第1章 6話〜〜黒い剣舞祭〜〜
今回は説明口調で読みにくいかもしれませんがご了承くだちぃ。
3人は階段を登り終え、あの事務所のような場所に戻ってきていた。
「それじゃあ、持ってきた武器を出して」
フォグ先生に言われ咲は選んできた刀を先生の机に置いた。
「これはなかなか軽くて扱いやすそうな武器だね。武器を見る目がある」
「ありがとうございます」
咲が選んだ刀はかなりいい方で先生のお墨付きらしい。
先生が書類にどんどん書き込んでいく。
書類の欄がみるみる埋まっていき、あっという間に終わってしまった。
「はい。これでおしまい」
「ありがとうございます!」
手続きはもっと時間のかかるものだと思っていたが、意外に名前を書くだけであっさりと終わってしまった。
「それじゃあ、次は君だね」
「はい!」
いよいよ修の番になったのだが、今見たばかりで簡単だとわかっていてもなんだか緊張してしまい、声が少し裏返ってしまった。
「緊張してるの?」
先生がちょっと笑いながら聞いてくる。
「はい...」
声が少し裏返ってしまったのが結構恥ずかしく、顔を少し火照っているのを感じながら返事をする。
「そんなに緊張する必要は無いのになぁ」
「自分、手続きとかちょっと大事そうな雰囲気になると緊張しちゃうんです…」
「なんとなくわかるわ」
修は先生と会話をしているうちに少しずつ緊張が解けていくのを感じていた。
先生は机の引き出しから新しい申請書を取り出し、手続きの準備をしている。
「そういえば君は選んでこなかったの?」
先生は修が何も持って上がってこなかったことに気づいた。
「俺は自分のを使おうと思います」
そういうと修は倉庫に行く前に壁際に置いてきた白雨の入った刀袋を持ってくる。
そしてその袋の紐を解き、白雨を先生の前に置いた。
「これをお願いします」
すると、先生がものすごく驚いた顔をしながら白雨を手に取った。
「なんで君がこの子を持ってるの?...」
すごく驚いた顔をした先生が修に質問する。
「うちの父さんが俺に持たせてくれたんです」
「ということは、君は立花家の?」
先生にまだ名乗っていないはずなのに苗字を当てられた。
修は何故当てられたのか不思議でならなかった。
「はい。立花修ですがなんでわかったんですか?」
「なんでだって?君は本当に立花家の子なのかい?」
なぜ先生がそんな風に言ったのか理解できない。
修が戸惑っているのを見て、先生が説明を始めてくれた。
「20年前...この魔法武士学園である事件があったの。」
20年前、修たちが生まれる4年前にこの学園である大事件が起こったという。
そのことは修たちも知ってはいたが、詳しい内容は知らなかった。
「その事件は、ある女子生徒が攫われそうになったっていうものだったの。」
「黒い剣舞祭...」
咲が隣からそう言った。
「20年前、黒い剣舞祭と呼ばれた事件が起きたの」
改めて先生が説明を始めてくれる。
20年前、魔法武士学園にある女子生徒が通っていた。
その女子生徒は、入学当初から素晴らしい魔力の持ち主でクラスの人からも慕われていた。
「その女子生徒の名前は、立花夜宵。君の親戚にあたる人だと思うんだけど」
「夜宵姉もこの学園に...」
修が夜宵姉と呼んだ立花夜宵は、修の母である立花舞花の姉にあたる人物だ。
その立花夜宵は何の変哲もない学園生活を送っていった。
皆に魔法のことを教えたり剣術について聞かれることも多く、とても人望が厚い学生でとても優しく親切な子だった。
そして彼女は、毎年学園で行われる剣術の大会『剣舞祭』でも、圧倒的な剣術と魔法のセンスを見せつけ二連覇を果たした。
そして最後の年である三年目の剣舞祭、この時も皆から今年も優勝できると評価と期待を得ていた。
だが、剣舞祭の当日に事件は起きた。
夜宵は剣舞祭の舞台である中央闘技場に向かっている途中、謎の武装集団に襲われたのだ。
目的は夜宵の剣術の実力と魔法能力が目的だったのだろう。
剣舞祭を二連覇した夜宵を連れ去り、戦力にしようとしていたのだ。
最初に逃げることを考えたが周りを囲まれ、逃げ道をすべて潰されてしまった。
だが夜宵は焦ることなく助けが来るまで謎の武装集団の襲撃に一人で応戦することにした。
剣舞祭を二連覇していることもあり、武装集団の襲撃も簡単に薙ぎ払っていった。
だが、敵の量が想像以上に多く徐々に夜宵の体力は削られていった。
それでも夜宵は応戦し助けを待ち続けた。
だが武装集団の巧妙な手口でだれも近づかないように細工していたのか、助けが来てくれるような気配もない。
交戦し続けて約30分ぐらい過ぎた頃、とうとう夜宵は魔力が底を尽き、その場に倒れてしまった。
「だけど、彼女は学校や周りの人に隠していた彼女の力に関する秘密があったの」
「夜宵姉の力の秘密...」
それは修でも知らなかったことだった。
力尽き倒れてしまった夜宵に近づく武装集団だったが夜宵を運ぼうとした瞬間、夜宵の顔に笑みが浮かんだ。
武装集団は夜宵の異変を感じ距離を離し臨戦態勢をとっていた。
