2人の逃避行
テラスに向かう途中になぎさからメールがあった。『いまどこにいる?』と言う簡潔なメール。簡潔なメールには『テラス向かっている途中』と簡潔にメールを送り返す。と言う前にメールが大の苦手だったり……
メールで話をするなら、電話でいいじゃないか! と言うおじさんの気持ちがイヤってほどわかる。
「そうだ。雛子ちゃん、さっきの騒動は内緒でお願いね」
隣を歩いている雛子ちゃんに、口止めをしておかないと後で、大変な事になりかねない。入学して、すぐの人間が騒動を起こすなんて、はぶられる対象じゃないか。
「わかりました。けど、もう手遅れだと思います」
俺の頭は、??? マークで脳内が埋め尽くされている。ちょっと大きな騒動ではあったけどすぐに収束した。すぐと言っても10分ぐらいの時間はあったと思う。でもそれぐらいで広まるって事はないだろう。
雛子ちゃんの言葉を思い知るのに5分と掛からなかった。
テラスに着くと、結構な人が入っている。なぎさと凛ちゃんと待ち合わせしているので、先に着いていたら、どこかに座っていると思うのだけど……
「ゆきなぁああああああ! こっちだよ~」
馬鹿でかい声がテラス一帯を覆い尽くす。
ショッピングモールの一角で大声は、さすがにちょっと恥ずかしい。だけど、このままスルー出来るほどの根性? がないため、なぎさと凛ちゃんが座っている席へと向かう。
2人は、先に注文をしていて、なぎさはコーラ(お嬢様がコーラって斬新)凛ちゃんは紅茶をすでに、注文していた。
俺と雛子ちゃんが席に着くと、すぐに店員さんが水とおしぼりを持ってきてくれる。すかさず飲み物を注文し『少々お待ち下さい』と事務的な言葉を残して、店内に戻っていく。
それにしても、さっきから学院と同じぐらいの視線を感じる。
気のせいだろう。うん、今日の朝も気にしないと誓ったじゃないか! 水の入ったグラスを持ち、口に運ぶ。少し喉を潤しておこうか。
「平民ってなにか、格闘技でもやってたの?」
ブハッ!
喉を潤す事ができなかった代わりに、綺麗な虹が出来るほどの霧を吐き出す事に成功しました! なんで凛ちゃんが知ってるの!?
雛子ちゃんも手遅れとは言ってたけど、こんなに早く噂って広まるものではないだろ。いえ、広まるものなんです……
「立花様はツブヤイターを見ていないのですか?」
雛子ちゃんは化石でも見るかのように、見つめてくる。
ダメだよ。そんな目で見つめられたら……ビクンビクン! ってなっちゃう……ならないよ! それじゃぁただの変態じゃないか!
「ツブヤイター?」
雛子ちゃんの話を聞けば、ツブヤイターとはインターネットで、今起こっている出来事や自分の独り言をみんなに聞いてもらうサイトがあるらしい。なぎさが「これこれ」っとスマホの画面を見せてくるので、覗き込んでみると……さっきの出来事が写真付きで投稿されているではないか!
しかも投げ飛ばしているシーンまであるのだから、言い訳すら出来ない。
ここでは、病気を患っている事にしておかないといけないのだから、ここで、みんなを納得させる『嘘』が必要とされる。
「で、どうなのよ」
真意をしろうと急かしてくる、凛ちゃんを納得させるために、とっさに出たのが、こんな言い訳だった。
「少し護身術を……」
当たり前なのだけど、護身術で『投げ飛ばす』事など教えてはくれない。
簡単に腕を捻ったり、抱きついてきた相手を振りほどく方法などがメイン。護身術で投げ飛ばすのであれば、柔道や空手などは『吹き飛ばす』と言う言葉が似合っているのではないかと思う。そうなった場合は、オリンピック競技からはずされるだろうね!
