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臓腑兵装

 

「え、えぇ…誰?」


その重い霊力を発している人物は、長身の男に見えた。

僕よりも僅かに背が高く、おそらく170cm台後半だろう。

僕の鍛え上げた体よりすらりと細い体。

足長いな。

彼は、センター分けの黒髪をしており、その髪は光を反射してサラサラと流れるように艶やかだった。顔はとんでもなく整ったイケメンで、切れ長の黒い瞳は冷たい光を宿している。

その完璧な顔立ちの右目の下には、小さな泣きぼくろがあった。

服装は、普通のグレーのスーツだったが、濃いチャコールグレーのロングコートを羽織っている。

コートの内側には深紅の裏地が見え隠れし、足元まで伸びるそのコートの下には、驚くほどタイトなスーツがのぞいていた。

そのシンプルな装いが、彼の異様な足の長さと、一切の無駄を許さないような静かな威圧感を強調していた。


「んん?見ない顔だね。あ、見学者か」


その人は見た目に似合った声で僕に話しかける。

イケメン風の爽やかな声だ。

すると、壁に打たれた氷花さんがフラフラと身を起こす。


「あ、隊長!」


「隊長?」


僕は呆気にとられ、氷花さんが隊長と呼ぶ人と、氷花さんを繰り返し見る。

とりあえず僕は空絶を影の中に戻し、皆の元へ戻る。

隊長とかいう人は氷花さんの所へ行き、何か話している。


「だ、大丈夫だった?」


氷室先輩が心配そうに僕を見る。


「下手すりゃ死んでた。何あの狂犬」


「大丈夫そうね」


大丈夫じゃない。

すると少し不貞腐れている氷花さんとともに先ほどの人が僕たちへ近づいてくる。


「うちの氷花ちゃんが申し訳ない。鏡花ちゃんのことになると少し周りが見えなくなってしまうことがあってね。どうか許してやってほしい」


どこかアルベールさんに似た雰囲気の人は優雅に頭を下げる。


「えっと…まぁ、はい。僕は別に……」


「そうか、ありがとう」


優美な顔で静かに笑う隊長さんの後ろでなんか狂犬が殺意むき出しにしてるけど。


「で、あなたは?」


僕が恐る恐る聞くとその人は「おっと、すまない」と言って自己紹介を始めた。


「私の名は黒谷命(くろたにみこと)。第一部隊隊長の黒谷命だ。よろしく。異能は『臓腑兵装(ぞうふへいそう)』といって、自身の内臓を媒介として体外に武器を顕現させるというものだ」


「内臓を…顕現?媒介?」


「解りにくかったかな。こんな感じなんだけど……『血契(けっけい)』」


黒谷さんがそう言うと、空に濃い紅色の霧が発生し、そこから赤色の短剣が出てくる。

その短剣は空中を自由自在に動いて、黒谷さんがその短剣を握る。


「すげぇ、何今の」


「こんな感じで、武器を顕現させるんだ。ある程度の距離なら思い通りに動かせるよ。ちなみに媒介とした内臓は『脾臓』さ」


「ヒゾウってのがどこのかとかよくわかんないけど、内臓なんですよね?大丈夫なんですか?」


「そこは大丈夫さ。あくまで媒介だから、武器が破壊されない限り内臓は活動を停止しないよ」


「はえー」


「あとは媒介とする内臓の希少性に寄って武器の強さや能力も変わるね」


「というと?」


「さっき氷花ちゃんが出した氷塊を吸収したのは小腸を媒介とした『精華』。これは単純に物体を吸収し、蓄えることができる。その蓄えた物体を放出するのが『排斥』。大腸だね」


黒谷さんはまた同じように空に霧を出し、そこから精華というものだと思われる斧と、排斥と思われる先程の赤黒い鎖を出す。


「他にもあるけど、全部で11個あるからまた今度ね。他のことでなにか質問はあるかな?」


「はい!」


「はい君」


「氷花さんの異能ってなんすか?」


僕が質問すると、氷花さんは黒谷さんの後ろで機嫌が悪そうに答えた。


「私の異能は『氷晶(ひょうしょう)』。氷を出す。それだけ」


機嫌悪いなぁ。

僕に負けたからか?

すると氷室先輩が僕に小声で教えてくれる。


「お姉ちゃん、その異能で空蹴さんみたいに『氷将(ひょうしょう)』って呼ばれてるらしいわよ」


「かっこいいっすね」


シンプルだけどかっこいい。

そういうの僕大好き。

僕の中で氷花さんの好感度が少し上がった。

大体カリフラワーの次くらい。


「はい!」


すると美玲が手を挙げる。


「その氷って食べられるんスカ?」


氷花さんはジト目で美玲を見る。


「食べれなくはないけど、食べたら死ぬわよ。普通の氷とはちょっと違うし。どちらかと言うとドライアイスに近いわ」


美玲は僕に顔を向ける。


「ドライアイスってお湯駆けると凄い煙出るよね」


「な。ていうか、あれって煙なの?二酸化炭素じゃないの?」


そこで佐倉先輩も参戦する。


「あれは気化した二酸化炭素に冷やされた空気中の水分が白い煙のように現れるからだよ~」


「「へー」」


やはり佐倉先輩のうんちくは凄い。改めてそう思った。


「ドライアイスって何度くらいなんですか?」


「確か-79℃くらいだった気がする」


「メチャンコ冷たいじゃないっすか」


「そうなんだよ―。だから凍傷には気をつけようね」


「「はーい」」


僕達が氷花さんの異能に全く触れず、全く関係ないドライアイスの話をしているせいで氷花さんはますます機嫌を悪くしているように見える。

というかしてる。


「話は終わったかな?じゃあ次は、君たちの異能…は、まぁ今じゃなくていいか。そうなると…趣味の話でもするかい?」


「隊長、第一部隊の案内は?」


氷花さんはさっきからずっと口数が少ない。


「ああ、そうか。うん、分かったよ」


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