第4話 感じ始めたズレ
未だに信じられない。
気がついたら知らない場所に倒れているし、
体は10歳の時の俺だし、目の前には超絶美少女がいる。
目の前にいる彼女はアリスというらしい。
白髪紅瞳で肌は透き通るように白い。
髪はサラサラで、それこそ陳腐な表現にはなるが…まるで絹のよう。いや、マジで。
その幽鬼のような現実離れした見た目に、俺は少しばかり惹かれていた。
初めて見るマジックのように彼女をジーッと凝視していると、
「ん?どうかしたの?」
こちらに気がついたようだ。
「あーいや、お茶のおかわり欲しいなって思ってさ。」
「あら、そうなの?」
待っててね、と言い残し彼女は立ち上がりキッチンへと姿を消した。
いかんいかん。気がつくとつい彼女のことを見てしまう。
まぁ、本当に初めて見るような綺麗さだからじっと見てしまうのは仕方ないと言うか何というか。
それにしても、なんだかファンタジーのような世界に来た気分だ。
側から見ればただの木造小屋。
しかし、内装は中世ヨーロッパ辺りの、古めかしくも気品のある感じがした。
食器棚には銀製の食器や物凄く高価そうなティーカップが飾られている。
窓際にはロッキングチェアが置かれていて、その近くには暖炉がある。
いかにも西洋風だな。
もしかして、そういった方面のコレクターかと思ったが、彼女はそんな風には見えなかった。
ただただ普通の生活を送っているという印象だ。
様々な考えが俺の頭を過る中、その考えを遮るようにドアが開かれた。
「今帰ったでのぅ。」
入ってきたのは、斧を抱えたしわくちゃのお爺さんだった。今帰ったってことはここの家の人か。
「ん?小僧、見ない顔じゃのぅ。」
「俺、篠原アラタって言います。」
「シノハラアラタ?珍妙な名じゃのう。」
「いえ、名前はアラタです。篠原は苗字。」
「ほぅ、アラタ…聞かぬ名じゃな。苗字ということは小僧、貴族か?」
貴族……現代の日本にそんな身分階級は無いはずだけど。
「貴族じゃないです。俺は一般庶民ですよ。」
そうは言ったものの、納得がいかないというお爺さん。
「しかし…その服装はどう見ても庶民には見えんぞ。」
あれ?普段着のつもりだったんだけどそんな風に見えるのか。
そんなやりとりをお爺さんとしていると、アリスがお茶とクッキーを持って来た。
「あ、師匠。おかえりなさい。」
「おぉ、アリス。疲れたワシのために茶と菓子を持ってくるとは…弟子として腕を上げたの。」
「これはこの子の分です。」
「ほほぅ、アラタとやら…うちのアリスを手駒にしおって。」
え、なんか知らないうちにお爺さんが俺のこと敵視しているのだが。それにアリスは今師匠と言ったのか?
「それより師匠、周辺の魔物はどうだった?」
「ここ一帯には確認できなかったぞい。まぁしかし、最近は動きが活性化しているという噂もあるからの。十分気をつけるんじゃぞ。」
何かがおかしい。俺が知らない場所に倒れていたことと言い、この小屋の雰囲気、それになにより爺さんやアリスの言動…
俺の中の常識というものが、少しづつズレを感じ始めていた。