いつの間にか、静まり返っていたテラスが一気に歓声が巻き起こる。そして俺の周りには、同じ制服を着ている人でごっちゃ返しにされていく。
「怖くなかったのですか」「すごいです!」「やっぱり男性なんてゴミですわよね!」「男爆ぜろ!?」………など色々な声が飛び交うが、最後の2つはおかしいでしょ! どれだけ、男キライなんだよ。
「もう買い物できる状態じゃないね!」
そうですね。早くお家に帰りたいです。ドラマ風に「実家に帰らせていただきます」と寮に戻らずに実家に帰ってもいいですか? あ、ダメ? それだとここで物語が終わっちゃう? えっ、幸菜に報告するって? それは勘弁してください……
タジタジしっぱなしな俺を、1人の少女は楽しそうに笑い、手首に巻かれているブレスレットを、力を入れてしまったら壊れてしまうガラス細工でも触るように。2人の秘密になるように包み込み、もう1度、笑ってみるのだった……。
このままテラスにいると他のお客さんの迷惑になってしまうと、4人の意見が一致したので、俺と雛子ちゃんは、注文したホットコーヒーとアップルティーを出来るだけ早く飲み干し、会計を済ませ(ここは、俺となぎさの割り勘←ここ重要)、足早に退散を決め込んだ。
バスの中では、さすがに運転中のため、詰め寄ってはこない。その代わり、聞き耳を立てる人や目をキラキラさせて尊敬の眼差しを送ってくる人などがいるため、俺は終始無言でここを乗り切る。
そうして、寮にまで戻ってきたのだったが、寮に入った瞬間「キャー!?」っと待ち伏せしていたように、ドサっと人の波が押し寄せてくる。
「な、なぎさ助けて!」
「え? ムリ♪」
ムリとかやめて! 10人とかならともかく、有名人が緊急凱旋してくるからと、空港で待ち伏せしているサクラの人ぐらい多い。冗談抜きでね!
これは覚悟を決めるしかないかな? どんな覚悟? 決まっているじゃないか。ハーレ……そんなエンドを迎えてみたいものです。
「立花様こちらへ」
小さな手が俺の手を握り、走り出す。
「雛子ちゃんどこにいくの!」
「いいからこちらへです」とあまり速くないので、引き離しは出来ないものの、近づいてもこれない速度を保ちながら、高等部の寮と同じ造りをした建物に突撃する。
そこは中等部の寮で、走りながら入ってくる俺と雛子ちゃんに、驚きこっちを見てくる子もいるけど、雛子ちゃんはそれを知ってか知らずか、そのまま階段を上っていく。
「ごめんなさいですよー!」「通りますよー」っと声を出し、3階まで走ると、305と書かれた部屋に飛び込む。
肩で息をするほど、走ったので少しこのまま休憩。
休憩しながら部屋を見回す。猫のぬいぐるみ・猫のぬいぐるみ・猫のぬいぐるみ……ホントに猫好きなんだね。他にも本棚には、小説や参考書、そして猫の写真集。机の上には、教科書、デジタルフォトフレーム(猫の画像)もあったりする。
そんな猫尽くしな部屋も、綺麗に整理されており、きちんとアンティークとして機能している。
「そんなにジロジロ見られると恥ずかしいのです……」
「ごめんなさい。ここが雛子ちゃんの部屋なのね」
息を整えた雛子ちゃんが靴を脱いで入っていき「どうぞなのです」とスリッパを出してくれる。
そのまま雛子ちゃんは、小さな備え付けのキッチンに歩いていき、ポットを火にかけ、コップを2つ用意して、座布団を2つ用意する。
用意された座布団に座り、雛子ちゃんの姿を追う。
手馴れた手つきで、コーヒーミルに豆を入れ、豆を挽き、ペーパードリップに挽いた豆を入れ、沸騰したお湯を少し冷ましてから、ドリップに注ぎ込む。ドリップからコーヒーが流れ出てくる。それをサーバーで受け、ドリップホルダーを外し、カップに注いでいく。それをトレーに乗せてテーブルにソーサーと一緒に置いてくれる。
「今日のお礼なのです」
丁寧に出されたのはいいけど、俺……礼儀作法がわかりません。こんな時に、身分の違いが出てくるとは。
今度、楓お姉様にでも礼儀作法を教えてもらおう。やっぱヤメ。だって礼儀作法じゃなくて、服従されてしまいそうだし。
どうすればいいのか迷っていると
