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僕は結構かけっこが速かったです。”速かった”です

 星野さんはある一点を指しながら部屋を足早に出ていく。

僕達は指が指された場所を見るとたしかにツンツン頭の青年が居た。

青年は腕を後ろに回し、ストレッチをしている。

僕達は「しょうがねぇか」とその青年の方へ向かう。

近づくとその青年はこちらに気づいたのか僕達の方を見て、駆け寄ってくる。


「あれ、どうしたの?星野さん行っちゃったけど…なんか用事とか言ってた?」


ツンツン髪の青年はこちらに近づいてきたかと思うと、僕達に声をかけてきた。

思ったより高めの声に少し子供っぽさを感じる。

スラリとした高身長で、目立つ金髪のツンツンヘアが特徴的。上半身は、濃いネイビーのタイトなコンプレッションシャツを着用し、その下の引き締まった体躯を強調していた。下半身は、高い伸縮性を持つ黒の七分丈パンツを履いている。


「はい、なんか用事があるからあなたに色々と聞けって言われて…」


「そっかーオッケー!じゃあまずは自己紹介だね。俺の名前は飛鷹翔。異能は『反発物質化』って言って、ある程度の大きさのものをゴムみたいに反発力のある性質に変化させられるの。生物は無理。よろしく!」


飛鷹さんはさわやかな笑顔を僕たちに向ける。

僕はちょっと苦手なタイプかなと思った。


「それじゃあみんなの異能についても聞きたいんだけど、まぁいいか。皆うちの隊に入るかなんてわかんないし、手の内は晒したくないでしょ。じゃあ三番隊の訓練内容についての説明と、やってみたかったら体験もやってみよっか。おいでー」


僕たちは飛鷹さんに連れられ、訓練場を歩く。


「そういえば、星野さんってなにか用事があったんですか」


氷室先輩は先頭を歩く飛鷹さんに聞く。


「うん、なんか骸の声について社長から来いって言われてたらしいよ。鏡花ちゃんのとこだっけ?」


アルベールさんにか。

なんかやばそうな感じかな。


「っと、じゃあまず訓練内容についてだね。といってもそんな大したことしてないんだけどね。大体、みんな走ってばっかりだから陸上部と何ら変わりないよ。あるとしても障害物競走みたいなのとか」


「障害物競走?」


「そそ。ちょっと危険だからやらせることはできないけど、あんな感じ」


飛鷹さんは奥のほうを指さす。


(そこは『宮川!あれを見ろ!』からの『ええぇぇぇぇぇ!!!』だろ)


指された方向にあったのは高さも形も不規則な障害物が無数にあり、それは単なる障害物ではなかった。

それだけでなく、壁についている穴のようなところから銃弾ではないが、ゴム弾のようなものが発射され、隊員たちはそれを避けながら駆け抜けている。

大丈夫、ちゃんとネットでゴム弾は防がれているよ?


「えっぐ」


「まぁ慣れちゃうと意外と難しくないよ。慣れるまでがムズイけど。あいつなんかはすぐ慣れてたかなぁ」


飛鷹さんはちょうど障害物を駆け抜けている一人の隊員を指さす。

その隊員は決して速いとは言えないが、確実に障害物を搔い潜りながら銃弾も避けている。


「あいつの異能は『思考加速』っつってねー、視覚から入る情報を高速に処理することでなんかゆっくりに見えるらしいよー。すごいよねー」


「はえー」


「あとは…あそこだね。あれなら君達でも体験できると思うよ」


次に飛鷹さんが視線を移したのはふっつーのコースに見せかけたダートコースであった。


「砂じゃね?」


「そうなんだよねー。砂のほうが足鍛えられるし、皆勢い強すぎて普通のコースだとすぐお釈迦になるからね……」


少し悲しそうな表情で地面を横目で見る飛鷹さん。


「せっかくだしみんなもやってみる?」


その言葉に美玲が反応する。


「塁君!塁君!買ったらジュースおごってよ!あとマンション!」


「一つだけおかしいのなかった?一部屋いくらすると思ってんだよ」


「1棟」


「棟!?部屋じゃなくて棟!?何億すんだよバカ!!!」


「じゃあいいよジュースで」


「そもそもジュースも奢るきねぇわ。なぜなら僕が勝つから」


僕は伸脚をしながら美玲に言い放つ。


「っへ!目からおしっこ出るまでボコボコにしてやるぜ!」


「僕ザリガニなの?」


すると僕たちの後ろから「ちょっと待ったー!!」と声が聞こえる。

振り返るとそこにはポーズをキメた橘が立っていた。


「お、お前は!!」


僕より先に美玲が反応する。


「えっと…えー…誰だっけ?」


「橘だ!!!前にもやったぞこのくだり!!いい加減覚えろ!!」


すごい剣幕でキレる橘。

ほんとこいつキャラ変わったよな。


「あーそんな奴いたね。で、何の御用で?」


「なぜ過去形なのだ!ったく…用は貴様にではない。そいつだ」


「僕?」


橘が指をさしてきたのは僕であった。


「そうだ。前にも言ったろう。貴様と戦いたい…と。そのために来たのだ。こんな機会滅多にないからな」


「よーし美玲位置につけー」


「はいほーい」


僕は橘の声を無視して腕を伸ばしながらダートコースに足を運ぶ。


「待てーい!!」


すると僕たちの目の前に橘がスライディングしてくる。


「なんだよぉ別にお前とバトルなんてしたくないんだけど」


「ふっ…なぁに。殺し合いだけがバトルというわけではない。それにこの世界だと殺しは悪として捕らえられてしまうからな」


ったりめぇだろ。


「そっちの世界だと違ったん?」


「いや普通に悪として捕らえられてたぞ」


悪じゃん。

ダメじゃん。


「この戦いというのはつまり……かけっこだ」


「おう、タメた割には案外軽いな」

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