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暁の世界  作者: 暁海洋介(旧名:海軍士官)
第一章 異世界転移編
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第二話

こんばんは。暁海洋介です。今日は第二話をお送りいたします。どうぞ。

 片道十五時間にもわたる長距離ドライブを終えて高森家の中に着いたのは夜だった。出発時には高速が復旧したので渋滞は酷かったが、まあなんとかたどり着いた。鉄道も復旧してはいたが、どのみち九州まで行くにはお金が無い。

 正確に言えば、魔王様のもとに厄介になる時に、何度か行き来するつもりで高森家の所有する延岡のアパートに引っ越した後、信之さん経由でダンジョンで採れる金塊を換金して、多めに渡して家賃とは別に口座に入れてもらっていたのでお金はあるが、それを引き出せるATMが近くにないので手元にはない。ろくに日本に戻ってこなかった自分のせいであるが。

「よく来てくれた。長旅に疲れただろ。とりあえず、二人ともゆっくり休め」

「ありがとうございます」

「ありがとう。じいちゃん」

 着いてすぐ、お言葉に甘えて高森家の邸宅で休ませてもらった。俺も何年も運転していないのに長距離を移動するからと何度か運転を代わるハメになってだいぶ疲れたからな。

 翌日、起きるとニュースを見ながらさっそく状況を話し合った。爺さんの話では電気が復旧してからテレビが見れるようになったので報道を見たところ、内閣発表も酷かったようだ。停電のせいで発災当日に発表を出せない酷い状態で混乱はかなり広がっていたが、昨日の復旧後にさっそくニュースを流し始めてそれに拍車をかけてしまっていた。

「――この未曾有の国難に対し、政府から国民の皆様方に、どうか不要不急の外出を避けていただくことをお願い申し上げます」

 少し白髪の混じった大仏のような顔をした中年男性が呼びかけるようにして、現在、海外との通信が途絶状態にあること、能登半島と宗谷岬付近で未知の大陸と国土が陸続きになったことを発表し、資源の入手が困難で石油などが今の状態では長くもたないので節約に努めることをお願いしていたそうだ。

「かなりまずいですね」

「ああ。食料もろくに自給できんし、遠からず暴動が起こるだろうな」

「資源自体はなんとかできないわけではないですが、それをするには魔王様の手を借りなければいけませんし、政府にも働きかけねばなりませんが、魔王様はともかく、政府には僕にはツテが無いですよ」

 それからずっと同じような内容のニュースを繰り返しているおかげで、あちこちでガソリンやら食糧やらの買い占めがもう起きているのは来る途中で見た。昔、日本史の教科書でオイルショックってこんな感じだったのかと知りたくもない光景をどこでも見た。おかげで道路の渋滞はひどく、何度もスタンドまでいく車列に巻き込まれそうになりながら走ってきたのは忘れられない光景になりそうだ。

「ほお。資源にアテがあるのか」

「ええ。いつもお出ししている金はもちろん、石炭の採れる階層や工業資源の採れる階層もあります。石炭以外の鉱物資源も採れる階層がありますが、それ以上に地中で暮らす種類の魔物が体内で栄養となる魔素から変換して老廃物として排出しますのでうちの車魂たちの部品を製造したり、ダンジョン内に敷設してある線路を整備してもまだ余剰ができて、専用に保管するスペースもそろそろ一杯になりかけているくらいです。」

 ダンジョン産の資源は内部の鉄道補修に使うもの以外は魔王様に出す分と信之さんや延岡の町工場にお願いして作ってもらっている車魂たちの部品代くらいにしか使っていないので生産量と需要がまったく合っていない。

 あ。しかも魔王様にお出しする分の資源の輸送も今までと違って横川からここまで運んで来なければならないじゃないか。どうするよ。この状態。

「はー。お前そんな状態になっているなら声をかけてくれてもいいだろ。じいちゃんと父さんに相談すればもっと稼げるのに」

「稼げても使うところが無いじゃないですか。今だって向こうの貨幣以外で日常的に使うものなんてほとんどないから信之さんに入金を任せる以外ではなんにもしてないですし」

「それはお前が全然戻ってないからだろ。ハウスキーパーのおばさんが心配してたぞ。最初の頃くらいしか戻ってきてねえみたいじゃないか」

 げ。あのおばさんに任せっきりなのバレてる。そういえば、今、俺の口座どれくらい貯まっているのだろう。まったく見てないから正直、確認するのが怖い。

「具体的には?」

「物にもよりますが、日本の消費量で換算して一日でだいたい一週間分を生産できる状態です。備蓄というか貯まっている分はおおよそ三年分くらいです」

「すさまじいな。それだけあれば当面は何とかできる状態じゃないか」

 俺の報告を聞いて、修三爺さんが驚いた。ちなみに、産出量は使い魔たちの手を借りて計算したもので、その量もある程度、調整できるが魔物の体調管理に著しい悪影響を出してしまう。なので、一度、試しにやったきり行っていない。

