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未来視

 僕はカイドさんの横から立ち上がり、腰をそらす。


「んん……空蹴のとこは別に行かなくてもいいよな。そもそもあいつと僕達ってタイプ違うし」


「そうだね。ちょっと可哀想だけど、三番隊の方向かっちゃおうか」


千弘は豆柴を抱っこしながら答える。


「じゃあ、僕達ここらへんで次の隊向かうので、失礼します」


「はい、また来てくださいねー!」


むほほ、可愛いぜ。


「では、最後に」


ん?

奏ちゃんは最後にと言いながら僕に右手を差し出してきた。


「えっと……」


「ん!!」


「抱っこ?」


「違いますよ!握手です!」


なんだそっちか。

僕は差し出された手に自身の手を伸ばす。

奏ちゃんはニコニコしながらそのモチモチのほっぺを揺らす。

僕は本能には抗えず……。


「ほにゅ」


手ではなくほっぺを触ってしまった。


「あぁすげぇもっちもちだぜぇ。スクイーズなんかよりよっぽど柔けぇ……」


「や、やめぇ……」


なんか言っているが僕は触る手をやめない。

何故ならそこに柔らかいほっぺがあるから。


「ぺい!」


「あ」


弾かれた。

チクショウ!あわよくばお持ち帰りしたかった!

いや無理か姉さん居るし。


「むぅ…仕切り直しです!今度また別のところ触ったら怒っちゃいますよ!」


どうしよう。それも良い。

だが、氷室先輩からの殺意のこもった視線が刺さるので僕は大人しく奏ちゃんの手を取る。


「皆さん各々の個性があるのでもしかしたら別々の隊に配属されるかもしれませんが、仲間との絆は断たれないですからね!あるかはわかりませんが、もし私の隊に来ることがあればみなさんと一緒に任務ができるよう尽力します!」


僕の目をしっかりと見ながら言う奏ちゃんは隊長っぽくはなかったが、とても可愛かった。


「じゃあ行くわよ」


「あぁ…もうちょっと残りたかった……」


「文句言わない!」


「はい…」


奏ちゃんのほうが可愛かった…。

ツンデレはツンだけじゃ需要がないんだよ……デレがないと萌えないんだよ…。


「次って三番隊?」


美玲がファミチキを貪りながら氷室先輩に聞く。


「そうね。てかさっき言ったでしょ…」


呆れ気味の氷室先輩。

なんか後ろで「大変そうね」「だねー」と会話している奏ちゃんの声とカイドさんの声が聞こえる。

僕達が部屋を出ようとすると扉のすぐ横でワンちゃん達が山のように群がっているのに気づく。

ここは動物が多いから、特に何も思わなかったがよく見ると明らかに”何か別のもの”が居た。


「ぎゃああぁぁぁ!!!」


僕は地面に腰を落とす。


「ど、どうしたの!?」


「あっ…あ、ああ足が……」


僕が指を指した先には犬の山の中から飛び出る足。

靴は履いている。


「え、なにこれ…」


氷室先輩も少し困惑している。

すると、奏ちゃんが「あ!そうだった」と言いながら近づいてくる。


「ごめんなさーい。起こすの忘れてました」


犬の山に近づいて口笛を吹くと、ワンちゃん達は別々の位置に散らばる。

すると中から出てきたのは人だった。

良かった…テリファーみたいなグロ展開にはならなかった。


「ふがっ…なんだ?おやつの時間か?」


中から出てきた人は豆柴を抱きながら目をこすり上半身を起こす。


「おおっと…」


豆柴は奏ちゃんの口笛に従い、男の腕からひょいっと降りる。


「あぁ…行っちまった……」


出てきた男はどこか寂しげな表情で立ち上がる。

立ち上がると身長がめちゃくちゃ高かった。

大体180位ある高身長に、少し細身の身体で何処となく弱そうに見えるが、目つきは極端に悪い+短く刈り込んだ丸刈りの坊主頭で、側頭部から後頭部にかけて鋭く斜めの剃り込みが入っていることでめちゃくちゃ雰囲気がある。

控えめに言って893である。


「ん…誰だ?こいつら」


僕達のことを見据える男は低い声で呟いた。


「この子達は前に社長が言っていた見学者たちです!そうだ、皆さんにも紹介しときましょう。この方は貴方がたが今から行こうとしていた三番隊の隊長を務めている星野鋭二さんです!」


