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第八話:考えてみろ。自身の肉親がデレてくるんだぞ?美人でもキツイ


何とか先輩と一緒にグラウンドを埋め終わり、僕は全力ダッシュで家へ向かっていた。

家の近くに着き、見てみると家の明かりが着いている。

そしてそれと同時に二階の姉さんの部屋に電気がついていることを確認する。僕の家は築年数の古いとはいえ、代々強力な異能力者を輩出してきた神白家だ。そのお屋敷は、やたらと広かった。二階の姉さんの部屋から玄関まで下りてくるには、それなりの時間がかかる。


(よし、電気がついてるってことは多分部屋にいるな)


足音さえ立てなければ、気づかれにくいだろう。念のため周囲を確認する。もちろん、姉の姿はない。

だが、視覚だけに頼ってはいけない。昔は僕を驚かせようと隠れていたこともあったくらいだ。匂いを嗅いでみるが匂いは特にしない。音も聞こえない。


(よし、姉さんはいない!)


そして、そーっと扉を開けようとした。

その瞬間だった。


「おかえり今日は遅かったね♡ 何かあったの?」


背後から、恐ろしいほど甘い声が聞こえ、身体が硬直する。

いやいや流石に気のせいか。

後を振り向こうとすると、後ろからガッツリバックハグされる。


「えい!」


「ぴぎゃああぁぁぁ!!!」


驚きのあまり、声が裏返ってしまった。ていうか、なんでだ!?部屋の電気はついてたはずだ。それに、周りもちゃんと確認したのに…。


「どうしたの?不思議そうな顔して」


姉さんはまるで何もなかったかのように、にこやかに問いかけてくる。


「いや、さっきまで周りに誰もいなかったはずなのに、なんでかなって…」


姉さんにがっちりホールドされながら、必死に声を絞り出す。力が強すぎて息が詰まりそう。


「ああ、普通に目の前にいたわよ♡」


『いたわよ♡』って、んなわけあるかい!ちゃんと周りの確認はしたぞ!?視認できる範囲には何もなかった。


「でもいなかったよね?見えなかったし、音も匂いもしなかったし」


「んもー、塁君ったらー。お姉ちゃんの匂い嗅いでるとか…」


頬を赤らめるような仕草をする姉さん。


「鼻がいいだけだわ!知ってんだろ!」


「あーん、怒っちゃやーや!なんでって言われてもねぇ…。発勁で光の屈折率をいじっただけなのに…」


『何それすごーい。女風呂入り放題じゃん』と、一瞬、邪な考えが頭をよぎる。いや、姉さんは女だから入ってもいいのか。…って、大事なのはそこじゃねぇ!

なんだ、発勁で光の屈折率いじるって。姉の異能が応用能力の高いってことは知ってたけど、そんな使い方ができるとは初耳だぞ!


「へ、へー、そんなんできるんだ…」


無理やり冷静を装って尋ねる。


「うん、ずーっと練習してて、やっとできるようになったの!これで塁君をビックリさせ放題ね!」


「そっか、よかったね。でも音と匂いは?」


「音は消せばいいし、匂いは……自力♡」


姉の成長性が怖い。

そして、その成長のベクトルが、弟を驚かせたり、問い詰めたりすることに向いているのが、さらに怖い。


「お姉ちゃんも質問に答えたんだから、今度は塁君が答える番だよー。さっきの質問について………聞こうとしたけど、抱き着いてわかった。塁君、別の女の匂いがする」


ヒエッ!


そんなことわかるもん!?もしかして、姉は僕とほぼ同等レベルで嗅覚が良いのか!?いや、霊力で強化してるのか?僕は霊力持ってないからわからんがそこまでわかる!?


「えっと…クラスの女子…?と、係の関係で少し話しただけだよ」


焦りが声に出ていないか、内心で確認する。


「………本当?」


姉さんはオリンピック選手並みの速度で泳いでいる僕の目をギョロリと見てくる。瞳孔が開いていて、目にハイライトがない。怖い。


「本当は、その子と遊んでたから遅くなったんじゃないの?」


「そ、ソンナワケナイヨ?」


まずい、人間焦るとたどたどしい日本語になってしまう。

数秒の沈黙の後、姉の霊力強化ホールドが緩み、僕は解放された。


「まぁいっか。お姉ちゃんは、塁君がお姉ちゃんのことしか好きじゃないって信じてるからね」


僕はしばらく、玄関前で固まってから家の中に入った。

まったく、姉さんには毎度毎度驚かされてばかりだ。

僕が知らない間に変なスキル習得してんだもんな。でも、これからは気が付いたら目の前や背後に姉さんがいるかもしれないということだ。五感を研ぎ澄ませておこう。

念のため自室の鍵をかけておこう。

荷物を床に放り投げ、ベッドにワイシャツの第一ボタンをはずしながら寝転がる。

疲れたな。主に姉さんに。

そういえば…。


「そういや、佐倉先輩ってモノノケ見えないよな。だったらなんで最後の方あいつ(オタクモノノケ)に話しかけたり、見たりできてたんだろ。大体見えるのってその一瞬とかじゃない?」


