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殺した。

殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、そうして最後に残ったのは、二人だけだった。だから、俺は虚ろな瞳をした彼女に手を差し伸べた。

理由は、二人しかいなかったから。

その時は、ただそれだけで十分だった。









青白い月明かりが、地面を照らす。

そして、幾つもの血飛沫が宙に舞った。



森の奥深くにある廃墟。

蕀に囲われたその場所には人は寄り付かない。なのでそこは奴隷商の格好の穴ぐらと化していた。

彼らは国の騎士たちにも見つからないこの廃墟を気に入っていたようだが、今日ほど近場に誰もいないことを、誰にも助けを請うことができない事を恨んだことはないだろう。

暗い廃墟を、俺は裸足でペタペタと進む。その先には片足を切られて逃げる事が出来なくなった奴隷商が、ガタガタと震えて動けなくなっていた。




「や、止めろ!助けてくれ!お、おおまえは開放してやるっ!だから、」

みっともない遺言を聞き流しながら、その胸に深く剣を突き刺した。じわっと血が溢れでるのを確認してから、勢いよく引っこ抜く。途端に、鮮血が俺の体に降り注いだ。

絶命した男をそのままにして、俺はふぅ、と息を吐いた。これで、23人。間違いなく、この廃墟にいた全ての奴隷商を殺すことができた。




「……きたねぇ」

顔に降りかかった鮮血を腕で拭う、も、そこもドロドロの血で汚れていた。

舌打ちしたいのを我慢して、俺はこの廃墟から出るために歩きだした。足枷が気になるが仕方がない。機会があれば、取るとしよう。




ふと、一つだけ入っていない場所を見つけた。離れにある、小さな塔だ。

面倒だと思いつつ、塔に向かって歩く。入口は厳重に鍵がかかっていたが、無理矢理壊して俺は塔を上がっていった。

螺旋階段をずんずん進み、やっと一つ扉を見つける。そこの鍵も壊して、中に入る。




そこには、真っ白な髪をした、美しい少女がベッドに腰かけていた。

歳は、俺と同じくらいだろう。12~13歳くらいか。長い髪は地面を伝い、毛先にいくにつれ薄桃色に変わっている。真っ白な肌は月明かりによりますます白く輝いていて、まるで人間味を感じられなかった。月の明かりのような薄い金色の瞳が、虚ろなまま俺に向けられた。

ジャラリ。彼女の首に繋がれた鎖が鳴り響く。



「……」

俺は無言のまま彼女に近付いた。彼女も、何も言わずに俺を見つめる。ポタポタと俺の体から滴る血の音と、僅かに顔を動かす彼女の首輪の鎖の音だけがその場を支配した。

ら触れられそうな程近くに来ても、彼女は何も言わない。



俺は、剣を振りかぶった。

ガギンと耳障りな音がする。だが、何度か降り下ろすと鎖は切れた。

何も言わない少女に、俺は血濡れた手を差し出した。




「来るか」

「…………」

彼女は何も答えず、ただ、俺の血濡れた手の上に、白くて綺麗な手を重ねた。

それだけで、今の俺には十分だった。







「お前、名前は」

「……レア」

「ふーん」

小さな返答。俺は相槌もそこそこに、自分の事に専念する。逃げ出した廃墟の近くに泉を見つけたので、俺は体に付いた血を水浴びによって洗い流していた。レアは少し離れた所にぼおっと突っ立っている。どうやら歩けないわけではないらしい。

透き通った水が赤く濁っていく。その水面に、俺の姿が写し出された。



襟足が少し長い黒髪。薄い褐色の肌。勝ち気そうな少しつり上がった青の瞳が水の波紋で揺らめく。方耳だけに付けられた、金色の板のような形をしたシンプルなピアスが風に揺らめいた。




「……あなたの名は」

「レヴィン」

それだけ言って、俺は泉から上がった。服も濡れてしまったがしょうがない。今の時期は寒くないし、歩いているうちに乾くだろう。

俺は奴隷商から奪った鞄やら装備やらを肩にさげ、レアを見た。



「行くぞ」

それだけ言って歩き出すと、レアは無言のままトコトコと俺の後ろをついてきた。




暫くして、



「…………まっ、て」

か細い声に、俺は足を止めた。後ろを振り向くと、そこにはゼイゼイと荒い呼吸を繰り返すレアの姿がある。首から垂れる鎖が重そうだった。

しょうがないので、俺は近くの木陰に腰を降ろした。

その隣に少しだけ空間を空けて、レアも腰を下ろす。




「少しだけ休憩するぞ」

「…………うん」

息を整えつつ、レアは返事をした。鬱蒼とした森の中は暗く、虫の鳴き声しか聞こえない。暗闇に目が慣れてきているからと言っても、必然的に俺は耳を研ぎ澄ませていた。




サワサワと葉が鳴る音。

がさり、と動物が動く音。

すうすうという、誰かの寝息。




「……」

俺は横を向いた。そこには、犬か猫のように体を最小限にまで丸くして寝転がる、レアがいる。




「……はぁ」

こうなっては仕方がない。俺は木を背もたれ代わりにして、自分も目を閉じた。




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