「礼儀作法など気にせずですよ」
と言ってくれたので、カップを持ち、そのまま口に運ぶ。
「おいしい……とってもおいしい!」
いつもは、インスタントコーヒーか缶コーヒーなので、豆からのコーヒーは初めてだった。なんと言うか甘い。砂糖を入れた甘みではなくて、どちらかと言えばフルーティーな甘みで、苦味がとても少ないので、いつもはクリープを入れるのだけどブラックでも十分においしい。
「喜んでもらえてよかったです」
雛子ちゃんはニコっと笑顔で見つめてきてくれる。
妹がいるのってこういう感じなのかな? 幸菜って妹にしては、しっかりし過ぎていて妹と言うより姉に近いんだよな。生まれたのが、先だっただけで兄になってしまったしね。
だから、そんな雛子ちゃんを見ていると新鮮な気持ちになる。
笑顔を見ているだけで、嬉しい気持ちになってしまう俺がいる。
「ねぇ雛子ちゃん。私のこと、幸菜って呼んでくれないかしら?」
『立花様』って言われるのが嫌だった。
『立花様』って他人行儀で言われるのが嫌だった。
『立花様』って言われるのは他の人間だけどいいと思った。
「わかりました。幸菜様……」
少し照れたように、『幸菜』と読んでくれた。ここでの呼び名が幸菜に変わったのは、素直に嬉しかった。だから「ありがとう」っと答えた。
「雛だけでは、不満です! 幸菜様も雛のことを『雛』とお呼び下さい」
「ちゃんと呼んでるよ? 雛子ちゃん」
「それです! 雛子ちゃんではなくて、呼び捨てがいいのです」
むすっとする雛子ちゃんがものすごく可愛いから、もう少しこのままでもいいですか! やっぱりこの子は萌えのなんたるかを熟知しておる。
でも少し、恥ずかしいな。俺の心が燃えるように熱い……萌えるように熱い。
だけど、ここは年上としての威厳を見せないといけないな。うん。
「ひ、雛……」
言った。言ってやった!
クスクス……って雛が笑う。なんか顔にでも付いてる? いや、なにも食べてないし、コーヒーを飲んだだけだよ? なにがおかしいの?
「ご、ごめんなさいです……だって!」
と雛がスマホを、俺に渡してくる『雛って呼ばせたら面白いものが見れるよ♪』となぎさからのメールが映し出されている。
あの尼がぁああああああああああああああああ
絶対に後で、仕返ししてやるからな!?
「でも雛って呼んでもらえたの、嬉しいのです」
雛はもう1度、笑顔見せてくれる。だから笑顔で答える。
「私も幸菜って呼んでもらえて嬉しいよ」
今日、初めて出会った少女に俺は、親しみを感じた。幸菜とは違う感情を感じた。それが愛情なのか、友情なのかはわからないけど、特別な感情を抱いた……
なぎさには殺意が芽生えたのは言うまでもないこと。擽りの刑に処すのは決定したよ。
それから、もう少しだけお話をした。
兄妹はいるの? とか、学校の事とか。そうしてわかったのは、雛にはお姉さまがいないって事。中等部の3年生にしては珍しいらしい、なぎさと凛ちゃんの姉妹は部活動の先輩・後輩の関係から姉妹へと言うよくあるパターン。
だけど、雛は部活に所属さず、役員職にも就いていないので、お姉さまと仲良くなる、きっかけがなかったらしい。それでもお姉さまから姉妹の告白は何回か受けている。すべて断っているとの事。「どうして?」と聞くと
「それはですね。親しくも無い方と姉妹の契りを結ぶのは、失礼だと思います。しかし、お断りするとみなさん、離れていってしまいます……雛のほうから、 お話しようとすると「忙しいの」と言われてしまっては、雛から親しくできなくなってしまって、そのまま無かった事されてしまうのですよ」
その気持ちは少しわかるかもしれない。
告白して、「まずはお友達から」と言われたら、脈が無いんだなって思って気持ちが離れてしまう。それに近い気持ちになるんだろう。だからと言って、妹にしようとした子が話しかけてきたのだから、逃げなくてもいいじゃないか。と色々お話をして、雛がどんな子なのかはわかってもらえたと思う。ちょっと古臭い感じの子。それを知っていれば、少しは分かり合えたのかもしれない。
