女の子の視点18
ツインソウルのシンクロ。
あの日あそこへ行かなければ…
あの事を頼まれなければ…
あの場所を選ばなければ…
いつもより早く出かけていなければ…
出合うはずのない2人がシンクロする。
何故その時に限ってそこ?
それがツインソウル。
【神緒家】
「お兄ちゃん、タロットやってあげる」
「占いは好きじゃないよ」
「私のタロットは、聖霊に引かされるから、占いとはちょっと違うのよ」
「わかってるけど…」
ゆりちゃんと出会う前は、ソウルメイトとかロマンスとか、恋愛系のカードばっかり出てたわよねー。
そして…巡り会ってしまったのよ。
ゆりちゃんと…
「いつものカードと違うな」
「新しいカードよ。だいぶ仲良くなったから…一枚引いて」
そしてお兄ちゃんは、恐る恐る1枚のカードを引いたの。
「ソードの8…お兄ちゃんは、自分で作った壁で身動き出来なくなってるみたいね」
「……」
「壁の向こうには、道が有るんだから、勇気を出して越えれば良いだけなのよ」
【洸貴の会社の資料室】
「何朝からボーっとしてんだよ」
「……」
「お兄さん」
「お兄さんはやめろ、って言っただろ」
「深刻な顔してたからさ、親友にも話せない事か?」
「今朝美貴にタロットを引かされて…」
「美貴ちゃんのは当たるから、ちょっと怖いよな」
【デスク】
「美貴ちゃーん。俺に会いに来てくれたのか?」
「お兄ちゃん、忘れ物」
「なーんだ、違うのか」
「携帯忘れてたから…はい」
「洸貴が忘れ物なんて、珍しいな」
「そうなのよ。私サロンに行くからまたね」
「またね~」
「あ、そうだお兄ちゃん。帰りにイタリアワインの白買って来て。後で夕食のメニューメールするから」
「美貴ちゃんが自分で行った方が早いだろ?」
「重いから」
「結婚したら、拓真もこき使われるぞ」
「聞き捨てならないわね。重いから良いよ、っていつも言うのはお兄ちゃんよ」
【ファミレス】
「あ、メールだ。美貴ちゃんからか?」
「うん」
「美味そうなメニューだな…お前は良いよな、いつも美貴ちゃんの料理が食べれて」
「結婚すれば、毎日食べられるさ」
「そうだなー」
【ワイン専門店】
(イタリアワインの白…そうだな…今日のメニューだと…)
[美貴から送られたメニューを片手にワインを探す洸貴]
「コン・ヴェント。これか」
[洸貴がそのワインに手を伸ばすと、同時にワインを取ろうとした女性の白い手と触れる]
[一瞬時が止まったようになった]
(何だろうこの感覚は…?)
「ごめんなさい」
[それは懐かしい声だった]
「え?洸貴さん?私…まさか、こんな風に会うなんて…」
「帰っていたのか」
シンクロ…
彼の会社はこの近くだから、偶然と言えば偶然かも知れないわね。
でも、ツインソウルには、こういうシンクロが良くあると美貴ちゃんが言っていたわ。
「ごめんなさい、私」
「謝ってばかりだな」
「だって、メールで酷い事言って、それっきりだったから」
「気にしてないよ」
「少しは、気にしてほしいのに」
「そりゃ、少しはへこんださ」
「少しだけなのね」
「いや、物凄くへこんだ」
「本当かしら?貴方の心の中には、私以外の人が」
「離れて居る間、君を思わない日は1日も無かった」
私の言葉を遮るように、彼はそう言ったの。
「本当?」
「うん」
「初めてね、そんな風に言ってくれたの」
「そう…かな?」
もう、後は2人とも黙っていたの。
黙っていても一緒に居られれば、だだそれだけで良かったから。
【神緒家】
ゆりさんが日本に戻る事は、美貴にはメールで知らせたらしい。
いつもならうるさく言うはずなんだけど、あいつ…何も言ってなかった。
まるでこんなシンクロが有ると、知っていたみたいに…
【キッチン】
「それは、偶然じゃなくて必然よ」
「今日、会社が早く終わらなければ、会ってなかった」
「だからいつも言ってるでしょ。会う必要の有る相手とは、どうやっても会うようになってるのよ」
その時必要な相手と繋がり、必要の無い人とは自然と離れて行く物なのよ。
全て必要な事が起こっているたけなの。
(天のシナリオ…
僕は、自由に選ぶ道が有っても良いと思うんだけどね…
ゲームみたいに、いくつか選択肢が有って選ぶんだけど、どの道を選んでも少し景色が違うだけで、結局一本の道に繋がっているのかも知れない)
【拓真の家】
えーっと、どこだ?