「あぁ…えっと、よろしく」


首の付け根をコキコキと鳴らす星野さんとやら。

なんだろう。ちょっと怖いな。


「なんか殺人鬼の目してるね」


「!?」


美玲がめちゃくちゃ失礼なことを言う。


「馬鹿か美玲!謝れ!沈められるぞ!海か山に!!」


「いや、そんなことしないけど……」


「すんません!マジ勘弁してください!こいつまだこっちの業界のこと何も分かってなくって!小指シメるのはどうか勘弁してください!」


「いや…だから……」


「もうほんと僕の方できつく言っときませんんで!」


すると僕の頭に拳が当たる。


「失礼!大丈夫よ。この人優しいから。見た目はアレだけど…」


「ひどい……」


目を細め少し悲しそうな顔をする星野さん。


閑話休題。


「えっと、じゃあ君たちは見学者で…俺の隊を見に来たいってこと?」


「そういうことですね」


僕達は廊下を歩きながら星野さんと話をしていた。

ちなみに話をしていたのは僕ではなく、氷室先輩である。


「別に面白いところなにもないけどなぁ…」


「見学なので別に面白さを求めてないですけどね」


「そう?なら良いんだけど…」


見た目から喋り方ヤンキーみたいな感じかなぁと思ってたけど、なんかダウナー系な喋り方だな。

暗いというか、寝起きっぽいような…。


「ほら、ここだよ」


少し歩いたところで、着いたのは八番隊よりかはゴツくないけど、まぁゴツい扉の前まで来た。

星野さんは専用のキーを少し探してケツポケットからカードを取り出す。

取り出したカードを扉横の機械に読み込ませる。

すると扉がゴゴゴと音を立てながら開く。

中に広がっていたのはそれまでの場所とは、また次元が違った。

ドーム型の天井が遥か頭上に広がり、そのフロアは、まるでそのまま丸々200メートルのグラウンドを持ち込んだかのような、桁違いの広さを誇っていた。第八部隊や第五部隊の部屋の何倍あるのか、見当もつかない。そして、その広大なフロアには、今まで見てきたどの部隊よりも圧倒的に多い隊員がいた。彼らは皆、驚異的な速さで動いている。

視界の端で、一人の隊員が床を蹴った瞬間、残像すら残さずに反対側の壁に到達した。別の隊員は、全身から緑色の光をパチパチと放ちながら、超高速で設置された障害物を縫うように走り抜けている。まるで、世界がスローモーションになったかのように、その隊員だけが加速しているように見えた。

部屋の片隅には、尋常ではない量の負荷がかかっているであろう筋力トレーニング器具が並んでいたが、そこで訓練している連中も、ただ重いものを持ち上げているというより、関節の可動域や瞬発力を極限まで高めるための動きに特化しているようだった。


「皆速いな―」


「ここは機動力専門の奴らの集まりだ。皆細かいところは違えど、同じ様な異能を持った奴らが多いな」


星野さんは腕を組みながら細めで隊員達を見ている。

星野さんと僕達が入ってきたことに気づいた隊員達が一度動きを止めてこちらに大声で挨拶をしてきた。


「「「お疲れ様です!!!!!」」」


星野さんの方を向くと星野さんは気だるげに腕組をしていた右腕をひらひらとさせ皆を訓練に戻す。


「っと…じゃあ、どうするか。そうだ。まずは俺の自己紹介だな。俺の名前は星野鋭二。まぁさっき聞いたから良いか…。好きな食べ物はカントリーマアム。ココアはちょっと苦いからバニラの方が好みだ。日課は久我山さんのとこに行ってクゥちゃんとモフること。あ、クゥちゃんってのはあの豆柴な」


僕はさっき星野さんが起きたときに抱いていた犬を思い出す。

少し驚いた。

こんな明らかに見た目薬やってそうなのにすんげぇ好きなものとか日課とか可愛いんだなって。

ギャップ萌えするタイプだな。


「あと…異能は――」


星野さんの僕達を見据える目が時計のようなタイマーのように変化する。


「俺の異能は要は『未来視』だ」


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