第1章 10話~~立花流剣術~~
重要なとこにきたなぁー
試合は始まったが、2人は攻撃を仕掛けるわけではなく、ちょっとした会話をしていた。
「なぁ、立花。この試合で俺は魔法を使わねぇ」
「どういうことだ?」
「別にそこまで深い意味はねぇ。単純に魔法を使わないってだけだ」
この試合中、魔法を使わないということはほとんど負けを意味するようなものなのだが、なぜそんなことをするのか理解出来なかった。
単に魔法を使わなくても勝てるという自信があるのか。
「そうか。それなら俺も使わない」
修がそう言った瞬間リディーの顔が少し笑ったように見えたのが気になるが、相手にどういう思惑があろうと同じ条件で戦い、そのうえで勝たなければ意味が無い。
そうでなければこれから戦うであろう自分よりも格上の敵に対して、勝てることができなくなる。
今回のような簡単な状況でさえ勝てなければ、これから先どんな状況でも勝てなくなる。
そのぐらいの気持ちで一試合一試合を集中することが大切だと修は考えていた。
「それじゃあ、おれから行くぜぇ!!」
この叫びとともに、リディ―が攻撃を開始した。
この時、修は一瞬だけリディ―から違和感を感じた。
そんなことを考えてる暇はなく、リディ―の攻撃が迫ってきている。
リディ―の攻撃は攻撃力は高いがその分スピードがあまりない。
魔法がかかっていない攻撃ならば簡単に防げる。
しかし、リディ―の攻撃を受け止める直前、リディ―のバトルアックスから魔力の違和感を感じ、とっさに白雨に硬化魔法をかけ、相手の力を後方へ流すように受けた。
「っ!!」
力を流すように受けたはずなのに、想像以上の威力だ。
しかし攻撃を受けてからその違和感が確実なものになった。
リディ―は魔法を使わないと言っていたが、さっきの攻撃には明らかに強化魔法が使われていた。
(とっさに硬化魔法を使って正解だった...)
ふと白雨の刃を見てみると、攻撃を受けた部分に小さな亀裂が入ってしまっている。
リディ―の攻撃の威力にとっさだったとはいえ、硬化魔法をかけても耐え切れなかったらしい。
いくら今から完全な硬化魔法をかけたとしても、もう一度リディ―の攻撃を受けたら白雨は亀裂の入った部分から砕けてしまいそうだ。
「よく俺の強化魔法のかけた攻撃に対処できたな」
「とっさだったから完全に反応できたとは言えないけどな」
白雨は魔法を使っていなかったとしてもかなりの上物。
そう簡単に亀裂が入ったりはしないのだが、大事な白雨を傷つけてしまった。
(どう戦おうか...)
これ以上白雨を傷つけたくはない。
リディ―の攻撃をこのまま受け続けたら、確実に白雨が砕けてしまう。
そうこう考えてるうちにリディ―からの次の攻撃が迫ってきていた。
(仕方ないっ...)
リディ―の攻撃を防ぐには今の白雨だとかなり厳しいが、できる限りの硬化魔法をかけて防いでいくしかない。
それでも全部の衝撃に耐えられるわけではない。
衝撃をうまく受け流す必要がある。
「おらぁっ!」
リディ―のからの攻撃が繰り出される。
大きく振りかぶったバトルアックスが地面を砕き、土煙を上げた。
少しすると、土煙が収まり二人の姿が見える。
二人の姿が見えたが、攻撃したはずのリディ―が片膝をつき、逆に修がリディ―を見下ろすように立っていた。
「貴様、今何をした...?」
「柄で殴っただけだ」
修は刀の柄でリディ―のみぞおちを突いた。
結果攻撃された修ではなく、リディ―が片膝をついた。
「この野郎っ!」
この後、リディーが何度か修に攻撃を仕掛けるがそのすべてを修は捌き続けた。
修の白雨はまだ砕けていない。
「さっきからやってる技はなんなんだ?!」
リディ―は少し息を荒くしながら修に問う。
「立花流剣術“霞”」
立花流剣術“霞”、この技は相手の攻撃を刀のつばの部分で受け、自分の体の後方へと力を受け流し、それと同時に自分自身は前進し相手の死角に潜り、攻撃を当てるという攻防一体の技だ。
「剣術だと?」
「少しだけ剣術をかじっていてね」
「そうか...」
そういうとリディ―は一度深呼吸をした。
すると明らかにさっきとは目つきが変わった。
そして、またリディ―から攻撃を仕掛けてきた。
修はまた剣術で受け流そうと思ったが、さっきまでの攻撃とは違く、パワーではなく正確さが上がっていた。
リディ―は力任せに攻撃していたのをやめ、正確に攻撃をしかけてくるようになった。
そのため、そう簡単に潜り込めるような隙もなく、“霞”は使えなくなってしまった。
これがリディ―の本気なのだろう。
なかなか手ごわい相手だ。
しかも、攻撃の威力は相変わらず高く白雨が砕けてしまうのは時間の問題になりそうだった。
「なんだ、お前も大したことないんだなぁ!」
「なんだって?」
「貴様がホーリーだっていうから楽しみにしてたのによぉ、こんなんじゃそこら辺のやつとたいして変わらないじゃねぇか。ホーリーのくせに片桐とかいう雑魚と一緒にいるから強くなれねぇんじゃねぇの?これが本気っていうんならがっかりだぜ」
リディ―は笑いながら咲と一緒に修のことをけなした。
「今なんて言った...」
「あぁ?」
白雨を握る修の手に力が入る。
「片桐の試合見てたが、あんな雑魚でてこずる片桐と一緒にいるから弱いんじゃないのかって言ったんだ」
「てめぇにあいつの何がわかる...」
修の声のトーンが明らかに変わった。
(修がキレた...)
