女の子の視点19
ツインソウルは、よく不思議な事が起こる。
普通の人なら偶然で終わる話が、偶然と思えなくなる。
誰にだって辛い学びは有る。
ツインソウルは、ただ普通より過酷なだけ。
それがツインソウル。
12月に入ると、町のあちこちで飾り付けされて、華やいでいる。
いつもの並木道も、駅の近くも、イルミネーションで夜は幻想的だ。
しかし、この店は、この時間になると殆ど売り切れてるな。
今日は、フルーツタルト…予約しておいて良かった。
「ご予約の神緒様ですね。お品物は、こちらになります」
「ありがとう」
「ありがとうございました」
【神緒家】
「はい、お土産」
「ありがとう。ねえ、お兄ちゃん達Xmasはどうするの?」
「どう、って…?」
「せっかくゆりちゃん帰って来たのに、Xmasの予定も考えて無いの?」
「いや、いつも通り美貴がケーキ作るの手伝うものだとばかり思ってた」
「私だって、今年は、拓真君と一緒に過ごすわよ」
「え?!」
「なんて顔してるのよ。まさか、ダメなんて言わないわよね?」
何を心配してるのかしら?
私も心配になっちゃうけど…
ゆりちゃんの事が。
お兄ちゃんだって、男だもの…
「本当はね、4人で一緒に、って思ったんだけど、それじゃあお兄ちゃん達、いつまでたっても進まないんだもの」
離されて、今本当に好きなのはゆりちゃんだ、ってわかったみたい…
でも、時々魂の記憶が邪魔をするみたいなの。
「いつもお兄ちゃんと一緒だったから、私も少し寂しいけど…」
留学してた時以外、いつも一緒だったものね。
「あ、返信来た…ゆりちゃん、ミサに行きたいって」
「へ?」
「「へ?」じゃないわよ。お兄ちゃんと行くの」
「やれやれ…」
「今からじゃどこも予約取れないし…そうだ!別荘を使えば良いのよ。近くに教会有るし…お兄ちゃんは、シャンパーニュとプレゼントだけ用意すれば良いわ。後は私が手配するから」
「コラコラ、勝手に決めるな」
「ゆりちゃんOKだって」
「聞いてないし…」
【洸貴の会社】
「お前、ちゃんと用意して行けよ」
「ああ、プレゼントとシャンパーニュって、美貴に言われてる」
拓真「そうじゃなくて、つまり、あれだ。出来婚なんて事になったら、向こうの親父さんに殺されそうだろ?」
「そういう事か…ああお前、美貴と?!…やめた…考えたくもない」
「ったく!本来Xmasは家族で祝う物だ…キリストの生誕を祝う日に、日本中のカップルが、オシャレなレストランを予約して、その後はホテルの部屋に向かうらしいが…」
「いやいや、日本中って…」
「女の子が、この日の為に精一杯オシャレして来ても、男達には見えてないんだよな。どうやってメークラヴしようか?で頭が一杯なんだろう」
「もしもし?洸貴?何か堅い考えで頭の中グルグルしてる?」
「……」
「ま、確かに着てる服は見えてないかも?どうやって脱がそうか…しか考えてないかな…いや、お、俺は違うぞ」
「うん?!」
「親友を信じろ」
【ワイン専門店】
シャンパーニュは買った…ヴーヴ・クリコにしたんだ。
後はプレゼントか…
女の子って、どんな物を喜んでくれるんだろう?
美貴にメールしよう「プレゼント買うの付き合ってくれ」
「一人で行きなさいよ。これからは一人でやるようになるのよ」…だって。
うーん…困ったぞ…
【デパート】
どこのお店が良いかしら…?
何階?
ここ?
うーん…どうしよう…?
男の人にプレゼントするの…初めてなの…
どんな物を喜んでくれるのかしら…?
