異能2つ持ち
「はぁ…じゃあ特別に、俺の異能を説明してやろう」
波月がそう言うと、取り巻きの四人は目を見開き、驚いた。
「い、いいんですか!?異能を教えるということは、自身の弱点を晒すということも同義…!」
「いや、けど…ご主人なら…」
「ですが、リスクが多すぎる!」
「それにこいつは私達が反応できない速度で私達の武器を奪った…!」
すごいリアクション良いなと思った。
その四人の言葉を聞き、波月は静かに四人を見る。
「皆は…俺が異能を知られた程度で負けると思っているのかい?」
その瞳は睨み敵意を剥き出しにする目つきではなく、穏やかな敵意を向けるものであった。
僕は、ちょっとイタイタしいなと思った。
その視線を受けた四人は一気に冷や汗をかき、即座に地面にひざまずく。
「失礼を…申し訳ございません!」
「許してください!」
「偉大なる御主人様を信じることができず、お恥ずかしいばかりです」
「ごめんなさい…」
「面を上げて皆。間違えることぐらい俺にもある」
その言葉を聞いて四人は波月の顔をまっすぐに見る。
「ですが、御主人様に不快な思いをさせてしまったのも事実ですので……どうか足を…舐めさせてください!」
「あ!ずるい!!私も!」
「だめよ!私が先なんだから!」
「んん…だめ。私が先」
「こらこらみんな。慌てない慌てない。困ったな…俺はそれ、あんまりやらせたくないんだけど……」
波月は困ったような顔をしながら頭をかく。
(僕は本当に何を見せられているんだろう……)
僕は呆れた顔でその茶番と言うか、陰キャが好きそうな展開を繰り広げている瞬間を見つめる。
本人は「やらせたくないんだけど…」とか言ってるけど、そんなん進んでやる女子なんているわけねぇだろ。
「なぁ、そろそろ良いか?」
「なッ!お前――!」
「ああ、そうだったね。ごめんごめん。存在感無くて忘れてたよ」
「んだとてめぇ!?埋めるぞ畑に!!」
「なんで畑だよ」
「お前みたいなカスでもカルシウムはあるんだ。肥やしにはなるだろ」
「減らず口が。俺の異能を聞いてもそんな戯言言ってられるかな?」
「おう、じゃあ言ってみろ。聞いた上でボコボコにしてやるよ」
僕が拳をポキポキさせながら言うと波月は得意げに話し始める。
「俺の異能は偶創襲来。1日に1度、ガチャのようにひとつランダムな生物や物を召喚できる」
「うわ、血垂れた。美玲、絆創膏かティッシュ持ってない?」
「えー無いよそんなん」
焼き鳥を食いながら言う美玲。
「ちなみに召喚する際、霊力を込めれば込めるほど物の強さや俺にとって希少な物が出やすくなるんだ」
「えー、じゃあ千弘持ってない?」
「あ、僕持ってるよ」
ポケットをまさぐる千弘。
「召喚したものは俺が命令すれば、その通りに動く。だが、曖昧な命令だと違った動きをするかもしれないから細かい命令が必要だがね」
「サンキュー。いやーやっぱり千弘は気が利くぜ」
「えへぇ、そうかなぁ?」
「なんか私だけ女子力ないみたいな空気着くんのやめてもらえる?」
「だって事実じゃん」
「死ね!」
「死ね!」
僕と美玲は互いに中指を指しあう。
すると、波月がフルフルと拳を震わせながら下を向いている。
僕たちは「なんだ?」と思いながら様子を伺っていると突然波月が大声で叫ぶ。
「お前らいい加減にしろよ!!俺がお前らのために俺の異能については詳しく説明してやってるのに、聞かずに仲間内でべらべらとくだらない話をしやがって!!ぶっ殺すぞ!!」
「えぇ、何急に…怖」
波月が早口で僕たちに殺害予告をしている後ろで取り巻き4人組が「そうだそうだー!」と口々に僕たちに罵声を浴びせ続ける。
「あー分かった分かった。聞いてやるよ。真剣に」
面倒臭いから顔に絆創膏を貼って、波月に視線を合わせる。
「ったく、最初からそうしろ。じゃあ続けるぞ。さっきも言ったが、召喚した物は何かしらの命令が必要だ。だから俺が何か命令をしないとずっと残り続ける」
「へー、ちょっと不便そう」
「確かに不便だ。大きさや質量なんかは変えられないから、車なんか出たらその場から動かすために移動の命令をしたら消えてしまうからな」
「へー」
「だが、俺にはこれがある」
波月は胸元から一枚の紙を出す。
その紙は小さく折りたたまれている。
「何その紙?」
「まぁ見てればわかるさ……『回帰』」
すると、折りたたまれた紙が大きめの椅子へと変化する。
「んだこれ!?どっから出てきた!?」
僕は波月が自慢げに出した椅子を注意深く観察する。
しかし、その椅子には何の変哲もない。
「どうなってやがる?」
「はっはは、その反応が見たかったんだよ」
「え、何?ブレン?」
「は?ぶ、ブレン?何それ」
「やっぱ何でもない」
「お、おう」
波月は一度、咳払いをしてから話し始めた。
「この椅子は俺が遇創襲来で召喚した椅子。つまり、俺の霊力が流れている。そして、これが一番大事だ」
「何が?」
「俺は異能を二つ持っている」