「そうですね。ただ、食料はそうもいかないのでなんとも言えません」

「十分じゃん。あ、でもあんな場所から運び出すとなると仮に廃線になっているところを復旧させても運び出せる量が絶対的に足りないじゃないか」

 信之さんの言うとおりである。偶然にも俺の好きな碓氷峠区間と繋がったがこの区間の輸送力は貨物列車一本あたり四百トン以内である。荷重で言えば三十五トン積みの貨車で六両か七両分程度しかない。そんな量ではとうてい日本の需要は賄いきれない。

「そうです。でも、信之さん。前にダンジョン内の牧場を作るために餌の管理用にインベントリボックス作ってくれたことありましたよね。あれの収容量がかなり大きかったおかげで保管スペースがあまりつくれないダンジョン内で各種資源を三年分備蓄出来ているんですよ」

「ああ。それでまた作ってほしいってこないだ言ってたのか。魔物のメシを保管するスペースが足りないっつうから作ったがそれ以外にもそんな用途に使ってたのか。納得だわ。つうかそういうことならそれ用のとメシ用のとで分けられるように新しくすぐ作るわ」

 インベントリボックスとはファンタジーもののゲームで見かける魔法のコンテナボックスのことで、これを現実に作れるのが魔法使いでもある信之さんのすごいところだ。もっとも中身の一部には錬金術でしか作れない素材を使うので全部を一から作るのは難しいが、俺や信之さんと同じように日本から向こうに行った人の中に腕のいい錬金術師になったのがいるのでその人に作ってもらったらしい。俺はダンジョンの事と使い魔の事でそいつの顔は忘れた。

 ちなみにうちで使っているのは、外観は小規模牧場の牧舎くらいの大きさで、レンガ造りの建物だ。信之さんいわく、広大なうえに五十階層もあるダンジョンの全層をカバーするにはこれよりもっと大きくないと足りないと考えていたが、製作過程でかなりうまくいったらしく規模の割には収容量は破格の多さだそうだ。

「ありがとうございます。それもお願いしたいですが、これの貨車版を作れれば碓氷峠区間の輸送力制限の問題は解消できると思うんですがどうでしょうか」

「ああ。なるほどね。インベントリボックスの大きなものは王室の宝物庫くらいしか見たないけど、あれよりは小さいからできないことはないと思う。ただ、作る時の魔素の消費量が著しくて今の俺では作れないし、あと、また作ってやると言っちまったけど、量産するにもお前にあげたあれ作るのにかなりの数の冒険者パーティが潰れかけたそ?」

 あれ作るのにそんなに犠牲が出たのかよ。どんな素材だよ……。聞くのも怖いぞ。というか、そんなこと頼んでたなら、そのパーティに紹介してくれよ。直接、会って謝っておきたいぞ。

「そ、そんな無茶なことしなきゃ、用意できない材料で作ってたんですか……。僕の知らんところで変な恨み買ってないですよね?」

「安心しろ。お前んとこでも飼ってるというか棲息している魔物だったが、お前の出してる金塊で納得してもらったよ」

 とんでもないこと抜かしやがった。だからか。一時期、いつもより金塊を出さなきゃいけない量が増えたの!

「どんな生き物ですか。というか、なに勝手に俺の金出してるんですか!」

「まあ、そう怒るなっての。その代わりアレの収納量は抜群の大きかったろ。あれでも大商会の倉庫よりたくさん入るんだから感謝しろよ」

「はあ……。はいはい。わかりました。次は勝手にそんなことしないでくださいよ。それで例えば簡易化したものならできませんか。一両でぼくのみたいな収容量じゃなくて」

「まあ、出来んことはないな。収容量をそうだな。普通の貨車の二十倍くらいまでならあんな素材使わなくても作れる。だけど、一日につくれる数はうちの工房だけじゃ、二両が限界だ。それにインベントリボックスばかり作っちまうと他の連中の手も借りないとうちの工房で頼まれている他の仕事ができなくなっちまう。それに貨車まるごとよりは船とかトラックに載るようなコンテナタイプの方が良くないか?」

