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『ギ。~感情を装備した少年たち~』  作者: 比呂石 凪


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18/22

第18話「共有される過去」

翌朝。

バクラヴァが図書館を訪れた。

ロクマデス、メゼ、グリコ、トラハナスが迎えた。

「話がある」

バクラヴァは言った。

「ロクマデス。お前の記憶を取り戻す方法がある」

ロクマデスは——。

首を傾げた。

「記憶……?」

「ああ」

バクラヴァは頷いた。

「俺の記憶を、お前に見せる」

「どうやって?」

メゼが尋ねた。

「ギの共鳴だ」

バクラヴァは指輪を見せた。

「お前のギは、原型ギ。全てのギと共鳴できる」

「ならば——」

バクラヴァは続けた。

「俺のギと共鳴させれば、俺の記憶を共有できる」

「危険よ」

メゼは反対した。

「記憶の混乱を起こすかもしれない」

「わかってる」

バクラヴァは言った。

「だが、他に方法がない」

「時間がない」

バクラヴァはロクマデスを見た。

「このままでは、お前は完全に消える」

「心の光も、いずれ消えるだろう」

グリコは——。

頷いた。

「……確かに」

「彼の光、少しずつ弱くなってる」

「このままじゃ——」

ロクマデスは——。

決断した。

「やる」

「ロクマデス!」

メゼが叫んだ。

「危険すぎる!」

「でも——」

ロクマデスはメゼを見た。

「俺、思い出したい」

「お前のこと」

「みんなのこと」

「俺自身のこと」

ロクマデスは拳を握った。

「だから——やる」

メゼは——。

何も言えなかった。

ただ、涙を流した。

「……わかった」

「でも、何かあったらすぐに中止するわ」

バクラヴァは頷いた。

「わかった」


中庭。

ロクマデスとバクラヴァが、向かい合って座った。

「準備はいいか?」

バクラヴァが尋ねた。

ロクマデスは頷いた。

「手を出せ」

二人は手を繋いだ。

そして——。

ロクマデスのネックレスと、バクラヴァの指輪が触れ合った。

光が——輝いた。

金色の光。

そして——。

記憶が流れ込んできた。


5年前。

戦場。

若きバクラヴァが走っていた。

「くそ……!」

敵に追われている。

傷だらけ。

そこへ——。

一人の少年が現れた。

20歳くらい。

金色のネックレスをつけている。

感情のない目。

傭兵——ロクマデス。

「……助けてくれ」

バクラヴァは懇願した。

ロクマデスは——。

何も言わず、敵を倒した。

一瞬で。

圧倒的な力。

「……お前、強いな」

バクラヴァは言った。

「名前は?」

ロクマデスは——。

首を振った。

「……忘れた」

「忘れた?」

「ギを使いすぎて、記憶を失った」

ロクマデスは虚ろに言った。

「俺は、誰だったのか」

「何のために戦っているのか」

「もう、わからない」

バクラヴァは——。

胸が痛んだ。

「なら——」

バクラヴァは言った。

「俺が、お前に名前をつけてやる」

「名前?」

「ああ。ロクマデス」

バクラヴァは微笑んだ。

「甘くて、温かい名前だ」

「お前は、冷たくなんかない」

「きっと、優しい人間だったはずだ」

ロクマデスは——。

初めて、微笑んだ。

わずかに。

「ロクマデス……」

「そうだ。それが、お前の新しい名前だ」


記憶が変わる。

メゼとの出会い。

ロクマデスが戦場で立っている。

そこへ、メゼが現れた。

「あなたを、救いたい」

メゼは手を伸ばした。

ロクマデスは——。

その手を、掴んだ。


記憶が変わる。

グリコとの出会い。

街で、グリコが笑っていた。

「あなたの色、綺麗!」

「希望の白い光がある!」

グリコの笑顔。

ロクマデスは——。

初めて、温かいと感じた。


記憶が変わる。

トラハナスとの出会い。

「ギなしで戦える」

