プロローグ 「私の好きな人」
初めまして!
参月みっか(さんがつみっか)と申します。
これは一人の頭の悪い少女が一生懸命無い頭で考えて好きな人に振り向いて貰う
お話です。
高校一年生の夏、だったろうか。
夏休み期間であるというのに嗚呼、補習を言い渡された私、鳥居空子は、
通っている私立校、私立彩色高等学校に来ていた。
私ははっきり言って頭が悪い。しかし何の奇跡か神様の気まぐれか。
この街一番の難関校、私立彩色高等にぎりぎりだが、(本当にぎりぎりだった)合格してしまった。
正直、第一希望ではあったが、受かる筈が無いと思っていた。
運動神経もそこそこ良い、絵も描けるし、パソコンだって出来る。
しかし、頭は悪い。
昔から要領が悪いのだ。友達もうまく作れなかった。人の事もあまり好きになれなくて。
数学も国語も理科も社会もみんな同じに見えてきた時にはもう、
――――私はいわゆる落ちこぼれで。
まあそんなのも、中学を卒業する頃には汚名返上。
すっかり、受験戦争に勝利し、名門高校に通える優等生になっていたわけだが。
私を更生してくれた人間が居たのだ。要領の悪い私でも分かるように、毎日毎日、飽きもせず。
そんな彼の名は花堂想華。私に勉強を教える代わりに彼が求めた報酬は。
「僕と一緒に『超絶美男子学園、禁断の薔薇園』のイベントに行ってくれませんか!」
との事だった。花堂想華は顔が良い。イケメンの部類に間違いなく入る奴だ。
しかし。イケメン、だけどオタクで腐男子でヘタレ気質な彼は現在、彼女は居ないらしい。
そうでしょうね。
頭は良いのになぁ、その小さな頭の中に入るたっぷり中身の詰まった脳味噌だけ私にくれないだろうか。
流石に猟奇的か。私は溜息を吹奏楽部も真っ青な程吐ききると、目の前の黒板を見詰めた。
*
「お、わ、っ、た」
魂の抜け切る程集中して精神を削りに削った私は、補習教室を出ると、廊下に倒れ込んだ。
「うううぅぅぅぅ・・・」
プシュー、と頭から蒸気の出る音がした。3次元で本当にこんな現象が存在したのかー、と
煮詰まった頭で適当に考え始めた刹那。
「おや鳥居さん。廊下で寝ると冷えますよ。僕も廊下で寝た次の日には風邪をひきましたから。
その疲れた顔を見ると・・・そうだな、補習を相当に集中して取り組んでいたのでしょう。」
人差し指をぴっ、と立て、どうです?合ってます?とドヤ顔をする奴が、寝転がった私を
見上げる形でそこに居た。この腹の立つ敬語。寝癖だろう、もさもさの髪に小さな顔。
花堂想華だった。
「あら花堂。おはようございます今日も今日とて補習に勤しむ鳥居空子です笑えばいいわ。」
未だドヤ顔を続ける花堂に少し腹が立って、むすっとした顔で自虐ネタを口にする。
しかし花堂は、「?」マークを頭の上に出し、首を傾げ口を開いた。
「オーバーヒートしてしまう程に集中して補習を受けているのなら、あと数日でテストの平均以上は
余裕で取れる程の頭になっていると思います。ええ、勤しんで下さい、応援します!」
言うと微笑み、私の頭を撫でた。
同級生で。
勉強を教えてくれる私だけの先生で。
腐男子の部類のキモオタ君。
彼の優しい微笑みと、その長身にあった大きな手で私の髪をさらさらと撫で、
こんな私を応援すると言ってくれた事。
いつものように暑苦しい夏の日。
それでもこの日は特別に暑く感じた。
暑くて、熱かった。
私鳥居空子が、花堂想華を『好きな人』として認めた日。
この作品をクリックしていただき、感謝です。
とて~もゆっくりな更新になるかもしれませんが、どうぞ最後までお読み頂けると
幸いです。