ロキシー王女の日記
本編の「神さまは世界を観察したい」をロキシー王女の視点で短編にしてみました
本編ではあまり語られていない恋愛に絞って書いています
「ロキシー王女の日記」はじまります
…バートン王国
ここはスミス・バートンを王に頂く王国です
東には隣国チロリア王国、西には深緑の森に挟まれた緑豊かな国です
広大な面積を誇る深緑の森には、深緑竜さまと呼ばれるドラゴンが住んでいると言い伝えられています
伝説によれば深緑竜さまは、かつて深緑の森を焼き尽くし支配しようと森に攻め入った国を、一晩のうちに焼き尽くし滅ぼしたと言われています
ただ現在はその存在は確認されていません
そんな深緑の森とバートン王国が存在している大陸は広大な面積を誇ります
その割に隣国と合わせても、それほど人口は過密ではありません
よって領土を取り合う争いなどはなく、チロリア王国とは概ね良好な関係を築いています
私はそのバートン王国に第2王女として生まれたロキシーです
私には第1王女のお姉様がいますが、既に他国の王家に嫁いでおります
そのせいか、お父様は私に対してやや過保護なところがあり、ちょっと困っています
それでも15歳になった私にも、少しずつ公務に関わらせてくれるようになってきました
今はその公務の一環である地方領土に赴き、領土の視察と領主様主催の夜会に出席してきた帰り道です
もっとも公務と言っても、顔見せが主たる御役目でしょうか
帰りの馬車の中で、私は自身の日記帳を眺めながら侍女と雑談を交わしていました
「正直疲れました……」
最近の日記には、視察の愚痴ばかりが書かれています
出発前の希望に満ちた私からは酷い変わり様です
「公務お疲れ様でした。」
侍女はそう言いますが、あれは公務なのでしようか?
「何というか……お見合いの話ばかり聞かされていたような気がするのですが……。」
私がそう言うと侍女は
「それも立派な公務です。」
と言い切ります
「本当にそうなのでしょうか……」
私は深い溜息をつきました
視察は領土の特産品についての説明や魔獣への対応など、それらしい内容をこなし意義あるものと感じました
しかし夜会は次々と紹介される殿方、その方々と順次行われるダンス、そしてお見合いの申し出の数々……と、もはや流れ作業でした
「お姉様もこのような苦行を乗り越えて嫁いだのかしら。」
侍女は可笑しそうに笑いました
「まだ地方の視察は始まったばかりですよ。これから他の領地にも回るわけですから覚悟してくださいまし。」
そう言ってまた笑いました
私は少々不貞腐れてしまいました
馬車は深緑の森の脇を通る街道を走っています
深緑の森
深緑竜さまが支配していると言われている広大な森
私は侍女に聞きました
「深緑竜さまって本当にいるのかしら?」
「伝承ではいろいろと記録がありますね。ただ実在するかを確認するのは中々困難ですわね。」
深緑竜さまは森の奥深くに住んでいると言われています
侍女の言う通り確認は難しいでしょう
突然馬車が止まりました
外では何やら護衛の騎士達が指示を出しているようです
「何かあったのでしょうか?」
私は不安を覚えました
「ひとまず落ち着いて護衛の報告を待ちましょう。」
そう言う侍女も不安顔です
しかし待てども護衛からの報告はありません
痺れを切らした私はカーテンをめくり外の様子を伺いました
目にしたのはたくさんの大きな魔獣の姿でした
窓からは正確な数は分かりませんが、大きな狼のような魔獣が何匹も見えたのです
話には聞かされていました
森の近くでは魔獣が出てくることがある……と
でも聞くと見るのとは大違いでした
私は怖くなり震えてしまいます
しかし私は王女
いかなる時も気を確かにしていなくてはなりません
私は冷静さを装い侍女に言いました
「こうなる事態も想定しての多めに用意した護衛です。大丈夫です。」
「そうですね。勇敢な護衛が守ってくれています。心配はありません。」
侍女も平静を装い言いました
しばらくすると馬車は動き出しました
来た方角に戻るようです
後方では護衛の騎士たちが魔獣と戦っています
馬車には3人の護衛が付いてきてくれています
私は魔獣と戦う為に残ってくれた護衛の騎士達の無事を祈るばかりでした
しかし事態はこれだけで収まりませんでした
戻った道を塞ぐように、さらに魔獣が現れたのです
「待ち伏せ!?」
これ程の大きな魔獣が連携を取り襲ってくるという話は聞いたことがありませんでした
それでも3人の護衛達は勇敢に戦い、私達の馬車を守ってくれています
叫びたくなるのを我慢して、私は皆の無事を祈りました
「神さま……どうか……どうか私たちをお守りください。」
しかし事態はさらに悪化します
先程逃げてきた方角から数匹の魔獣がやってきました
最初の襲撃場所からやってきた魔獣のようです
護衛を突破してきたのか………
護衛が全滅してしまったのか……
その魔獣は護衛のいない私達の馬車に襲いかかりました
私達の馬車は堅牢な作りをしてます
簡単なことでは壊れません
とはいえ大型の魔獣の攻撃にいつまでも耐えられるわけでもありません
私は叫び声を上げることはなかったのですが、恐怖で涙し侍女と抱き合い震えていました
「神さま!神さま!どうかお助けください!」
何故か外が静かになりました
私は恐る恐る外を見ます
何故か魔獣達は馬車の前方を見て威嚇しているようです
護衛達……ではないようです
さらにその前方……
そこには1台の馬車がいました
魔獣達はその馬車を……何故か恐れているように見えます
その馬車は普通の馬車……いや、私と同じぐらいの歳に見える男の子が笑顔で立っています
たくさんの魔獣に睨まれているのに笑っています
恐怖で頭がおかしくなってしまったのでしょうか?
