プロローグ 回りだした運命の歯車
プロローグ
目を開けると俺は知らない場所に倒れていた。
これは白昼夢なのかと疑っては見たが、不快なコケの感触とじめじめとした空気は
妙にリアルだったためすぐにこれが現実だと悟った。
あのとき俺は確か・・・・・・
何がきっかけかは分からない。
ただ、気がつけばそうなっていた。
クラスの人達からは空気扱いされ、虐めている張本人はあっけらかんと知らん顔。
担任の先生に相談はしてみたものの、「今は忙しいから」と毎度毎度はね除けられる日々。
両親は「迷惑をかけるな」と取り合ってくれることすらなかった。
友人なんてものは俺とは無縁で、誰に相談することもできない。
____でも、あの時のあいつだけは違ったな・・・・・・
そんな俺は今日も学校へ赴いている。
希望なんて欠片も見ていない学校生活だが、学校に行くことができるのは
学生の特権であり、そもそも本分だ。
そうやっていつも自分の行動に理由をつけていないと時折不安になってしまう。
「俺は本当に生きていて良いのか。」と。
教室にやって来た。
俺の席は教卓からみて右奥の窓際だ。
いつものように椅子に座ると、まずは机の上に書かれている落書きを消す。
書かれていることは単純でいて明快、「死ね」「キエロ」「クズ」・・・・etc。
見ているだけで吐き気を催しそうな文字の羅列。
締め付けられるような胸の痛みはいつになっても取れない。
それにしても、流石にこうして毎日同じような文字を消していると少し殊勝だなとも思ってしまう。
本当に嫌っているならそろそろ絡むのも面倒になって来ても良いはずなのに。
もしかしたら一種のコミュニケーション方法なのではないのか?と疑うのだが、
そうであったならどれ程よかっただろうと考えることすら後悔するのがいつものオチだ。
いつもの作業を終え一段落ついたところで"あいつ"がやって来た。
どんな時でも何かと理由をつけて僕に絡んでくる嫌なやつ。
"あいつ"は俺に気づき、近づいてくるなり唾を顔に吐きかけこう言う。
「はっ!まだ生きてたのかよ。早く死ねよ。目障りなんだよ。このクズが!」
いつも俺に悪態をついてくるこいつの言動や行動は誰も関知しない。
誰も関知しないから、俺は失望していた。
こいつにも、他のやつにも。
どいつもこいつも助け船を出そうともせず、ただ見て見ぬふりをする。
俺はもう我慢の限界だ。
これまで耐えてきたが、俺のメンタルはもう持ちそうにもない。
手を出すにもそんな勇気はないからとりあえず無視するが・・・・
「あぁ、もう死にたい。」
いつも頭の隅にはそんな負の感情が渦巻いているのをひしひしと感じていた。
カンカンカンカンカン
耳をつんざく甲高い音。
放課後、帰り道に通る踏み切りの前で俺は考えた。
この漫然と過ぎてゆく時の中で、もし俺が死んだなら誰か悲しんでくれる人はいるのだろうか。
両親?クラスメイト?先生?
いいや、誰もいない。
そもそもこんなこと考えていること自体無駄か。
俺には何も残されてないし、この他に道はないだろうと薄々気づいてはいた。
ただ、心の準備をする時間が欲しかっただけだ。
それならもう、こんな腐りきった世界とはさっさとおさらばしよう。
そして唐突に俺は思った。
「もし生まれ変われるのなら、鳥がいいな。」と。
あの吸い込まれそうな夕焼けの空をいつか飛んでみたい。
自由で、縛られることのないここではない何処かへと飛んで行きたい。
だからもう終わりにしよう・・・・・・・・こんな人生まっぴらだ。
遮断機を越え、線路の真ん中まで行き倒れこむ。
接近する鉄の塊はキキーッとけたたましい
ブレーキ音を立てながら、急に出てきた俺を轢くまいと必死に抵抗するかのように速度を殺そうとしている。
しかし、もう遅い。
次の瞬間には
グシャッ
鈍い音を立てた体は、衝撃に耐えきれず二十メートルほど吹っ飛ばされた。
痛みはあまり感じない。
内臓がグシャグシャになったのか、胸の辺りから熱いものが込み上げてくる。
鉄のような味。
血だ。
苦しい。
肺が潰れたためか、はたまた血が気管に入ったのか分からないが、とにかく息ができない。
紅に染まる視界。
怖かったのは死ぬことではなく、本来人間に備わっている生存本能のようなものが自分には全くもって感じられないところだ。
そうして考えてみると、やはり自分は死にたかったのだな、とよく実感できる。
意識は遠退き、ついには何も考えられなくなる。
赤く染まった視界は次第に暗く陰をさしていく。
この日、俺は自ら線路に身を投げ出し、自殺と言う形で人生に終止符を打った・・・・・・
はずだった。
書き直し第1弾