そして17時ぐらいを時計の針が指しているので、俺は雛の部屋を後にする事にした。もうすぐ夕食の時間なので、シャワーを浴びて、部屋着に着替えるぐらいはしたかった。
寮まで、まるで映画の中でのワンシーン(不倫している夫を尾行している妻の役)のように、壁に背中を付け、誰も居ないか確認、そして移動を繰り返して、やっと部屋にまで戻ってきた。
鍵を鍵穴に入れる。ちょっといやらしい気分になるよね? ロックを解除……あれ? 鍵開いているんだけど……
閉め忘れたのかな。ま、いいか。取られるものはなにもないしね。
躊躇いもなくドアを開け、ドアを閉める。
部屋の番号609号室を確認。うん。俺の部屋だよな。
もう1度、ドアを開ける。
「お邪魔してるわよ」
「ほかへり~」
なんで楓お姉様となぎさが俺の部屋にいるんだろう。しかもなぎさ、俺のお菓子食べながらライトノベル読んでるし。ポテチを手で食べてライトノベル触るなよ。ポテチ食べるときは、割り箸で摘んで食べようね! そうしたら手が汚れないし、そのままゴミ箱にポイ♪ 出来ちゃうからね。
「どうして、お姉様となぎさがいるんだよ! それになぎさはポテチ食べた手でライトノベル触らないで! 汚れるから!?」
「ゆきなはぶつくさうるさいなぁ~」
いや、ライトノベル読んでる人なら、このくらいは普通にやってる事だから。と言うかなんで二人は俺の部屋にいるんだよ。いかにも自分の部屋ですよって感じでくつろいでるし……
もっと穏やかな学院生活を送るはずだったのにどうしてこうなってしまったんだろう。
「あなたが男だってバレるような事するから、こうなったのよ?」
「俺の心を読まないでください!」
もう開き直らないとやっていけない。それだったら、どうにでもなってしまえばいい。
俺はウィッグを取って、制服を脱いでいく。上着のブレザーのボタンを外して、まず1枚目、カッターシャツをぬ
「「脱ぐなぁああああああああ」」
お、ハモった。楓お姉さまなんて、いつものお嬢さま言葉じゃない。これはちょっといいものが見れた。
「それだから、あなたはすぐポカをして、男だってバレてしまうのよ」
真っ赤な顔をして、反論している楓お姉さまがかわいいです。ものすごくかわいいです。もっといたずらしたくなります! でもやりすぎると後が怖いので、自重しておきます。
俺にもっと、度胸があればよかったんだけど、そんな度胸は夢の中でしか発揮されませんよ。
「だったら出て行ってくださいよ。シャワー浴びたいんですから」
そんな願いは叶えられるわけがないのは知ってるよ。俺は、この2人に逆らえないのだから……
「だったらその前に、これを着けなさい」
楓お姉様の後ろに置かれていた紙袋を渡される。恐る恐る紙袋の中身を確認すると、ウィッグが入っていた。
それを手に取って確認するけど、変わっているのはネットがないところぐらいか。これをどうするのだろう。
とりあえず、頭に被ってみる。俺の頭のサイズに作られているかのようなフィット感に、いままで被っていたものとはやっぱり違うな。
いつの間にか(気配がなかった)、俺の後ろに来ていた楓お姉さまがブラシで髪の毛を梳かしてくれる。なんだろう、このウィッグが頭皮に一体と言うか馴染む感覚と言うか……
クイッ!
楓お姉様がウィッグを引っ張る。本来ならウィッグが脱げるだけなのだけど、頭皮ごと引っ張られる。だからウィッグが外れない。
「このウィッグは花園グループがまだ開発中の代物よ。頭皮と一体化するようになっていて、外すには専用のシャンプーがないと外れない仕組み」
「すごいですね。で? その外すシャンプーはどちらに?」
………
………………
………………………
「なぎさ、もうすぐ夕食だわ」
「そうですね。準備してきま~す」
「ちょっと待って! それじゃぁ脱げないじゃない!? それになぎさは擽りの刑があるんだから逃げるなぁ~! 雛になんてメールしてるんだよ!!!」
どうして、この2人は息ぴったりなんだよ。それにまだ部屋にどうやって入ったのか聞いてないんだよ。それぐらい答えてもいいじゃないか!
