第12話「起源の物語」
夜。
図書館の一室。
ロクマデス、メゼ、グリコ、トラハナスが集まっていた。
「話してくれ」
ロクマデスは言った。
「全部」
メゼは頷いた。
「わかったわ」
メゼは深呼吸した。
そして——語り始めた。
「300年前」
メゼは言った。
「この世界に、ギは存在しなかった」
「人々は、過酷な環境で苦しんでいた」
「灼熱の砂漠、極寒の氷原、濃霧の湿地——」
「多くの人が、環境に適応できず死んでいった」
メゼは続けた。
「そこに現れたのが、科学者アリストス」
「彼は天才だった」
「人間の脳と感情を研究し、ある仮説に辿り着いた」
「『感情は、身体能力を引き出す鍵だ』」
ロクマデスは耳を傾けた。
「アリストスは考えた」
「感情を増幅させる装置を作れば、人間は環境に適応できる」
「そして——ギが生まれた」
メゼは窓の外を見た。
「最初のギは、アリストス自身が身につけた」
「金色のネックレス——」
ロクマデスは胸を押さえた。
まさか——。
「そう。あなたが身につけているのは、最初のギ」
メゼは言った。
「アリストスが作った、原型」
ロクマデスは震えた。
これが——300年前の。
「ギは成功した」
メゼは続けた。
「人々は環境に適応し、生き延びた」
「アリストスは英雄として讃えられた」
「だが——」
メゼの表情が曇った。
「副作用が現れ始めた」
「感情の偏り。記憶の欠損。人格の崩壊」
「ギを使い続けた者たちが——抜け殻になっていった」
グリコは震えた。
自分と同じ——。
「アリストスは絶望した」
メゼは言った。
「自分が作ったものが、人々を壊している」
「彼は研究を続けた。副作用を無くす方法を探した」
「だが——見つからなかった」
「そして——」
メゼは目を閉じた。
「アリストス自身が、ギに飲まれた」
「感情を失い、人格が崩壊し——」
「最後には、自らギを破壊しようとした」
「だが、できなかった」
「ギは既に世界中に広まっていた」
「アリストスは——自殺した」
沈黙が落ちた。
ロクマデスは何も言えなかった。
「彼には、子供がいた」
メゼは続けた。
「その血は、代々受け継がれた」
「そして——あなたに辿り着いた」
メゼはロクマデスを見た。
「あなたは、アリストスの直系の子孫」
「だから、あなたのギは特別なの」
「全てのギの原型だから」
ロクマデスは拳を握った。
「じゃあ——俺は」
「呪われた血を、引いているのか?」
「呪いじゃない」
メゼは首を振った。
「責任よ」
「アリストスが果たせなかった責任を——」
「あなたが背負っている」
ロクマデスは——。
立ち上がった。
窓の外を見た。
星空が広がっている。
「メゼ」
ロクマデスは尋ねた。
「お前は、いつ俺と出会った?」
「5年前」
メゼは答えた。
「あなたが傭兵だった頃」
回想。
5年前。
戦場。
若きメゼが走っていた。
18歳の彼女は、人間性防衛派の一員だった。
「ギに頼らない戦士を育てる——」
それが、彼女の使命だった。
だが——。
戦場で、彼女は見た。
一人の少年が、無数の敵を倒していた。
20歳前後。
金色のネックレスを身につけて。
感情のない目で。
「……あれは」
メゼは息を呑んだ。
少年は——強すぎた。
ギに完全に支配されている。
だが——。
戦闘が終わった後。
少年は一人で立っていた。
周囲は死体だらけ。
そして——少年は泣いていた。
「……俺は、何をしている」
少年は呟いた。
「こんなの……間違ってる」
メゼは近づいた。
「あなた……」
少年は銃を向けた。
「来るな」
「大丈夫。敵じゃないわ」
メゼは手を上げた。
「あなたを、助けたい」
「助ける……?」
少年は笑った。
「無理だ。俺はもう——」
「できるわ」
メゼは断言した。
「あなたの首のネックレス——それ、見たことがある」
「これが?」
「それは、アリストスの原型ギ」
メゼは続けた。
「ということは、あなたは——」
「アリストスの子孫」
少年は驚いた。
「なぜ、それを」
「私は、歴史を研究している」
メゼは言った。
「そして、あなたを探していた」
「なぜ?」
「あなたにしか、できないことがあるから」
メゼは手を伸ばした。
「ギの真実を知り、世界を変える」
「それが——あなたの使命」
少年は——。
その手を、掴んだ。
回想終わり。
「そして、私はあなたの記憶を消した」
メゼは言った。
「ギに支配された過去を忘れさせ、新しい人生を与えた」
「だが——」
メゼは苦しそうに言った。
「それは、正しかったのか」
「あなたから、過去を奪う権利が私にあったのか」
「ずっと——悩んでいた」
ロクマデスは——。
メゼの肩に手を置いた。
「ありがとう」
「え?」
「お前が俺を救ってくれた」
ロクマデスは微笑んだ。
「過去は辛かった。でも——」
「今は、仲間がいる」
ロクマデスはグリコとトラハナスを見た。
「お前たちがいる」
「だから——後悔してない」
メゼは——。
涙を流した。
「……よかった」
グリコも泣いていた。
トラハナスは微笑んでいた。
「さて」
ロクマデスは窓の外を見た。
「俺は、決めた」
「何を?」
「ギの真実を、みんなに伝える」
ロクマデスは宣言した。
「隠しても、意味がない」
「みんなが知るべきだ」
「ギは便利だけど、危険だって」
「そして——」
ロクマデスは拳を握った。
「ギに頼らない生き方もあるって」
トラハナスは頷いた。
「それでいい」
「でも——」
メゼは不安そうに言った。
「反発されるわ。ギを信じている人たちに」
「わかってる」
ロクマデスは言った。
「でも、やるしかない」
その時——。
爆発音が響いた。
「何!?」
全員が窓に駆け寄った。
街が——燃えていた。
だが、カサタの軍ではない。
別の集団。
彼らは叫んでいた。
「ギは神の贈り物!」
「ギを否定する者は、抹殺する!」
「ギ崇拝者……」
トラハナスが呟いた。
「まさか、動き出したのか」
「ギ崇拝者?」
ロクマデスが尋ねた。
「ギを神聖視する集団よ」
メゼは説明した。
「彼らは、ギを宗教のように崇めている」
「ギは神が人類に与えた進化の証だと信じている」
「だから——」
メゼは続けた。
「ギを否定する者を、許さない」
爆発が続く。
街の人々が逃げ惑っている。
「行くぞ」
ロクマデスは走り出した。
「待って!」
グリコが叫んだ。
「私も行く!」
「お前は、まだ——」
「大丈夫」
グリコは微笑んだ。
「感情、戻ってきたから」
グリコのチェーンが光った。
微かだが——確かに。
「……わかった」
ロクマデスは頷いた。
「でも、無理するな」
四人は街へ向かった。
新たな敵——。
ギ崇拝者たち。
そして——。
ギの真実を巡る、新たな戦いが始まる。




