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骸の声の伊能

塁は、骸の声の「異能ヲツカッテ……ナイゾ?」という言葉に驚愕した。


(嘘だろ……あのスピード、あの硬度、あの数の腕。あれが、ただの肉体能力だと……?)


思考を巡らせる塁を嘲笑うかのように、骸の声はニヤリと口角を上げ、再び足元から数本の手を滑らかに生やした。


「コレハ……オマ、エラト……同ジダ。オ前……ラガ、腕ヲ動カス……ヨウニ、身体ヲ捻ラセル……ヨウニ、昔カラ……使……エタ、モノダ」


骸の声はそう言った。


(だったら、こいつの異能は……?)


塁がそう考えたその瞬間、骸の声は宣言した。


「俺……ノ異能ハ……コウイウモノダ」


骸の声がそう呟いた途端、その背後に倒れていた稽太と空蹴の様子が一変した。

空蹴は「あぁ……母さん……!母さん……!」と目を見開かせながら、自身の頭を両手で抱え、錯乱する。稽太は「何だ……ここは。止めろぉ!!」と周囲を見渡しながら、何かに怯えるように暴れている。


「どうなってるんだ…?」


その異様な様子を見た塁は声を漏らした。

次の瞬間、二人とも一斉に塁を睨み、叫びながら塁へ攻撃を始めた。

空蹴は異能を駆使して、塁へ強烈な蹴りを叩きこみ、稽太は両手で銃の形を作り、青白い光を塁へ放つ。塁は空蹴の蹴りを紙一重で避け、稽太の霊力弾を『剱』で正確に斬り裂く。


「おい!どうしたんだよお前ら!」


塁は二人からの攻撃を捌きながら必死に叫ぶが、二人は全く塁に反応せず、ひたすらに攻撃を止めない。

その様子を見て、骸の声はニタニタと嗤っていた。


(操られている……?いや、意識はあるし、『母さん』とか言ってるから……幻…洗脳とか…?)


塁は推測を立て、すぐさま空蹴の背後へ回り、その首に腕を回して絞める。

暴れまわる空蹴を自慢の筋肉で押さえつけ、腕の力を強めた。

稽太は構わず霊力弾を塁に向かって放つ。


「カゲロウ!少し頼む!!」


塁が叫ぶと、カゲロウは影の中から、壁のように分厚い黒い壁を作り出し、霊力弾を防いだ。

塁はしばらくの間、空蹴の首を絞める。

普通ならすぐに意識を落とすほどの力で絞めたのに、空蹴は未だに暴れまわっている。

すると遠くから霊力弾を撃っていた稽太が、今度は肉弾戦を仕掛けようと塁に接近してきた。

塁は仕方なく、空蹴の首に回していた腕を離し、空中で一回転しながら距離を取った。


「どうなってんだ。普通ならもう落ちてんぞ……」


少し息を切らしながら塁は声を漏らす。


「何ガ……起コッテルノカ、分カラナイッテ……顔ヲ……シテイルナ」


骸の声はそんな塁を見てケタケタと嗤う。


「問題ねぇよヒョロガリ」


塁は強がるも、内心では骸の声の言う通りだった。


「薄々感ヅイテル……ト思ウガ……俺ノ……異能ハ幻想ヲ魅セル類ダ……。五感二……俺ガ魅セタイモノ……ヲ魅セルトイウナ」


骸の声はと、その異能の種明かしをする。


「じゃあ、五感を潰せば良いのか?」


塁は笑いながら煽るように言うと、骸の声は「ソレモ……良イカモシレナイ。ダガ、昔……オナジコトヲ……シタ奴モ……イタガ……結論……デ言ウト、不可能ダ」と淡々と言う。


そして、少し間をおいてから骸の声は、自身の頭を指でつつきながら嗤った。


「ドウヤラ……俺ノ異能ハ……脳二直接、送リ込マレルモノラシイ。ツマリ……脳ヲ破壊スルシカ……対策ハ……ナイ」


脳を破壊。


それはつまり、空蹴と稽太を殺す以外に、この暴走を止める術はない、ということだ。

塁の心臓は締め付けられた。


(骸の声と、洗脳された仲間二人を同時に相手にするなんて無理だ……!)


