依頼その19 遁走の白魔術師
自分達は異世界人なんだ、とノヴァさんが叫んだ後、私や兵士達は呆然として動けずにいた。
「なんだコイツは! 頭がおかしいのか!?」
一人の兵士がノヴァさんを指さして叫ぶ。
ノヴァさんの頭がおかしいのは元々です。
「別におかしくともなんともねぇよ。それが事実だ。なぁ、国王さんよ?」
ノヴァさんが王様を見てそう言うも。
「私は異世界人ではない。そいつを殺せ」
王様がそう指示すると、兵士達は抜刀し剣を構えた。
「逃げるぞ、ソフィー!」
「えっ、ちょっ!?」
近くにいた兵士の顔面を蹴飛ばしたノヴァさんが、私の手を右手で掴み走り出した。
そのままその部屋の出口へと走り、私は引っ張られるままノヴァさんに付いて行った。
すると、出口を抑えていた兵士が、ノヴァさんを目掛けて剣を振り下ろす。
ノヴァさんはそれを左手で受けると、バッと血が飛び散った。
ノヴァさんは斬られた左手を、兵士達に向かって思い切り振り、血を目くらましにして再び走り出した。
「──ハア、ハア、まだ追ってきてるぞ! ソフィー、回復魔法でこの傷を治して、浄化魔法で血を綺麗にしてくれ!」
「『ヒール』! 『ピュリフィケーション』! もう、何なんですか! なんで私まで付いていかなくちゃいけないんですか!?」
私達は謁見の間から抜け出し、兵士達に追いかけ回されながら城内を走り回っていた。
既にノヴァさんは手を離しているが、追いかけられているので、私も何となく逃げている。
「それに、ノヴァさんが異世界人ってどんな冗談ですか!? もっと上手く場を切り抜けるハッタリは思いつかなかったんですか!?」
「ハッタリじゃねぇよ! 俺は本当に異世界人だっつーの! それに今はそんな事どうでもいい! 逃げるぞ!」
城の廊下をバタバタと走り回る私達と、それを追いかける兵士達を、怯えながら見る城の人達の間をすり抜け、私達は城の外に出る事に成功した。
「ソフィー、身体強化魔法を掛けてくれ! 城外だと兵士達が攻撃魔法を放ってくるだろうから、防御魔法も忘れずにな!」
城門を守る兵士を格闘術で薙ぎ倒したノヴァさんが、息を切らせながら私に言った。
「分かりましたよ! 分かりましたけど! 『パワード』!」
身体強化魔法が掛かった私達は、人々を遥かに上回る速さで走り、兵士達をそろそろまこうとしていた。
「でも防御魔法はランク2なので、使った瞬間に位置情報がバレます! ですが、相手もランク1までの魔法しか使えないので、遠距離攻撃の手段は持たない筈です!」
一昨日、家に帰って両親と話していると、新国王が就任してからというもの、街中での魔法の使用が更に制限されていると言うのだ。
位置情報が国にバレ、警察が直ぐに飛んできて問答無用で逮捕だという。
アカデミー主席卒で店を開いている私は、店のイメージの為にもそんな事になる訳にはいかないのですが!
「というかノヴァさん、なぜ私も逃げなきゃならないんですか!? 私は何してませんよ!?」
ノヴァさんの隣を走りながら私が叫ぶも。
「なぜもクソもあるか! お前にも原因があるからだろ!」
「ありませんよ! なぜですか!?」
「ちょっと待った。静かにしろ。こっちだ」
ノヴァさんが急にスピードを落とし、狭い路地裏に入りながらクイクイと手招きをした。
後ろを確認するも、兵士達の姿はまだ見えなかったので、私も止まりそこに入った。
「なぜ私まで逃げなきゃいけないんですか? 私は何もしてませんよ?」
暗い路地裏に腰を下ろし、私は声を潜めてノヴァさんに尋ねた。
「あの野郎はあんなキャラじゃねぇんだよ。もっと明るくて面白いやつだ。王様になったからと言ってあそこまで変わるとは思えん」
王様をあの野郎って呼びますか、普通?
「だから何なんですか? 私とどう関係があるんですか?」
兵士達に見つかっていないかと、辺りを確認しながら私は尋ねた。
「お前はアカデミーでどんな研究をしてたんだ?」
「それとこれになんの関係が……魔法の抵抗についてですよ……」
真面目な顔をするノヴァさんに、私はため息をつきながら言った。
どうも最近はノヴァさんが真剣過ぎて、なんだか変な気分です。
もっと明るいノヴァさんの方がいいといいますか……。
「魔法抵抗についてだろ? ならエリスはどんな研究だった?」
「エリスは確か……魅了や洗脳と言った方面の……あっ!!」
「シっ! 静かにしろ!」
ノヴァさんの言わんとする事が分かった私は、思わず大きな声を上げてしまった。
ノヴァさんやアダム王は、魔法を上手く使えない代わりに、味方の支援魔法すら弾くほど、魔法抵抗が非常に強いといいます。
抵抗が強いのは異世界人だからでしょうか?
もしかして本当にノヴァさんは異世界人なのでしょうか!?
それで、抵抗力が強い王様に、私の研究を元にした抵抗を下げる魔術を掛け、エリスの研究を元にした洗脳魔術でも……?
理論上は可能ですが……。
「理論上は可能だが、確証が無いってんだろ? だから今からアカデミーに乗り込んで、確証を奪ってやろうって事だ」
私が察した事を表情から読み取ったノヴァさんが言った。
アカデミーに乗り込むって正気ですか?
「とりあえず場所を移して夜になるまで時間を潰そう。俺が異世界人だという証拠を話してもいい。夜になったらアカデミーに突撃だ」
ノヴァさんはそう言うと、腰を上げた。