僕はおもむろにスマホを取り出し、ソシャゲを開き、ログインをしながらカゲロウに尋ねる。

小さい頃からモノノケに関わってきていたから、一般人よりは”こっち側”には詳しいけど、まだ知らないことばかりだ。そもそも僕は神白家でモノノケや異能の義務教育的なものを受けていない。いや、受けさせてもらえないの間違いか。まぁそりゃそうだよな。異能どころか霊力もない醜いアヒルの子に教えることなんてないよな。ま、親が白鳥でも何でもないから僕は一生醜いアヒルなのだが。


「おそらく、モノノケに関わったことでモノノケを認知できる『第六感』が覚醒しちゃった的なアレですね」


「アレか」


「はい、アレです」


アレとはいったい何なのか。そんなことどうでもいいか。

うわ、なんだここ。プレイヤーの名前全部ドヤコンガじゃん。世紀末やな。


「でも、そうなると大分面倒だな。これ以降も見えちゃうと寄ってくるかもな」


「はい、慣れてると無視できるかもですが慣れてないとどうしても反応してしまいますからね」


「だよねー」


「塁君、ご飯できてるわよ♡」


「ちげふぉえぴやぁぁぁぁぁぁ!!!」


ソシャゲをしてたら姉さんが隣で寝ていた。

びっくりしすぎて腰抜けた。

そのまま地面を這うようにして後ろ向きで下がる僕。

さっき気を付けないとって思ってたばっかなのに気づけなかった。ていうか鍵は!?

とりあえず逃げなくては!!


「あーん、もうどこ行くのよ塁君♡」


「ん?どこってー?えーっとねー安全な場所カナ?」


声を高くしながらものすごい速度の四つん這いでドアの方まで逃げる。


「だめよー!これから夜ご飯なんだから!」


逃げようとする僕の前に立ちふさがり暴れる僕を思いっきり抱きしめる姉さん。


「ぎゃああぁぁ離せー!!」


「もう!わがままな子ね!そんな子は………」


まさか!?


「無償の”愛”で包み込んであげるんだから♡」


僕を抱き上げ、目を閉じ、僕に唇を知被けてくる姉さん。


「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


より一層勢いを増して暴れる。

そして、その拍子に…。


むにゅ


「いやん♡」


姉さんの胸に手が当たった。その一瞬の隙を逃さず姉さんの手から逃れる。


「んもう…塁君ったら………そんなっ………もう!」


両手を赤くなった頬に当て、首をブンブンと振る姉さん。そして………。


「………イイヨ?」


「何が『イイヨ?』だ!そもそも家族でそんなシチュエーション起きるわけないだろ!」


「でも、お姉ちゃん塁君の好きな見た目に合わせてるつもりよ?髪型とか、服装とか……」


確かに見た目はいいだろう。

髪型は長めのポニーテールに触覚ヘア。服は少しフリフリがある可愛らしい服装という割と僕が好きな要素が詰まっている。


「違うんだよ!そういう服はもっと可愛らしい子が着るから可愛いのであって、姉さんみたいな美人系の人が来たら萌えないの!!」


「塁君ったら……お姉ちゃんそんな美人?」


「論点そこじゃねぇ!」


いや、そこでもないな。もっと重要なのは………。


「そもそも、なんで僕の好みとか知ってるんだよ!言ったことないだろ!」


「だって、本棚の真面目そうな本の裏に、ちょっと表紙がエッチな本がまるで隠すように入れてあったからそこに出てくる女の子を研究して塁君の好みを………」


「なんでそのこと知ってるんだ!?」


「大丈夫だよ。塁君も男の子だからね!そういうのに興味持っちゃうお年頃だしね!」


「やめて!それ以上言わないで!僕のライフはもうゼロよ!」


知らない間に家族に僕の好みが知られていた。死にたい。


「だからね、ほらっ」


そう言って姉さんは自分のスカートをめくる。そこにあるのは白と水色のストライプのパンツ。初期装備であり伝説の装備であるそれは老若男女とは言わないけど、ロリからお姉さんまで誰が来ても似合うといわれるパンツだった。


「塁君が好きな柄のパンツも履いてるのよ!」


「きゃあああああああぁぁ!!」


キャラにも合わず女の子みたいな声が出てしまった。

誰が家族のパンチラなんぞ見たいものか!


「変態かてめぇは!!」


「ああ、ちょっと!」


顔を赤くしてもじもじしている姉さんを無理やり部屋の外に出す。


「はぁはぁはぁ………」


ドアの外では「もうっ塁君ったら!」と言って一階に降りていく姉さんの足音が遠ざかる。

ひとしきり息を落ち着かせて思う。


「どっか良い隠し場所あるかな」

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