第11話「三つ巴の戦争」
カサタの背後には、20人以上のギ所持者が並んでいた。
全員、同じ冷たい目をしている。
感情を最適化した——機械のような人間たち。
「来い、ロクマデス」
カサタは眼鏡を直した。
「お前の感情論を、論理で打ち砕いてやる」
ロクマデスは構えた。
グリコを背に庇いながら。
「一人で、全員を相手にするつもりか?」
カサタは笑った。
感情のない笑い。
「無謀だ。計算上、お前の勝率は0.03%」
「計算なんて関係ない」
ロクマデスは言った。
「俺は——」
その時。
「一人じゃない」
声が聞こえた。
振り向くと——。
トラハナスが立っていた。
傷は完治している。そして背後には、数人の仲間たち。
「トラハナス……」
「お前を見捨てるわけにはいかん」
トラハナスは拳を構えた。
ギを使わずに。
「我々、人間性防衛派も参戦する」
カサタは眉をひそめた。
「時代遅れの老人たちが」
「時代遅れで結構」
トラハナスは言った。
「人間らしさを守るためなら、何度でも立つ」
そして——。
地面が揺れた。
「おいおい、俺を忘れるなよ」
巨大な影が現れた。
カラマリだ。
そして彼の背後にも——複数のギ所持者たち。
全員、野性的な雰囲気を纏っている。
「カラマリ……お前も?」
ロクマデスが尋ねた。
「ああ。俺は本能で生きる」
カラマリは笑った。
「考えるより、感じる。それが俺たちの生き方だ」
カラマリはカサタを睨んだ。
「演算野郎ども。本能の強さを見せてやる」
カサタは舌打ちした。
「野蛮人が」
三つの勢力が——睨み合った。
最適化至上主義。
人間性防衛派。
環境適応戦士派。
そして中央に——ロクマデスとグリコ。
「始まるぞ」
トラハナスが呟いた。
「思想戦争が」
カサタが手を挙げた。
「全員、攻撃開始」
最適化派が一斉に動いた。
完璧に統率された動き。
無駄がない。
だが——。
「突撃!」
カラマリが吠えた。
本能派が猛然と飛びかかる。
統率はない。だが、圧倒的な野性の力。
「我々も行くぞ!」
トラハナスが走り出した。
人間性派も続く。
ギを使わず、技術と経験で戦う。
三つ巴の——大乱戦が始まった。
ロクマデスは——。
グリコを安全な場所へ運んだ。
「ここで待ってろ」
「でも——」
「大丈夫だ。すぐ戻る」
ロクマデスは戦場へ戻った。
混沌としていた。
最適化派は計算で動き、本能派は感覚で動き、人間性派は経験で動く。
三つの戦い方が——激突している。
「ロクマデス!」
カサタが叫んだ。
「お前はどちらを選ぶ? 演算か、本能か、それとも人間性か?」
ロクマデスは——。
答えられなかった。
わからない。
どれが正しいのか。
カサタの最適化は、確かに効率的だ。
だが、人間性を失う。
カラマリの本能は、確かに強い。
だが、思考を放棄している。
トラハナスの人間性は、確かに美しい。
だが——時代に取り残される。
「答えろ!」
カサタの攻撃が迫る。
ロクマデスは避けた。
そして——。
「俺は——」
言いかけた瞬間。
胸のネックレスが輝いた。
今までとは違う。
金色でも、真紅でもない。
透明な——光。
そして——。
周囲の全てのギが反応した。
最適化派のギも。
本能派のギも。
人間性派のギも。
全てが——ロクマデスのネックレスと共鳴した。
「これは……」
カサタが驚愕した。
「共鳴……? 全てのギと……?」
トラハナスも目を見開いた。
「まさか……彼のギは……」
カラマリは笑った。
「面白い! これが、お前の本当の力か!」
ロクマデスは——。
感じていた。
全てのギの——感情を。
最適化派の冷たさの奥にある、恐怖。
本能派の野性の奥にある、孤独。
人間性派の誇りの奥にある、不安。
全員が——迷っている。
自分の選択が正しいのか、わからない。
ただ——信じるしかない。
「みんな……同じなんだ」
ロクマデスは呟いた。
「誰も、正解を知らない」
共鳴が強くなる。
ネックレスの光が、全てのギを包み込む。
そして——。
声が聞こえた。
記憶の奥から。
古い、古い声。
「お前は、ギを作った者の血を引いている」
「……何?」
ロクマデスは混乱した。
「ギを作った……?」
「そうだ。お前の祖先が、ギを生み出した」
声は続けた。
「だから、お前のギは特別なのだ」
「全てのギと共鳴できる」
「全ての感情を感じられる」
「そして——」
声が途切れた。
ロクマデスは膝をついた。
頭が痛い。
情報が多すぎる。
「ロクマデス!」
メゼが駆けつけた。
「大丈夫!?」
「ああ……でも……」
ロクマデスは顔を上げた。
「俺……ギを作った者の血を引いてるって……」
メゼの表情が変わった。
「……知ってたのか?」
ロクマデスは尋ねた。
メゼは——。
頷いた。
「ええ。だから、あなたを救ったの」
「あなたは特別だから」
「あなたにしかできないことがあるから」
メゼは続けた。
「ギの真実を知り、世界を変える——それが、あなたの使命」
ロクマデスは何も言えなかった。
ただ——胸のネックレスを見た。
透明な光が、まだ輝いている。
「使命……」
呟いた。
その時——。
共鳴が止まった。
全てのギの光が消えた。
戦場に——静寂が戻る。
全員が、ロクマデスを見ていた。
カサタ。
トラハナス。
カラマリ。
全ての勢力が。
「お前……何者だ?」
カサタが尋ねた。
ロクマデスは——。
立ち上がった。
「俺は……まだわからない」
「でも——」
ロクマデスは拳を握った。
「俺は、誰も否定しない」
「最適化も、本能も、人間性も——全部、間違ってない」
「ただ——」
ロクマデスは全員を見渡した。
「極端になりすぎてるだけだ」
「バランスが必要なんだ」
トラハナスは微笑んだ。
「……そうか」
カラマリは笑った。
「面白い答えだ」
だがカサタは——。
首を振った。
「甘い。バランスなど、非効率だ」
カサタは指を鳴らした。
「撤退する。だが——」
カサタはロクマデスを睨んだ。
「次は、本気で潰す」
最適化派は去っていった。
カラマリも背を向けた。
「俺も帰る。また戦おうぜ、ロクマデス」
本能派も去った。
残ったのは——。
人間性派と、ロクマデス、メゼ、グリコ。
トラハナスはロクマデスの肩を叩いた。
「よく言った」
「でも……本当にそれでいいのか?」
「わからない」
ロクマデスは正直に答えた。
「でも、考え続ける」
「正しい答えを」
トラハナスは頷いた。
「それでいい」
そして——。
夕日が沈んでいく。
戦いは終わった。
だが——。
新たな謎が生まれた。
ギを作った者。
その血を引くロクマデス。
そして——共鳴の力。
全ては——繋がっている。




