第17話「禁じられた力」
街は、戦場だった。
ギ破壊者たちが、容赦なくギ所持者を襲っている。
「ギを捨てろ!」
「ギは呪いだ!」
「ギを使う者は、人間じゃない!」
叫び声が響く。
ダクワーズは、中心で立っていた。
金色の剣を構えて。
「全てのギを——破壊する」
冷たい声。
そこへ——。
ロクマデスが現れた。
虚ろな目のまま。
だが——歩いている。
ダクワーズに向かって。
「……ほう」
ダクワーズは眉をひそめた。
「お前、ギ所持者だな」
ロクマデスは——。
何も答えなかった。
ただ——拳を構えた。
本能で。
「記憶がないのか?」
ダクワーズは笑った。
「哀れだな。ギに魂を奪われたか」
「ならば——」
ダクワーズは剣を振るった。
「楽にしてやる!」
剣が迫る——。
ロクマデスは避けた。
ギなしで。
身体が覚えている動き。
傭兵時代の技術。
「ほう……」
ダクワーズは驚いた。
「記憶がなくても、戦えるのか」
ロクマデスは反撃した。
拳を振るう。
だが——。
ダクワーズの剣が、それを弾いた。
「だが、遅い」
ダクワーズの剣が、ロクマデスの肩を切った。
「っ……!」
血が流れる。
ロクマデスは膝をついた。
力が——足りない。
ギなしでは——。
「終わりだ」
ダクワーズは剣を振り上げた。
その時——。
「させない!」
メゼが飛び出した。
剣を構えて。
ダクワーズの剣を、受け止める。
「……お前は」
「私は、彼を守る」
メゼは宣言した。
「誰にも、渡さない」
ダクワーズは笑った。
「愚かだな」
「お前も、ギ所持者か?」
「……ええ」
メゼは答えた。
「でも、10年間——封印していた」
メゼは左手のブレスレットを見た。
金色の、古びたブレスレット。
「使えば、また誰かを忘れる」
「また、大切な人を失う」
「だから——封印していた」
メゼは続けた。
「でも——」
メゼはロクマデスを見た。
「彼を守るためなら」
「もう一度——」
メゼはブレスレットに手をかけた。
「使う!」
ブレスレットが——輝いた。
金色の光が、メゼを包む。
「これは……」
ダクワーズは警戒した。
時間が——歪んだ。
周囲の動きが、遅くなる。
人々の動き。
炎の揺らぎ。
全てが——スローモーションになった。
「時間操作……!」
ダクワーズは驚愕した。
「まさか、そんなギが……!」
メゼは——動いた。
通常の速さで。
いや——それ以上に。
時間が遅くなった世界で、彼女だけが速く動く。
剣を振るう。
ダクワーズは避けようとしたが——。
遅い。
メゼの剣が、ダクワーズの剣を弾いた。
「くそ……!」
ダクワーズは後退した。
メゼは追撃する。
連続攻撃。
ダクワーズは防戦一方だった。
「なぜ……そこまでする……!」
ダクワーズが叫んだ。
「ギを使えば、お前も壊れる!」
「知ってる」
メゼは答えた。
「でも——」
メゼの目に、涙が浮かんだ。
「彼を守れるなら」
「私が壊れても、構わない」
メゼの剣が、ダクワーズの肩を切った。
「っ……!」
ダクワーズは倒れた。
メゼは——剣を突きつけた。
「もう、やめて」
「これ以上、誰も傷つけないで」
ダクワーズは——。
メゼを見上げた。
「……お前」
「本当に、愛しているんだな」
「ああ」
メゼは頷いた。
「愛してる」
「だから——」
メゼは剣を下ろした。
「殺さない」
「あなたにも、大切な人がいるはずだから」
ダクワーズは——。
何も言えなかった。
ただ——。
「……撤退する」
立ち上がり、背を向けた。
「だが——」
ダクワーズは振り返った。
「次は、容赦しない」
「ギは、必ず破壊する」
そして、去っていった。
