第10話「蘇る記憶」
④次話への未解決ポイント(クリフハンガー)
記憶を取り戻したロクマデスは、バクラヴァを一撃で倒す。そして虚無のグリコに手を伸ばす——「俺は、お前の感情を覚えている」。グリコの目に、一筋の涙。だが遠くから新たな敵の気配。「面白いショーだったな」——カサタが復活し、新たな勢力を率いて現れる。
⑤想定読者の感情反応
共感→過去の痛みと罪 / 緊張→記憶回復の衝撃 / 解放→バクラヴァに勝利 / 期待→グリコは救えるのか、新展開は?
⑥本文(3,700文字)
荒野。
ロクマデスとバクラヴァが対峙している。
グリコは——虚ろな目で、ただ立っている。
「来い」
バクラヴァは指輪を輝かせた。
ロクマデスは走った。
ギなしで。
身体だけで。
拳を振るう——。
バクラヴァは避けた。
そして反撃。
ロクマデスは吹き飛ばされた。
「遅い」
バクラヴァは冷たく言った。
「ギなしでは、俺には勝てない」
ロクマデスは立ち上がった。
血を拭う。
また、挑む。
だが——また倒される。
何度も。
何度も。
「無駄だ」
バクラヴァは呆れたように言った。
「お前の覚悟は認める。だが、力が足りない」
ロクマデスは膝をついた。
限界だった。
身体が言うことを聞かない。
でも——。
諦められない。
グリコを——救わなければ。
「なぜ、そこまでする?」
バクラヴァが尋ねた。
「彼女は、もう終わった。感情を失った者に、価値はない」
「違う」
ロクマデスは顔を上げた。
「彼女は、終わってない」
「なぜそう言える?」
「俺が——覚えているから」
ロクマデスは立ち上がった。
「彼女の笑顔を。彼女の優しさを。彼女の……感情を」
その時——。
頭に激痛が走った。
「っ……!」
ロクマデスは頭を抱えた。
記憶が——。
溢れてくる。
フラッシュバック。
戦場。
砂漠の真ん中。
銃声。爆発音。悲鳴。
若い男が走っている。
20代前半——いや、もっと若い。
18歳くらいか。
だが、その目は冷たかった。
「目標、確認」
男は銃を構えた。
引き金を引く。
敵が倒れる。
「よし、次」
感情のない声。
これは——。
俺だ。
俺の、過去——。
「ロクマデス!」
仲間の声。
振り向くと、数人の傭兵が走ってきた。
「任務完了だ! 撤退するぞ!」
「了解」
男——ロクマデスは走り出した。
だが——。
背後で、爆発。
仲間が吹き飛ばされた。
「くそ……!」
ロクマデスは振り返った。
仲間が倒れている。
動かない。
「……」
ロクマデスは——。
何も感じなかった。
悲しみも、怒りも。
ただ——。
「次の任務は?」
そう尋ねた。
記憶が途切れる。
次の場面。
別の戦場。
ロクマデスは一人で立っていた。
周囲には、無数の死体。
敵も、味方も。
全て、ロクマデスが殺した。
「……強くなりすぎた」
ロクマデスは呟いた。
「もう、誰も俺を止められない」
そして——。
ネックレスを掴んだ。
金色の古びたネックレス。
「これが、俺を化け物にした」
ロクマデスは笑った。
感情のない笑い。
「なら——」
ロクマデスは自分の頭に銃を向けた。
「消えるしかない」
引き金に指をかける——。
だが。
「待て!」
誰かが叫んだ。
振り向くと——。
少女が立っていた。
18歳くらい。
黒髪に、鋭い目つき。
メゼだ。
若い頃のメゼ。
「お前を殺させない」
メゼは剣を構えた。
「なぜ?」
「お前は、まだ救える」
メゼは真剣な顔で言った。
「ギを捨てろ。記憶を捨てろ。そして——やり直せ」
ロクマデスは首を振った。
「無理だ。俺はもう——」
「できる」
メゼは手を伸ばした。
「私が、手伝う」
ロクマデスは——。
