第1章 8話~~挑発~~
なんか変な感じ
「嘘でしょ?」
自分の今出せる最高速度で、当てに行ったはずの竹刀が修の刀に簡単に受け止められたことにとても驚く咲。
かなり精神的なダメージを受けたはずだ。
だが修の方にも少し変化があった。
さすがに魔法を構築していない状態で、構築している相手の攻撃を簡単に受け止められるはずもなく、この一瞬でかなりの汗をかいていた。
「あ…あっぶねぇ。今のはかなりやばかった」
大きな深呼吸をしながら汗をぬぐう修。
ある程度修にも負担があったことがあり、少しほっとする咲だが、やはり精神的なダメージが大きかった。
「修。どうやって魔法も使わないで私の攻撃を受け止めたの?」
どうやって攻撃を受け止めたのか、それがわからない咲は修に聞いてみた。
「それは意外と簡単なことだよ」
魔法を構築した相手の攻撃を受け止めるのが簡単だと言い出した修。
そんなことはあり得ないのだが、さっき受け止められた事実があるので納得せざるをえなかった。
そして修は、説明を続ける。
「さっきも言ったけど、お前の攻撃はかなり速かったから危なかったんだけど、ちゃんと攻撃を見極められてる場合に、この技は使えるんだ」
「技?」
「技というよりかは、テクニックみたいなもんなんだけど、相手の刀を自分の刀で受け止める瞬間に、自分の刀をねじって、力を流しながら峰で受け止めるんだ」
刀がぶつかり合う瞬間に捻り、力を受け流すという荒業をやって見せたという修は、どんな動体視力と集中力を持っているのか、全く見当がつかない。
並大抵の技術だけでは、そんなことはできるはずがないのだ。
そんな技を見せられた咲は、修が魔法を構築してないからと言って油断をしていると、絶対に勝てないと悟った。
「私もかなり力をつけたと思うんだけどなぁ…」
「間違いなく力をつけてるよ。昔より格段に速くなってる」
咲は修に自分が力をつけたことを認めてもらえて、少し喜んだ。
何より、こうやって修とまた試合を出来ていることが、とても楽しかった。
「修!早く続きをやろう!」
「俺も少し本気を出さないとな」
二人は間合いを取り、刀を構えなおす。
修は、一度深呼吸をするとさっきまでとは少し目つきが変わり、構え方も刀を前に構えるのではなく、刀の刃が空に向くように持ち、右肩の上で引き絞るように構えている。
脚も右足を一歩分だけさげ、とっさな動きに対応できる、そんな構えだった。
咲は、その構えに今までとは違う、何か圧力のようなものを感じた。
一瞬でも油断したらいけないと考えた瞬間、咲は自分の後から悪寒を感じ、咄嗟に刀でガードの姿勢をとった。
そのすぐあと、何らかの衝撃によって咲が10メートルほど吹き飛ばされた。
咲が踏ん張った跡が、地面をえぐるようにくっきりと残った。
咲が顔を上げ、さっきいた場所を見てみると、そこに修がいた。
修を見た時、咲はやっと何が起きたのかを理解出来た。
吹き飛ばされる瞬間に、刀が見えたような気がしたのは間違えではなく、修が攻撃してきていたのだ。
(全く見えなかった…)
あまりの速さに、咲の目には修の動きを捉えることは出来なかった。
攻撃を防ぐことが出来たのは、まぐれというほかに説明出来ない。
このまま受けに徹すると、簡単に負けてしまうと感じた咲は、自分から仕掛けてみることにした。
(今度はもっと速く、自分が出せる最高の速度で仕掛けなきゃ...)
今出せる全力をぶつけてもなお、修に届くのかわからない。
それでも、挑戦してみる価値がある。
咲は右足を1歩分だけ引き、攻撃の態勢をとった。
修はさっきからずっと静かに立って咲のことを見ている。
咲はこの攻撃が届くと信じて、加速した。
その時、咲は無意識のうちに修の顔を見ていたのだが、その瞬間に見た修の目に驚いた。
さっきまでの明るい修の面影は全くなく、どこか闇に飲まれたような、気力のない目をしていた。
その目を見た咲は、無意識に速度を落としていた。
その隙に修は咲の足に自分の足をかけ、咲を転ばせた。
転んだ咲は、仰向けになり目を閉じると修のあの目が頭によぎった。
(あの悲しそうな目は...)