しかし魔獣達はその笑顔の男の子を威嚇しています
護衛達はこれを好機と捉えたのでしょう
静かに……とても静かに、魔獣達に気が付かれないように馬車を後退させました
「それではあの人が犠牲になってしまう!」
そう思いました
思ったのですが……言葉に出ませんでした
私は怖かったのです
逃げたかったのです
結果、あの人が犠牲になったとしても……
私達は危機を脱しました
あの笑顔の男の子を囮にして……
私は王女
その王女が民を犠牲にして逃げました
世間はそれが正しいと言うでしょう
でも私は自分自身が許せませんでした
自分の無力さが許せませんでした
自分の心の弱さが許せませんでした
「あああぁーーー!」
逃げる傷だらけの馬車の中で、私は大声で泣き叫びました
「人を見殺しに!私と同じぐらいの歳の!囮にして逃げた!守るべき民を!グググアアーー!」
もはや王女でも何者でもありません
狂ったように暴れ泣き叫びました
「王女さまのせいではありません!どうしよもなかったのです!」
侍女が私を抱きしめました
侍女も泣き叫んでいます
堅牢なはずの馬車は傷だらけ
護衛にも犠牲者が出ました
それでもなんとか私達は王都に到着しました
門兵は近付いてくる馬車を見て絶句しました
魔獣に襲われたのか傷だらけでした
そして疲弊した護衛の騎士
ただならぬ状況を察した門兵は、王城に応援を呼ぶよう兵士を走らせました
そして護衛の騎士に事態を聞きました
「その馬車は王家の馬車とお見受けする。いったい何があったのですか……それよりも要人はご無事でしょうか!?」
すると騎兵は力なく答えました
「馬車の要人はロキシー第2王女である。魔獣どもに襲撃を受けたが王女は無事だ。だが……かなりお疲れの様子。いち早く王城へお戻りいただきたい。」
すると門兵は了解の意を示し兵士を集めました
「王城まで道を開けよ!馬車を先導せよ!」
兵士はキビキビと行動しました
馬車は王城に向けて走ります
王都の人々は皆驚き道を開けました
そして馬車は王城へと到着しました
門兵が緊急事態を叫びながら王城に走ってきました
「視察に出ておりましたロキシー王女が戻ってきましたが魔獣に襲われた様子!護衛にも死傷者が出ております!急ぎお出迎えの準備を!!」
一気に城内が慌ただしくなりました
それはそうです
王女の馬車が魔獣に襲われたのです
しかもスミス王が溺愛するロキシー王女
たまたま城内にいたノルディカ副騎士団長は声を上げました
「ロキシー王女には私が対応する!皆は落ち着き自らの任務を果たせ!」
このひと言で、城内にいた全ての人々が落ち着きを取り戻し行動しました
ノルディカ副騎士団長
エルフの女性騎士
その容姿はとても美しいのですがバートン王国最強の騎士と言われており、猛獣のような眼光で睨まれると誰しも恐怖で身動きできなくなる恐ろしい戦闘狂
しかしとても優しい面もあり、ロキシー王女が心許せる数少ない人物です
そのノルディカ副騎士団長が王城に到着した馬車を出迎えました
ノルディカは驚きました
王女が乗っている馬車は堅牢な作りで敵襲を受けても跳ね返す程の鉄壁の守備力を誇ります
それが傷だらけになって戻ってきました
ただ王女は無事と聞いているのでノルディカは平静を装いました
「ロキシー王女。ノルディカです。」
そう声をかけて扉を開けました
馬車の中には今まで見たことのない王女の姿がありました
そこには王女の顔ではなく、ただ泣きじゃくる少女がいました
侍女も王女の涙を拭いながら涙を流していました
普段の凛とした姿の王女とは思えない様子にノルディカは狼狽しました
「いったい……何があった……」
ノルディカに気が付いた王女は彼女に抱きつき泣きながら懺悔のように言いました
「私は……私は……少年を囮に……少年を見殺しに……私は王女でありながら最低の行動を……」
「王女様のせいではありません!どうしようもなかったのです!」
侍女は取り乱しながらも王女を擁護します
修羅場だ……
傷だらけの馬車
取り乱す王女と侍女
ただならぬ事があった事だけはわかりました
今はとにかく王女を休ませなくては
そう思いノルディカは王女の肩を抱き王城の中に連れていきました
王女を城内で待機していた侍女達に引き継ぎ、ノルディカは同行していた護衛に話を聞くことにしました
「王女のあの狼狽ぶり、只事ではないな。いったい何があったのだ。」
護衛の騎士は状況を話しました
「視察を無事終え王都に向かっている途中でした。森の街道を進んでいるところで巨大な狼の魔獣の群れに襲撃を受けました。二手に分かれ一方はその場で魔獣を食い止め、一方は撤退する馬車の護衛を。すると魔獣どもは連携しており別の魔獣の群れが襲撃してきました。」
見れば護衛の騎士も魔獣との争いで傷だらけです
ノルディカはゴクリと喉を鳴らしました
「なんとか踏み止まっていたのですが、最初襲撃してきた魔獣が護衛を突破し後ろから襲ってきました。その魔獣どもが馬車を襲い始めた時です。行商人と思われる男性と少年らしき者が現れまして。どういう訳か全ての魔獣どもがその少年に敵意を向けたのです。魔獣が行商人に敵意を向けている間に私たちは逃げました。行商人を囮にして……。騎士にあるまじき行動でした……。」