【美咲家】
「どうしよう…時間…間に合わないわ」
「ゆり。まだ支度してるの?」
「だって…」
「今日は、お父様は帰らないから、大丈夫。楽しんでらっしゃい」
「ありがとう、お母様」
【幼稚園前】
家まで迎えに行くと、色々と面倒なので、幼稚園の前で待ち合わせる事にした。
本当は迎えに行きたいんだけど、僕達の事理解してくれているのは、彼女のお母さんだけなんだ。
他の人に見つかると大変だからね。
彼女にしては珍しく、10分ぐらい遅れて来た…僕は車のドアを開けて乗せた。
「ごめんなさい遅くなって」
「いや。女の子がデートに遅れて来たら、男は喜ばないといけないんだよ」
「どうして?」
「着る物を迷ったり、僕の為に一生懸命オシャレして来てくれたんだろうな、って」
「確かに、何を着て来るか、迷ったわ」
「うん、良く似合ってる。その髪も素敵だね」
「こんな事言う人だったかしら?」
「え?思った通り言っただけだよ」
「何だか、女の子の扱いに慣れてるみたい」
「そうでもないよ」
「そうかしら?麗華さんの他にも沢山居たのよね」
「本当の恋は…した事無い」
「…良いわ。信じてあげる」
【教会】
中に入ろうとした時、僕は、一瞬足が止まって動けなくなった。
過去世の修道院…マリアさん…ジャックの姿が次々と浮かんで来た…まるでスライドを見ているようだ。
「どうしたの?」
「え…?」
ローラさんだ…一瞬ゆりさんと重なって見えた。
「ミサに遅れるわ」
「あ、うん。行こう」
あの修道院が有ったのも…丘の上だった…
僕は、ミサの間も、中世と今を行ったり来たりしていた。
これだから最近教会に足が向かなかったんだ。
マリア像を見たくて、以前は良く行ったけれど…
「どうしたの?ぼんやりして」
「過去世を見ていた」
「私も時々見るわ」
【別荘】
別荘に着くと暖炉に火が入っていて、温まったわ。
美貴ちゃんが、管理人さんに頼んでおいてくれたんですって。
洸貴「料理も、ケーキもフルーツも、みんな美貴だよ。僕が用意したのは、シャンパーニュだけ」
ちょっと自慢げに、彼はそう言ったの。
本当に、良い兄妹だわ。
私は、一人っ子だから、羨ましい。
「この時期ベートーヴェンの第九シンフォニーはお腹一杯な感じだし、モーツァルトのピアノコンチェルトで良い?」
「ええ、良いわ」
「21番。グルダさんの演奏で」
「アルヘリッチさんが好きなんですって?」
「美貴から聞いたの?」
「ええ。実は私も好きなの」
「初恋の人なんだ。ショパンの第一コンチェルト、彼女のコンクールの時の演奏を聞いて泣いた」
「本当の初恋は、いつ?」
「初めて彼女の演奏を聞いたのは、小学校四年生だったかな?生まれて初めてCDという物を買ったのが、ショパンのプレリュード」
「そうじゃなくて…」
「知りたいの?」
「少し…怖いけど…知っておきたいの」
「今だよ」
「嘘」
「嘘じゃない、今だよ」
「……」
「シャンパーニュ、もう1本開けようかな」
彼は、にっこり笑ってそう言うと、甘口のシャンパーニュを開けたの。
「ケーキなら、貴腐ワインの方が良かったかな?」
「私は、もう…そんなに呑めないわ」
そして、プレゼントを渡して、2人で一緒に開けたの。
「え?」
「あら」
お互いのプレゼントを見て、2人で顔見合わせてしまったの。
そして、彼は少し笑って…
「何が良いかわからなくて、自分の好きな物にしたんだ」
「私もよ」
似たような、ちょっとアンティークな感じの時計。
ツインソウルは、好みが似ているって美貴ちゃんが言ってたけど…
本当にそうなのね。
気がつくと12時を回っていたの。
彼は明日車の運転が有るから、もう寝ないと…
そう思っていたら、同じ事を考えてたみたい。
「そろそろ寝ようか、あ、お風呂、温泉が引いて有るんだ。先に入ると良いよ」
「え?あ…ありがとう。そうさせて頂くわ」
お風呂と言われて…少し恥ずかしかったけど…入らせてもらったの。
待っている間少し片付けた…女性のお風呂は長い…ソファでバッハを聞いていたら眠くなってきた…
「洸貴さん…寝ちゃったの?」
「あ…居眠りしてた…僕も入って来る
お風呂に入ったら目が覚めた…部屋に戻ると、彼女は起きて待っていてくれた。
CDの棚を見ている…
「ピアソラも聞くのね」
「クラシックの演奏家のはね」
「本当…クレーメルさんとヨーヨー・マさん」
「ピアソラ、チェロで聞いてみる?」
ヨーヨー・マさんのピアソラをかけた。
彼女はCDのジャケットを眺めている。
後ろ姿…まだ少し濡れた長い髪…
背中からそっと抱き締めた。
「あ…」
「もう、何処へも行くな」
「ずっと、こうして居たい…」
彼は、優しく私を自分の方に向けて抱き締めたの。
でも…
「怖い」
彼女は、僕の腕をすり抜けた。
「怖い…私…男の人が怖いの」
震えている…
「大丈夫だから…何もしないから、もう寝よう。僕は隣の部屋で寝るから」
「側に…居て…欲しいの」
【ベッドルーム】
[二人並んで寝ている…眠っている洸貴の顔を見つめるゆり]
ベッドに入るとすぐに眠ってしまうなんて、疲れていたのね…
いつまでこうしていられるのかしら…?
美貴ちゃんは「先の事を心配しないで、今を楽しめば良い」って言うけれど…
怖いの…過去も、未来も…
過去世を思い出すのも怖いし、洸貴さんと離れるかも知れない未来も怖い。
朝…
微睡みの中手を伸ばすと、彼女は居ない。
起きて庭に出てみると、温室の中に居た。
【温室】
「ここだったのか」
「良く寝てたから、起こさなかったの」
「それ、原種の蘭」
「精霊達が踊ってるわ」
「ここには居るらしいね、僕には見えないけど」
嬉しそうに花を見ているな…昨日はあんなに怖がっていたのに…
久しぶりに笑顔を見た気がした。
出会った頃は良く笑っていたのに、いつも泣かせるのは僕だ…
「あ…美貴からメール」
「昨日は、サロンで皆んなでワイワイ楽しんだのよ~お兄ちゃん心配してるだろうから、お知らせ~」だって…早く言えよな。
彼女に見せたら、笑っている。
「君は、笑顔の方が良い」
そう言うと、恥ずかしそうにうつむいた。