「大丈夫か?咲」
修が転んで寝転がっている咲に手を伸ばす。
咲は修の手を掴み立ち上がる。
「流石だね、修。全然かなわないや」
「そんなことないよ。最後の攻撃の速度は凄かった。途中で速度が落ちたような気がしたけど」
「少しミスしちゃっただけだよ」
咲は笑って誤魔化した。
なんだか、あの目については触れてはいけないような気がしたのだ。
「そろそろ支度して行くか」
気がつけば、7時になっていた。
そろそろ支度を始めないと遅刻してしまうため、2人は急いで部屋へ戻った。
支度を終え急いで学園へと向かう。
急いだ割には少し早めに着いてしまったため、あまり急ぐ必要はなかったようだ。
2人でクラスに入ると2人よりも早く着いていたクラスの男子の1人に声をかけられた。
「2人はいつも一緒に来てて仲良さそうだけど、もしかして付き合ってたちするのか?」
いつも一緒にいたためその事をからかわれてしまった。
「ちげぇーよ。幼馴染なんだ」
咲は少し照れていたようだが、修が冷静に対処してくれたが、咲は戸惑うこと無く対処したことに少し残念な気持ちになった。
「そうか、クラスの皆はお前らは付き合ってるって思ってるらしいぞ」
そういうとその男子は自分の席へと戻って行った。
「そんな噂をされてたのか」
「少し照れるね」
2人は少し笑いながら自分の席へと向かっていく。
そのあと何気ない会話をしているとあっという間にホームルームの時間になってしまった。
そしてそのまま何気ない学園生活を送り、授業が終わると二人で一緒に帰るというなんの代わり映えのない1日が終わった。
そして、気がつけば試合は明日に迫っていた。
試合前日ということで今日の授業は実践に織り込めるような実技の授業が多かった。
多分先生がそういう日程にしたのだろう。
そして、魔法構築の種類についての授業の時に事件が起きた。
授業内容で、設置系、展開系、放出系、強化系の特徴についての説明と実際にやってみるというものだった。
修は咲と一緒に説明を受けた通りにひとつひとつ確認を兼ねて、丁寧にやっていったのだが、リディーの行動に少し嫌な感じがした修が尋ねに行った。
「リディー、何をやろうとしてるんだ?」
「くだらないことを聞くんじゃねぇ。授業内容がつまらねぇから、周りの奴らに俺の力を少し見せてやろうとしてただけだ」
この授業の内容自体は基礎中の基礎の話だったため、退屈になったというところだろう。
「その気持ちはわからなくはないけど、お前の力を受け止める相手はどうするんだ?まだお前のことはよくわかってないけど、ある程度の力を持ってることはわかる」
「確かにちと受ける相手がいないんだ。そうだ。立花、お前が受け手をやってくれ」
思わぬ火の粉が降り掛かって来てしまったが、もし断って逃げた扱いされるのも納得がいかない。
「わかった。受け手をやってあげるよ」
「そう来なくちゃな」
乗り気ではないが、あまり強力な攻撃はしてこないだろうと思い、リディーの提案を受け入れた。二人はある程度の距離を取り、向かい合った。
「それじゃあいくぜぇ!」
リディーは魔法の構築を始め、徐々に魔力が上がっていく。
修はここで自分の考えが甘かったことに気づいた。
リディ―の魔力がどんどん上がっていき、とても強大なものになっていったのだ。
強力な攻撃をしてこないだろうと思っていたのだが、完全に本気を出してきている。
流石にこれを正面から受け止めるのはリスクがでかすぎるため、避けようと考えた修だったが、自分の後ろに人がいた。
このまま避けてしまったら後ろの人にあたってしまう。
「いくぜぇぇ!!」
もう考えてる時間はなく、リディーが攻撃を放った。
火属性の放出系魔法だったのだが、放出系魔法にしては規模が大きく威力もかなりのものだろう。
その攻撃を修は、右腕に多少の負傷を負うことを覚悟して、リディ―の攻撃を空へ向かって薙ぎ払った。
「…っ!」
何とか攻撃を空にそらすことができた修だったが、想像以上のダメージが右腕に残ってしまった。
「あれを弾くなんて、なかなかやるじゃないか。明日の試合を楽しみにしてるぜ」
そういうとリディ―はどこかへ歩いて行ってしまった。
(少し気合いを入れないとやばそうだな…)
右腕を抑えながら、少しリディ―の強さを警戒する修のところに、咲が走ってきた。
「修!大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
おそらく、明日の試合までに完全に治すことはできないくらいのダメージを負ってしまったはずの修だが、強がって大丈夫だと言っていることを咲はわかっていた。
そのあと、何事もなく授業が終わり部屋へと帰った。
「さすがに明日は気合いを入れないとな」
「なかなか強そうな相手だもんね」
「それもあるけど、昼のお返しをしないとな」
明日がついに試合の日だからということもあるが、昼ののお返しをするためかなり気合を入れているようだった。
「どうせ明日の朝も鍛錬するんでしょ?付き合うよ?」
「ごめん、よろしく頼むわ」
試合の当日の朝でさえ鍛錬をしようとする修を助ける咲は、本当に修にとっては大きな存在だった。
そんな話をしながら二人はベッドに入り、明日の試合に向けて睡眠をとった。
続きを書こおー