第1章 2話〜〜 過去 〜〜
遅くてごめんなさい!
気分でやっているのでほんとに遅いですっ!
咲に華麗な蹴りを入れられた修が目を覚ましたのは、5分後ぐらいだった。
「大丈夫?修」
咲が倒れた修をソファーまで運び、寝かせてくれていたようだ。
「あぁ...大丈夫だ」
「よかった。」
ひとまず落ち着いた修は、今の状況について整理するために集中する。
「とりあえず今わかることは、俺らは同じ部屋ってことなんだな?」
「そうみたい。先生が、男女二人部屋になるかもしれないって言ってたのはこういうことだったのね」
確かに先生はそういっていたが、まさか自分たちがそんなことになるとも思うはずもなく、結果こうなっている。
「この状況、どうしよう」
「流石に幼馴染と一緒の部屋っていうのも嫌だろ?」
いくら小さい頃一緒に稽古を受けていたからと言っても、一緒に生活をするとなると話は別だ。
「べっ別に私は嫌じゃ....」
「とりあえずさ、咲もおなかすいてるだろ?飯を食いながら話そうぜ。」
修は、咲の言葉を遮ってそう問いかけひとまずご飯の準備に取り掛かった。
(咲には悪いことしちゃったから、咲のハンバーグはチーズINだな)
少しだけだが、さっきのお詫びにとちょっとした工夫をすると決める。
「よし!じゃあいっちょやりますか!」
気合いを入れ調理の準備へと入る。
たかがハンバーグなのにどこまで気合を入れるつもりなんだか。
「修?何をするの?」
そんな気合い満々の修を見て、不思議に思ったらしい咲がそう聞いた。
「え?晩飯を作るんだけど...」
「修、料理できたっけ?」
「咲と別れた後は俺が毎日飯を作ってたんだ。だから多少の自信はあるぜ」
任せとけとでもいうようにさわやかな笑顔を向ける。
「どうして?修。お母さんは作ってくれなかったの?」
咲は単なる疑問を聞いただけだった。
だが、その疑問を向けられた修は暗い顔をしている。
「修?どうしたの?」
「.......」
修は調理していた手を止め、食材を見つめている。
ふと修の手を見てみると、包丁を持っている手に力が入っている。
しばらくして、覚悟を決めたかのように振り向き咲の質問に答える。
「母さんは...4年前に死んだんだ。」
「?!」
咲はそれを聞くと何も言えなくなってしまった。
修に何か励ます言葉をかけなくてはいけないのに、なんと声をかけていいのか全く分からない。
「しゅ...修っ...」
「もうずいぶんと前の話だから気にするな。」
なにか声をかけなくてはいけないと声を出すが、逆に気を使わせてしまった。
修はそのまま調理に戻るが、咲は黙ったままうつむき動かなくなってしまう。
部屋の中には、肉の焼ける音と香ばしい香りだけが包む。
しばらくすると、ハンバーグは無事に完成し次々とテーブルに晩御飯が並べられていく。
「ほい。咲のハンバーグにはチーズを入れておいたよ」
「そうなの?ありがとう」
最後にメインディッシュのハンバーグを運び終え、修も食卓の席に着く。
「じゃあ食べようか」
「うん」
修はあんまり気にしていないようだが、咲はさっきのことをずっと気にしていて明らかに元気がない。
「いただきまーす」
「いただきます..」
箸を持ちこんがりと焼けているハンバーグを食べる。
ハンバーグを切ると、熱い肉汁が溢れ出してくる。
さっきまで暗い顔をしていた咲も、ちょっと笑顔になる。
(確か咲の好物がハンバーグだったよな)
ハンバーグを箸で掴み、とろとろのチーズを伸ばしながらゆっくりと口へ持っていく。
「おいしっ!なにこれ!」
口の中でとろけたチーズの甘みと肉の旨みが絶妙に混じり合い、表現出来ないほどの美味しさを出している。
「だろっ!ハンバーグは研究し尽くした俺の最高傑作だな」
「どうやったらこんなの作れるの?」
さっきまでの暗い顔がなくなり、驚きと興味の顔を修に向ける。
「秘密だっ」
爽やかな笑顔で焦らすようにそう答えた。
「なんでよ。教えてくれたっていいでしょ?」
不満げに言う咲だが顔は笑っていた。
いつもの咲だ。
修がいじわるをし、咲が不満そうな顔をする。
だけど毎回そのあとには爽やかな笑顔を見せてくれる。内心では全く不満などないのだ。
「やっと笑ってくれたな」
昔からずっと好きで、いつも元気づけられていたあの笑顔を再会してやっと見られた。
ただこれだけのことなんだが、修は今までの疲労などが吹っ飛んでいた。
「うるさいわね」
咲は照れくさそうにしながらそう返しながら、食べ終えた食器を洗面台へと運んでいく。
「咲、母さんの話なんだけど...」
この一言で、やっと明るくなった空気がまた重くなる。
「うん」
修の声のトーンが下がったことからまじめな話だと悟った咲は、どんな話であっても受け入れるという覚悟を決めた。
「今は...今はまだ話したくないんだ」
何も言わずに咲の前から消えてしまったのに、その理由さえ話してあげられない罪悪感に押しつぶされそうになる。
「うん」
そんな修に何一つ文句を言わず、ただ静かに頷き続ける。
「だけどいつかは必ず話す時が、いや...話さなきゃいけなくなる時が来るからその時は逃げないで聞いてくれないか?」
言い方を変えたことに何の意味があるのかは今のところはまだわからない。だがそれを含めての言い回しなのだろう。
「わかった。逃げない。しっかりと全部聞かせてもらうから」
咲は、“逃げないで”という言葉に何かを感じ、絶対に聞かなければならない話なのだろうと確信する。
「ありがとう、今日はなんか疲れたからそろそろ寝ることにする」
今まで一番気にしていた部分がようやく無くなり、安堵したのか強い睡魔が修を襲っていた。
「そうね。私も少し疲れたわ」
二人は寝る支度を終わらせると咲は二段ベッドの上の段に、修は下の段に入る。
そこから二人が眠りにつくまではあっという間だった。
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