その手を、掴んだ。
記憶が戻る。
現在。
ロクマデスは膝をついたまま、震えていた。
「思い、出した……」
呟いた。
「俺は……傭兵だった……」
バクラヴァは眉をひそめた。
「傭兵?」
「ああ。ギに依存して、化け物になった」
ロクマデスは顔を上げた。
「だから、メゼが——記憶を消してくれた」
「メゼ……」
バクラヴァの表情が変わった。
「あの女が、お前を——」
「救った」
ロクマデスは立ち上がった。
「だから、今度は俺が——」
ロクマデスは構えた。
身体が——違う。
記憶が戻ったことで、戦闘技術も戻った。
「グリコを救う」
ロクマデスは走った。
今度は——違う。
速い。
正確。
バクラヴァの攻撃を避け——。
カウンター。
拳が、バクラヴァの腹に入った。
「っ……!」
バクラヴァが初めて、後退した。
「まさか……」
「俺は、元傭兵だ」
ロクマデスは続けた。
「ギなしでも、戦える」
ロクマデスの連撃。
バクラヴァは防戦一方だった。
「なぜ……俺の攻撃が読まれる……?」
「お前の動きは、パターン化されている」
ロクマデスは冷静に言った。
「ギに頼りすぎて、基本を忘れている」
ロクマデスの蹴りが、バクラヴァの顔面に入った。
バクラヴァは倒れた。
初めて——倒された。
「……負けたのか」
バクラヴァは笑った。
「俺が、ギなしの相手に」
そして、指輪を見た。
「こんなものに頼って……俺は何を……」
バクラヴァは目を閉じた。
気を失った。
ロクマデスは——。
グリコに近づいた。
「グリコ」
呼びかける。
だが、反応がない。
虚ろな目のまま。
ロクマデスは——。
彼女の手を握った。
「俺は、覚えている」
ロクマデスは言った。
「お前の笑顔を。お前が俺に言った言葉を」
「『あなたの中に、希望の白い光がある』」
「『だから、諦めないで』」
ロクマデスは続けた。
「お前は、俺を救ってくれた」
「だから——」
ロクマデスは彼女の目を見た。
「今度は、俺がお前を救う」
グリコの目に——。
一筋の涙が流れた。
「……ロクマデス?」
小さな声。
感情が——戻り始めている。
「ああ。俺だ」
ロクマデスは微笑んだ。
「お帰り、グリコ」
グリコは——。
泣き出した。
今度は、本物の涙。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「謝るな。お前は何も悪くない」
ロクマデスは彼女を抱きしめた。
「お前は、十分頑張った」
グリコは泣き続けた。
ロクマデスの胸で。
感情が——戻ってきた。
悲しみ、安堵、恐怖、喜び——。
全てが、少しずつ。
「……よかった」
グリコは呟いた。
「私、まだ感じられる……」
「ああ。お前は、まだ人間だ」
その時——。
拍手が聞こえた。
「面白いショーだったな」
声のする方を見ると——。
カサタが立っていた。
傷は完治している。
そして、背後には——。
複数のギ所持者たち。
「カサタ……」
ロクマデスは警戒した。
「何の用だ?」
「俺は学んだ」
カサタは眼鏡を直した。
「感情は、計算できない。予測不能だ」
「だから——」
カサタは笑った。
感情のない笑い。
「感情を持つ者たちを、排除する」
カサタは手を挙げた。
背後のギ所持者たちが、前に出た。
全員、冷たい目をしている。
「俺たちは、最適化至上主義」
カサタは宣言した。
「感情は、非効率。ギこそが、進化」
「お前たちのような、感情に縋る者は——」
カサタは指を鳴らした。
「排除する」
ロクマデスは——。
グリコを庇うように立った。
「来るなら、来い」
ロクマデスは構えた。
記憶を取り戻した身体で。
新たな戦いが——始まる。