護衛の騎士は力なく項垂れました
「その行商人たちがどうなったかはわからないか?なにか特徴とかはなかったか?」
ノルディカは何か手掛かりがあればと護衛に聞きます
おそらく行商人を囮にして逃げた自分を王女は許せなかったのでしょう
せめてその行商人がどうなったかを把握したいとノルディカは考えました
「あの魔獣の数です。恐らく……だめでしょう……少年……少女にも見えるような中性的な子供でした。あのような状況でもニコニコとしていましたが……」
護衛の騎士は悔しそうな表情です
が、ノルディカは何か引っかかりました
ニコニコした中性的な子供
ひとりの少年の姿がノルディカの脳裏に浮かびました
その少年はノルディカの全力の攻撃をものともしない人間とは思えない力を持っていました
「……名前などは言ってなかったか?」
「いえ、そこまでは……」
「そうか……すまない。今のは気にしないでくれ。まずはゆっくり休んでくれ。ご苦労だった。」
ノルディカはその場を後にします
「……まさかな。だが彼であったなら魔獣ごとき敵でもないだろう。もしもそうであったのなら王女の心も晴れるのだろうが……」
僅かな期待を胸にしまいノルディカは報告のため王のもとに向かうのでした
スミス王の執務室にノルディカは赴きました
「失礼します。ノルディカです。」
そこには国王ではなく、ひとりの父親として娘を心配し右往左往しているスミス王がいました
「おお!ノルディカ!娘は!ロキシー王女の様子はどうだ?」
スミス王には既にロキシー王女の乗った馬車が魔獣に襲われた事は伝わっています
「はい。怪我などはしておりませんが……かなり精神的に参っているようです。今は入浴と着替えを済ませ寝室で横になっております。」
ノルディカは現状を報告しました
「そうか……ひとまず無事で良かった……。」
スミス王は娘の無事を聞くと、デスクの椅子にドカリと身を投げ出しました
「精神的的に参っている……との事だがやはり魔物に襲われた恐怖からくるものか?」
スミス王の問にノルディカは答えました
「もちろんそれもあります。しかし理由は別のところにあるようです。」
「別の理由……だと?」
「はい。王女の乗る馬車が魔獣どもに襲われ危機的な状況の中、1台の行商人と思われる馬車が現れたとのことです。」
スミス王は続きを即します
「その馬車にはロキシー王女と同年代と思われる少年が乗っており、何故か魔獣どもがその少年を一斉に警戒し動きを止めたそうです。その隙を伺って護衛達は馬車を静かに後退させその場を立ち去ったそうです。」
スミス王は驚きました
「なんと……そのような事が……してその行商人はどうなったのだ?」
「はい。どうやらその少年が王女の馬車が逃げ切るまで魔獣どもを引きつけていたようで、無事に逃げ切った護衛達はその後行商人達がどうなったのかまで確認していないとのことです。王女は自分達が助かる為に少年を囮にしたことに心を痛めてしまいました。」
「……何ということだ……心優しいロキシーの事だ。絶望してしまったのだろう。報告ありがとう。ノルディカよ。ロキシーはそなたを信頼している。今しばらく側に付いていてくれ。」
そう言うとスミス王は項垂れてしまいました
「わかりました。」
それだけ言うとノルディカはロキシー王女の元に向かうのでした
王女の寝室の前で深呼吸をしたあとノルディカはドアをノックしました
「失礼します。ノルディカです。」
しばらくすると王女のお世話をしていた侍女がドアを開けてくれました
侍女も王女に寄り添い涙したようで目が赤くなっています
「王女の具合はどうだ?」
静かにノルディカは聞きました
「ひとまず落ち着いてはいますが……心ここにあらずといった感じです。お食事も取られておりません。」
目を赤くした侍女が答えました
「わかった。ありがとう。貴方も少し休むといい。」
そう言ってノルディカは王女の元に向かいました
ベッドに横になる王女は、まるで廃人のように目は虚ろで顔色は真っ白でした
ノルディカは優しく声をかけます
「王女。ご加減はいかがかですか?」
ノルディカの問い掛けにロキシー王女は虚ろな目を目そちらに向けたかと思うと再び涙を流しました
「私は取り返しのつかないことをしてしまいました。何が王女でしょうか……このような情けないものが王女を名乗る資格などありません……。」
目の前にいるのは確かに王女です
しかしそれ以前に15歳になったばかりの少女なのです
その少女に課せられた何という重責でしょうか
私は横になった王女の頭を抱えました
「貴方だけの責任ではありません。魔獣に対してもっと警戒をしなくてはならなかったのにそれを怠った私達にも責任があります。どうか全てをひとりでお抱えにならないでください。」
しばらくそうしていると王女は疲れ切ったのか静かに寝息を立て始めました
疲弊し、やつれた少女
ノルディカは唇を噛み締めました
そして侍女に後のことを頼み退室しました
「まだ15歳の少女に何という仕打ちなのだ……。」