 普通の貨車の二十倍でもすさまじいな。コンテナタイプにした方がいいのは確かにその通りだ。うちの施設の都合で単に昔の貨車のような形式にすることを考えただけだし、実際にやるならその方が使いやすそうだ。

「言われてみればそうですね。でも、コンテナだともっと数増やさなければいけないですけど、大丈夫なのですか?」

「大丈夫だ。そういや言ってなかったが、俺の前の職場はコンテナ作ってたんだ。デカいのも小っさいのもいくつも作ったからお前よりは詳しいぞ。ただ、中身の部分はそのままじゃ、使えないから改造しないといけねえけどな。でも。貨車作るよりは構造が簡単だから、お前んとこで採れる魔石と、俺の知り合いの手が借りれれば用意するのはすぐできるぞ」

 そんなところで働いていたとは知らなかった。用意する魔石は闇属性の黒い魔石だった。あれなら中盤の階層以降のエリアで大型の魔物からいくらでも採れるが、その採れる魔物は、一匹いたら十匹いると思えと言われる人類がもっとも嫌悪するデザインをしているアレなのだ。

 そんなものであれを作ったのかよ。そりゃ、精神的に潰れかけるから犠牲の大きさにも納得だわ。俺だって近づきたくもないし、まして触りたくもない。使い魔たちも一番嫌がるやつだ。

 しかも、何が酷いって、それがこっちでもこの魔石の大きさに対し、相応の大きさでそいつが存在するのだ。悪食ぶりは日本のそれよりたちが悪い。冗談じゃない。奴を倒すのに何度も余計な魔物を巻き込んでしまった悪夢は忘れられるわけがない。

 そんな魔物から出る黒い魔石だが、元が雑食の魔物の核なので魔力を流せば何でもしまえるらしい。ただ、原石のままでは魔力の導性が悪いので、使い勝手を良くするためにこの魔石をミスリル等の導性の高い魔石と混ぜて製錬する必要がある。

 それを鋳造して小さな箱型にすると定番のアイテムボックスになるそうだ。その収容量も鋳造に使った魔石の数が多いほど大きくなるが、製錬して導性を上げるのはかなり性能の高い練金釜と腕のいい錬金術師が必要らしい。信之さんの知り合いの日本人錬金術師のところのが、どれほどかは分からないが少なくともうちのあの優秀なインベントリボックスを見る限り、相当な腕の持ち主だと思う。

「アレから採れる魔石が原料とは……。必要悪って言葉がこれほど似合う生物を僕は聞いたことが無いですよ」

「同感だな。絶滅させるつもりで討伐してもまったく罪悪感が湧かないのはある意味救いかもしれんがな。そういうわけでアレを集めてくれれば、いくらでも作れるぞ」

 うれしい知らせなのにまったくうれしくない。でも、それが量産できれば少なくともうちのダンジョンの存在意義を政府に示して合法的に使い魔たちに仕事を割り振りできるのはありがたい。需要が少なくてダンジョン内の保管スペースに資源を運ぶだけの短距離任務ばかりなので、物理的に列車本数に限界があるからどうしても機関車が余ってしまう。

 おかげで走りたがっているのに本体がまったく走れないまま、ずっと魔物の世話だけさせてしまっている子ばかりで困っているのだ。まあ、あの子たちも走るようになったら、いよいよ人を雇わねばならないから求人をしなくちゃならない。魔物の世話は命がけだから今の使い魔たち並にできる人を探すとなると冒険者くらいしかいないが、連中を日本に連れてこれるのか、それがいつできるのかが問題だ。少なくとも年単位で時間がかかるのは目に見えている。

「そんな便利なものがあるならいけるな。熊野君のところのダンジョンを活用する案は。政府への伝手ならわしの知己がおるから奴に話をしてやろう。もっとも今は忙しすぎて取りついでくれるか分からんが」

「できるだけでいいんでお願いします。こっちも魔王様とお話して黒の魔石を用いたインベントリボックスを商品として貿易で使えるようにするのと将来の国交樹立の際には食料のの輸出もお願いできないか聞いてみます」

 爺さんにそんなツテがあるならお願いするしかない。食料については国がやっている備蓄と魔王様のところがどれだけ出せるか次第なので、ほぼ戦時中に逆戻りと言えるような配給制にしかできないのが歯痒い。

