表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Hidden truth ― 封印された真実   作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/9

廊下の冷気、銃口の影

闇の足音


 その夜、ネイサンは眠りの底に沈んでいた。夢の中では、遠い過去の声が混じり合っていた。女の子の笑い声、父の叱咤、そして誰かの低い囁き声――そのすべてが、耳元で波のように寄せては引く。

 不意に、廊下の奥から「コトリ」と何かが落ちる乾いた音がした。

 瞼が重く、体は鉛のようだったが、耳だけが異様に敏感になっている。

 今の音は確かに、家の中だった。


 ネイサンはゆっくりとベッドから身を起こし、息を潜めた。

 廊下は闇に沈み、電球のかすかな唸りが天井から伝わってくる。

 足音を忍ばせながら戸を開けた瞬間、冷気が顔を撫でた。まるで地下室の扉を開けたような、湿った冷たさだった。



父の死


 廊下の中央で、父が倒れていた。

 顔は青白く、蝋細工のように艶やかで冷たい。皮膚には血の気がなく、目は虚ろに天井を見つめている。口元には、黒い粉がうっすらと付着していた。

 粉は乾いているのに、どこか粘りつくような嫌な質感を放っている。


「父さん……?」

 声が震える。

 肩に手を伸ばしたその指先が、異様な冷たさに触れた。死後硬直が始まっているのか、それとも――。

 背筋を冷たい汗が伝う。胸の奥で警鐘が鳴り響き、呼吸が浅くなる。



メラニーの笑み


 背後で気配が動いた。

 振り向くと、そこにメラニーが立っていた。

 白いワンピース、金髪の髪は廊下の薄明かりを受けて淡く光っている。


 その顔は――笑っていた。

 いつもの穏やかな笑顔。けれど、それは「感情」という軸を外された仮面のようだった。

 口元は微笑んでいるのに、目の奥は氷のように冷たく、揺らぎもしない。


「……何を、した?」

 自分でも驚くほど弱い声が漏れた。

 メラニーは答えない。ただ、ゆっくりと首を傾げるだけ。その仕草は、まるでこちらの問いかけを理解していないかのようだった。



野次馬の視線


 その時、外からざわめきが聞こえてきた。

 窓の向こう、庭の暗がりに数人の影が蠢いている。

 ベン・トナース一味だ。いつも無駄に騒がしく、酒と暇つぶしでしか生きていないような連中。


「おい、見ろよ! あいつ、やっぱりやべえ!」

「人が倒れてるぞ! これで間違いねぇ、あいつが殺したんだ!」


 彼らの手には携帯電話の明かりが揺れていた。

 ネイサンは思わず後ずさる。視線の全てが、彼を「犯人」に仕立て上げる刃になって突き刺さる。



サイレンの轟き


 遠くで、サイレンの音が鳴り始めた。

 赤と青の光が窓を切り裂き、壁に影を作る。

 やがて、玄関の扉が乱暴に叩かれ、重い靴音が廊下を駆け抜けた。


「ネイサン・ウッド! 動くな!」

 低く鋭い声。ヘンリー・マクドネル率いる警官隊だった。

 次の瞬間、銃口がいくつもこちらを向いた。冷たい鉄の円が、胸元、額、喉元を正確に狙っている。


 廊下は凍りついたように静まり返る。

 真上の電球が微かに唸り、長い影が床に歪む。



冷気と影


「説明してもらおう、ネイサン」

 ヘンリーの声が低く響く。

「父親はなぜ死んでいる? なぜ君はここにいる?」


 言葉が出ない。

 喉が乾き、舌は石のように動かない。

 目の前の世界が、音だけを残して遠ざかっていく。


 その時、メラニーが一歩後ずさった。

 ゆっくりと、音も立てず、廊下の暗がりに溶けていく。白いワンピースだけが、最後まで淡く揺れていた。


 残されたのは、冷気と――

 喉元を見えない手で掴まれるような、息苦しい圧迫感だけだった。



崩れ落ちる夜


 ヘンリーが銃を下げることはなかった。

 野次馬の声、警官の短い命令、無線機の雑音。

 その全てが耳の奥で反響し、世界をぐしゃぐしゃに塗り潰していく。


 ネイサンはただ立ち尽くしていた。

 父の亡骸と、消えていったメラニーの残像、その両方が彼の視界を焼き付けて離さないまま、夜は崩れ落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