部屋に入っていた理由? そんなの簡単なことですよ。合鍵作られてま・し・た♪
この学院の生徒会長さんは、一度だけしか入っていない可愛い後輩の部屋の合鍵の場所を、瞬時に見抜くスキルをお持ちのようで、生徒会長をやめて泥棒にでもなったほうがいいかもしれない。もしかしたらルパ○四世として名を馳せるかもしれない……。
それはそれで俺はとっつぁんの役回りになりそうなので、ぜひともやめて頂きたい。
仕方なく、部屋の主はシャワールームで制服から部屋着に着替える。
2人とも部屋着なので、そのまま夕食に向かう事になったのだけど、軽くお喋りしながら食堂に着くと雛が扉の前にいたのだ。
「幸菜様、花園様、なぎさお姉さま、こんばんはなのです。もしよろしければご一緒してもよろしいですか?」
「いいけど、言ってくれたら待たせる事なかったのに」
こっちとしては待たせて悪いな……と思っているのに雛は、「待つのも楽しいものなのですよ」となぜか上機嫌。
女の子の気持ちって言うのは、明日がどうなっているかわからないのと同じぐらいわからないものである。
そう。この食堂に足を踏み入れた瞬間も同じ気持ちを味わう事となった。
女の子の群れが押し寄せてきたのだ! 俺を見て「獲物が来ましたわ」とライオンさんの群れの前にヌーが1匹いるような状態で、賢いライオンさんは仲間同士で獲物を囲い、逃げられないように威嚇する。そして、誰が一番に噛み付くのかを、アイコンタクトで「私は2番手でいくわ」「だったら私が2番手を」「なにを言ってるの! 私が2番手よ」と誰も一番に噛み付く勇気がないので、獲物であるヌーは、蛇に睨まれた蛙の状態で固まることしかできない。
ただし、誰か1人が噛み付けば、臆病だった他のライオンさん達も噛み付いてくる。
「今日のショッピングモールの出来事……かっこよかったです!」
1人の少女が俺に声をかけてきた。
「ありがとう?」
と言う返答でよかったのか、不思議だけど、一応は返事をしておく。だって『かっこいい』って言われたんだもん! 生まれて15年と何ヶ月になるのか、わからないけど『かっこいい』なんて言われたのって初めてだったりするのだから、嬉しくないわけがないではないか。
「鼻の下伸びてるわよ」
楓お姉様の一言に反論をしたい気持ちになったけど、実際に鼻の下が伸びていると言う自覚はあるから、反論のしようがない。
なんでこんなにも鼻の下が伸びるんだ……男の子だからです。ごめんなさい!
まぁ、鼻の下を伸ばしても事態が良くなる事など一切ないのは、ご存知の通りでそこから一気に雪崩のように、言葉なのか、罵声なのか、フランス語なのか、 わからない言語が飛び交っているが、生徒会長さんのお言葉は1万人、いや、10万人ぐらいの人間を震えさせるぐらいの力を持っている。
「うるさいわ……私の妹に馴れ馴れしく褒める(餌付けする)のはやめなさい」
(この中の言葉は心の声を、俺が読み取って変換しています)
周りの生徒達は、生徒会長に目を向けているんだけど、俺だけは心の声に耳を傾ける状況に楓お姉様の洗脳はここまで進んでいるのか。これは重症かもしれない。いや、これが重症なら、もしこのまま症状が進んで行ってしまったら、どうなってしまうのだろうか?
未来の事は明後日にでも捨てておいて、現在の状況を打開しないとこのままでは、夕食が食べれないじゃないか。今日は日本食と決めているし、お昼の事もあって、結構、お腹がすいているのである。
そして、事態は動き出す……
バタン! キュー…… と倒れていく生徒達。なにがあったのだろうか。
「あなた達はいい子よね? だったらそこ、開けて頂けないかしら?」
そういう事なのね! ファン投票1位の花園楓が罵るとM属性の生徒達が次々と倒れていったのか。そして、今度は褒められたい生徒達が食堂までの道を開けているのか。
さすが俺のお姉さま、人を使うのだけはうまいね!
ぼぉーっと状況を見ていた。なぎさと雛は2人してこういうのだった。
「生徒会長……めっちゃブラックだよね」
「高等部では、日常なのですか……」
白いお姉様を見た事って1度あるかないかだけだけど? それに雛、これが日常だったら1週間後には、この学園を飛び出しているよ!




