カイドはガチの陽キャ
「ぢぎじょぉ゙ぉ゙ォ゙ォ゙!!!!!」
目からは大量の涙を流し、鼻水ダラダラの僕は膝から崩れ落ち、泣き喚く。
「やっぱりおにぃさんザコオスだったんだね~w」
僕のことを嘲笑うようにコントローラーをぷらぷらする綴ちゃん。
「こんなんで私達に勝とうとするとか…ザコオスは脳みそすら無いの?」
静かな声で僕のことをなじるのは紬ちゃん。
APOXで二人を分からせ、泣きながら「おにぃさんごめんなさいぃ~」って言ってる姿を想像したが、泣かされたのは僕の方であった。
イキって戦うもんじゃないね。
ボッコボコにされて死体撃ちとか、民度悪すぎ。だからFPSは嫌いなんだ。
「あ~楽しかった。やっぱりザコオスいじめるのは楽しいね」
「まぁザコオスに会ったことほとんど無いけど」
僕の亡骸を無視して、二人は話しながら部屋を出ていく。
僕はその場ですすり泣きながらうつ伏せになっている。
「どうせなら…もっとなじってほしかった。ざぁ~ことか言ってほしかった」
「言われても嬉しくないでしょ」
寝転がっている僕を見下すように見ているのは氷室先輩。
僕はその姿を見て、首を回転させる。
「ん?何してんの?」
「いや、パンツ見えそうだなって」
「ふん!!!!」
「っだぁ!いってぇ!!!」
氷室先輩はあのメスガキ二人にボコボコにされた可哀想な僕を躊躇せず蹴り飛ばした。
なるほど、先輩は白色が好きらしい。
まったく…暴力系ヒロインはこのご時世あまり良しとされないと前にも言ったろうに。
いや言ってはないか。
「死ね!ド変態!!」
「おいおい、ド変態なんて…ありがとうございます」
僕は震える身体をぎこちなく立ち上がらせる。
「なんで喜んでんだ!!」
「ドMは罵倒されるのが好きなのだよ!」
「じゃあ甘やかされたりするのは嫌なの?」
「いや、それはそれでめっちゃ嬉しい」
「無敵かあんたらは……」
中鳶ほどではないが、僕自身も結構Mだ。
といっても完全にMって訳では無い。
大体、M6割のS4割ってとこだ。時と場合によるがね。
「っは!僕程度でそんな反応じゃあ、中鳶の相手なんかできませんよ?」
「する気無いわあんなキモオタ」
「それはキモオタへの偏見では?」
まぁその台詞で中鳶は喜ぶのだが。
「もう良いわ!ほら、行くわよ」
「へいほーい」
呆れたような様子の先輩の後ろを着いて行く僕。
奏ちゃんのところに戻ると、皆は動物と戯れていた。
千弘はポメラニアンをモフっているし、稽太は犬に芸を教え込もうとしている。
佐倉先輩は膝の上で猫を寝かせ、毛並みに揃えて撫でている。
いいなぁ、そこ変わってほしい。
美玲は……周りになんにも寄ってきてないな。
おそらく野生の勘で捕食者から逃げようとしているのだろう。
「いいなぁ~お前ら。僕はあのメス…二人にボコボコにされた挙げ句、先輩にもボコボコにされたのに」
「あれはあんたが悪いでしょ」
「いてっ」
そう言って僕の足に軽く蹴りを入れる氷室先輩。
「でも良かったですね。あの二人が私達以外にあんな心開いたのなんてほとんどなかったのに」
「え、あれで心開いてる判定なの?」
開いてない状態はどんだけひどいことされるんだろう。
四肢切断とか?
「ここの皆ほとんどがああいうゲーム?のこととかわかんないから新鮮なんですよ。安心してください。あの子達累くんのこと結構気に入ってるみたいですよ」
「それなら良いですけど……」
ぐへへ、それなら近い内にあの尻尾とケモミミを堪能できるかもな。
「何よその顔。気持ち悪い」
氷室先輩は不機嫌そうにこちらを睨む。
「そりゃどうも~。んで、五番隊ってこれで最後ですか?」
「あ!そうだったわね。えっとね、あともう一人いるんだけど―――」
その瞬間、僕達が入ってきた大きめの扉が勢いよく開かれる。
「おっひさ~!みんなー元気?」
入ってきたのは少し大柄な男?
いや、うん。男だな。体格と声がもう男だ。
ではなぜ一瞬男か女かわからなくなったのかと言うと、入ってきた男がガスマスクをつけていたからだ。
顔はガスマスクで完全に隠れており、タートルネックのセータの上にジャンパーを着て、フードを被っている。
それだけでなく、セータの上には防弾チョッキもつけており、腰にはタクティカルベルトも巻いている。
完全武装の軍人みたいだ。
そいつは僕達を見て一瞬固まったがすぐにハイテンションで話し始める。
「え!?嘘!!お客さん?それとも、新入り!?えーマジ!?超うれしー!あ、自己紹介がまだだったかー。いけないいけない」
デカい声ではしゃぐ男は僕達の方にルンルンで近づいてくる。
そして左手を越しに、右手で目元にピースさんを作る。
「どうもー!!第五部隊副隊長カイド・ヴォルフでーっす!!異能は元々あったけど、今は無いよん。しくよろ!!」
引くほどのハイテンションで話しかけてきたえっと…カイドさん?はよくわからない事を言っている。




