吸血鬼の強みと弱み
頬を殴られた波月は壁にクレーターを創りながらめり込む。
「なっ!」
「ガウッ!!」
取り巻きや、アイスベアも反応し、塁に向かって攻撃を繰り出す。
塁は下を向きながら、手元に黒色の剣、『凰剣:剱』を創り出す。
その巨大な剣を持っているのにもかかわらず、とてつもない速度でアイスベアの横へ一瞬で移動する。
「ガッ!!」
一閃
一撃を繰り出したかと思われたが、次の瞬間。
グチャバチャボトッ…
アイスベアの巨体が細切れになり、血肉とともに崩れ落ちる。
その様子を見た取り巻きたちは、何人か距離を取る。
しかし、ピンク髪の女は他とは違い、塁へ向かって一直線に突進してくる。
「おらあああぁぁ!!」
そして拳を塁の後頭部めがけて繰り出す。
「ぎっ!!」
だが、その拳が届くより先に塁が取り巻きAの顎に掌底を喰らわせた。
それにより、取り巻きAは白目をむきながら地面にうつ伏せで倒れ込む。
細切れになったアイスベアは小さな光の粒子に成り、消えていく。
「ふぅ…消えるんだな。こういうヤツ」
一時の静寂。
その場に居たものすべてがその光景に唖然とした。
だが、その雰囲気をぶち壊す者が居た。
「おい、神白塁!闘るのなら俺も混ぜろ!!」
そして、もう一人も。
「ヒャッハー!!だったら私もー!!」
「っどくせ」
塁は剱を影の中にしまい、頭をかく。
「っだぁ、冷てえぇ……」
氷で凍った服の端を叩き、氷を取り除く塁。
すると、クレーたのに埋まっていた男が声を上げる。
「おい!!!」
塁は面倒くさそうな顔をしながらその方向に顔を向ける。
パラパラとコンクリートの破片を落としながら、顔の半分を血で赤く染める波月は塁を睨んでいた。
「この程度で勝った気になるとか、脳みそまで筋肉に支配されちゃったのかい?アイスベアは俺の配下の中でも最弱…ってほどじゃないけど、もっと強いやつが居る!そいつをお前に当てたら…どうなるかな?」
まだイキがる余裕があるようで、塁へ舐め腐ったような笑みを見せる。
そして、胸元からまた紙を取り出す。
「回き―――――!!」
「こらこら、やんちゃは駄目だよ」
「ッ!!!」
波月が紙を回帰させようとすると、そこに割り込むものが居た。
それは―――。
「やぁ、個人でははじめましてかな。私はこのクレイルの総代、アルベール・ヴィクター・ルーフェンというものだ。よろしくね波月理君」
いつの間にかアルベールさんが波月の眼の前に立ち、波月が持っていた紙を取り上げていた。
「これは、没収だ」
アルベールさんはそう言って、波月の紙を ”突如現れた穴の中に投げ入れる” 。
間近でアルベールを見た波月はたじろいだ。
(これが、クレイルの頭…アルベール・ヴィクター・ルーフェン……!!遠くから見ているだけでは分からなかったが、ここまでの実力差があるとは…。ただ疾いなんてもんじゃない。まるで、既にそこに居たような…この場を支配するような……まさに圧倒感……!!)
「……すみません」
波月はダダ漏れだった敵意を収め、下を向く。
「うん、それができるなら上出来だ」
優美に波月に笑顔を送るアルベールさん。
そして、僕の方にも振り返る。
「君もだよ。少し一触即発が過ぎる」
「すんません」
正直あっちからやってきたから僕のは正当防衛だと思うが、言わんとこ。
すると、アルベールさんの横に黒谷さんが一瞬で移動し、跪く。
「お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「そうだね、本当なら君が止めるべきだったよ。次から気をつけ給え」
「…はい」
「ふふ、まぁ…若いうちは好きにさせたいってのは分からなくもないがね。けれど、昔の私を見ているみたいで少々小っ恥ずかしいね」
「アルベールさんの昔?」
僕はアルベールさんの元へと歩みを進める。
「ああ、恥ずかしいことに、昔の私は少し尖っていてね。君たちと同じくらい気が荒くて、一国を滅ぼしかけたこともあった」
(それは僕達を優に超えている気がしますけど)
そこで僕はあることを思い出す。
「そういえば、アルベールさんって吸血鬼なんですか?」
「ん?どこで聞いたんだい?」
「空蹴が言ってやして」
「なるほど…まぁそれくらいなら良いだろう。ああ、そうだよ。私は吸血鬼だ。半分くらいね」
「半分?」
「ああ。では、ここで神白塁くんに問題です」
アルベールさんは少し遊ぶような表情で僕を見上げる。
「はい」
「吸血鬼の強みと弱みは何でしょうか」
「強みと…弱み……?」
僕は顎に手を当て、少し考え込む。
吸血鬼。
僕が会ったことがある吸血鬼といえばイザベラが一番印象的だ。
「イカれた思想とか?」
「イザベラは吸血鬼の中でも特殊だから省いて構わない。そもそも思想ではない。もっと能力のようなものだ」
能力での強みと弱みか…。
「再生能力と…日に弱いこと……ですかね」
「惜しい。80点」
僕は少しガクッとなる。
「惜しい?」
「ああ、正解は血液操作と日に弱いことだ」
「再生能力も強いと思いますけどね」
「吸血鬼の再生能力は血液操作ありきの強みだ。傷口に自身の血を集め、凝固させ、身体の一部に変換する。血液が操れなかったら、そもそも治すことすらできないよ」
なるほど。
僕はイザベラとの戦いを思い出す。
言われてみれば、イザベラの切断された腕も血液が腕に変わったように視えた。
「でも、それとアルベールさんに何か関係が?」
「ああ、なんせ私は血液の操作ができないからね」