「そうだな。彼のところはこっちで一時期暮らしたおかげで他所より農業が盛んだからな。もっとも日本の必要とする量を賄えるとは思えんが。まさか戦後七十五年も経って配給制が戻ってくるとは思わんかったわ」

「まあ、交流が活発化していけば嫌でも規模は大きくなるので……ってウソだろ。あの山……。まじかよ……」

「おい。大河。あれって……」

「ええ。信之さん。間違いなく、日本はあの世界に来てしまってます……」

 そんなことを思い出しながらテレビを見ていたら、魔王様の国から見て南東にある高い山にそっくりな山が映った。これは確定だな。

 二人で頭を抱えているのを見て深刻さを感じた爺さんはどこかに電話をかけに席を外した。少し長い電話だったが、どうやら仕込みが終わったようで、俺と信之さんに王都へ行ってからさっき映った山に行って来いという。そういわけで急いで裏庭の方に出た。この裏庭は元々、旧国鉄高千穂線の未成区間の一部だったもので、国鉄末期に高森まで延伸する計画だったのが廃止になり、払い下げになった際に隣接するトンネルともども敷地を広げるのと爺さんの趣味であるワインの管理のために購入したそうだ。

 その高千穂線自体も廃止が決まりかけたが、第三セクターの高千穂鉄道へと転換されて存続したものの、結局は二〇〇五年の台風で復旧できずに廃止となってしまった。俺自身は現役時代に一度も乗ることはなかったが、信之さんは延岡の高校まで通うのに利用していたそうだ。

 話を戻そう。裏庭の一部となっているこのトンネルこそが魔王様のいる王都への連絡路だ。今から二十五年ほど前に魔王様がまだ魔術師として駆け出しだったころ、実験中の事故で日本に飛ばされてきたのをまだ中学生だった信之さんが助けたのがきっかけだった。以来、高森家は彼との交流を通して魔法の存在を理解し、帰還のための研究に協力し、三年近い月日を経てついにそれを成功させた。

 その過程で、日本でも魔法が使えることに気付いた魔王様はもし帰還が出来たならいつか自分の国と高森家とを繋げてお礼をしたいと考えていたそうで、それは帰還の際にこのトンネルが使われたことで実現した。まさか異世界と繋がるとは思わなかったのでみんなを混乱させたそうだ。その後、高森家の人々は彼の暮らす世界でも生活するようになり、その結果、寿命が延びるなどの恩恵を得た。帰還できた彼も研究に励み、信之さんが大学を卒業する頃には彼の念願だった魔王になった。ちなみに魔王とは魔物と魔法知識に優れた最高の魔術師の称号であり、彼の国の国政責任者の通称でもある。どっかのRPGゲームのような悪の権化ではない。

 こうして繋がったトンネルは当初は自転車かバイクで通っていた。中はまだワインセラーだったからだ。それは信之さんが大学を出て、就職活動に苦しんでいたのを見かねた魔王様の紹介で鍛冶職人に弟子入りし、十年の修行を経て八年前に一人立ちした時に、爺さんのために工房を構えて初めて作った作品としてインベントリボックスを上げた時にワインの新たな保管場所として使えるようになるまで続いた。

 ワインセラーが撤去されて、インベントリボックスが元は保線用として作られたスペースだったところに設置されて通路として完全に使えるようになってからは車でここを行き来するようになった。

 そんなトンネルを信之さんの愛車である白い軽トラに乗って向こうへ向かう。その出口は信之さんの工房の裏手だ。工房は元々、魔王様の実家だった街外れの古い屋敷だった。彼の実家は国でも有数の貴族の家だったらしい。家が手狭になったのと現在の当主ともなった彼が魔王になった際に仕事の都合で家族も王都の中心街へ引っ越すことになり、家を手放すことになった際に一人立ちが決まった信之に譲ったそうだ。

 到着すると彼のもとで働いている職人と魔王の部下が出迎えてくれた。すでに事情が伝わっているのか部下の方で王城へ向かうための馬車が用意されていた。それに乗り替えてすぐさま城へ向かった。


「このたびは大変だったようだな。熊野よ」

「そうですね。さすがに出入り口が変わって自分のいた国に繋がるとはびっくりしましたよ」

「ははは。日本に事故でいきなり飛ばされた経験のある私でもびっくりするよ。しかし、そうなると今までいろいろ送ってもらっていたが、しばらくは君の言う通り、止めるしかないな」

