SS15 「どこかの本屋」
いつも夢で見る町がある。
実際には存在しない町なのだが、夢の中の僕はそこのことを良く知っている。道や駅、商店街、学校の場所までわかっている。
学校は通っていた母校に良く似ている。朝の光と共に分解され、意味を失う町だが、夢の中の僕にとっては理路整然と存在する町だ。
そして夢の中で僕はいつも町を彷徨っている。
水の底にでもいるように移動しづらく、わかっているはずの地形が歪む。
徒歩で、自転車で、自動車で、僕は進みつづける。
通りは何処までも続き、目的地は見つからない。
そして本屋が出てくる。
もともと休日は本屋めぐりばかりしている僕だ、夢の中でも本屋に入る。
ささやかな楽しみを求めて入るが、そこで何かが見つかったことはない。
欲しくないものばかりだったり、金額が高かったり。
幾つかの本屋は何度も夢に出てきて、間取りも理解しているが、本を買った事はない。
たどり着けないし、得られない。
ただ進みつづけるだけ。
そんな夢だ。
今日も僕は夢を彷徨っていた。
薄暗い商店街は町の北西部に位置しており、坂道に沿った商店街を抜けると山中を通る道に入る。そこには川が流れていて、川沿いに山を登ることができるが最後まで行ったことはない。
商店街には古い本屋があった。
そこには欲しかった画集があったのだが、先を急ぐことにした。
僕はこの後、山を越えなければならないのだ。
目を覚ますと電車の中だった。
窓の外はすっかり暗くなり、チカチカ光る蛍光灯がやけにまぶしい。
天井にぶつかりながら飛ぶ蛾を見つめながら、夢だったんだな、と気付いた。
よく見えないが窓の外では雪が降っているらしい。
単調な電車の響きとともに心の中に何かが積もっていく。
・・・・・・ひどく遠いところに来てしまったな。
脇に置いた荷物を手繰り寄せながら、僕は考えた。