女の子の視点10
ツインソウルは、必ず結ばれるとは限らない。
ツインソウルは、結婚するとは限らない。
お互い深く相手を思いながら、離れているツインソウルも居る。
結婚するかしないいか…
それは、課題によって決められている。
それがツインソウル。
【洸貴の会社】
「今日から美貴ちゃんは、京都だって?寂しいだろ?」
「たまには良いよ、うるさいのが居なくて」
「寂しいくせに、素直じゃないねー。俺は、美貴ちゃんが同じ東京の空の下に居ないと思っただけで寂しいぜ」
「うん?!」
「晩メシは?」
「冷蔵庫の中に、買っておいてくれてると思うけど、お弁当とビール買って帰ろう」
【コンビニ】
「お弁当は、2つとも温めますか?」
「そのままで」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとう」
【神緒家の玄関】
[明かりがついている]
[玄関には女物の靴]
あれ?今日から京都って言ってたよな…?
ま、良いか。
弁当より美貴の料理の方が美味いし。
【キッチン】
「お腹すいた」
「お帰りなさい。フフフ、本当に「ただいま」より先に「お腹すいた」なのね」
「えっ?!」
「美貴ちゃんに頼まれたの。留守の間にお邪魔するのは、ちょっとって思ったんだけど…」
「そうなのか…でも、良かったの?美貴が無理言ったんじゃない?」
「いいえ、そんな事ないのよ。お料理好きだし…美貴ちゃんね「お兄ちゃんのハートは、胃袋に繋がってるのよ」なんて言ってたわ」
「確かにそうかも…肉じゃがに、金目の煮付けに、きんぴらに、味噌汁…インゲンの胡麻和えも有る…こういうのも作るんだね」
「家庭料理も作るわ。和食も好きだ、って聞いてたから」
「僕の好きな物ばっかり。メニューも美貴が?」
「いいえ、実は、私も好きなの。同じ物が好きなのね」
コンビニの袋…きっとお弁当を買って来たのね…
「電話すれば良かったわね。携帯番号美貴ちゃんから聞いてたのに」
「ビールより、日本酒が良いな…吟醸酒の美味しいのが有るぞ」
彼は、CDを取り替えているわ。
モーツァルトのセレナード。
お食事の時は、モーツァルトが良いわね。
「お酒呑めるようになったの、最近なの。まだほんの少しだけね」
「フランスに居たのに、修道院じゃワインも呑めないよな」
「礼拝の時に、少しだけ頂くぐらいね」
洸貴さんは、お酒好きなのね…
「安いワインでも、美味しいの有るよな」
懐かしいフランスの話しをしながらお食事をしたの
彼も、同じ所に行っているのね…
もしかしたら、擦れ違っていたかも知れないわ。
「ごちそうさま。凄く美味しかった」
「そう?良かったわ」
「後片付け、手伝うよ」
「良いわよ」
「美貴にも、邪魔になるから良いって言われるんだけど、時々手伝ってるんだ」
「じゃあ、お願いして良い?」
そして、私が洗った食器を彼が拭いてくれて、一緒にしまったの。
「何だかこういうの、良いわね」
【リビング】
「雨が降り出した」
「もう遅いから、そろそろ失礼するわ」
玄関を開けると、凄い雨だわ。
風も強いし…どうしよう…?
[稲光、雷]
「ああっ」
私は、怖くて、思わず彼にしがみついてしまったの。
彼がスマホで、電車の運行情報を調べてくれたわ。
そしたら、台風で止まっていて…
もう少し待ってみる事にしたの。
雨は激しくなるばかり…
まだ雷も鳴ってるわ。
私は怖くてソファーに座っても、彼の腕を放す事が出来なくて…
そして…
停電?
「大丈夫だよ。怖くないから」
そう言って、彼は、私の肩に手を回してきたの。
ドキドキするわ…どうしよう…
心臓の鼓動が、彼に聞こえてしまいそう…
「…」
「…」
何か言わなくちゃ…
「良い香り」
「えっ?」
「オードトワレ?何付けてるの?」
「ああ、エルメスのエキパージュ」
「貴方にとても良く合ってる」
じっと顔を見ていると、2人が入れ替わるような変な感覚になるわ…まるで鏡を見ているみたい。
ツインソウル…
この前風邪をひいた時、彼も一緒にひいてたって、美貴ちゃんが言ってたわ。
うつしたわけではないけど、双子の魂だから、そういう事は良く有るんですって。
気がつくと、彼の顔がこんなに近くに…
「…」
「…」
[ピカッ、ゴロゴロ、ドッカーン!雷の音]
「キャッ」
どうしても怖くて、彼にしがみついてしまうの。
「やれやれ…」
結局朝までそのまま居たの。
外は雨が降っているのに、日が差しているわ。
「ごめんなさい」
「いや。今日休みで良かったね」
そう言ってくれて、ホッとしたわ。
「紅茶の用意をするから」
「私が…」
「良いよ。こう見えて、紅茶には少々うるさいんだ。ゴールデンルールとかね。と言うのは冗談だけど、僕がやるから休んでて」
「でも…」
「騎士道だよ。アーリーモーニングティー。ダージリンで良い?」
「騎士が、朝女性のベッドまで紅茶を運ぶというお話しね」
そして、彼が紅茶を入れてくれて、私はパンを焼いたの。
冷蔵庫の中には色々食料が有るのに、彼ったら「僕が料理なんかするわけない」ですって。
「来てくれて助かったよ」
「美貴ちゃんと一緒にお買い物したのよ。作るのは私だから」
【玄関】
「それじゃあ、また夕方来るわね」
「ありがとう」
【リビング】
そして、夕方もう一度来てみると、彼は、ソファーで音楽を聴きながらうたた寝をしてたの。
「今日は、バッハね」
バッハのゴールドベルグ変奏曲。
CDのジャケットを見ると…
グレン・グールドさんの演奏ね。
ピアノと一緒に歌ってる声が入っているわ。
「彼は、いつも歌ってるね」
「そうなのね」
「食事の時は変えるから…何かバッハって食事しながら聞いてると、罰当たりな気がする」
「フフフ。宗教音楽が多いからかしら?」
「天上の音楽だよな」
「お料理出来たわよ」
「美味しそうだね」
「今日は、カキのトマトソースパスタに、チキンのクリーム煮、ミネストローネにサラダ」
「うーん、今日の料理だと、やっぱり、イタリアワインの白か…じゃあ…アルゲロ・テッレ・ビアンケを開けよう」
【玄関】
日曜日、美貴ちゃんが帰って来たの。
「ゆりちゃんありがとう。お兄ちゃんのお守り大変じゃなかった?」
「園児のお守りで慣れてるから」
「コラコラ、何がお守りだ」
【リビング】
「美味しい物を食べさせておけばご機嫌なのよ。オムライスとか焼きそばとか、ハンバーグとか、子供みたいなのも好きよ」
「うちの園児達みたいね」
「2人っ切りでどうだったの?新婚さんみたいだった?」
「何言ってんだよ。何も聞いて無かったから、びっくりしただろ」
「だって、ゆりちゃんに来てもらう、なんて言ったら「良いよ」って言うに決まってるもの」
「当たり前だ。妹の留守に女の子と2人っ切りなんて…」
「お兄ちゃんは、性的行為に罪悪感が有るのよね。潜在意識に何か有るみたいだわ」
そして…
普通の男性なら、好意を持っていなくても、そんな状況ならkissぐらいするはずだと美貴ちゃんは言ったの。
そんなものなのかしら…?