「そうしてもらえると助かります」

 王城に着いてさっそく魔王様と謁見して経緯と現在の状況を報告した。三年の日本暮らしのおかげでそれなりに日本の知識を持っているおかげで話を理解してくれるのはありがたい。彼の部下でもある大臣様方や近衛軍の幹部も同席していて、そのうちの何人かは魔王様の付き添いを受けて何度か日本に滞在し、手つかずの魔法資源や生活の便利さに驚いた経験を思い出したのか懐かしがりつつもその脅威に頭を抱えている。

「熊野君。ほんとに日本がこっちに来たのかい。わたしが前に見せてもらった地図通りなら日本は島国だったはずだ。それがそっちの政府の発表通りにどこかと陸続きになったのならこっちも確かめねばならんぞ。別の世界かもしれんが、もしこの世界に来てしまっているのだと仮定するとうちならまだしも下手に他国領に繋がってしまっていたら洒落にならんこともあり得るぞ」

「もしも繋がった場所がロートあたりだったら目も当てられん。自分がかの国の人間だったら格下とみて喧嘩を売るくらいには弱そうに見えるからな。もし、うちとの交流があると知ったなら間違いなく戦争になる」

 日本がどこか別の世界に飛んだこととこっちの世界に繋がっている可能性があるという知らせに財務卿と近衛軍隊長がそういって深刻な顔をしている。ロートとは帝国主義国家で技術レベルで言えば産業革命期くらいのヨーロッパと同じくらいの国で、蒸気機関以外で目立った科学分野の発明がないが、国の規模はデカいし、錬金術では劣るが、魔電技術をはじめとして魔術方面の発達は魔王様の国であるこのマグナリアを凌ぐほどのものを有している。

 ナメてかかるとえらい目に遭う。うちのダンジョンが元々あった場所はマグナリアとロートの国境地帯の山にあったから領土侵犯してきた連中の兵士が領有権を奪うためにたびたび侵入してきたのでよく覚えている。

 そういえば、ダンジョンのあった場所の近くには国境警備をしている辺境伯様の領地があったけど、あのおっさん元気かな。ダンジョンの魔物の食料をいつも調達している先であり、うちで採れる魔石のお得意様なので、急に行き来できなくなったから心配である。

「それでなんですが、元の出入り口の現況を知りたいのとレバンス辺境伯様にもダンジョンの事をお伝えしたいので行かせてもらってもいいでしょうか」

「ああ。いいとも。うちの飛竜に乗っていきなさい。あれで行けば明日までにはつけるはずだ」

「ありがとうございます。さっそく使わせていただきます」

 魔王様の許可を得た。こうなったら一刻も早く現地に行きたい。ロートの動向が分からないから確認できる今のうちに済ませたい。別のダンジョンの出入り口ができているのか、それとも塞がって形跡が無くなってしまっているのか。どっちにしてもその対応で迷惑がかかるのはあの辺境伯様なので謝っておきたい。彼は優しいし、突然の事で原因不明なので仕方ないから納得はしてくれるだろうけど、今後の事を考えるなら確認の前に行かないと。

「それと信之くん。もし、本当に日本がこの世界に飛ばされてきていて、うちと国土も繋がってしまっていた場合は国交樹立の用意があることを修三さんに伝えてくれないか」

「わかりました。」

 魔王様。そこまでしてくれるなんて……。思わず目から汗が出てしまったぞ。信之さんなんかは、滅多に泣かないのに顔を覆ってうれし泣きしている。

「そうと決まったら熊野。レバンス様のところまでの護衛と案内をさせてもらうぞ。私も出入り口の確認をしたい。それにロートへの対応を閣下と協議せねばならん」

「お願いします。そろそろ冬が近いですから越冬に備えて魔物の活動が激しくなる時期ですし」

「うむ。それじゃ、行こうか」

 近衛軍の隊長さんに連れられて謁見の間を出る。信之はまだ話があるらしく、そのまま残るようだ。竜舎につくと飛竜の準備をし、乗る。竜装を整えたのは久しぶりでちょっとてこずったが、隊長さんに手伝ってもらってなんとか終える。

 これでも一応、馬と竜の両方に乗る経験はそれなりに積んでいるが、ダンジョン内でも使える馬と違って、竜はブランクが空いている。乗り方のおさらいも兼ねて隊長さんに指導してもらいながら王城を出発し、辺境伯領へと向かった。



 いかがでしょうか。次の投稿は明日の予定です。お楽しみに。

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