カゲロウで二人を拘束することはできる。

しかし、二人を完璧に抑え込むには、『黒夜叉』のような堅固な形態を維持せねばならない。

そうなると、塁自身が戦闘で頼る『剱』や『空絶』といった武器を形成できなくなる。

カゲロウが同時に形を保てるのは、ただ一つの存在。


(詰み…か……)


しかしそんな時、窮地を救う声が響いた。


「私のことを忘れてもらっちゃあ困るぜ!!」


美玲が叫ぶ。


「意外ね。あんたが回りが見えなくなるなんて。まぁ強敵の前だと皆そうなるわよね」


氷室先輩が皮肉を込める。


「私にできることがあるか分からないけど、居ないよりはマシよね」


佐倉先輩はメガネをクイと直しながら骸の声を見る。

塁はそれを見て微笑む。


「二人を頼みます!」


と言って、もう一度『凰剣:剱』を創り出し、構えた。


「マァ……イイサ。ドウセ、俺ニハ……勝テナインダカラ」


塁は即座に『凰剣:剱』を顕現させ、その重さを最大限に利用した広範囲の薙ぎ払いで、骸の声の足元から生える白い手を片っ端から叩き潰す。

霊力で強化された大剣の斬撃は、地面にまで亀裂を生じさせた。


「ッオラァ!」


「グフッ、甘イ、甘イゾ」


骸の声は、驚異的な反射神経と肉体能力、そして空間そのものを捻じ曲げるような踏み込みで、塁の攻撃の合間を縫うように懐に入り込む。

その行動予測は完全に普通のモノノケのレベルを超えていた。

骸の声が繰り出す鋭い蹴りや拳は、霊力で重装甲化された戦車砲のようだった。

塁は剱の分厚い刀身を盾のように使い防御に徹するが、その一撃一撃が重く、内臓に響く衝撃となり、防御した腕が悲鳴を上げた。


「ハァ……ハァッ!」


(強い……!一瞬の油断も許されない。こいつ、一見ヒョロっちいのになんてパワーだ……!)


塁が防御に気を取られ、体勢を崩した一瞬。

骸の声は再び地面に手を突いた。グニョリという嫌な音と共に、地面から無数の手が高速で塁の全身を拘束しようと巻き付く。


「させるかよ!」


塁はとっさに『剱』の刀身にカゲロウの霊力を集中させ、(イカヅチ)とともに拘束を振り払った。白い手が破裂するように弾け飛ぶ。


「だからって僕も筋トレしてんだ。数で押し切れると思うな!」


「フン……。ソウカ、コウイウ者…ガ、好キカ」


骸の声は不敵に笑い、塁の攻撃の射程外へ一気に飛び退いた。その動作は残像すら残さない。

塁の額からは冷や汗が流れ、息が上がり始めている。

完全に劣勢だった。

塁の攻撃は当たらず、相手の攻撃は確実に通る。

骸の声は、白い手をムチのようにしならせて塁の足元を狙った。

塁は飛び退きながら、即座に『剱』を『絶刀:空絶』へと切り替える。


「こいつで、てめぇの首断ち切ってやるよ!」


シュン!


塁の体が消えた。

空気抵抗を極限まで小さくした『空絶』の速度は、骸の声すらも予測不能なものだ。

一瞬で懐に潜り込んだ塁は、骸の声の腹部に、神速の二連撃を叩き込んだ。


キンッ、キンッ!


鋼がぶつかるような、鋭く硬質な音が響いた。

致命傷を与えようとした『空絶』の切っ先は、骸の声の皮膚に薄い傷しかつけられていない。


(はぁ!?『空絶』の貫通力でもダメかよ!)