美貴ちゃんが片付けてくれたのは良いけど…
何がどこに有るのか、サッパリわからないぞ。
あー、有った、有った。
小麦粉をまぶして、たまごをつけてから、パン粉か。
「うわ、ゲホッゲホッ」
おっと、鍋、鍋…
もう入れて良いか?
簡単、簡単。
「うおっ!黒焦げ…」
「何作ってるの?」
「とんかつ…のはずだった…ああ…」
「あちゃー…見事に真っ黒ね…もう少し早く来れば良かったわ」
「待ってれば良かった…」
「あら顔が真っ白、ウフフ。片付けるからあっち行ってて」
【居間】
「結婚したら、洸貴の家の近くに住まないか?」
「え?良いけど」
「あいつ、1人で寂しくなるから、3人でメシ食えば良いだろ?」
「ありがとね」
「いやいや」
「ミュー」
「あ、猫飼って良い所探さないとな」
そうなのよ…お兄ちゃん…1人になっちゃうの…
【神緒家】
「ただいま」
「美貴」
「ボージョレ・ヌーボー解禁ね」
「話しが有るんだ」
「買って来ちゃった。重かったんだからね」
「聞けよ」
う~ん、ワイン開けるのって、苦手だわ…
お兄ちゃんが代わって開けてくれた。
「呑も呑も」
お兄ちゃんがワインを注いでくれてる「ワインは、男が振る舞う物だよ」って、いつも言うの。
「結婚式延期になったって?どうしたんだ?」
ほら来た…その話しだと思った。
「12月の予定だったろ?今日拓真に聞いてびっくりしたよ。何で言ってくれなかったんだ?」
「マリッジ・ブルーってヤツ?もう少し時間が欲しかったのよ。彼とも相談して来年の6月にしたわ。ジューン・ブライド…やっぱり女の子は、そういうのに憧れるのよね~」
「マリッジ・ブルーだって?そんな風には見えないぞ…拓真とも上手く行ってると思ってた」
「女神ジュノーのお導きよ。6月が良いの」
「だって、式場も決めて、ドレス選んで、あんなに嬉しそうにしてたのに」
「そんなに早くお嫁に行って貰いたい?」
「そうじゃない、そうじゃないけど」
「今のお兄ちゃん置いてお嫁になんか行けないじゃない!」
あ…言っちゃった…
「僕の…為か…?」
「もう少し一緒に居たいのも本当、お兄ちゃんとゆりちゃんの事が心配なのも本当だけど…マリッジ・ブルーも本当」
男の人って、みんなお兄ちゃんみたいに誠実だ、って思ってたの…拓真君は良い人よ、お兄ちゃんの親友だし…
でも、世の中の男がみんなお兄ちゃんみたいに誠実だ、なんて思ってたら痛い目に遭うわね。
「美貴には幸せになってもらいたいんだ。拓真にも」
彼のせいじゃないの…
私のワガママ…
【拓真の部屋】
「虎、ご飯だぞ」
「ミュー」
「ごめんなー。ママは、もう少し待ってくれよ」
美貴ちゃんの気持ちも考えないで、急ぎ過ぎたかな…?
【美咲家】
11月も半ばになると、風邪が流行り始めているわ。
私は、少し風邪気味の母が心配で、お部屋にローズヒップのお茶を運んだの。
「ゆりには、ちゃんと恋をして結婚して欲しい、って前に話したわね」
「ええ」
「お母様ね、あなたのお父様と結婚する前に、好きな人が居たの。でも…」
「でも?」
「お父様、あなたのお爺様の会社の資金繰りが上手く行かなくてね、その時融資してくれたのが、あなたのお父様の会社だったのよ」
「お母様の恋のお話し…初めて聞くわね」
「お母様にだって、若い頃は有ったわよ」
「お父様と結婚してからは?」
「勿論、会う事も、連絡を取り合う事も許されなかったわね」
「その方、今はどうなさっているのかしら?」
「誰とも結婚せずに…亡くなったと聞いたわ」
「聞いたって、そんな…」
「女はね、母親になると子供が一番大切になるのよ」
「……」
「ゆり。洸貴さんと結婚する気は無いの?」
「え?…私は…でも、彼が…」
「お父様が反対しているから、彼も躊躇しているのね」
「お父様に話しても、聞き入れてもらえないんだもの。親が居ない男はダメだとか、後ろ盾が無いからとか…」
「今ホテルの経営が大変みたいだけれど、ゆりにはお母様と同じ思いをして欲しくないのよ」
幼い頃からずっとシスターになるつもりでいたから、恋も結婚も考えていなかったわ…
あの人と会うまでは…
でも今は、恋する気持ちを知ってしまったの…もう、戻れない。
他の人と結婚するなんて嫌…彼が他の女の子となんて嫌!