咲は修の変化に一瞬で気づいたようだった。
修は自分をけなされたことよりも、咲のことをけなされたことにきれたらしい。
「そんなに見たければ見せてやるよ」
そういうと修は白雨を鞘に納めた。
「てめぇ!なんのつもりだ!」
「お前なんか素手で倒せるんだよ」
修は何も持っていない状態で、刀を構えるように構えた。
そして誰にも聞こえないような小さな声でつぶやく。
「オートトリガー解除...」
そうつぶやいた瞬間、修の魔力量が瞬間的に増加した。
それに気づいたのは、先生とリディ―と咲などのある程度以上の実力を持った者だけだった。
相手の魔力量の変化は、観察力や魔力コントロールなどがある程度できないと感知できない。
一流の魔法士になるまでの難関の一つと言ってもいい。
そして、瞬間的に増幅した魔力を感知したリディ―は本能的に一歩後ずさっていた。
「お前一体何をした...?」
「お前の望み通り俺の本気の一部を出してやっただけだ」
今の修からは異様な迫力のようなものが出ており緊張感が走る。
「たかがそれだけの変化で、しかも素手で俺を倒すとか、なめたこと言ってんじゃねぇぞ!」
そう叫ぶとリディ―の方から攻撃を仕掛けた。
修は素手の状態で構えたままその場で立っているて、避ける様子は一切ない。
「素手で俺の攻撃を受けて後悔すんじゃねぇぞ!」
リディ―のバトルアックスが、修の頭上へと振り下ろされ確実に命中したかのように見えたが、確実に当たる軌道の攻撃だったはずなのだが、修の左側へと攻撃が外れていた。
何度もリディ―が攻撃を仕掛けるが、何度やっても確実に当たる軌道のはずが修の脇へと外れていった。
「どういうことだ...」
「立花流剣術奥義“水影”」
“水影”
この技は立花流において最も大事とされてる技で、心を落ち着かせ自分自身を刀と考え投影し、あたかも腕が刀かのようにふるまう技だ。
そして、この技は刀やほかの武器などから発せられる、人で言う呼吸のようなものを感じることもでき、それを感じ取り相手の攻撃をそらすことができる。
立花流剣術はこれを基本とした剣術なのだ。
「結局避けでばかりで攻撃はできないんだな!」
さっきまで白雨のことばかり考えていてあまり攻撃ができていなかったのだが、あと少しで砕けてしまいそうな白雨を再度抜いた。
「そんなに攻撃してほしいならしてやるよ」
今の修は完全に怒っており白雨の状態を完全に忘れているらしい。
今の白雨の状態では、攻撃をしてしまうと確実に砕けてしまうだろう。
「かかってこい」
修はリディ―に攻撃を仕掛けさせるように挑発する。
リディーは修の挑発に乗り攻撃を仕掛けてくるだろう。
「いい加減調子に乗んじゃねぇぞ!」
リディ―の攻撃は今までの中で一番強力で、一番スピードのある攻撃を修に仕掛けた。
だが、修はリディ―が自分の間合いに入る前に白雨を鞘に納め、その状態で構えた。
そしてリディーが修の間合いに入った瞬間、圧倒的な速さでリディ―の攻撃の隙間から修の一太刀がリディ―の体に命中した。
「立花流剣術 居合 “閃華”」
修の一太刀の描いた太刀筋が輝き散っていく。
リディ―の腹部を真横に一閃していた。
あまりにも速く、そして綺麗な一撃だったため会場は静まり返っていた。
バキンッ
修の白雨が鈍い音を静まり返った会場に響かせながら二つに折れた。
やはり衝撃に耐えられなかったようだ。
「ごめんな、白雨...」
白雨の折れた刃を拾い、柄のほうは鞘に納めた。
(トリガーロック...)
「勝者、立花修!」
ふと気づくと先生の勝者のコールが会場に響いていた。
だが会場にいたクラスの生徒は何が起きたのか理解できておらず静まり返ったままだった。
そんな会場と倒れたリディ―を背に修は中央闘技場から姿を消した。
一人静かに闘技場を出た修の目の前には、修がこうすることが分かっていたかのように出口で咲が待っていた。
「修、あの時の魔力...」
咲は、増幅した魔力に嫌な雰囲気を感じていた。
「やっぱり咲は気づくよね...」
少し暗いような、でも優しい笑顔を修は咲に向けると、そのまま倒れてしまった。
まだまだw