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暗示使い  作者: 夜鳥ツル
第0章 それぞれの視点から見た日常
7/15

視点A 模擬戦開始!

午後、学園の第五実習場に僕は立っている。


十メートル向かい側には、対戦相手の日代ルナが立っていた。


僕は今から彼女と戦うわけだが…


「ーーーどうしてこんなにギャラリーが…」


第五実習場は五十メートル四方を柵で囲まれた、模擬戦用実習場の一つだ。


地形などもそれぞれ異なるようで、ここ第五実習場は土属性と命属性を司っているようだ。


地面は土で、石や岩などもそこらじゅうに転がっており、木なども数本植えられている。


まさに自然のステージと言っても過言ではない。


そしてその柵の向こうには、別の実習場で模擬戦をしているはずのクラスメイトたちがいた。もちろん三人の姿もある。


何故五十メートルも離れているのに三人のことがわかったかと言うと、三人が昼のように“上”にいたからだ。


もちろん柵は超えていないが、かなり目立っている。


…いや、そんなことより、何故あんなにギャラリーが?


その答えはカナタからもたらされた。


『えへ、他の実習場壊して使えなくしたから、みんなここでやることになったの。そういうわけだから頑張ってね、シロ』


Dコールによって知らされた呆れた事実に、他の生徒に同情を禁じ得ない。


ていうかそもそもこんな感じの実習場をどうやったら使えなくなるように壊すことが出来るのだろうか…?


