依頼その12 関所の白魔術師
「ノヴァさん、今日中に関所まで行きたいので飛ばしますよ。昨日みたいに止まってご飯を食べるのもなしの方向でお願いしますよ」
「うん、わかった。だからママ、おっぱいちょうだい」
私が馬車の中で真面目な顔をして、ノヴァさんに言うとそう返ってきた。
昨日はサキュバスに襲撃され、なんとか撃退する事に成功し……今なんて言いました?
「えっと、ノヴァさん。ツッコミたい所が沢山あります。なんですかそのキャラ? それと、誰がママですか。それと、おっぱいは出ません」
私がツッコむべき物を数え上げていると、ノヴァさんが。
「なあ、飛ばすんだろ? なら魔力をじゃんじゃん注ごうぜ。よくよく考えたら、尋ね人が占った時の場所に居続けるとは限らないんだよな」
「無視するんですか? 私も怒る時は怒るんですよ?」
確かにノヴァさんの言う通り、ノヴァさんが探している人がマセントシアから離れる前に合わなければなりませんね。
「それじゃあノヴァさん、飛ばしますよ!」
「アイアイサー」
──私達が馬車を飛ばして数時間、太陽が天中に昇る頃。
「なあソフィー、そう言えばなんだが、魔物達はそれぞれ何属性の魔法が使えるんだ? 昨日のサキュバスはおっぱい属性か?」
「なんですかおっぱい属性って。魔物にはそれぞれの種族で使える魔法が決まっています。属性は関係無しに、知能の高い魔物が既定の魔法を使えるんです」
例えばサキュバスは、コレクトやプロテクション、テンプテーションなどが使える。
するとその話を聞いたノヴァさんが。
「なるほどなぁ。だからサバンナスプリンターは魔法を使わなかったのか。それに対してホワスラは知能が高いから魔法を使えたと」
「そういう事ですね」
魔物達の事は、数百年前の勇者達が多くを明らかにしている。
今では強敵はほとんど狩り尽くされ、昨日のようにエリートサキュバスに会ったのは不幸としか言い様がない。
「ならさ、なんでソフィーって言う魔物は知能が低いのに魔法が使えるんだ?」
「あらやだノヴァさんったら。私は人間ですわよ? ノヴァさんこそ、魔法を使ってませんよね? 違いますか、魔物さん?」
私達はにこやかに笑い合い、暫く見つめあったあと掴み合いの喧嘩を始めた。
「──はあ、はあ……疲れましたね。『ヒール』」
私は、組み合っていたノヴァさんと離れ、体のあちこちにできた細かい傷を癒していた。
それを見ていたノヴァさんが。
「なあアバズレ魔術師。俺にもヒール呉れよ」
「第2ラウンド行きますか?」
「お前も疲れてんだろ。早くしろよ。お前が全力で引っ掻いたから痛いんだよ」
よく見ると、ノヴァさんの腕に多くの引っ掻き傷があり、痛々しい姿をしていた。
うわぁ、血だ。
「『ヒール』! これでいいですか?」
「おう、ありがとな」
こういう時はちゃんとお礼を言えるのに、どうしてノヴァさんは私に悪口ばかり言うのでしょうか。
「なあ、2回目のそう言えばなんだが、サキュバスが使ってたコレクトっていう魔法はどんな効果なんだ?」
私が治した部分の傷跡をかきながら、ノヴァさんが聞いてきた。
「コレクトは、可視範囲内にある所有者不明のモノ、自身が保有しているモノを回収できます」
コレクトは便利な魔法だが、犯罪を引き起こしかねない為、ランク2に設定されている。
街では使えないという事だ。
「って事は、昨日のブラはソフィーが捨てた扱いって事か?」
「少なくともイサベルはそう思ったらしいですね。あれを捨てられたブラだと……」
確かに私は地面に置きはしましたが、それを捨てたと思われるのは……不本意です。
それにしても、ノヴァさんは学者だからか色んな事を知りたがりますね。
……あれ?
ノヴァさんは学者なのにコレクトの効果や、魔物達がどんな魔法を使えるかを知らないんですよね?
学者なら知っていてもおかしくはないと思いますが……。
ノヴァさんは何か隠してるのではないでしょうか。
「おいソフィー、そろそろ関所だぞ。何か手形とかいるのか?」
私がノヴァさんに何か言おうとした時、外を覗いていたノヴァさんがそう言ってきた。
「特に何もいらないと思いますよ。私が居るから顔パスで行けるかもですね」
「マジかよ。お前って凄かったんだな」
ノヴァさんが驚いているが……あれ?
さっきは何をノヴァさんに言おうと思ったんでしたっけ?
「あっ、ソフィー様! どうぞお通りください! 一応、決まりですので荷物検査をさせて貰ってよろしいでしょうか?」
関所にいた若い兵士が、私達の馬車の隣に来て言った。
荷物検査なんて、私が国を出る時にはありませんでしたよ?
まあ、やましい物は無いので構わないのですが。
荷物検査も無事に終わり、様付けされた私はノヴァさんにドヤ顔をしながら関所を通り抜けると。
「ソフィー様、ここからマセントシアまでお気を付けて!」
先程の若い兵士が、帽子を脱ぎ大きな声で後ろから呼びかけてきた。
私は更にドヤ顔でノヴァさんの顔を見た。
私は、ノヴァさんにどつかれた。