ノルディカは王への説明と王女の寝室に行っていたため外に夕食を食べに行く時間が無くなってしまいました
仕方がなく普段はあまり利用していない王城の食堂に向かう事にしました
じつはノルディカが王城の食堂に行くと、他の兵士が委縮してしまうので普段は外食にしているのです
とは言え今は仕方なく食堂に入り、食事を受け取って空いている席に着くと業務を終えた兵士の話声が聞こえてきました
「ん?あいつは確か王女が帰ってきたときに門兵をしていた者だな。」
そう思っていると気になる……いや、かなり気になる会話が聞こえてきました
「いや、凄かったんだって。馬車いっぱいに巨大な狼の魔獣が山積みだぞ。しかも氷魔法で氷漬けにして。魔獣にもびっくりだけど、それだけの氷魔法が使えるなら魔法師団でもやっていけるだろうにねぇー」
「……おまえ……その話、詳しく聞かせてもらえるか?」
ノルディカは、はやる気持ちを抑えて兵士に尋ねました
猛獣の眼光をしたノルディカの前に、若い兵士は一瞬固まってしまいましたが向き直り姿勢を正しました
「食事中に邪魔をしてすまないな。先程の話していたことについて詳しく教えてくれないか。」
ノルディカの質問に兵士は緊張しながら答えます
「は!じつは王女が帰還した後、しばらくして若い男性と少年の行商人が入ってきまして。それが巨大な狼の魔獣を凍らせた状態で大量に運び込んできたのです。なんでも王都に向かっている途中で襲われたので倒したそうで。せっかくだから持っていって売るつもりで運んできたと言っていました。」
ノルディカは鼓動が速くなるのを感じました
「その者たちは名乗ってはいなかったか?」
兵士は言いました
「少年は金の身分証を持っていました。プレートにはタイヨーと書いてありました。」
その返答にこみ上げる思いを押し殺しながら、ノルディカは食堂中に聞こえるように指令を出しました
「全員聞け!今から緊急重要案件の指令を出す!王都にタイヨーという少年が来ているはずだ!見た目は少女にも見える中性的な少年だ!彼は本日帰還した王女の窮地を救った可能性がある。是非見つけ出してほしい!」
このようなノルディカ副騎士団長の行動は誰も見たことが無く驚きました
そして指令は続きます
「ただ彼はとんでもなく強い。絶対に敵対するな!丁重に……必ず丁重に対応してくれ!彼を見つけたら即、私に報告しろ!私はここで待機している!とにかく情報が欲しい!よろしく頼む!」
「「「はっ!」」」
前例のない突然のノルディカの指令でしたが、そこにいた兵士全員が力強く答えました
ノルディカはかつてない興奮にジッとしていることが出来ませんでした
やってくれた!タイヨー君が!
森の管理者である精霊様の弟子!私の攻撃が通用しない少年!
早く会いたい!早く確認したい!
そして王女の命の恩人がぜひ彼であってほしい!
しばらくすると該当する行商人らしき人物が店で食事をしているという報告が入りました
ノルディカははやる気持ちを抑え、きわめて冷静を装いその店に向かいました
食事中のタイヨー君とジロさん
2人は今日の出来事を話していました
「あの大きな馬車の人達は無事逃げられたのかな?」
「どうだろうねぇ。見た感じでは馬車の中までは被害を受けてはいなそうだったけどね。」
2人は今日の出来事を話しながら食事をしていると、何やら店の入り口の方が騒がしくなりました
そちらを見ると何やら見覚えのある人が……
ノルディカはタイヨー君を見つけた途端、凶暴な猛獣が獲物を見つけたような鋭い眼光と笑みを浮かべました
そしてその猛獣はタイヨー君のところに向かって一直線
他のお客さんがササーッと道を開けます
「やぁタイヨー君、こんなところで偶然だな。」
「いやいや、とても偶然とは思えない登場ですよ?いったいどうしたのですか?今日は誰とも揉め事は起こしていませんよ?」
「心配無用だ。せっかくの偶然の再開だからな、ちょっと話がしたいだけだよ。でもそうだな、少し店を騒がしくしてしまったな。店を変えようか。ジロさんも是非ついてきてください。」
ノルディカはそう言って用意した馬車に2人を乗せ店を出ました
店を変えようか……と言いながらノルディカと2人を乗せた馬車は王城へと入っていきました
ロキシー王女は寝室で目を覚ましました
目を覚ましたからと言って起きた事実は夢ではありません
再び襲いかかる罪悪感にロキシー王女は涙を零します
ロキシー王女は今感じているこの気持ちをこれからも背負い続けなければいけないと思いました
決して忘れてしまわないよう日記に記しておくことにしました
侍女に日記帳と筆記用具を取ってもらいページを開きます
ロキシー王女は思い出します
視察の帰り道で魔獣に襲われた事
護衛の騎士達が戦うも魔獣の爪と牙は馬車を傷付けていった事
そこに現れた自分と同じ年頃の男の子を囮にして逃げ出した事……
ありのままを記していきます
日記帳にポタポタと涙を落としながら
やがて書き終わったロキシー王女は嗚咽を漏らし再び泣き崩れました
そこに父親の顔をしたスミス王が現れました
泣き崩れているロキシー王女を優しく抱きしめ囁きました