すると、さっきまで魔力切れで倒れていたはずの夜宵が立ち上がってきた。
だが、さっきとは威圧感が段違いに上がり、黒いオーラのような物を纏っていた。
黒いオーラを纏った彼女の眼は黒い瞳から明るい青へと変わっていた。
そして、彼女は先ほどとは段違いの速さで敵へと近づき、一人ずつ斬って行った。
「彼女が今まで使っていた力は彼女のほんの一部の力に過ぎなかった。彼女の本当の力は闇。立花夜宵は闇魔法士だったの」
「夜宵姉があの、闇魔法士?」
闇魔法士とは魔法に目覚めるときにある条件下でしか得られない魔法属性である闇属性魔法を使う魔法士のことで、闇魔法士のほとんどは能力を得た時の反動で悪の道に染まってしまう人がほとんどだったのだが、夜宵の場合その能力を発動したときのみ性格が激化するというものだった。
彼女は今まで力を制御して、その力のことを隠してきたのだが、魔力が切れ窮地に追い込まれたことで、今までかかっていたリミッターの鍵が外れ、闇属性の力が解放されてしまったのだ。
闇魔法が解放された彼女は何のためらいもなく敵を斬り殺していくだけでなく、今まで気絶させていただけだった敵までもとどめを刺す様に斬り殺していった。
「そして彼女は、武装集団をすべて殺してしまったの」
武装集団をすべて殺して止まってくれたらよかったのだが、彼女は止まらず学園のほうに向かっていった。
そして彼女は学園につくと通りかかった人たちや今まで仲良くしていた友人まで見境なく斬っていった。
彼女の人格は完全に飲まれてしまっていた。
「そこに駆け付けたのが妹の立花舞花だったわ」
彼女の妹である舞花は姉を止めるため駆けつけて、どうにか元に戻らないかと声をかけ続けた。
だが、その声に反応を示すどころか、実の妹に斬りかかってきた。
舞花も仕方なく刀を抜き夜宵と交戦する。
舞花も夜宵に匹敵するほどの実力を持っていて何とか夜宵を抑えることができていたのだが、やはり自分のを姉と殺し合いをするというのはそう簡単なものではなく、思い切った攻撃ができないでいた。
そんな舞花の感情など関係なく、夜宵の攻撃は最初から本気で殺しに来ていた。
戸惑いながらも応戦する舞花だったが、徐々に押され始めてしまう。
少しずつ押し込まれ、不利な状況になっていく舞花だったが夜宵とのつばぜり合いになり刀に魔力を流し込んだ時、夜宵に少しだったが変化が現れた。
周りに帯びていた黒いオーラのようなものが舞花の握っている刀に吸い込まれていったのだ。
少しずつ吸い込んでいくたびに夜宵の力が抜けていくのが分かった。
そして舞花にはその吸い取ったオーラの分、力が湧いてきていた。
そのまま少しずつ形勢が逆転していき、夜宵が纏っていた黒いオーラも着実に減っていった。
そして、すべてのオーラを吸い切った時、夜宵は動きを止めた。
青くなった目はいつもの黒い目に戻り黒いオーラも、もちろん消えていた。
そして、全身の力が抜けるようにその場に倒れていく。
それと同時に舞花も気を失い、倒れてしまった。
どうして舞花が夜宵の魔力を吸うことができたのかは、詳しくはわからずじまいに終わったが、これで一応この騒ぎは収まった。
だが、二人の攻防により学園の半分以上が破壊され復旧まで時間がかかる大惨事となった。
「その時、二人が握っていた刀がとても有名になったの」
闇魔法士の刀と騒ぎを収めた刀ということで二人が使っていた日本の刀は、武器を扱うものなら知っていてもおかしくはないほどまで知れ渡っていた。
「立花夜宵が使っていた刀が『斬雨』、そして立花舞花が使っていた刀がこの『白雨』だったのよ」
修は今の話のほとんどが初耳で、情報の処理に戸惑っていた。
「この刀は父さんが俺に持たせてくれた家宝のうちの一本だっていうことは知っていましたが、そんなに有名だったなんて...」
修は自分の母が使っていた刀を使えるということに大きな喜びと不安、そして責任を感じていた。
初めて知った家族の過去、今はまだ処理しきれてないところもあるがどんなものなのかということが少しだけでもわかって安心する。
「そういうことで私が君の名前を当てられたのはこの刀が立花家のものだって知ってたからなのよ。はい、これ返すわね」
そういうと、先生が白雨を返してくれる。
「武器の申請は?...」
「そんなもの今話している間にすべて終わらせておいたわよ」
話を聞くことに夢中で全く気付かなかったが、とても手際がいい先生だ。
二人は鍛冶場の受付まで戻り、先生に挨拶をする。
「ありがとうございました。おかげでいい刀が見つかりました」
「ありがとうございました。過去の話が聞けてとてもうれしかったです」
「いいのよ。二人ともなんかあったらここに来なさいね」
この時、修は近いうちにまたこの場所に来ることになるのではないかと感じながら先生に頭を下げ、二人はそのまま鍛冶場から離れ、寮へと帰っていく。
「あの白雨がまたこの学園に戻って来るなんてね。これからどうなるのかしら」
フォグ先生は何かを知っているように笑いながらそう言うと、鍛冶場の陰へと姿を消していった。
さぁさぁ、いつになったら戦うのかね?