第18話「共有される過去」
翌朝。
バクラヴァが図書館を訪れた。
ロクマデス、メゼ、グリコ、トラハナスが迎えた。
「話がある」
バクラヴァは言った。
「ロクマデス。お前の記憶を取り戻す方法がある」
ロクマデスは——。
首を傾げた。
「記憶……?」
「ああ」
バクラヴァは頷いた。
「俺の記憶を、お前に見せる」
「どうやって?」
メゼが尋ねた。
「ギの共鳴だ」
バクラヴァは指輪を見せた。
「お前のギは、原型ギ。全てのギと共鳴できる」
「ならば——」
バクラヴァは続けた。
「俺のギと共鳴させれば、俺の記憶を共有できる」
「危険よ」
メゼは反対した。
「記憶の混乱を起こすかもしれない」
「わかってる」
バクラヴァは言った。
「だが、他に方法がない」
「時間がない」
バクラヴァはロクマデスを見た。
「このままでは、お前は完全に消える」
「心の光も、いずれ消えるだろう」
グリコは——。
頷いた。
「……確かに」
「彼の光、少しずつ弱くなってる」
「このままじゃ——」
ロクマデスは——。
決断した。
「やる」
「ロクマデス!」
メゼが叫んだ。
「危険すぎる!」
「でも——」
ロクマデスはメゼを見た。
「俺、思い出したい」
「お前のこと」
「みんなのこと」
「俺自身のこと」
ロクマデスは拳を握った。
「だから——やる」
メゼは——。
何も言えなかった。
ただ、涙を流した。
「……わかった」
「でも、何かあったらすぐに中止するわ」
バクラヴァは頷いた。
「わかった」
中庭。
ロクマデスとバクラヴァが、向かい合って座った。
「準備はいいか?」
バクラヴァが尋ねた。
ロクマデスは頷いた。
「手を出せ」
二人は手を繋いだ。
そして——。
ロクマデスのネックレスと、バクラヴァの指輪が触れ合った。
光が——輝いた。
金色の光。
そして——。
記憶が流れ込んできた。
5年前。
戦場。
若きバクラヴァが走っていた。
「くそ……!」
敵に追われている。
傷だらけ。
そこへ——。
一人の少年が現れた。
20歳くらい。
金色のネックレスをつけている。
感情のない目。
傭兵——ロクマデス。
「……助けてくれ」
バクラヴァは懇願した。
ロクマデスは——。
何も言わず、敵を倒した。
一瞬で。
圧倒的な力。
「……お前、強いな」
バクラヴァは言った。
「名前は?」
ロクマデスは——。
首を振った。
「……忘れた」
「忘れた?」
「ギを使いすぎて、記憶を失った」
ロクマデスは虚ろに言った。
「俺は、誰だったのか」
「何のために戦っているのか」
「もう、わからない」
バクラヴァは——。
胸が痛んだ。
「なら——」
バクラヴァは言った。
「俺が、お前に名前をつけてやる」
「名前?」
「ああ。ロクマデス」
バクラヴァは微笑んだ。
「甘くて、温かい名前だ」
「お前は、冷たくなんかない」
「きっと、優しい人間だったはずだ」
ロクマデスは——。
初めて、微笑んだ。
わずかに。
「ロクマデス……」
「そうだ。それが、お前の新しい名前だ」
記憶が変わる。
メゼとの出会い。
ロクマデスが戦場で立っている。
そこへ、メゼが現れた。
「あなたを、救いたい」
メゼは手を伸ばした。
ロクマデスは——。
その手を、掴んだ。
記憶が変わる。
グリコとの出会い。
街で、グリコが笑っていた。
「あなたの色、綺麗!」
「希望の白い光がある!」
グリコの笑顔。
ロクマデスは——。
初めて、温かいと感じた。
記憶が変わる。
トラハナスとの出会い。
「ギなしで戦える」
トラハナスは教えた。
「お前には、その力がある」
記憶が——。