「つらい思いをさせてしまったな。しかしロキシーに会ってもらいたい人がいる。すまないが少しだけ時間をくれないか。」
そう言ってロキシー王女を静かに抱き起こし優しく支えながら2人は会議室へと向かいました
違う店……と言われながら王城の会議室に到着したちょっと不機嫌なタイヨー君と、それを見て苦笑いのジロさん
「まぁそう不貞腐れないでくれ。じつはタイヨー君に一度会ってもらいたい人がいるのだ。人助けだと思って少し付き合ってくれ。」
そう言ってノルディカはタイヨー君に笑いかけました
しばらくして会議室のドアがノックされました
ドアが開かれ一同はそちらに目を向けました
そこに立つのはスミス王とロキシー王女
王女の顔は泣き疲れた様子でした
スミス王に抱きかかえるように、なんとか立ててる状態です
その光景にさすがのタイヨー君も理由がわからず動揺しています
スミス王は
「客人、待たせてすまなかった。」
と言って会議室に入るなりタイヨー君を見て驚いていました
「君はタイヨー君。そしてジロ殿ではないか。ノルディカよ、まさか彼達が?」
「はい。おそらくは。王女に確認していただかないと確かなことは言えませんが、彼等ならすべてに合点がいきますし、何より王女が救われるかと。」
ノルディカはそう言うと今にも倒れそうな王女のところに行き、日頃の彼女からは想像できない程の優しい声で話しかけました
「ロキシー王女。貴方を助けてくれたのはこの方々ではないですか?」
ノルディカに言われた王女は疲れ切った顔をあげ、力も光も消えた目をタイヨー君に向けました
ロキシー王女は泣き腫らして赤くなった目を大きく見広げました
そしてその目には少しずつ光が戻り、瞬く間に涙が溢れ出しました
「……あなたは……あなたですね……無事だった……私はあなたに謝罪を……よかった……ごめんなさい……本当に……」
ロキシー王女はそこまで言うと意識を失ってしまいました
ノルディカは慌ててロキシー王女を抱きかかえました
そしてタイヨー君に深く御礼を言いました
「ありがとう。君が……本当に君がその場にいてくれて良かった。君が助けてくれた馬車にはこのロキシー王女が乗っていたのだ。」
タイヨー君とジロさんは驚きました
「え!?あの魔獣達に襲われていた馬車は王女さまの馬車だったんですか!?」
そしてタイヨー君は安堵し言いました
「僕が通りかかったのは本当に偶然でした。ですが王女さまを助けることが出来て本当に良かったです。」
するとスミス王がタイヨー君の手を握り頭を下げました
「タイヨー君……本当にありがとう。君は娘の命の恩人だ。この恩は決して忘れないぞ。」
その表情はまさに父親のものでした
ノルディカはタイヨー君に頼みました
「タイヨー君。王女は君たちを囮にして逃げ出した事をとても悔やんでいるのだ。そして君たちを見殺しにして生き延びたと思い憔悴しきっているのだ。申し訳ないがもう少し王城に留まっていてはくれないか?ぜひ君の声で無事なことを伝えて元気づけてあげてほしい。」
「僕などでお役に立てるのなら喜んでお手伝いいたします。」
タイヨー君は微笑みながらそう言ってくれました
王女の寝室で……
どれほど時間が経ったでしょうか……
ロキシー王女は寝室で目を覚ましました
「私は……そう……ですね……夢を見ていたのですね……何という都合のよい夢を……」
私は自嘲気味に笑うと、ふと声が聞こえました
「お目覚めになられましたか?王女さま。」
とても心地のよい少年にも少女にも聞こえる優しい声
そこにはあの時見た、たくさんの狼の魔獣に睨まれていた男の子が、笑顔でこちらを見ていました
私が囮にして見捨てた男の子……
生きていました
確かに生きています
私は再び涙を流し嗚咽しながら彼に謝りました
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!私は貴方を囮にして逃げ出しました!」
飛び上がりそうな勢いで謝罪をする私をノルディカさんは優しく抱きかかえました
「王女、落ち着いてください。見ての通り彼は元気ですよ。謝罪をするのなら落ち着いてからするべきですよ。」
私は少し落ち着き、再び布団に横に寝かされました
「私は寝ているわけには……」
私がそう言おうとすると、彼も楽にしてくださいと言いました
「王女さま。落ち着いてください。僕は元気ですし怪我もしていませんよ。それに魔獣の敵意が僕に向くように仕向けたのは僕自身ですから。無事に馬車が逃げることができた事を知って僕も安堵しています。本当に無事で良かったです、王女さま。」
とニコニコしながら少年とも少女とも聞き取れる声で優しく言いました
私は顔が熱くなるのを感じました
ノルディカさんが話します
「王女は視察に行ってましたからご存じないのも当然ですね。王女が魔獣に襲われていた場所に少年が現れてくれたのはこの上ない幸運でした。彼は森の管理者であられる精霊様の護衛で弟子をしているタイヨー君です。かなり強いですよ。」
そう言ってタイヨー様と言う彼に笑顔を向けました
そんな凄い方が偶然通りかかったというのは本当に私は運が良かったのでしょう。
……通りかかった?
