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『ギ。~感情を装備した少年たち~』  作者: 比呂石 凪


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12/22

第12話「起源の物語」

夜。

図書館の一室。

ロクマデス、メゼ、グリコ、トラハナスが集まっていた。

「話してくれ」

ロクマデスは言った。

「全部」

メゼは頷いた。

「わかったわ」

メゼは深呼吸した。

そして——語り始めた。


「300年前」

メゼは言った。

「この世界に、ギは存在しなかった」

「人々は、過酷な環境で苦しんでいた」

「灼熱の砂漠、極寒の氷原、濃霧の湿地——」

「多くの人が、環境に適応できず死んでいった」

メゼは続けた。

「そこに現れたのが、科学者アリストス」

「彼は天才だった」

「人間の脳と感情を研究し、ある仮説に辿り着いた」

「『感情は、身体能力を引き出す鍵だ』」

ロクマデスは耳を傾けた。

「アリストスは考えた」

「感情を増幅させる装置を作れば、人間は環境に適応できる」

「そして——ギが生まれた」

メゼは窓の外を見た。

「最初のギは、アリストス自身が身につけた」

「金色のネックレス——」

ロクマデスは胸を押さえた。

まさか——。

「そう。あなたが身につけているのは、最初のギ」

メゼは言った。

「アリストスが作った、原型」

ロクマデスは震えた。

これが——300年前の。

「ギは成功した」

メゼは続けた。

「人々は環境に適応し、生き延びた」

「アリストスは英雄として讃えられた」

「だが——」

メゼの表情が曇った。

「副作用が現れ始めた」

「感情の偏り。記憶の欠損。人格の崩壊」

「ギを使い続けた者たちが——抜け殻になっていった」

グリコは震えた。

自分と同じ——。

「アリストスは絶望した」

メゼは言った。

「自分が作ったものが、人々を壊している」

「彼は研究を続けた。副作用を無くす方法を探した」

「だが——見つからなかった」

「そして——」

メゼは目を閉じた。

「アリストス自身が、ギに飲まれた」

「感情を失い、人格が崩壊し——」

「最後には、自らギを破壊しようとした」

「だが、できなかった」

「ギは既に世界中に広まっていた」

「アリストスは——自殺した」

沈黙が落ちた。

ロクマデスは何も言えなかった。

「彼には、子供がいた」

メゼは続けた。

「その血は、代々受け継がれた」

「そして——あなたに辿り着いた」

メゼはロクマデスを見た。

「あなたは、アリストスの直系の子孫」

「だから、あなたのギは特別なの」

「全てのギの原型だから」

ロクマデスは拳を握った。

「じゃあ——俺は」

「呪われた血を、引いているのか?」

「呪いじゃない」

メゼは首を振った。

「責任よ」

「アリストスが果たせなかった責任を——」

「あなたが背負っている」

ロクマデスは——。

立ち上がった。

窓の外を見た。

星空が広がっている。

「メゼ」

ロクマデスは尋ねた。

「お前は、いつ俺と出会った?」

「5年前」

メゼは答えた。

「あなたが傭兵だった頃」


回想。

5年前。

戦場。

若きメゼが走っていた。

18歳の彼女は、人間性防衛派の一員だった。

「ギに頼らない戦士を育てる——」

それが、彼女の使命だった。

だが——。

戦場で、彼女は見た。

一人の少年が、無数の敵を倒していた。

20歳前後。

金色のネックレスを身につけて。

感情のない目で。

「……あれは」

メゼは息を呑んだ。

少年は——強すぎた。

ギに完全に支配されている。

だが——。

戦闘が終わった後。

少年は一人で立っていた。

周囲は死体だらけ。

そして——少年は泣いていた。

「……俺は、何をしている」

少年は呟いた。

「こんなの……間違ってる」

メゼは近づいた。

「あなた……」

少年は銃を向けた。

「来るな」

「大丈夫。敵じゃないわ」

メゼは手を上げた。

「あなたを、助けたい」

「助ける……?」

少年は笑った。

「無理だ。俺はもう——」

「できるわ」

メゼは断言した。

「あなたの首のネックレス——それ、見たことがある」

「これが?」

「それは、アリストスの原型ギ」

メゼは続けた。

「ということは、あなたは——」

「アリストスの子孫」

少年は驚いた。

「なぜ、それを」

「私は、歴史を研究している」

メゼは言った。

「そして、あなたを探していた」

「なぜ?」

「あなたにしか、できないことがあるから」

メゼは手を伸ばした。

「ギの真実を知り、世界を変える」

「それが——あなたの使命」

少年は——。

その手を、掴んだ。


回想終わり。

「そして、私はあなたの記憶を消した」

メゼは言った。

「ギに支配された過去を忘れさせ、新しい人生を与えた」

「だが——」

メゼは苦しそうに言った。

「それは、正しかったのか」

「あなたから、過去を奪う権利が私にあったのか」

「ずっと——悩んでいた」

ロクマデスは——。

メゼの肩に手を置いた。

「ありがとう」

「え?」

「お前が俺を救ってくれた」

ロクマデスは微笑んだ。

「過去は辛かった。でも——」

「今は、仲間がいる」

ロクマデスはグリコとトラハナスを見た。

「お前たちがいる」

「だから——後悔してない」

メゼは——。

涙を流した。

「……よかった」

グリコも泣いていた。

トラハナスは微笑んでいた。

「さて」

ロクマデスは窓の外を見た。

「俺は、決めた」

「何を?」

「ギの真実を、みんなに伝える」

ロクマデスは宣言した。

「隠しても、意味がない」

「みんなが知るべきだ」

「ギは便利だけど、危険だって」

「そして——」

ロクマデスは拳を握った。

「ギに頼らない生き方もあるって」

トラハナスは頷いた。

「それでいい」

「でも——」

メゼは不安そうに言った。

「反発されるわ。ギを信じている人たちに」

「わかってる」

ロクマデスは言った。

「でも、やるしかない」

その時——。

爆発音が響いた。

「何!?」

全員が窓に駆け寄った。

街が——燃えていた。

だが、カサタの軍ではない。

別の集団。

彼らは叫んでいた。

「ギは神の贈り物!」

「ギを否定する者は、抹殺する!」

「ギ崇拝者……」

トラハナスが呟いた。

「まさか、動き出したのか」

「ギ崇拝者?」

ロクマデスが尋ねた。

「ギを神聖視する集団よ」

メゼは説明した。

「彼らは、ギを宗教のように崇めている」

「ギは神が人類に与えた進化の証だと信じている」

「だから——」

メゼは続けた。

「ギを否定する者を、許さない」

爆発が続く。

街の人々が逃げ惑っている。

「行くぞ」

ロクマデスは走り出した。

「待って!」

グリコが叫んだ。

「私も行く!」

「お前は、まだ——」

「大丈夫」

グリコは微笑んだ。

「感情、戻ってきたから」

グリコのチェーンが光った。

微かだが——確かに。

「……わかった」

ロクマデスは頷いた。

「でも、無理するな」

四人は街へ向かった。

新たな敵——。

ギ崇拝者たち。

そして——。

ギの真実を巡る、新たな戦いが始まる。

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