大遅刻
蜘蛛男を祓い見事僕の勝利に終わった。
「喰っていいぞ」
そういうと消滅しかかっている蜘蛛男の方にカゲロウがマフラーの一部を伸ばす。
そして伸ばした一部を鋭い牙がたくさん生えた口に変化させ、蜘蛛男の身体を食べるカゲロウ。
よくよく考えるとこれ虫喰ってるから結構ヤバくね。
「おいしいの?それ」
「味は特に感じませんね」
そういうもんなんだ。
でもまぁ頭ごなしに否定するのはよくないよな。人には人の生き方があるし、いやカゲロウは人じゃないか。昆虫職とかもあるし完全にダメとは言えないなぁ。生で喰うのはどうかと思うけど。
さてと、戦利品の確認だ。
僕は部屋の奥に縛り付けられてる女子生徒の糸を引きちぎり開放する。
よく見ると部屋の角には大量の人骨が放置されており、おそらくこの蜘蛛たちに喰われたのだろう。
「この子、大丈夫そ?」
「このモノノケの毒で幻覚でも見せられたんでしょう。命に別状はありません」
ならいいか。
とりあえずこの館から出よう。
降りてきた穴をこの子を抱えながらジャンプで上り、そのまま館を出る。
そして近くにあった公園まで連れて行きベンチに寝かす。
「…起こした方が良いかな」
その女子生徒はというとベンチに寝転がりながら、だらんと腕を伸ばしよだれを出しながら幸せそうに寝ている。
ちなみに顔立ちは結構整っている。綺麗な茶髪をふんわりとしたボブカットで清潔感ある上方にしていて、頭の上にはアホ毛が立っている。
「んへへ、マヨネーズ………」
どんな寝言だよ。
とりあえずこのままじゃ学校にすらたどり着けないし。
「ぺぎゃっ!」
おでこに思い切りデコピンを当てると女子生徒は寝ぼけ気味で飛び上がる。
「あれ?私の唐揚げは?ベビーカステラ50人前は?」
そんなん1人で食えないだろ。
「あれ?ていうかここ何処?」
「突然で悪いな。僕は君と同じ学校に通う者だ。道に迷ってしまいまして、学校への道を教えていただけませんでしょうか?」
僕が頼むと女子生徒はぼーっとしたような様子で僕を見て、何かを思い出したような表情になった。
「あ、そうだった。道に迷ってたんだった」
「ほえ?」
もしかしたら僕は道を聞く相手を間違えたのかもしれない。
「えっと……君も道に迷ってたの?」
「うん、あれ?君もかな?」
あーなるほどなるほど………。
詰んだな。
僕がすべてをあきらめかけていた時女子生徒はおもむろにスマホを取り出し時間を確認する。
「うげ!もうこんな時間!そろそろ入学式終わっちゃうよ!どうしよーこれじゃ送れちゃうよー」
あれ?こいつスマホ持ってるな。それに充電もたっぷりある。
「あのー………」
「ん?なぁに?」
「そのスマホで道を調べればいいのでは?」
「………あ」
◇
その後一応学校には着いた。
と言っても、もうとっくに入学式は終わり放課後になってしまったが。
僕が助けた女子生徒の名前は朝倉美玲。僕と同じ1年7組だ。彼女は乗るはずだったバスを乗り遅れ、仕方なく電車で行こうとしたら慣れない場所で道に迷ってしまったそう。僕と大体同じだ。
しかしこの女の頭の悪さは僕よりも上だ。こいつはスマホの充電があるのに調べるという選択肢が思いつかなかったそう。全くどうしてその考えが浮かばないのか。いや待てよ。そもそも充電してなかった僕の方が頭悪いのか?……ま、まぁ僕のはミスだしょうがないね。
そして僕たちは二人そろって学校に大遅刻し、学年主任の先生に呆れ笑いされ、生徒手帳と書類をもらって下校することになった。
僕と美鈴の家は割と近くにあり途中まで電車で帰り、今は隣に並びながら歩いている。
「いやー同じクラスだったとはね。驚いたよー」
朝倉美鈴は蜘蛛男に連れ去られたことをあまり良く覚えていないようで、不審者になんかされたぐらいにしか思ってないらしい。
喰われかけたというのに暢気なものだ。しかしこいつは異能力者ではなく普通の人間だから仕方ない。
「にしても、どうやってあの不審者捕まえたの?」
うーん、不審者というよりモノノケなんだけど「不審者じゃなくてモノノケだよ」なんて言ったら頭のおかしい勘違い厨二病野郎だと思われてしまう。僕は厨二病じゃないし。けどかっこいいやつは大好きだ。漆黒のドラゴンとか、堕天使とか。そういうのはみんな好きだと僕は信じている。
「な、殴った…」
「へー結構強いんだね。ありがと!」
にしても同年代の女子と話すなんて何年ぶりだろう。
まぁ、中学時代に授業の関係で女子と話すこととかはあったものの授業以外で女子と話すことなんてなかったしな。
「じゃあ私はこの辺で、じゃーねー塁君!」
美玲は一緒に歩いていた道を分かれ左の方へ行く。
「おう」
今日はいろいろと疲れた。帰ったらソシャゲでもしよう。