「失礼ですがタイヨー様はなぜ街道に馬車でおられたのですか?精霊様の護衛で弟子との事ですが。」
その事ですか……といいタイヨー様は話します
「僕は普段は精霊様の近くで勉強しているのですが、精霊様の勧めもあって時々行商人の方に同行して人間社会の勉強をしているのです。僕はずっと森で生活しているので精霊様が言うんですよ。常識知らずとか無知だとか。いくら師匠だからってひどいですよねー」
「ウフフ。そうですわね。ひどいですね。」
私は自然と笑いました
「そして怒るときは目を三角にして怒るんですよ。とっても怖いんです。」
震える振りをしておどけて言うタイヨー様に、私はさらに笑ってしまいました
ノルディカさんが私を見て驚いています
私自身も驚いています
こんな風に年相応の笑い方をしたのは何時振りでしょうか……
気付いた頃には私は王族である事を自覚していました
王族の一員であることを常に自分に言い聞かせてきました
たった今、ほんの少し会話を交わしただけです
私は何処かに置き忘れてきた時間を取り戻した気分になりました
だからでしょうか
タイヨー様は私が少し元気になった事を確認して安心すると、そろそろ退室する旨をノルディカさんに伝えました
その瞬間思わず私は言ってしまいました
「タイヨー様、またお会い出来ますでしょうか?」
と再会を願う言葉が口から出てしまいました
「王城ですからね、なかなか僕から会いに来るのは難しいでしょうが、きっとお会いできる機会もあるでしょう。その時は元気な姿でもっとたくさんお話しましょう。」
優しいタイヨー様の言葉に胸が熱くなるのがわかりました
そして退室するタイヨー様にノルディカさんが
「タイヨー君は金の身分証があるだろ。あれがあればかなり自由に王城に入れるぞ。」
「え?そうなの?初めて聞いたよ?」
と話しているのが聞こえました
静かになった寝室で、私は上体を起こし枕元に置いてあった日記帳を広げました
私は今の気持ちを記していきました
私が囮にしたタイヨー様が無事でいてくれたこと
無事に生きていてくれた事への喜び
しかしそれでも残る罪悪感……
日記に記しているうちに、とても複雑な感情が私の心の中に渦巻いていました
そして再び日記帳に涙を落としました
心に渦巻く複雑な感情
しかしその中から徐々に浮き上がる感情がありました
私はその自分に芽生えた感情と向き合いました
「これはタイヨー様への憧れでしょうか。」
目をつむり私はゆっくりと首を振ります
「いえ……違いますね。私は彼が……タイヨー様の事が好きになってしまったようです。」
そして再び日記に記します
私はもっと強くならなくてはいけない
タイヨー様の横に立つのに相応しい相手にならなくてはならないと
馬車の襲撃からしばらく経ちました
ロキシー王女は回復し元気を取り戻しました
時々タイヨー様の事を思い出してボーッとしてしまう事もあります
が、そのタイヨー様の存在もロキシー王女の回復を早めた大きな要因です
ロキシー王女が朝食を終えた頃、ノルディカさんが私のもとにやってきました
「タイヨー君が王都に来ており今から会いに行くのですが王女も一緒に行きますか?」
それを聞いてすぐに浮かれた気分になってしまいましたが平静を装い
「はい。ぜひご一緒させてください。」
と答えました
ノルディカさんはその様子を見て微笑んでいましたが気にしません
馬車を出してもらい王都の入り口まで行きました
私ははやる気持ちを抑えてタイヨー様がいると言う門兵の控え室に向かいました
控え室のドアを開けると驚いた顔をしたタイヨー様がいました
「タイヨー様!お久しぶりです!」
嬉しさのあまり声が大きくなってしまいました
恥ずかしい……
でも会えたことがとても嬉しかったのですから仕方がないのです
「これはロキシー王女。お久しぶり……というほどでもないですよ。」
とタイヨー様は笑いながら言いました
私はちょっと恥ずかしくなりました
「そ、それもそうでした。ところで今日はどうなされたのです?」
「いや、それは僕のセリフですよ。王女さまこそ門兵さんの控え室にどうされたのですか?」
さらに恥ずかしくなってしまいました
いつもの私はもっと落ち着いているのです!
「それはタイヨー君に会いたくてしょうがなかったからだよ。」
私の後から部屋に入ってきたノルディカさんが、とても恥ずかしい事を言ってしまいました
「そ!それは!違います!……いや違いませんけど……」
私は顔をうつむいてしまいました
きっと真っ赤な顔をしていることでしょう
……恥ずかしいです
するとタイヨー様はニコニコしながら言いました
「それはうれしいです。僕もお会いしたかったから。とても元気な姿を見ることができてよかったです。」
それを聞いて私はぱっと顔をあげて答えました
「私もうれしいです!すかっり元気になりました。」
私は満面の笑みを浮かべていたことでしょう
「あーー、角砂糖を口に詰め込まれたような甘々なところ申し訳ないが、そろそろいいかな?」
ノルディカさんがニヤニヤしながら話に割り込んだきました
ジロさんもにやけています
恥ずかしいです……
「行商の品を仕入れに来たと言うのでな、どこに向かうのか聞いておきたくてな。」
ノルディカさんがそうタイヨー様に聞きました
タイヨー様とジロ様は行商のお仕事で王都に来たようです
「え?行商先って皆さん確認を取っているのですか?」
タイヨー様がノルディカさんに聞きました
「そんな訳なかろう。無自覚な最強戦力が移動するのだ。どこに行くのか確認したいだけだ。」
「ノルディカさんがひどい!」
笑いながら失礼なことを言うノルディカさんにタイヨー様が言い返しています
私はそのやり取りが面白くてクスクスと笑ってしまいました
「失礼失礼。まあ何処に行くのかを知りたかったのは事実だよ。」
ノルディカさんの問いにはジロさんが答えました
「今回は北部まで行くつもりです。タイヨー君の希望は世界のいろいろな物を観察することですからね。」
それを聞いてタイヨー様が精霊様に見聞を広げるよう言われて旅に同行していると言う話を思い出しました
そのおかげで私の命は救われたのですから
北部と聞いて、なるほど…とノルディカさんが言いました
「では、私が知っている北部の現状を伝えよう。」
ノルディカさんは北部の情報をタイヨー様に伝えるようです
実は今、北部の街では漁場を巡って人間の漁師とセイレーン達で対立しているらしく王城に陳情が届いているのです。
まだそれ程問題は大きくなっていないのですが、この争いにウンディーネ様が関わってくるとなると話は変わります
ましてやタイヨー様の話ですと白氷竜さまも実在するそうです
もしも白氷竜さまが北部の街を襲う事態になったらどれほどの被害になるのでしょうか
私は身震いしてしまいました
ノルディカさんから北部の話を聞いたタイヨー様は
「わかりました。何か気が付いたことがあったら報告しますね。」
と言いました
とても危険なことではないのでしょうか?
