第五話 第五話 なんてこった
俺の勘は的中した。
感じていたズレは俺の単なる勘違いではなく、盛大な見当違いだったのだ。
そもそも、俺はここ…この世界を地球だと思っていたことからだ。
ここは俺の知っている日本じゃない。どころか地球でさえないということに気がついたのは、その日の夜だった。
冷え込む夜、俺はアリスに外に連れ出された。
始めは何事かと思ったが、あれを見た瞬間俺の考えていたことが一気に吹っ飛んだ。
その夜の帳に輝いていたのは二つの月。
一つは緋月という赤い月。
もう一つは翠月という緑の月。
いやいや、月って普通一つだろ!?
それに緑と赤の月なんて見たことねぇし。
そこで気がついたんだ。俺は地球以外の俺の知らない世界に……異世界へ飛ばされたんだって……
その後は爺さんやアリスをひたすら質問攻めした。
この世界の名前、ここはどこなのか、魔法は存在するのか…などなど。俺は知っている限りの異世界の常識というものを確認した。
俄かには信じがたかったが、そもそも一度死んだはずの身である俺が生きているのだ、信じざるを得まい。いや、比喩とかじゃなくて。
現に、目の前でアリスが魔法を見せてくれている。
彼女は詠唱を行った後、魔法名を宣言し魔法を発動させた。
その魔法は初級魔法の【ライト】と呼ばれるものだった。
辺りを明るく照らす球体を生み出す魔法なのだが、その光量はLEDライトに等しい輝きを放っていた。
「ね、アラタも見てるだけじゃなくてやってみない?」
その輝きに目を取られていると、アリスが魔法を教えてあげると言ってきたのだ。
「なんだって!聞き捨てならんな!」
まさか、異世界に来てすぐに魔法が使えるとは思っても見なかった。
「ふふっ、焦らなくてもすぐできるようになるわよ。」
そう言ってアリスが微笑む。あぁ、笑顔も可愛い。
すっかりアリスに夢中になっていた俺だが、
魔法となると鬼教官へ変貌してしまう彼女に若干の恐怖を覚えていた。
「違うっ!そうじゃない!」
「もう!なんで分からないのよ、勘の鈍い子ね!」
俺だってしっかり詠唱しているし、魔法名も宣言した。なにが悪かったのかすら分からん。
「今思ったんだけど、あなた…言葉に魔素を込めてないでしょ?」
「は?魔素?」
なんですか、その「全く」って感じの呆れた顔は。
「いい?空気中にある魔素を感じ取るの。そしてそれを自分に取り込んで詠唱に込めるのよ。」
なにそれ、ものすごーく初耳なんですけど。
「ちょっと待ってくれ。そもそも魔素っていうのがあることすら知らなかったんだけど。」
「あら?さっきたくさん質問してきたときに聞いてこなかったから、てっきり知ってるものかと…」
「うん、知らないから教えて。いや、教えてください。」
「そうねぇ……じゃあこの世界の前提から話すわね。」