次々と流れ込む。
カサタとの戦い。
グリコを守った場面。
第二覚醒。
第三覚醒。
全てが——。
戻ってくる。
だが——。
同時に。
バクラヴァの記憶も流れ込んだ。
10年前。
バクラヴァとメゼが、手を繋いでいた。
笑顔で。
「愛してる」
バクラヴァは言った。
「私も」
メゼは微笑んだ。
だが——。
次の記憶。
メゼが——バクラヴァを見て、首を傾げた。
「……あなた、誰?」
バクラヴァは——。
絶望した。
「メゼ……!」
「ごめんなさい」
メゼは泣いた。
「私、ギを使いすぎて——」
「あなたのこと、忘れちゃった」
バクラヴァは——。
崩れ落ちた。
「そんな……」
記憶が変わる。
バクラヴァが、ギに依存していく。
メゼを取り戻すために。
力を求めて。
だが——。
使えば使うほど、心が壊れていく。
感情が消え、闇に堕ちる。
「メゼ……メゼ……」
呟き続ける。
だが——。
いつしか。
メゼの顔すら、思い出せなくなった。
ただ——。
喪失感だけが残った。
記憶が——。
最後の場面。
別れの日。
メゼがバクラヴァに言った。
「私、あなたを忘れても——」
涙を流しながら。
「また、恋をするわ」
「きっと」
「だから——」
メゼは微笑んだ。
「あなたも、幸せになって」
バクラヴァは——。
何も言えなかった。
ただ、頷いた。
そして——。
別れた。
記憶共有が終わった。
ロクマデスは——。
目を開けた。
涙が流れていた。
「バクラヴァ……」
「……ああ」
バクラヴァも、涙を流していた。
「お前、見たんだな」
「俺の——全部を」
ロクマデスは頷いた。
「お前が、俺に名前をくれた」
「ロクマデスって」
「ああ」
バクラヴァは微笑んだ。
「お前は、優しい奴だったから」
「甘くて、温かい名前が似合うと思った」
ロクマデスは——。
立ち上がった。
そして——。
バクラヴァを抱きしめた。
「ありがとう」
「お前のおかげで、思い出せた」
「俺が誰か」
「なぜ戦ってきたか」
「そして——」
ロクマデスは続けた。
「お前の痛みも、わかった」
バクラヴァは——。
驚いた。
「お前……」
「お前は、悪い奴じゃない」
ロクマデスは言った。
「ただ——愛していただけだ」
「メゼを」
バクラヴァは——。
初めて。
声を上げて泣いた。
10年間、抑えていた感情が。
溢れた。
「すまない……すまない……」
「俺は、間違えた……」
「メゼを苦しめた……」
「お前を苦しめた……」
ロクマデスは——。
バクラヴァの背中を叩いた。
「もういい」
「お前は、もう償った」
「だから——」
ロクマデスは微笑んだ。
「これからは、前を向け」
バクラヴァは——。
頷いた。
涙を拭いながら。
「……ああ」
二人は——。
繋がった。
記憶を共有し。
痛みを分かち合い。
そして——。
理解し合った。
メゼが駆け寄ってきた。
「ロクマデス! 大丈夫!?」
ロクマデスは——。
メゼを見た。
そして——。
微笑んだ。
「ああ。大丈夫だ」
「メゼ」
メゼは——。
泣いた。
「ロクマデス……!」
「思い出した……の?」
「ああ」
ロクマデスは頷いた。
「全部」
「お前のこと」
「グリコのこと」
「トラハナスのこと」
「そして——」
ロクマデスは自分の胸を叩いた。
「俺自身のこと」
メゼは——。
ロクマデスを抱きしめた。
「よかった……よかった……」
グリコも、トラハナスも——。
微笑んでいた。
涙を流しながら。
ロクマデスは——。
戻ってきた。
記憶を取り戻した。
そして——。
新たな絆を得た。
バクラヴァという、仲間を。




