依頼その0 旅立ちの白魔術師
「卒業生代表、アカデミー首席卒、ソフィー・テレジア」
「はい!」
私は席を立ち、同級生達に見送られながらステージに上がった。
壇上のマイクの前に立ち、大きく深呼吸する。
今日は魔術大国マセントシア国営の、魔術アカデミーの卒業式。
魔術アカデミーは、強い魔力を持つマセントシア王国の国民が、毎年50人ほど、国から入学を許可される。
国から入学を許された国民は、12歳から6年間アカデミーで魔術について学び、卒業後は新たな魔法の開発等で世界に貢献する。
そんなアカデミーで、卒業生代表として、首席卒の私が挨拶をする事になっている。
緊張して震える手で握りしめ、マイクに口を近づけた。
数百のの群衆が、広い室内で皆で私を凝視している。
緊張する!
「ご、ご紹介に預かりました、ソフィーです。私が卒業生代表としてスピーチをさせていただきます──」
──卒業式が終わり、1人校舎を歩きながら、もうこの制服を着ることは無いんだなぁ、と感慨に耽っていた時。
「やっほーー、ソフィーーー!!」
後ろから何者かに抱きつかれた。
そして慣れた手つきで私の薄い胸を揉み始める。
これは同級生で幼なじみのエリスですね。
後ろを振り向くと、やはりそこには。
「あっ、エリスでしたか。学長かと思ってビックリしましたよ」
エリスは赤色の髪をポニーテールにしている、明るくて皆の人気者だ。
成績は……あまり良いとは言えませんが……。
「え、学長って生徒に抱きついたりおっぱい揉んだりするの?」
私は、不安そうに聞いてくるエリスに。
「私達もついに卒業ですねー。6年間ってなんかあっという間でしたね……」
「ねえ、なんで私の質問無視するのさ」
「ィへクションっ! こんな所に居たのかソフィー、エリス。二人とも卒業おめでとう!」
噂話をされていたからかクシャミをし、鼻水を袖で拭きながら学長、ゼノン様がやって来た。
うわぁ。汚いです。
「君達がアカデミーに入ってもう6年か。それにしても大きくなったなあ。特にエリスは」
私達の胸元を見ながら言う学長に、私はジト目で聞いてみた。
「……身長の話ですよね?」
「胸の話しさ!」
清々しい笑顔で言ってくる学長に、私は掴みかかった。
「私は警察に通報してくるから、後はよろしくソフィー」
「分かった、悪かった! 謝るから老人の首を絞めるのは止めてくれ!」
私は学長の首に回していた手を離し、距離をとった。
なんでこんなに貧乳がバカにされるんでしょうか?
そんなに小さくないと思うのですが……。
卒業したし、胸を大きくする魔法でも開発してみましょうか……。
「そ、それで、君達は卒業してどんな仕事をするか決めたかい? 他の子達にも聞いてきたけど」
未だに息を荒らげながら、学長が言った。
「私は胸を大き……商業大国のブレキアで店でも開こうかなーって思ってます!」
ついつい本音が出かけたが、エリス達には聞こえてないだろう。
「へえー、いいね。どんな店を開くの?」
そう聞いてくるエリスに、私は自信満々に答えた。
「私、何でも屋を開きます!」
……………………。
私の夢を聞いても、2人は何も言わない。
きっと、私の夢の素晴らしさに感動して声も出ないのでしょう。
ええ、そうに違いありません。
「何でも屋か……私は反対だなぁ……」
「アカデミー首席卒のソフィーが……何でも屋……アカデミーの名が……」
エリスと学長が何かボソボソと呟きあっているが、私の尊く素晴らしき夢に、どんな言葉をかければいいか相談しているのでしょう。
ええ、きっとそうに違いありません。
「い、妹も居るんだし、姉としてもっといい職業に就いた方が……」
エリスがオロオロしながら言ってくるが。
「大丈夫、もう営業許可証も貰ってるし! あとは街に行くだけだよ!」
私の言葉を聞いた二人は、その場で固まって動かなくなった。
口を開け、死んだ目で見てくる2人を置いて家に帰った私は、事前にまとめておいた荷物を手にした。
遂にブレキアに行きます!
長年の夢を叶える時が来ました!
ブレキアで何でも屋を開き……自分でお金を貯めて……その後は……フフ……フフフ……!
卒業し自由になった今、自由に生活できるなんて笑いが止まりませんよ!!
裕福な実家からの仕送りも無しで、自身で稼いだお金のみで生活。
楽しみにしていた完璧な一人暮らしです!
家族には予め伝え、了承もとってある。
私は両親と妹に別れの挨拶をし、荷物を背負って家を出た。
新国王就任で賑わう大通りを、人々とすれ違いながら歩き、商業大国ブレキア行きの馬車に乗りに行った。
さあ、私の伝説が始まりますよ!