私のそんな気も知らずノルディカさんは
「そうか!そうか!引き受けてくれるか!さすがは精霊様の弟子だな!」
などと上機嫌で言うのです
「本当に大丈夫ですか?とても危険ではないでしょうか……私は心配です。」
私はタイヨー様の事が心配になりました
「うーん……まぁ大丈夫です。こう見えてもいろいろな魔法が使えますからね。危なそうだったらすぐ逃げてきます。」
そういってタイヨー様は笑うのでした
そのあと商店街で行商の品を買いに行くというので、少しでもタイヨー様と一緒にいたいと思う私はお買い物についていくことにしました
王女として街の様子を見る……などと言ってはみましたが王女にそういう義務はありません
ノルディカさんも私の護衛として付いてきてくれました
「どのような物を北部に売りに行くのか気になってな。興味本位だ。」
とタイヨー様にそれっぽい理由を告げて
タイヨー様はダルベロさんと言う方の雑貨屋さんに用事があっていくそうです
なんでも家賃を受け取りに行くとか
私もお店に入ってみました
私とノルディカさんがお店に入ったら店主さんが驚いて飛び上がっていました
ちょっと可笑しかったです
店内にはいろいろな物が売っています
かわいらしいアクセサリが陳列されている場所を見つけました
王女とは言ってもこういう可愛いものは私も好きです
その中にある一つの指輪に私は見とれました
シンプルですがとてもかわいらしい指輪
しばらくその指輪を見ていると
「何か気になるものでもありました?」
とタイヨー様が言ってきました
私は思わず
「素敵な品がいろいろ置いてありますね。」
と言ってごまかしました
しかしタイヨー様は私の事をよく見ていたようです
「その指輪が気になりましたか?もし迷惑でなければ僕にプレゼントさせてもらえませんか?せっかくこうして知り合えたので何か贈り物をさせてほしいのです。」
それを聞いて私は顔が真っ赤になっているのを感じました
恥ずかしかったけどとても嬉しかったのです
「とても嬉しいです。」
私は素直にそう言いました
タイヨー様は指輪を取ると小さな声で呟きました
「どうか王女さまに『守護』を与え守ってください。」
すると指輪は薄く金色に光り、すぐに元に戻りました
私はとても驚き小さい声で神さまに聞きました
「タイヨー様、今のは?」
タイヨー様は周囲を見回して他に誰も気が付いていないことを確認してから言いました
「指輪にお願いをしたんだよ。この前みたいな危険が再び王女さまに訪れてもどうか守ってください……ってね。僕は精霊様の弟子だからね、きっと効果があるよ。」
私はあっけにとられて、これくださーい!と言って店主さんのところに行ったタイヨー様を見てました
ニコニコしながら戻ってきたタイヨー様は周りの皆がニヤニヤしながら見ている中、真っ赤な顔をしている私に指輪をプレゼントしてくれました
いただいた指輪はすぐに右手にはめました
これは絶対に外しません!
タイヨー様と別れ王城に戻った私は夕食後、寝室でいつまでも指輪を眺めていました
そして日記帳を開きました
タイヨー様とお会いできた事
タイヨー様とお買い物をした事
タイヨー様からいただいた初めてのプレゼントの事
そして不穏なお話を聞く北部地方から無事に帰ってきてほしいというお願い
それらを書き記し再び指輪を触りながら私は眠りにつきました
数日後……
タイヨー様が北部から戻ってきたという知らせを受けました
私はいてもたってもいられずノルディカさんと王都の門に向かいました
はやる心を抑えつつタイヨー様のもとに向かった私は愕然としました
タイヨー様は2人のとても美しい方を連れていたのです
特にタイヨー様の側で優しく微笑みながら話しかけている女性は、この世のものとは思えない見たこともないような美女で同じ女性の私も見惚れてしまう程でした
絶世の美女とは彼女の事を言うのでしょう
私は自分よりも遥かに美しい女性がタイヨー様の側にいる事にショックを受け落ち込んでしまいました
でも一緒にいたノルディカさんは私とは全く別の感情を彼女たちに向けておりました
ノルディカさんは彼女たちを激しく警戒しているようです
と、もう一人の美しい方が何かを言おうとしたところでタイヨー様に口を塞がれてしまいました
これにも私はショックを受けてしまいました……
そして私達は控え室に入り彼女たちを紹介していただきました
驚きました
彼女たちは白氷竜さまとウンディーネ様だと言うではありませんか!