「ムダ、ムダダ」


骸の声は、傷を負いながらも、その目がない顔で確かに塁を見下していた。

そして、塁の喉元に再びその硬い拳を突き出す。


ドォン!!


塁はその拳を避けようとするも、骸の声の拳のほうが少し早く塁に届いた。

その大砲の様な強烈な拳は塁の頭に衝突し、塁の頭から赤い鮮血が流れる。

しかし、塁もただやられるだけではなく、上半身を反らし衝撃を緩和していた。


「ってぇな!!」


怒りで強烈な斬撃を繰り出すも、その斬撃は空を切る。

骸の声は一瞬で塁の背後へと回る。


「良イコト、ヲ思イツイタ……。オ前……ヲ、操ッテ……アイツラニ……ケシカケヨウ」


骸の声のその言葉に、塁は戦慄した。

塁の頭に幻想を送り込めば、彼ほどの戦力が仲間たちに牙を剥くことになる。


「そう安安とやらせるわけねぇだろ!」


塁は渾身の力を込めて、背後に『剱』を振るう。

しかし、振るった先に居た骸の声はまたも一瞬で消え、塁の背後に現れる。

そして塁が反応する間もなく、骸の声の手が塁の頭に触れた。

骸の声は塁に幻想を魅せようと、五感に異能を発動するために霊力を流し込もうとする。


「ッ!?」


だが、その霊力は塁の身体に染み込もうとしなかった。弾かれたのだ。

骸の声はそれに驚愕しつつも、塁からの攻撃を避けるために一度距離を取った。

塁は何をされたか分からなかったが、身体に異常がないことが分かるとすぐに臨戦態勢を取る。


(霊力ガ弾カレタ……?ドウナッテイルンダ?コイツノ……異能?)


骸の声は心のなかで考え込むが、すぐに塁が斬り掛かって来たため、足元から生やした無数の手で空中に飛ぶ。


「流レナイ……ノナラ、物量デ殺シテシマエバ……イイ!」


空中に浮遊しながら叫び、今までよりも大量の手を出現させた。

その白い腕の津波は、塁だけでなく、氷室先輩や美玲、佐倉先輩も飲み込む勢いで襲いかかった。

塁は目にも留まらぬ高速で迫りくる手を切り裂いていく。


「先輩!美玲!」


大量の手の攻撃が止んだ後、声を上げながら氷室先輩たちの方を見るも、そこには最悪の光景が広がっていた。

氷室先輩たちの中に、骸の声の姿があり、その手が先輩たちの頭に触れられていた。


「コッチノ……方ガ、面白ソウ……ダ」


そして骸の声は嗤った。

先輩たちはすぐに眼の生気が失われ、塁に虚ろな視線を向けた。

塁は息を切らしながら、骸の声と、空蹴、稽太、氷室先輩、佐倉先輩、美玲、合計六人が自分の元へと確実な敵意と殺意を持って近づくことに気づく。

一斉に塁に向かって突進してくる仲間たちを見つめながら、塁は考える。


(どうしよう……。どうすればいい……。考えろ……考えろ……。カゲロウの霊力で全員麻痺させるか……?いやでも、全員確実に痺れさせるには相当な霊力が必要だし、一人ひとりに麻痺させるために必要な霊力の量は違う。だったら、一気に全員に浴びせるか……?いや、下手すりゃ麻痺どころじゃ済まない。どうしよう。どうしよう)


額から汗をしたたらせながら、皆が自分に攻撃を仕掛けようとする光景を見ていた。


(どうしようもねぇ……。全員は助けられねぇ……)


塁が絶望を覚悟した瞬間、突然、大量の赤い糸のようなものが、全員の身体を波のように飲み込み、拘束した。

それに驚いた塁の背後から、見知った顔の少年が出てくる。


「おまたせ、塁くん。今度は僕も役に立ってみせるからね」


千弘は、その少女のような可愛い顔で塁に微笑んだ。

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