁止されているからだし。風呂が長いのも、日本人は風呂好きだからだし。俺が大金を持ってるのも、日本のモノを珍しいからと高く買い取ってくれるとこに売ったからだし。おっぱいを大きくするためには胸を揉むといい、と知っていたのも日本での知識があったからだし。何より魔法抵抗が強く魔法を使えないのは、異世界人だからだし。」
「もういいです! いいですってば!」
ペラペラと早口で述べていくノヴァさんに、私は言った。
「ちょっと待ってください!? 今、魔法が使えないって言いました!?」
聞き逃さなかった最後のセリフを思い出した私は、ノヴァさんを問いただした。
「使えんぞ。その代わり、一切の魔法は効かない」
「なんで胸を張って言えるんですか」
ノヴァさんは全くもって魔法が使えないのですか……。
あ、それで全属性の魔法が使える私のところに来た訳ですね。
「黒髪黒目なのは日本人だからだ。国王もそうだったろ? 」
「確かにそうでしたね」
黒髪黒目がニホン人の象徴と言う事でしょうか?
「あ、ノヴァさんが変態で口が悪いのも、ニホン人だからですか!?」
「それは違う。別に俺だけが変態で口が悪い訳では無いがな」
ニホン人は変態で口が悪いんですね。
ノヴァさんの言う事は信用なりませんし。
「それで、ノヴァさんはなぜこの世界に? あと、どうやってこの世界に?」
「それはまたの機会に、な」
そう言うとノヴァさんは腰を上げ、準備を始めた。
「そろそろ行こうか」
「勿体ぶらずに教えてください!」