やっぱりレベルⅠ・Ⅶ(1.7)ともなると、やることが違うと言うか、なんというかーーー。


このことだけで、あの「噂」が嘘なのでは?と思わされるくらいだ。


まあカナタは決して悪人ではないけれど。




「みんないるね」



「そ、そうだね」


外野(さんにん)のことを考えていたから、日代ルナの存在をすっかり忘れてた。


日代ルナに視線を向ける。


日代ルナは確かに可愛かった。


サキの狂いようも分かる気がしなくもない。


「どうも日代ルナです!今回はよろしくお願いします!」


ぺこりとお辞儀をした。


模擬戦前の挨拶だ。


「えっと、間鍵シロです。相手にならないと思いますが、よろしくお願いします」


こちらも挨拶を返す。


「間鍵さん、ですか?変わった名前ですね」


「ま、まあね、変わってるよね」


「変わってて呼びにくいので、シロさんって呼んでいいですか?私のことはどうぞルナと気軽に呼んでくれていいので」


「ああ、呼びにくいよね。僕は好きに呼んでもらって構わないよ。僕はじゃあ、ルナさん、でいい?」


「いいですよ。では、呼び方も決まったところでさっさと終わらせてしまいませんか?ーーーシロさんも晒し者はお嫌でしょう?」


と周りを見ながら言う。


「…まあね」


と周りを見ながら答える。


「じゃあ早速ーーー「でも、怪我はしないでね」…はい?」


「じゃあ僕から行かせてもらうよ」


ルナさんは首を傾げ、聞き返したが僕はあえて無視した。


「えっと、うん、どうぞ、シロさん」


模擬戦は両者の合意のもとに開始される。


また模擬線の勝敗は、降参するか、戦闘不能、つまり気絶したり、続けられなくなるような怪我をするかで決まる。


もちろん殺そうとするのはダメである。


僕は、彼女の答えを開始の合図として、ポケットから取り出した二つの種に魔力を込める。



残り十一個。



「ーーーグロウイング、アンド、コンクリート」


音声による詠唱補助により、最初の言葉で二つの種から芽が出て、絡み合い、融合して、ツタになり、枝になった。


そして次の言葉で形状が変わる。分かれていた枝が一つにまとまり、形が整っていく。


枝の刀ーーーすなわち木刀が一本「精錬」された。


刃渡りは長く、僕の身の丈はあるが、刀身は細身で、なおかつ木で出来ているため、恐ろしく軽い。


僕はそれを構え、彼女に向かって走り出した。


彼女は少し驚いたようだが、魔法使いの定石である距離を取ろうとはせず、慌てずに魔力を高め、「生成」を始めている。


彼我の距離が残り三メートル、僕の木刀の間合いに入った瞬間、彼女が手を下から上に振り上げる。


…ハヤテの予測通り、彼女は木で出来た高さ三メートルほどの壁を「生成」してきた。


僕の顎めがけて。


もちろん音声による詠唱補助はないが、動作と連動させることで詠唱補助と同じ効果を出している。


やはり発動スピードは、あそこの三人となんら遜色ない。


だけど、先が読めているので、寸前で減速して紙一重で躱す。


そして僕は向きを変え、左側、彼女から見て右側に回り込む。


彼女はそこにも木壁を展開した。


その瞬間、一つ目の木壁を木で出来た手にして僕を捕まえようと攻撃もしてきた。




「操作」の魔法だ。




「生成」と「操作」を並行して準備、発動したらしい。…どうやらこちらの動きも若干読まれていたみたいだ…。


でも動揺はしない。


落ち着いて、植物の手が描く不規則な軌道を読み、木の刀で弾き、いなす。


これらの動作は、魔物狩りでは当たり前に行なうものだった。


魔法が強くないものは体術でカバーするのはもはや常識だった。


逆に言うと常識だからこそ、こちらの攻撃は読まれやすい。


おそらく最初に驚いたのは、徒手空拳で挑まず、魔法を使ったからだと思う。


レベル0とはその程度の認識なのだ。


彼女は僕が「生成」をしたことで、もう魔法を使えないと思っているはず。


だからこそ、そこに隙ができる。


僕はポケットからタネを出し、壁の向こう、彼女の近くに落ちるように投げる。


種の大きさは米粒程度なので、気付かれる心配はない。


残り六つ。


そして投げつつ次の魔法を使う。


「ーーーコンクリート」


「操作」の魔法で武器の形状を変化させる。


長い刃渡りはそのままに、刀身を細く、鋭く、強固にしていく。



出来たのは、木のレイピアだ。



見た目は貧弱だが、強度はカナタの岩壁を貫通するほどのものだ。


二枚目の木壁に狙いを定める。


彼女までの距離は壁を隔てて約三メートル。


レイピアを当てることは出来ないだろう。



直接は。



魔力を高めながら、レイピアを壁に向かって突き出す。


「ーーーリリース!」


突き刺したと同時に、「操作」の一種である「解放」の魔法が発動する。


「っ!?」


あっさりと木壁を突き抜け、解き放たれた十数本にも及ぶ枝が、無秩序に彼女に襲いかかる。



ーー


ーーーおかしい


…こちらからは壁が邪魔で見えなかったが、この時彼女が魔法を使った兆候は見られなかった。


だけど一瞬、魔力が変に歪んだような感覚があったような…




何より変なのは静かすぎることだ。




あれだけの攻撃だったのに動く気配もなく、僕が感じた魔力の歪みも消え去っていて、魔法を使おうとする兆候もない。


魔力は活性化しているので、倒せたわけでもない。




次の行動に移るべきかな?




この状態が罠の可能性は十分にある。




だけどここで止まっているほうが余計危険かもしれない。


それに目に見えてやばい魔法は使われなかったようだ。


ハヤテの作戦通りにするには、行くしかない。




コンマ数秒で意を決してレイピアを手から離し、壁の内側に回り込む。


「え!?」


回り込んでみると、驚いたことに、彼女は自身の手で幾つかは防いでいたものの、ほぼ全ての攻撃を全身で受けていた。


いくら枝で、同じ命魔法だからといって、あれだけ食らえば、全身打ち身だらけになるはず…。


どうして魔法で防がなかったんだろう?


いや、そもそもあれだけの攻撃をまともに受けて、どうして立っていられるんだ?


枝が邪魔で彼女の顔はほぼ隠れているが、引き結ばれた口だけ見えた。


彼女の口が開かれる。


「シロさん、私はあなたのことを見くびっていました」


そしてゆっくりと微笑んだ。




あっ、これ、やばいかも。




「お詫びと言ってはなんですが、これから全力でお相手しようと思います」


とても、(たの)しそうに、微笑んでいた。


口しか見えないけど、それは彼女の、日代ルナという子の、本当の笑顔のように見えた。




…うん、やばい。本気になっちゃった。




まさかあの程度で本気になってしまうとは。完全に予想外だった。


「では、再開ということで、ーーー参ります」


そう言うとおもむろに枝の一本を掴んだ。


魔力が膨れ上がる。


「っ!うそぉ!」




一瞬で種の制御を奪われた。




枝たちはなくなり、代わりに彼女の手に元の種が一つだけ残された。


そしてその種に僕の何十倍もの魔力が注ぎ込まれる。


彼女はそれを愉しそうに微笑みながら、こちらに向かって下投げでほうってきた。


「これはお返ししますね☆」


「っ!?ーーーグロウイング!」


とっさに、作戦で使う予定で彼女の周りに落とした種を全て「精錬」し、木の壁として発動する。


目の前に五枚の壁を並べたと同時に彼女が言った。


「耐えて下さいね。ーーー解放!」


まさかの詠唱補助付きで容赦無く解放された種は、まるでハヤテが炎を近くで爆発させたような、そんな恐ろしい威力だった。


「くはっ!?」


そして、五枚あった木の壁はあっさり突き破られた。




体が、宙を舞った。

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