北の海を支配するドラゴン、白氷竜さま
北の海を管理する精霊、ウンディーネ様
その脅威度は深緑の森の深緑竜さまと肩を並べる伝説のドラゴン
存在すら確認されていない全てを凍らすと言われる白氷竜さまを前にして、私は恐怖よりも憧れを抱きました
強く……とても強く、そして誰よりも美しい白氷竜さま
とても憧れるのと同時に自分ではどうしても勝てない魅力的な女性だということを思い知らされました
私はますます落ち込んでしまいました
そして彼女に聞かずにはいられませんでした
「白氷竜さま。お伺いしてもよろしいでしょうか。あの……白氷竜さまとタイヨー様とはその……どういったご関係で……」
私はここまで言うので精一杯でした
あとは下を見てうつむいてしまいました
すると白氷竜さまは微笑みながら私に近付いて耳元で囁きました
「王女さま。私はタイヨー様を敬愛していますが、それは恋愛感情とかではありません。貴方のような可愛らしいお嬢様がタイヨー様のお近くにいられるのはとても嬉しく思います。これからもタイヨー様と仲良くしてくださいね。」
私は瞬時に嬉しさが込み上げてきて思わず飛び上がりそうになったのを抑えて白氷竜さまに
「はい。」
とお返事しました
その後、ユキ様とディーネさまの希望で喫茶店のスワンズに入りました
もちろんタイヨー様も一緒です
なんでもここはケーキが美味しいそうでノルディカさんのお気に入りのお店だそうです
ノルディカさんは意外と乙女な一面を持ち合わせているのです
ノルディカさんが予約してくれたおかげで貸切の店内はとても落ち着いていて素敵な空間でした
ユキ様とディーネさまは初めてケーキを食べるということだったので、5人で同じイチゴのショートケーキと紅茶を注文しました
ケーキを待つ間、私はユキ様とお話しました
ユキ様はタイヨー様についてお話してくれました
もちろんタイヨー様には聞こえないようにヒソヒソと
「タイヨー様は深緑の森でほとんど人と接触することなく過ごしていたそうです。ですから今のようにいろいろな人とお話するようになったのはごく最近の事なのですよ。ましてや同じ年頃の女性のお知り合いは王女さまだけではないでしょうか?」
「え?そうなのですか?」
私は意外に感じました
だってタイヨー様はどなたとも親しく話されていますから
「そうなのですよ。」
と言ってユキ様は微笑みます
微笑む姿もとても美しいです
「ですからタイヨー様は人々を大切に思う事はあっても恋することは全く知らないようです。しかし貴方はタイヨー様にいろいろな表情を見せてあげたそうですね。自分を責める苦しげな姿、無事であったことを心底喜ぶ姿、謝罪する姿、そしてお会いして喜び微笑む姿……それらの全てがタイヨー様にとって初めて見る表情で、いろいろな表情を見せる貴方をとても愛おしく思っているのです。」
私は顔が真っ赤になるのを感じました
「なので貴方にはこれからもタイヨー様の側にいてほしいのです。しかしこれは簡単なことではありません。」
私はユキ様の目を見ました
ユキ様も私の目を見つめて話します
「タイヨー様は私とディーネが崇める特別な存在です。その側に立つことは大変な困難が待ち受けています。そのご覚悟が必要なのです。」
私の答えは決まっています
「タイヨー様に救われたこの命です。私の決意は変わりません。」
ユキ様はとても優しい表情で私を見つめ言いました
「貴方の事はこの私、白氷竜のユキが応援いたしますわ。」
「ありがとうございます。とても嬉しいです。」
私も笑顔でお答えいたしました
夕食後、寝室に戻った私は日記帳を開きました
そして今日の出来事を記します
タイヨー様が北部より無事に戻って心から安心した事
でもタイヨー様がお二人の美女を連れており悲しい気持ちになった事
特にユキ様にはそのあまりの美しさに絶望を感じましたがユキ様が白氷竜さまと知って驚いた事
そしてそのユキ様がタイヨー様に好意を寄せてる私のことを応援してくれるといった事
どんな困難が待ち受けていても私はタイヨー様の隣に立つ覚悟を決めた事
日記を記し終えた私はページを戻し、タイヨー様と出会った時のページを開きました
「涙で紙がヨレヨレになっていますわ。字もこんなに滲んでしまって……」
少し笑ってしまいました
しかしそこには絶対に忘れてはいけないことが書かれています
あの時の絶望
あの時の後悔
あの時確かに救われた私の心
そして私は新たに決意します
私はこの命ある限りタイヨー様の側にいます
側に立てる存在になってみせます
私は思いを強くし日記帳を閉じたのでした
ロキシー王女視点のお話はいかがだったでしょうか?
じつは当初は重要人物になる予定ではなかったロキシー王女
話を進めていくうちに彼女はヒロインにしようと思いました
そこで一度しっかりと人物像を定めておきたくて今回短編を作ってみました
これからロキシー王女は更に重要人物になる予定です
彼女に是非応援よろしくお願いします