ギ破壊者たちも、後を追う。
街に——静寂が戻った。
メゼは——。
ブレスレットの光を、消した。
時間が、元に戻る。
そして——。
頭に激痛が走った。
「っ……!」
メゼは膝をついた。
記憶が——消えていく。
誰かの顔。
誰かの名前。
誰かの——。
「……誰だっけ」
メゼは呟いた。
そして——。
ロクマデスを見た。
虚ろな目の少年。
「……あなたは、誰?」
メゼは尋ねた。
ロクマデスは——。
何も答えなかった。
ただ——。
メゼを見ていた。
そして——。
その目に、光が宿った。
わずかに。
でも——確かに。
「メ……ゼ……?」
小さな声。
でも——。
名前を、呼んだ。
メゼは——。
驚いた。
「え……?」
「今……」
ロクマデスは——。
もう一度、呟いた。
「メゼ……」
そして——倒れた。
気を失った。
メゼは——。
彼を抱きかかえた。
「ロクマデス……?」
名前を呼ぶ。
でも——誰の名前かわからない。
ただ——。
心が、知っている。
この人は、大切な人だと。
「……あなたを、知ってる」
メゼは涙を流した。
「名前は思い出せない」
「でも——」
メゼは彼を抱きしめた。
「大切な人だって、心が覚えてる」
グリコが駆け寄ってきた。
「メゼさん! ロクマデス!」
「グリコ……」
メゼは顔を上げた。
「彼、名前を……」
「聞こえた!」
グリコは微笑んだ。
涙を流しながら。
「彼、あなたの名前を呼んだ!」
「初めて——」
トラハナスも来た。
「二人とも、大丈夫か?」
「ええ……」
メゼは頷いた。
「でも——」
メゼは自分の頭を押さえた。
「私、誰かを忘れた」
「誰を忘れたのか、わからない」
「でも——確かに、失った」
トラハナスは——。
悲しそうな顔をした。
「……そうか」
グリコは、メゼの手を握った。
「大丈夫」
「きっと、戻ってくる」
「真の愛は——必ず還るって」
「アリストスが言ってた」
メゼは——。
微笑んだ。
「そうね」
「信じる」
そして——。
ロクマデスの顔を見た。
気を失っている彼。
でも——。
さっき、名前を呼んだ。
「ロクマデス……」
メゼは呼びかけた。
「私の名前、覚えてる?」
返事はない。
でも——。
彼の手が、わずかに動いた。
メゼの手を、握ろうとするように。
「……ありがとう」
メゼは呟いた。
「あなたが、私を覚えてくれた」
「だから——」
メゼは決意した。
「今度は、私があなたを思い出す」
「必ず」
夜。
ロクマデスは、ベッドで眠っていた。
メゼは、隣で座っていた。
グリコとトラハナスも、部屋にいた。
「彼の心、変わってきてる」
グリコは言った。
共感能力で、ロクマデスを見ながら。
「小さな光が——大きくなってる」
「本当に?」
メゼは尋ねた。
「ええ」
グリコは頷いた。
「あなたの名前を呼んだとき——」
「光が、すごく強くなった」
「きっと——」
グリコは微笑んだ。
「もうすぐ、戻ってくる」
メゼは——。
ロクマデスの手を握った。
「待ってる」
「ずっと、待ってる」
その時——。
ロクマデスが、目を開けた。
虚ろな目。
でも——。
メゼを見て。
「……メゼ」
呼んだ。
はっきりと。
メゼは——。
涙が溢れた。
「ロクマデス……!」
「……誰?」
ロクマデスは尋ねた。
「お前、誰?」
「でも——」
ロクマデスは続けた。
「名前は、知ってる」
「メゼ」
「大切な、人」
メゼは——。
彼を抱きしめた。
「そうよ」
「私は、メゼ」
「あなたの、大切な人」
二人は——。
記憶を失っても。
名前を忘れても。
心で——繋がっていた。
愛は——。
還り始めていた。