トラハナスは教えた。

「お前には、その力がある」


記憶が——。

次々と流れ込む。

カサタとの戦い。

グリコを守った場面。

第二覚醒。

第三覚醒。

全てが——。

戻ってくる。

だが——。

同時に。

バクラヴァの記憶も流れ込んだ。


10年前。

バクラヴァとメゼが、手を繋いでいた。

笑顔で。

「愛してる」

バクラヴァは言った。

「私も」

メゼは微笑んだ。

だが——。

次の記憶。

メゼが——バクラヴァを見て、首を傾げた。

「……あなた、誰?」

バクラヴァは——。

絶望した。

「メゼ……!」

「ごめんなさい」

メゼは泣いた。

「私、ギを使いすぎて——」

「あなたのこと、忘れちゃった」

バクラヴァは——。

崩れ落ちた。

「そんな……」


記憶が変わる。

バクラヴァが、ギに依存していく。

メゼを取り戻すために。

力を求めて。

だが——。

使えば使うほど、心が壊れていく。

感情が消え、闇に堕ちる。

「メゼ……メゼ……」

呟き続ける。

だが——。

いつしか。

メゼの顔すら、思い出せなくなった。

ただ——。

喪失感だけが残った。


記憶が——。

最後の場面。

別れの日。

メゼがバクラヴァに言った。

「私、あなたを忘れても——」

涙を流しながら。

「また、恋をするわ」

「きっと」

「だから——」

メゼは微笑んだ。

「あなたも、幸せになって」

バクラヴァは——。

何も言えなかった。

ただ、頷いた。

そして——。

別れた。


記憶共有が終わった。

ロクマデスは——。

目を開けた。

涙が流れていた。

「バクラヴァ……」

「……ああ」

バクラヴァも、涙を流していた。

「お前、見たんだな」

「俺の——全部を」

ロクマデスは頷いた。

「お前が、俺に名前をくれた」

「ロクマデスって」

「ああ」

バクラヴァは微笑んだ。

「お前は、優しい奴だったから」

「甘くて、温かい名前が似合うと思った」

ロクマデスは——。

立ち上がった。

そして——。

バクラヴァを抱きしめた。

「ありがとう」

「お前のおかげで、思い出せた」

「俺が誰か」

「なぜ戦ってきたか」

「そして——」

ロクマデスは続けた。

「お前の痛みも、わかった」

バクラヴァは——。

驚いた。

「お前……」

「お前は、悪い奴じゃない」

ロクマデスは言った。

「ただ——愛していただけだ」

「メゼを」

バクラヴァは——。

初めて。

声を上げて泣いた。

10年間、抑えていた感情が。

溢れた。

「すまない……すまない……」

「俺は、間違えた……」

「メゼを苦しめた……」

「お前を苦しめた……」

ロクマデスは——。

バクラヴァの背中を叩いた。

「もういい」

「お前は、もう償った」

「だから——」

ロクマデスは微笑んだ。

「これからは、前を向け」

バクラヴァは——。

頷いた。

涙を拭いながら。

「……ああ」

二人は——。

繋がった。

記憶を共有し。

痛みを分かち合い。

そして——。

理解し合った。

メゼが駆け寄ってきた。

「ロクマデス! 大丈夫!?」

ロクマデスは——。

メゼを見た。

そして——。

微笑んだ。

「ああ。大丈夫だ」

「メゼ」

メゼは——。

泣いた。

「ロクマデス……!」

「思い出した……の?」

「ああ」

ロクマデスは頷いた。

「全部」

「お前のこと」

「グリコのこと」

「トラハナスのこと」

「そして——」

ロクマデスは自分の胸を叩いた。

「俺自身のこと」

メゼは——。

ロクマデスを抱きしめた。

「よかった……よかった……」

グリコも、トラハナスも——。

微笑んでいた。

涙を流しながら。

ロクマデスは——。

戻ってきた。

記憶を取り戻した。

そして——。

新たな絆を得た。

バクラヴァという、仲間を。

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