さぁ第一章の最終回も近いぜ
全校生徒が校庭に出終わった頃、僕達はクラスごとに体育座りで大人しく座っていた。
先程の女子生徒が少し心配だが、桜木先生が居たんだ。問題は無いだろう。
すると、僕のクラスの副担任である空蹴将仁が少し焦ったような顔をしている。
その焦った顔をした空蹴は僕の姿を見るなり、僕に近づいてくる。
「すみません、桜木先生見ませんでした?」
「桜木先生?なんで?」
「いやそれが、何故か桜木先生と8組の女子生徒が居ないんですよ」
「居ない?連絡しとくって言ってたけど……」
僕は階段を降りる前に桜木先生が女子生徒に言っていた言葉を思い出す。
「知ってるんですか!?彼女は今どこに!?」
僕の言葉を聞いた空蹴は僕の肩をガシッとつかみ、問い詰める。
「お、落ち着けって。どうしたんだよさっきから。変なもんでも食べたか?」
「そんな事言ってる場合じゃないんですよ!何か知っているんですか!?彼女は今どこに!?」
空蹴の勢いに押され、僕は先程あったことを話す。
「さっき8組の前で女子生徒が気分が悪いって言ってフラフラしてたから、桜木先生が休ませてるんだよ。連絡しとくって言ってたけど、何も来てないのか?」
僕がそう言うと、空蹴は目を見開き、一瞬黙りこくる。
「まずい事になった……」
空蹴は小さく、弱々しく呟いた。
すると、掴んでいた僕の肩を離して走り出す。
「氷室くん!少し着いてきてください!!できれば神白くんも!!」
空蹴は僕と、前で教師たちと何か話している氷室先輩に声をかけ、校舎の方へと走っていく。
僕と先輩は、空蹴の様子に戸惑いながらも言われるがまま着いて行く。
「おい!ちょっと待てよ!僕まだ状況が飲み込めないんだけど!!」
「私はまだどういう事なのかすら分からないんだけど!」
僕と氷室先輩は走りながら空蹴のすぐ後ろまで来る。
空蹴は焦った様子で走りながら話し始めた。
「彼女…桜木詩織はこの学校に何年も居るんです」
「それがなんか問題でもあんのか?別に普通のことだと思うんだが…」
「問題はそこじゃありません。彼女がこの学校に教師として来た時から、彼女の周りで毎年生徒が1人行方不明になっているんです」
行方不明。
その言葉を聞いて、その空蹴の話し方を聞いて、僕は嫌な妄想をした。
その言い方だと、桜木先生がその生徒に、先程の女子生徒に何かをしようとしていることになるのではないか。
僕が信じられないような表情をしていると空蹴は話を続けた。
「なのに周りの生徒や教師だけでなく、その生徒の親などのその生徒を知る者全てが行方不明になった生徒のことを全く覚えておらず、問題にもなっていない……これは明らかに彼女が何かをしたとしか考えられないんです」
「何かしたって……」
「そのためクレイルで、彼女に接触しようと計画していたのですが……少し遅かったようですね」
僕たちは後者の中に入り、階段を駆け上る。
「氷室くん、索敵お願いできますか?」
「は、はい!」
空蹴に言われ、僕達は1度立ち止まり、氷室先輩の索敵の結果を待つ。
先輩を中心に、ドーム状の霊力の膜が広がって、校舎を包む。
「生命反応は…二つです。おそらく一人は桜木先生かと思われます。もう一人は…」
「多分、さっき桜木先生が休ませるために8組に入れた女子生徒だと思う。まだ生きてるのか」
「念の為、霊力の反応も索敵できますか?」
「わかりました」
氷室先輩はもう一度霊力の膜を広げる。
そして、しばらくすると先輩が目を見開いて、冷や汗をかきながら驚愕する。
「そ、そんなッ……!!」
「どうしました?」
「とんでもない霊力を持ったものが一人…いや、もしかしたらモノノケかも……」
「……実力は?」
「ほぼ確実に、以前のクラウモノより……」
強い。
僕が前に戦ったクラウモノは僕が戦った中でトップレベルに強かった。
それを先輩が超えると断定するほどだ。
おそらく、アレなんか比べ物にならないかもしれない。
「一応、クレイルの本部にも連絡しましたが、もう少し急ぐように伝えておきましょうか」
「お願いします。できれば、黒谷さんや海良木さん、もしくは…社長に来てほしいのですが……」
「社長はお忙しい方なので厳しいかもしれません。黒谷さんは今朝、急遽出張に行かなくてはならなく成ったので、不可能です。氷花さんか海良木さんは大丈夫だと思うので連絡しておきます」
二人の様子を見て、僕は口を挟む。
「おい、くっちゃべってる間にさっきの子が死んだらどうすんだよ。さっさと行くぞ。どっちみち、今は僕達しか居ねぇんだ。僕達でどうにかするしかないだろ」
二人は僕の言葉を聞いて、頷く。
そして再び階段を走って8組を目指す。
三階に上がり、8組の教室が近づいたところでカゲロウが反応する。
「主、モノノケです。それもとんでもない…」
「モノノケ…?」
カゲロウの一言で空蹴は冷や汗をかきながらヤケクソな表情で笑う。
「ハッ、ここで来ますか。『骸の声』…。杞憂で済んでくれればよかったのですが…」
この学校に巣食う化物。
偶然とは思えないタイミング。
僕達は緊張を抱きながら8組の教室に近づいた。
「先生!!」
僕が先頭でドアを開けるとそこには、女子生徒を喰らおうとする白いモノノケと、それを嬉しそうに頬を赤らめながら見ている桜木先生の姿があった。




