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【プロローグ】:君の声
『助けて、欲しいの……』
懐かしい、愛しい人の声。
思わず僕は、カセットテープを停止させた。
小さなカセットの中に、愛しい人の声。
「……なんで……」
再生のボタンを恐る恐る押す。
しっかりと両手でテープレコーダーを握り締めながら。
『……真っ暗なの。何も、見えないの。大好きだった和也の顔も、声も届かないの。――なんでかなぁ? あたしが、駄目な女だからかなぁ』
涙交じりの震える声で、彼女は言う。
涙交じりの声なのに、必死に冷静を装っている彼女が目に浮かぶ。
――僕が初めて、愛した人。……弱くて強い、愛しい人。
「……なんで、此処に? ――なんで此処に、こんなもんがあんだよっ!」
近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。
何にあたっても、心は晴れないような気がした。
「なんで……っ、何で、此処に!」
体を支える力が、抜けていく。頬を冷たい涙が、通過していた。
『和也』
――嗚呼、愛しい彼女の声
『大好き』
――僕が初めて、愛した人
……二度と、好きとは言ってくれない……愛しい女。